思い
クリスマスイブという事で二話更新します。
「その柱はそっちに持ってってくれ」
「分かった」
絶賛仕事中だ。
ブラトンの仕事は大工と言っていたが、今回の仕事は解体仕事のようだ。
所有者から依頼された裏街の奥の家を解体して更地にするらしい。
解体した後は知らない。
新しく立て替えるのか、広場にするのか。
ま、俺にはあまり関係ない話だ。
さて、指示された場所に柱を運ぶ。一人で。
この柱、長さが三、四メートルくらいあるし、太さもなかなかあるんだが……
修練のおかげか、持てるんだけどな。
解体仕事をしてる大工達に結構力があるのがバレてしまい、重い物を運ぶ役割を与えられてしまった。
いや、働く為に来たんだから文句はないが。
本来、様子を見る予定だったメイもしっかりやってるし。
メイは頭が良い。というか要領が良い。吸収が早いのだ。
今もテキパキと周りに指示を出し、現場を回している。
その様子に辛そうな気配は全くない。
俺の心配は杞憂だったようで何よりだ。
いつの間にか現場に指示を出す側に行ってたんだよな……
いや、ブラトンとも結構仲が良いようだし、ブラトンもメイの能力の高さを知ってたからこそなんだろうがな。
そしてライはと言うと。
「ひゃっほーい!」
解体中の家の上に上り、上から解体作業をしている。
その身は軽く、ぴょんぴょんと跳びはねていても全く危なげはない。
かなりの身のこなしだ。
俺と初めて遭った時の奇襲もあの身のこなしで行ったのだろう。
それにしてもなんで、あれだけ動けてあの時着地に失敗したんだろうか。緊張でもしたのか?
「おーい! 何止まってんだー!」
いけない、足が止まっていた。
兄妹には問題ないし、仕事に集中集中。
●●●
「ほれ、お疲れさん」
「ありがとう」
休憩時間で休んでいると、ブラトンがお茶かなにかを差し入れてくれた。
そして俺の隣に腰掛ける。
ブラトンは意を決したように間を置き、口を開く。
「……お前さん、あの双子の事をどう思ってる?」
「……どう、とは?」
「好ましく思ってるのか、って事だよ。……いや、すまん。それはアンタの態度を見れば直ぐに分かる。だが、一度聞いておきたくてな」
…………なるほどな。
ブラトンからすれば昔から気に掛けていた双子の傍にいきなり怪しげな男が現れた訳だ、心配して当然だろう。
「勿論、好ましく思ってるよ。俺はここじゃ生きづらい。そんな俺を受け入れ、兄と呼んでくれる。居場所をくれる」
俺は様々な人達を見てきた。
その中で、最も好意的な感情を向けてくれるのがライとメイだ。
ここはゲームの世界。言ってしまえばNPCはただのデータの集合体。
だが、そう考えられなくなるほど、俺は色々な物を見てきた。
勇者との決闘に勝利した時、周りの住民達が見せた恨みと憤りの表情。
防衛戦の時、俺を殺そうとしたアーゼの憎しみの表情。
この体の入れ墨のせいで見てきたのは理不尽な人間のエゴ。だけどその分、反対の感情も見ている。
家族を慮るライとメイの優しさ、
メイに巣くっていた劣等悪魔が暴れ出した時、ライが見せた焦燥と不安の表情。
そして、メイが助かったと聞いた時に見せた安堵の表情。
この世界のNPC達も人間と変わらない。喜怒哀楽を持ち、人を憎みもすれば、人を愛しもする。
現実の人間達と同じように、感情を持っている。
そう気づくと、もうNPCだとは思えなくなっていた。
そんな風に思っているからこそ、ここまであの双子を気に掛けているのかも知れない。
「あの二人は本当の兄妹だと思ってる」
自然に言葉が出た。
それは紛れもない本心だ。
あー……入れ込み過ぎな気がする、だが、そう思っているんだから仕方ない。
「そうか……安心したよ」
ブラトンはそう言って立ち上がる。
「さ、休憩は終わりだ。仕事するぞー」
「ああ」
俺もブラトンに続き、立ち上がる。
そのまま、さっきの現場に行こうと思ったのだが、ブラトンが不意に立ち止まる。
「そうだ、ハク。この裏街じゃ訳ありの奴も結構いる。だから詮索する奴も少ない。まぁ無理かも知れないがあんまり気にする必要もないぞ」
俺の服装を見て言ってくれたのだろう。
確かに、この仕事に来て初めて多くの裏街の住民にあったがそこまで視線は感じない。
流石に全くでは無いが、表の通りを歩いた時とは比べるまでもない。
案外、裏街では生きやすいのかもな。




