スリ師
二話投稿の二話目です。
その後、結局何事もなく解体作業は完了し、報酬が支払われた。
報酬額は5000Gだ。
まぁこんなもんだろう。
ライとメイからすればちょっと多い、位の額らしい。
「三日間くらいは大丈夫だな!」
「いえ、私も貰っているので六日間ですよ」
10,000Gあると子供二人が六日間過ごせるらしい。
そういやこの世界の物価知らないな。
魔道具か情報ぐらいしか買ってないし。
ん? そういえば……俺、一回も食べ物を食べてない。
腹も減ってないし、どうなってんだ?
「なぁ、ハク兄! 裏街で買いもの出来るんだ。これから買いに行かない?」
「そんな所があるのか? 勿論、いいぞ」
一旦疑問は置いておいて、買いものだ。
闇市的な場所があるんだろう。
今までそういった物は知らなかったし、行ってみよう。
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「こっちこっち!」
ライが率先して先導してくれる。
複雑な道をスイスイと進む足に迷いはない。
やっぱり複雑だな、裏街は。
細かい道を知るのは始めてだ。
「メイは道を知ってるのか?」
「はい、何度か行った事があるので知っていますよ」
メイは俺の隣を歩いている。
流石に走り回ったりといった事はまだ辛いらしい。
ま、ライもそれを分かった上で立ち止まったりしてるけどな。
そして、しばらく進み急に視界が開けた。
「ハク兄! ここが市場なんだ。だいたいの物は揃うよ」
そこにあったのは雑多な雰囲気が広がる市場。
売っている物は様々。
果物を売っている所もあれば、武器防具を売っている所もある。
占い屋、なんて物も見える。
人通りもかなり多い。俺が見た裏街では一番だろう。
「さ、メイ、ハク兄。何を買う?」
「そうだな……俺は初めてここに来たしな。いつもは何を買うんだ?」
「えーっと、直ぐ食べられる物と腐りにくいパンとかかな? ちょっと前は自衛用のナイフを買ったよ。ボロボロの物だったけど……」
割と合理的な買いものだな。
そうじゃないと生活出来ないのだろうが。
あと、奇襲の時のナイフはここで仕入れたのか。
「じゃあいつも通りに食料品を買った方が良いだろう。ちゃんとメイとも相談するんだぞ」
「分かった! ハク兄の分はどうするの?」
「あー……俺の分は取り敢えず大丈夫だ」
腹もへらないしな。
●●●
「お、これ安い!」
「ライ兄さん、それは傷んでいますよ。こちらにしましょう」
ライとメイは二人で果物を吟味している。
俺はそれを直ぐ後ろから眺めている。
目利きに関しては俺は素人、要らない言葉は挟まない方がいいのだ。
だが、何もしてない訳じゃない。
『周辺感知』を駆使し周囲を警戒しているのだ。
ここら辺はあまり治安が良くないのは見ただけで分かる。
最近あまり活躍していない『見極めの眼』も活用し、敵意を探る。
「…………」
その時だった。
こちらに敵意を向けながら近づいてくる男を見つけた。
真っ直ぐこちらに移動している、その先にはライとメイ。
ふたりと少し距離を詰める。
まだ、駄目だろうな。
『見極めの眼』を持ってない人に「敵意があったから攻撃した」なんて言い訳は効かないだろうし、迎撃するにしても何かされてからじゃないと正当防衛にはならない。
何事もなく通り過ぎてもらえればいいんだが……
「うわっ!」
「気ぃつけろ!!」
怪しい男は避けようとしたライに強引にぶつかり、速歩で立ち去ろうとする。
黒だ。
男の足に俺の足を思い切りぶつけ、転ばせる。
男の体が一回転して地面に叩きつけられる。『闘気』を使ったが余計だったか。
「かはっ!」
男は受け身も取れなかったようで、肺の空気を吐き出す。
その拍子で浮き上がったある物を掴む。
「は、ハク兄!?」
驚くライに今俺が持ってる物を渡す。
俺が渡した物、それはライの財布だ。
「スリだ」
「え!」
全く気づかなかったようで目を丸くするライ。
「気づきませんでした……」
メイも少し落ち込んでいる。
確かに、かなり技術のあるスリ師だった。
『見極めの眼』がなければ俺も見逃していただろう。
「しっかりストレージに入れておくんだぞ?」
「わ、分かった……」
ストレージはライとメイにも使える。
世間話の時に聞いた事があるが、必須の魔法なので近所の人に教えられたらしい。
普段は財布等の大事な物はストレージに入れておくのだが、屋台や市場だと頻繁に使うのでポケットに入れておいたりしてしまう。
スリ師はそこを狙うのだ。
「行くぞ」
スリ師が痛みに呻いている間にさっさと離れよう。
視線も集めている。
そそくさと場所を移動しようとした、その時だった。
「てめぇ!」
こちらを見ていた人の中から男が飛び出す。
さっきの奴の仲間か? 人が多いと言うのにサーベルのような武器を抜いている。
直ぐにライとメイよりも前に出て対応する。
さっきのスリ師の仲間ならスリの技術はあるかも知れないが、戦いの技術は全然だな。
『構え』をとった後、振り下ろされたサーベルを『流の型』で受け流し、隙を見せた男の顎を打ち抜く。
「かっは……!」
うん。勢いでやってしまったが、案外できる物だな。
顎をカクンッてやって脳震盪を起こすやつ。
白目をむいて倒れこむ男。
その男の服を掴み、ライとメイに当たらないようにしながら、後方にぶん投げる。
「なっ!」
起き上がろうとしていたスリ師に命中。
無防備な所にいきなり意識のない成人男性が飛んで来たんだ、無事じゃすまないだろう。
「す、すげぇ……」
「……お見事です」
「いや、これくらいは出来る奴は多いぞ」
半ば呆然としているライとメイにそう返す。
アリスとかは余裕で出来るだろう。
老師は言わずもがなだ。
ラドは……分からないが多分出来るはず。
「さ、買い物を続けるぞ」
そう買い物の途中なのだ。
俺も買いたい物があるしな。
え? 捕まえないのかって?
警察なり衛兵なりに突き出しても、俺が疑われるだけだろう。
そんなのに時間とりたくないしな
●●●
「久しぶりにこんなに買ったなー」
「そうですね。なんだかんだあの教会も住みやすいですし、私も働けるようになりましたし、もっと余裕は生まれるでしょう」
買い物も終わったあと、先行きの明るい会話を聞きながら教会に戻っている。
いやー、ストレージがあると楽だな。
荷物を持たなくていい。
「なぁ、ハク兄。そういえば、どうしてあの時スられたか分かったんだ?」
「あ、それは私も気になります。私は全く気づけませんでしたし」
あー……どうしよ。
言ってしまおうか、『見極めの眼』の事を。
二人なら特に問題も無いだろう。
「俺の眼はな、人の敵意が分かるんだ。だからあのスリ師が近づいてきた時点で警戒してただけだ」
「敵意が?」
二人共に疑問符が浮かぶ。ちょっと分かりずらかったか。
えーっと……もっと分かり易く……
「人が俺に向かって悪い事してやろう、と思ったら俺にはそれが黒い靄に見えるんだ」
「へー!」
「それは便利ですね」
伝わったようだ。
良かった良かった。
そんなこんなで教会に戻ってきた。
帰りはスリ師に合うこともなく、無事に帰ってこれた。
教会の中に入って一息つく。
さて、じゃあ渡すか。
「ライ、メイ。プレゼントだ」
それはさっきの市場で密かに買っていた品。
必要な物だ。
「これって……ナイフ?」
「いざという時にしっかりした物があればいいだろ。あまり高い物じゃなくてすまないが……」
「いやいや、全然大丈夫! ありがとう!」
「私もこんなしっかりした物は始めてです。嬉しい……ありがとうございます!」
いやはや、喜んでもらえて嬉しい限りだ。
因みにこのナイフ、一本10,000Gだ。
合計20,000G。
武器を買った事が無いから相場が分からない。
もしかしたら高いナイフなのかも知れないが、流石に持っている自衛用の武器がボロボロのナイフ一本だけなのは心配なのだ。
まぁ、使わないに越した事はないので
お守りのように持ってもらいたい。
喜ぶ二人を見ながらそう思った俺だった。




