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勘違い



「あの勇者は相変わらずのようだな」

「随分と町の評判は良いようだがねぇ。私はちょっと怪しく感じるね」

「まぁ、人助けを第一に行動してればな」


魔法と魔法陣の説明も終わり、何をしているのかというと婆さんと呑気に世間話をしている。今は勇者の話題だな。


「う、うーん……」


お、ライが起きそうだ。

婆さんとの話を打ち切り、ライの傍に立つ。


「……兄ちゃん?」

「ライ、起きたか?」


大体三十分くらい寝てたな。

今までの頑張りを考えると、もっと寝ていてもいい気がするが、とりあえず詳しく説明するか。


「メイの呪いは元凶から消えたぞ。後は長く寝たきりだった体力を戻せば、普通に生活できるだろう」

「本当!?」

「ああ、本当だ」


俺は婆さんをちらりと見る。


「私はここで魔道具店をやっている者でね。また厄介な事になったらいつでも来るんだよ」


婆さんはメモ用紙のような物をライに差し出す。

店の場所を書いてあるのだ。

さっき話を聞いたところ、『麒麟の落とし子』であるこの双子は劣等悪魔のような存在に憑かれやすいらしい。


体に秘められた力が大きいのが原因なのだそうだ。

これを放っておくと、乗っ取られて大暴れをするという事態にもなるため、婆さんは自分の店を紹介したのだ。

この双子がある程度、自衛出来るようになるまでは頼れる人間がいた方が良いだろう。


「あ、ありがとう! ばあちゃん! 兄ちゃん!」


うんうん

最初に会った時にあった、どこか切羽詰まった雰囲気が消えている。

本来はこういう性格なのだろう。良かった、頑張った甲斐があるという物だ。

子供は笑顔が一番だな。


そうやって元気になったライと話していると、今度はメイが起きそうだ。


「……う、うん……?」


メイは目をゆっくりと開くと、自分の体の変化に驚いたようだ。

長い間劣等悪魔に蝕まれ続けていたんだ、当然だろう。


「に、兄さん。これは……!」

「治ったんだよ、メイ! 治ったんだ!」


感極まったようにもう一度涙をこぼす双子。

いい話だ。

そんな雰囲気をぶった切ったのは、なんと婆さんだ。


「感動してるところ悪いがね、これを飲んでくれないかい? 体の中に残っている悪魔の痕跡を消す薬さ。これで完全にあの劣等悪魔から解放されるよ」

「は、はい。分かりました」


冷静に婆さんの話を聞き、理解したように頷くメイ。

婆さんとは初対面の筈なんだが、しっかりと受け答え出来てるな。


妹のメイはしっかり者。そういう印象だ。 

いや、ライがしっかりしていないという訳じゃないけど。


その薬を飲んだ後も、

それからは婆さんの診療が始まり、完全に健康体となっていることが証明された。


魔法も使っていたのでかなり確度の高い情報だろう。

もしかしたら、呪いで体が弱っているときに違う病気にかかっている可能性もあったので、安心だ。


「ありがとうございました」

「ありがとう!」


丁寧にお辞儀をしたのがメイで快活な笑顔をみせたのがライだ。


「それじゃあ私は帰るとするかね」

「ああ、婆さん。悪かったな、急に呼んで」

「気にすることは無いよ。代金は貰っているしね」


そう言って婆さんは店に戻っていった。本当に助かった。

さて、メイの呪いも解けた事だし俺も交渉するか。


元々俺はここを休憩所にするつもりで来たんだ。

そこに先客が居て、成り行きで劣等悪魔と格闘してた訳だ。

我ながら脱線にも程があるな……

後悔は当然ないが。


そう思いながら、双子に交渉しようと振り返ると、双子は少し青い顔をしていた。


「ん? どうした?」


体調に問題は無いはずだが……


「に、兄ちゃん……代金って……」

「私たち兄妹には、払えないかも知れません……」

「ああ……そういう事か」


代金が払えない事に対する不安か。


「いいか? 俺は自分の意志でお前達を助けたんだ。俺が勝手にやった事、だから代金を払う必要はない」

「で、でも……」

「しかし、それでは……」


変なところで義理堅いな。

なら丁度いい。


「納得出来ないなら代わりに俺をたまに居座らせてくれ」

「そんな事でいいのか? 代金を払う為にはもっと頑張るぞ」

「はい。私も回復したので稼ぎは増えますし……」


引かないな、この双子。

だが、これを見ても同じ事が言えるのか?


俺はフードをとり、顔に刻まれた『罪人の証』を露わにする。

 

「兄ちゃん! それって……」

「……まさか……!」


流石にこれは予想出来ないだろう。

この入れ墨に忌避感を示さなければ、俺はここに居ても大丈夫だろう。


忌避感を見せれば俺は直ぐに出て行くつもりだ。

辛い思いをさせてまで、場所が欲しい訳じゃない。


だけどそうなるのは結構悲しいからな……なるべく避けたい物だ。


「俺にはこんな物があってな。日常生活にも困っている、だから生活できる場所が欲しいんだ」


唖然とした様子の双子。

今の所特に敵意も見えないし、忌避感も感じないが……

どうなんだ……?


ライが口を開く。その言葉は拒絶か否か……


「に、兄ちゃんも呪いに掛かってるのか!? 急いで治さないと!」


必死な顔でそう言われた。

ずっこけたよ。そうきたか……




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― 新着の感想 ―
[一言] ハクはアレだな。 当座の目標として全身装備の軟皮鎧か、長袖、ロングパンツで白一色の「修道闘士」の服を作って貰って、『他の街で慈善事業』を行うという根回しをするといいんじゃないのかと思う。 …
[一言] 下手な知識が無い純粋な子供はいいよねぇ
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