チンピラとの遭遇
素材買い取りが不可能になり、途方に暮れていると。
黒いオーラを『見極めの眼』が捉えた。
直ぐに裏路地に隠れる。
誰だ?
まぁ俺に敵意を向ける奴なんて二人しかいない。
そして、その内の一人は冒険者ギルドの中にいる。
つまり可能性は一人だけ。
あの勇者だ。ここまで追って来たのか。
常に辺りを見回している。確実に俺を探しているんだろう。
わざわざ見つかってやる義理も無い。
このまま、大通りから外れて行くか。何処に行くかは決まっていないが、ここに居ると見つかるしな。
俺は裏路地に進んで行った。
●●●
裏路地からしばらく進み、辺りの景色はかなり変わってきた。
大通りや噴水広場は人通りが多く明るい雰囲気があったが、ここは、狭く雰囲気が暗い。
人通りに至っては一人もいない。
はたしてこんな所に人は居るのか?
だが、住居らしき物は存在しているし、人は住んでいるのだろう。
スラム街、といえば一番想像しやすいだろう。
それくらい、ここは寂れている。
更に歩くと、ようやく人を見つけた。
道を塞ぐようにして3人の男が喋っている。
あ、目が合った。
そして、こっちに来た。
「なぁ、あんた。見ねえ顔だな」
「ここにはルールがあってなぁ」
「払う物払って貰わねぇと、ここは通れねぇんだよ」
絵に書いたような、チンピラだな。
セリフまで何処かで聞いた事がある物だ。
「払う物とは何だ?」
「おいおい、そんなの言わなくても分かるだろ~」
「そんくらい分からなきゃ生きていけないぜ?」
「あんた、もしかして馬鹿か~?」
すっげえムカついた。良いだろう。戦争だ。
俺は、一番近くにいたチンピラの足先を踏み潰す。
「痛ってぇ!」
上手く踵で踏めたな。運が悪ければ骨までいってるだろう。
相当痛いのか、体を屈めている。
これ位では、倒せないと思うので頭を掴み
膝で顔面を蹴る。
「がっはぁ!」
鼻から血を出し蹲る。
よし。一人目終わり。
次はどう出る?
「てめぇ、やりやがったな!」
「許さねぇ!」
普通に向かってきたな。
だがここは路地、そこまで広くないから二人同時には攻撃してこないはず。
だから、一人ずつ対処すればいい。
「くらえ!」
殴りかかってきた。工夫も何も無い攻撃。
躱して、鳩尾を殴る。
「ぐぇっ」
胃の中身が出そうな痛みに耐えているんだろう。
もちろん、そんな隙は見逃さない。
顔面をぶん殴る。
「がっ!」
オマケに、横腹を蹴っておく。
二人目のチンピラは路地の壁に叩きつけられ、動かなくなった。気絶したな。
「てってめえ!」
怯んだのか、三人目のチンピラはその場で動かない。
と、思ったら
「絶対許さねぇ!」
そう言って、懐から短剣を取り出した。
いや、あるなら最初から出せよ。
「おらあああ!」
短剣の切っ先をこちらに向けて、突進してくる。
だが動きが、ガチガチで一目で扱い慣れて無いのが分かる。
だから、対応も楽だ。
半身になって躱し、手首を掴み締め上げる。そうすると大抵の人は持っていられない。
「うぎっ!」
チンピラが、短剣を落とした。
直ぐに蹴り飛ばし、短剣を手の届かない所へ。
まぁこれはゲームだし、ここまでしっかり対処しなくても良いかもしれないがな。これ位は護身術のレベルだ。
「ちくしょうっ!」
これで三人のチンピラは撃退出来たかな。
現実ではこんな事絶対に出来ないけどね。
全ては、スキル『格闘術』とスキル『身体能力上昇』のお陰だ。
その時、常時発動しているスキル『気配感知』に反応があった。
方向は後ろ。
咄嗟に横に跳ぶ。その直後、俺が居た場所に短剣が通り過ぎる。
「ちっ!」
あいつは、最初のチンピラか? 鼻血出てるし。
なるほど。こいつらはモンスターじゃない。だから倒しても光にならないし、回復もする。
ちょっと舐めてたな。
壁際に追い詰められてしまった。
「へへへっもう逃げられねぇぜ?」
「覚悟しやが……え?」
ん? チンピラの様子がおかしい。
あ、今の動きで外套のフードがとれてしまっていた。
まあ、いいか。
ここに入れ墨を見られて困る奴はいない。
「おっ、おい! あれ見ろ!」
「ひっひい!」
なんか凄い怯えだした。
嫌悪するのなら分かるがなぜ、怯えるんだ?。
「にっ、逃げるぞ!」
「あっ、ああ!」
気絶したチンピラを担いで、凄い勢いで逃げて行った。
何だろ……チンピラ相手でもこうも怯えられると悲しいな……
にしても、この入れ墨。そんなに怯えられる物なのか?
冒険者ギルドのおじさんには、そんなに怯えられなかったが、どうなんだろうか?
早めに調べた方がいいな。
でも、どうやって調べよう?
誰かに聞くか?
でも誰に?
知り合い何ていないぞ。
言ってて悲しくなってきた……
先に進もう。目的地はないが、他に行く場所もない。
こうなったら、観光気分で楽しんでやるか。
このゲームはかなりリアルだからそういう楽しみ方もあるとネットにも書いてあったしな。