裏街の仕事
ちょっと長くなりました
「ほっ」
「ガルル!」
もうフォレストウルフ集めも慣れた物だ。
手早くフォレストウルフを集める。
だが、ちょっとやりにくい。
『気配感知』が『周辺感知』に進化したからな。索敵範囲が狭まっているのが原因だ。
「よし、集まったな」
いつもよりも少し時間が掛かったが集め終えた。
数は六匹。
少し多いが問題無いだろう。
「ガルルァッ!!」
「ガルァッ」
よし、本格的に回転を始めたフォレストウルフの中心に立ち、『無常の構え』をとり『金剛闘気』を纏う。
精神統一
「ガルァ!」
背後から迫るフォレストウルフを振り向かなくとも把握する。流れる回転しながら『流の型』
上に飛ばし、フォレストウルフが体勢を整えるその僅かな隙に『蹴の型』
そして、『無常の構え』に戻り呼吸を置く。
うん。かなり調子がいい。
『周辺感知』によって敵の把握が楽になって居るのもあるが、『立体動作』の補正もあるだろう。
スキルが二つ変わるだけでここまで変わるとはな……
やっぱりスキルは重要だ。
「あ、しまった」
「ガルルァッ!」
複数同時からの攻撃。まんまと囲まれてしまった。
スキルが進化する前の俺なら、これを躱すのは無傷ではいかなかっただろう。
だが、今は可能だ。
『周辺感知』で周囲を探る力は強化されている。
それらの感覚に集中し、迫り来るフォレストウルフを最大限正確に把握する。
そして、俺に近いフォレストウルフから対処していく。
攻撃を躱して『撃の型』
追撃はしない。
次のフォレストウルフの対処をすべく動く。
気を抜けない短時間の攻防。
ああ、楽しいな。
自分が磨き上げられている感覚。
自分が強くなっていく感覚。
それはテレビゲーム等では決して味わえない感覚だった。
自分自身が体を動かし、その成長を肌で感じていく。
それがこれ程楽しいとは。
現実じゃあそんなに運動神経が良くなかったから、尚更だ。
フォレストウルフの爪を『流の型』で受け流して投げ飛ばす。これで二匹目の対処が完了。
「ガルルァッ!」
「ガルッ!!」
三、四、五匹目のフォレストウルフは逃げ場がないタイミングで同時に飛び掛かって来ている。
「ふっ!」
『闘気』を足に多めに纏わせ跳ぶ。
『立体動作』のおかげか、体がスムーズに動く。
包囲から抜け出す。
仕切り直しだ。まだスキルの効果を十全に発揮出来ていない気がするな。
もっと戦って慣らさなければ。
攻撃を加えたフォレストウルフもまだ生きている。
まだ戦えるようで何よりだ。
戦いはまだまだ続く。
●●●
「ふっ」
フォレストウルフとの戦いが始まって約十分。
最後のフォレストウルフにとどめを指す。
傷はほんの少しだ。ちょっと数の多さに手間取った、一匹多いだけでもかなり変わるのだ。
そして、疲れた。しっかり休憩するのも大事なので、
一旦教会に帰ろう。
ライとメイの待つ廃教会へ。
この三日間、集中して修練を重ねていた為、戻る回数が少なくなっていたがなるべく戻っておきたい。
以前帰った時はライとメイからは、「「無理しないで」」と声を揃えて言われてしまったが人間、拠点が出来たら帰りたくなる物だ。ライとメイも居るし。
にしてもあの双子はよく気付く。
俺が少し疲れているのを気づいたと思ったらさり気ない質問で俺が無理してないか、直ぐに確認してくるのだ。
俺も気づいた時には注意されていた。
いやはや、ぐぅの音も出なかったよ。本当に。
ワイバーンもいつからか襲ってこなくなったし、無理はしてないつもりだったんだが……
二人からすると無理していたらしい。
場合によっては「帰ってくんな」的な捉え方もできるのだが、そんな事疑うまでも無いくらい二人の目は純粋な心配しかなかったし。
さ、フォレストウルフの素材を回収して
さっさと帰ろう。
●●●
「おかえり! ハク兄!」
「おかえりなさい。ハク兄さん」
「おう、ただいま」
帰宅完了だ。
もう木の上を跳ぶのも慣れたし、そんなに時間は掛からなくなった。
今はライとメイ、二人とも居るな。
メイは居ないと困るんだが、ライの方は下働きの仕事もあるのでいない時もある。
「メイ、調子はどうだ?」
「はい、全く大丈夫ですよ。今すぐでもライ兄さんの手伝いが出来ます」
「だめだぞ、メイ。あと今日いっぱいは休むんだ」
「分かっていますよ。そういう約束ですから」
まぁ、忘れてるとは思っていないけどな。
その時、教会の扉がノックされた。
なんだ?
「あ、ブラトンおじさんかな?」
ライはそう言って扉に向かう。
知り合いなのか?
自然にメイの前に移動し、いつでも動けるようにしておく。
万が一、知り合いでは無い可能性もあるしな。フードも被っておく。
ライが扉を開ける。
「はーい!」
「おお、坊主。妹は大丈夫か?」
そこに居たのはハチマキを頭に巻いた男だった。
服装は動きやすさを重視した格好で、体も鍛えられている事が分かる。僅かなほうれい線も見える為、それなりに年を重ねているのだろう。
全体から受けたイメージは 大工だ。
「ブラトンおじさん、メイはもう治ったよ!」
「なに!? 本当か?」
ライが嬉しそうにブラトンと呼ばれた男に話かける。
どうやら知り合いのようだ。
ライはいきいきとメイが治った経緯を説明する。
ずっと玄関で。
「ライ兄さん、ブラトンさん。取り敢えず中に入って下さい」
「あっ、それもそうだな!」
それを見かねたメイ声を掛け、中に招き入れる。
どうしよ、完全に俺だけ置いてけぼりだ。
ブラトンは俺に視線を向ける。全身を隠す俺の格好に驚いたのか、目を見開いたが敵意は見えない。
ライの話が俺の話に移る。
「で、メイは治ったんだ!」
「あー……俺がハクだ。よろしく頼む」
話が一段落したのを見計らって自己紹介できた。
「俺はブラトンだ。この裏街で大工をやってる。ご入り用なら頼むぜ?」
やっぱり大工だったか
「ブラトンおじさんとにはよく下働きの仕事をさせて貰ってるんだ」
「ああ、なるほど」
そこでの繋がりか。
あと、ここ裏街って言うんだな。
「弟が世話になってる」
「こっちこそメイの嬢ちゃんを治してくれてありがとうな」
握手を交わす。
聞くと、ライとメイとは結構長い付き合いらしい。
それこそメイがまだ呪いに掛かる前からの付き合いなのだそうだ。
「で、ブラトンおじさんは何で来たんだ?」
「おう。ちょっと大きい仕事が入ってな。また下働きの依頼をしようと思ってたんだが……」
ブラトンはチラリとメイを見る。
「まだ嬢ちゃんとゆっくりしたいんなら別にいいぞ」
「うーん……どうしよう」
悩むように唸るライ。そしてそれを悲しそうに見るメイ。
ライは病み上がりのメイを置いていっていいのか、という悩み。
メイはまた自分が心配をかけてしまっているという悲しさ。
そんな理由だろう。
…………仕方ないか。
「メイ、無理はしないか?」
「! はいっ!」
俺の言葉の意味を理解したメイは笑顔で頷く。
「ライ、メイも仕事に行っても大丈夫か?」
「うん。メイも結構回復してるし、大丈夫だと思う」
ライから見ても大丈夫なようだ。なら決まりだな。
「約束では今日まで休む事だったが……体調が悪くなったらすぐに休む事、そもそも無理をしないこと、これが守れるなら仕事に行ってもいいぞ」
「はい!」
メイは嬉しそうに返事をする。
それだけ役に立ちたかったんだろう。
もうこれ以上は駄目だというのは良くなさそうだし。
後は……
「ブラトン。その仕事、俺も付いていっていいか?」
「おう、構わないぞ? 人手は多いに越した事はないしな!」
裏街の仕事に興味もあるのもあるが、
張り切り過ぎてないか確かめとかないとな。
「…………坊主、いい兄を持ったな。大事にしろよ」
「うん! 勿論!」
ん? なんだ?
ブラトンとライが何か喋ってたが聞き逃した。
後半に分かり辛い部分があったのでフードを被る部分などを追加しました。




