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殺気

少し修整しました。


「ふっ!」

「ギャッ!」


『蹴の型』でのハイキックが、盾と剣を持つゴブリンの頭に吸い込まれる。

命中。


ゴブリンが膝から崩れ落ち、光になっていく。

戦闘終了だ。


残った素材はいつも通りゴブリンが使っていた装備だ。

どれもぼろぼろなのは変わらないので、後で売ることになるだろう。


大分安定して戦えたな。

そろそろ次に行っても良いかも知れない。


だが、今日はこれで終わりだな。

その後は広場に戻ってログアウトした。



●●●



ログインした。

さて今日は何をしようか。


確か昨日はゴブリンの相手をしてたんだったな。

なら今日は新しい相手を探しに行くか。


今まではあまり踏みこまなかったフィールドに向かう。

目印も時折指で付けながら。これは移動の際は結構使えるのだ。


俺が結界に阻まれた村とは反対に進む。

攻略していく方法としては、これで正しい筈だ。

北へ北へ進む。


そうして歩いていると、『気配感知』に反応があった。

速い。かなりの速度でこちらに向かっている。

明らかにゴブリンの速度ではない。


この分だと、後数十秒あればこちらに到達するだろう。


俺は立ち止まり、『構え』をとり迎撃の準備。

気配が近づいてくると、『闘気』を纏う。


気配はもう直ぐそこ。

さぁ、来い。


「ガルルル!」


見えたのは、緑色の体毛をした狼だ。

特徴は他にもある。

前脚の爪が異様に長く、鉤爪のようになっている。


モンスター名はフォレストウルフ、というそのままの名だ。


フォレストウルフは噛みつきでは無く、前脚を振り上げ爪を使った攻撃を繰り出してくる。


だが俺も直ぐにカウンターを合わせる。

フォレストウルフの横顔目掛けて『蹴の型』を叩き込む。


「ギャインッ!」


フォレストウルフの鳴き声。

きれいに足が入った。


「……擦ったか」


だが、俺の頬には薄い切れ込みが入っている。

フォレストウルフの爪に当たってしまった。


幸いにも掠り傷。

致命傷にはほど遠いし、戦闘には何ら問題ない。


フォレストウルフはどこだ?


「ガルルル……!」

「なに……?」


そのフォレストウルフを見つけた時、俺はおかしな物を見た。

フォレストウルフが木に立っている。

垂直に。


よく見ると、あの前脚の爪を木に突き立て姿勢を維持しているようだ。


これは……不味いな。

このままでは、


「ガルァ!!」


フォレストウルフが木々を足場にし、俺の周囲を縦横無尽に跳ね回る。


その速度はトビイタチを遙かに上回っている。

目で追えない。


背後で木が軋むような音がする。

直感で回避行動をとる。

地面を転がると、直ぐ近くにフォレストウルフが通り過ぎる。


危なかった。

こうやって攻撃してくるのか、危険だな。

どう攻略するか……


また音がする。


地を這いながら回避。


ん? 音?

そうか、音か!


目で追えないなら目に頼らなければいい。

音に集中して攻撃のタイミングを計るんだ。


音が大きく鳴った時に大きく回避行動をとれば避けられる。


「ガルルァ!!」


そんな状況が数分間続いた頃。

この動かない状況にフォレストウルフが苛立ったように真正面から向かってきた。


これ以上ないチャンスだ。

音と攻撃のタイミングはもう大体把握している。


フォレストウルフの前脚を掴み、体を反転させ相手の勢いを利用して地面に叩きつける。


「ギャインっ!」


その声を皮切りに、フォレストウルフは光になった。

そして素材を回収する。

毛皮だけだった。


にしても、なかなか良い相手だったな。

後半は修練のつもりで戦っていた。


反射神経と聴覚、『気配感知』も鍛えられるだろう。

集中を解けば攻撃をくらうという事もあり、常に緊張感も持てる。


ふと思ったが、俺は何処を目指してるんだ?

なんかいつの間にか武人みたいになっているが……


まぁいいか。

強くなるのは楽しいし。強ければ面倒事に巻き込まれても切り抜けられる可能性も上がる。


努力をするのは昔から苦ではなかったし、楽しく感じる事も多い。だからこそここまでやれてる部分はあるし。

悪いことではないはず。


思考もこれ位にして、

探索を続けるか。


●●●


その後

何度か戦闘を重ねた。

今は広場に戻っている所だ。


そして戦闘相手は

全てフォレストウルフだった。

狼ばっかりだ。


結構疲れた。

一度、三匹のフォレストウルフに囲まれた時はかなり危なかった。

最終的にはなんとか倒せたが、怪我を負ってしまった。

ポーションがあったので回復出来たが、無かったら危なかったな。


『風巨狼のコート』も役に立った。

首にフォレストウルフの爪が入りそうになった時、フードがあったおかげで軽傷で済んだのだ。


やはり装備は大事だな。今回の戦闘で実感した。

俺は『風巨狼のコート』以外は普通の服だし。


やっぱりレオに頼むしかないのかね……

ちょっと覚悟を決める時間がいるが、今度素材集めて行こうか。


「ん?」


もうすぐ広場に着く、という所で異変を感じた。

明らかに複数の気配を捉えたのだ。


なんだ?

ラドという事は無いだろう。

複数だし、今は昼間だ。あの広場は日陰が少ないし、余計あり得ない。


……『忍び足』を発動。木の上に駆け上がる。

そしてそのまま樹上を跳び、広場を視認出来る位置まで移動する。


「丁度良いですし。ここで休憩しますか」

「ええ、そうしましょう」


どうやらパーティーのようだ。

何か……見覚えがある。


そうだ、ローズだ。

あの話を聞かないの代名詞のローズだ。勝手に代名詞にしたけど。


出来れば会いたく無かった相手だ。勇者とも繋がりを持ってるっぽいし。


「ローズさん。まだ進むんですか? もう勇者様についていく条件は満たしたじゃないですか」


あー、そんな事言ってた気がする。

ワイバーンを倒さないと、みたいな。

でもあの少年が言うように、ここに居るという事はワイバーンは突破している筈だ。


あの戦闘は基本的に避けられないからな。

俺も行き帰りの度に毎回倒してるし。


あ、素材売っとかなきゃな。

いや、レオに頼んで防具にしてもらおうか?


「いえ、それだけでは駄目なのです。勇者様の期待に応える為には、もっと強くなって役立てるようになりませんと!」


おっと、思考の内容が変わってる間に話が進んでいた。


期待、ねぇ?

まぁ頑張ればいいんじゃないか?

強くなる事は悪いことじゃないし。


俺にさえ関わらなければいい。


「ですが、何処まで進むんですか? そろそろ依頼の期限も迫ってますし……」

「そうですわね……では、この森の奥に住む人食い熊(マーダーベア)を倒す事を目標にしましょう。期限が切れる前に倒せればそれでよし、倒せなければ大人しく引き返しましょう」

「分かりました」


マーダーベアか。

良い情報を聞いた。

俺も今度探して挑むかな。


だが、あのパーティーとは被らないようにしないといけない。厄介な事になるだろうし。


幸い、期限が迫ってる、と言ってる事からそんなに長く留まる事は無さそうだし。


ふと、気になったのはあのローズとそれ以外の少年たちの関係だ。

最初会った時は特に気にならなかったが、ローズが少年たちを雇ってるみたいな関係なのかね?


「よし、休息もとりましたしまた進みますか」

「そうですわね」


お、出発するようだ。

木の上に居る俺には最後まで気付かなかったな。






その時だった。

一瞬、恐ろしい程の殺気を感じた。この威圧感は劣等悪魔よりも上だと思える。


自分が居た木の枝を蹴り跳び、後ろに下がる。

逃げろ、この殺気の主には勝てない。


急いで広場から離れ、地面に足を着けた時、俺の首元に冷たい感覚が走る。


そこにあったのは()()()()


今更、真後ろに気配を感じる。

急に現れた気配、全く感知出来なかった。


「何者だ、貴様」

「……それはこちらのセリフ何だがな」


精一杯の虚勢を張る。

後ろのコイツがその気になればいつでも俺の首と胴体は泣き別れになるだろう。


「ローズ様に害為す者か?」

「……そんなつもりは無い」


冷や汗が止まらない。

全身が危険信号をならしている。


後ろの何者かは何か思案するように、喋らない。

だが、向けられる殺気は全く衰えていない。


「貴様のような罪人が、何故世に放たれている?」

「……さぁな。俺が知りたい」


俺の入れ墨が見えたのか?

どこから見られていた? 逃げられるか? それは可能なのか? 

そんな考えが浮かんでは消えていく。


そうして地獄のような時間が過ぎ、俺の首元の刃は俺を斬ること無く、引かれた。


「………今後は妙な真似はするな。次は無い」

「っ、はぁっはぁっ」


溜めていた空気を肺から吐き出す。

気配が消えた。

と言ってもさっきまで感知出来なかったんだから本当に居なくなったかは分からないが。


何だ? アイツは。

ローズ様とか言ってたが……ローズの護衛か?


怪しい人物がローズを見ていたから潰しに、又は真偽を確かめに来たか。

状況や言動から言ったらそう考えられるが……


何にしても恐ろしい。

あちらに会話する気がなければ、一瞬で終わっていた。


少しは強くなった気でいたが、まだまだのようだ。

俺はそう思いながら、汗で滲んでいる首をさすった。





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[一言] 勇者関連の人物は疫病神かな?
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