勇者と拒絶
勇者だと?
もしやこいつもランダムスキルプリセットを選んだのか?
ランダムスキルプリセットを選んで、勇者を引いたと……
じゃなきゃ、自分が勇者とは言わないだろ。
羨ましいな、本当に。
勇者のスキルの中に、相手が悪人かどうか調べられるスキルでもあるのかも知れない。
「僕のスキル『正義の使者』は、対象の好感度を調べる事が出来る! だから、お前は僕から逃げられないぞ!」
全部喋ってくれたよ、こいつ。
それにしても、俺の天敵じゃねえか!
生まれた瞬間にもう好感度マイナス500なのによ。
悪い事はしていないのになぁ。
そうだ、丁度いい。
あの勇者に、『見極めの眼』を使ってみよう。
対象の敵意が分かるとあるが、どうなるんだ?
スキル『見極めの眼』発動。
ふむ、勇者から黒いオーラが出てきて、ピリピリとした感覚が伝わってくる。
これが敵意か。
結構分かりやすいな。
対象があの分かりやすそうな奴だからかも知れないが。
あと、嬉しい事にこのスキル、SPの消費が無い。
つまり常に発動出来る。ずっと発動しておこう
「成敗してやる!」
そう言って、また襲いかかって来る。
だが俺も攻撃されてばかりじゃない。
奴は剣を振り下ろして来るが、動きが直線的だ。
なら、ホーンラビットと変わらん。
難なく躱し、剣を持っている手を殴る。
「ぐっ!」
痺れたのか、剣を取り落とす。
今だな。
俺は軽くジャンプし、鎧に守られていない頭を思いっきり蹴った。
「ぎゃ!」
勇者は勢いよく、転がっていった。
よしっ。この隙に逃げるか。
またもや、全力疾走だ。今日はよく走るな……
「ま、待てー!」
遙か後ろから叫び声が聞こえるが、気にしない。
そうして俺は逃げおおせたのだった。
全く、とんだ災難だった。
後ろから、奇襲するなんて勇者のする事か?
いや襲う前に叫んでいたし、いいのか?
そんな事を考えていると門に着いた。
外套のフードを確認する。
しっかりと、被ったのを確認し門をくぐる。
流石にあの勇者も、街の中で斬りかかっては来ないだろう。
『見極めの眼』も発動しているし、敵意がある奴は直ぐ判る。
さて、それじゃあホーンラビットの角を売りに行くか。
ホーンラビットの角はこの世界なら誰でも使えるストレージという魔法の中にしまってある。
この魔法、それなりの量が入るようになっている。
確認すると、ホーンラビットの角が42本入っていた。
42本か……結構狩ったなぁ
買い取ってくれる場所は……
あそこかな?
冒険者ギルドと呼ばれる建物だ。ギルドでは、ドロップ品の買い取りの他に、クエストの仲介もしているらしい。
プレイヤーが最も利用する施設と言っても過言ではない。
まぁファンタジー世界では、定番だな。
早速冒険者ギルドに入る。
中に入るとそこには、市役所の受付のような物があり、
それ以外の場所にはテーブルと丸椅子が置かれ飲食を楽しめるようになっている。
現に今も、椅子に座って談笑している人達がいる。
確認はこれ位にして、素材買い取りの受付は……あった。
強面のおじさんが座って何か作業をしている、その上には
買い取り所という看板がぶら下がっている。
早速そこに向かう。
「素材の買い取りをお願いしたい」
「いらっしゃい!どんな品だい?」
明るい声が返ってくる。
「ホーンラビットの角だ」
「それだと一つ1Gになるな」
このゲームのお金の単位はGだ。
1G大体一円換算でいいらしい。
安いが、初心者向けフィールドに出てくる奴なんてこんなもんだろう。
「だがたまに、レアモンスターとしてピンク色の角を持つホーンラビットもいるからな。一応確認させて貰うぜ?」
そんな奴が居るのか? 知らなかった。
「そうなのか?なら頼む」
そう言ってストレージからホーンラビットの角が入った袋を取り出し手渡す。
そう手渡してしまった。
「ん? なぁ兄ちゃん、その腕の入れ墨……」
しまった。 腕の入れ墨を見られてしまった。
慌てて、外套の中に手を隠す。
「やっぱりそいつは、『罪人の証』じゃねえか!」
油断していた。今まで誰にも気づかれなかったから気を緩めてしまった。
黒いオーラを『見極めの眼』が捉える。
「帰んな、あんたから買い取る物なんてねぇよ」
こうなってしまったら、どうしようも無い。
大人しく立ち去るのが、一番だ。
足早に冒険者組合から去る。
好感度マイナス500というのは、分かってはいたが厄介だな。
入れ墨を見られただけであんなに敵意を出されるとは……
おかげで、素材の買い取りが出来なくなってしまった。
いや、逆に入れ墨さえ見られなければ良いのだろう。
でも、全身を隠す事なんて出来るのか?
全身タイツでも着るか? そっちの方が怪しいだろ。
これからどうしようか……
資金が稼げなくなってしまった。
前途は多難。