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劣等悪魔



俺は深呼吸をして心を落ち着かせていた。

全力で望む為に、体を少し伸ばし暖める。


「そろそろ破られる、準備はいいかい?」

「……ああ、問題ない」


相手は劣等悪魔。あのフェレスの劣等種とはいえ、手強い相手だろう。

気は抜けない。


「緊張し過ぎるんじゃないよ? 劣等悪魔は正確には悪魔じゃない。こっちの世界にしか存在出来ないし、知能も低い。私も結界が張れ次第援護もする」


緊張しているように見えたのだろう、婆さんから助言を貰った。

だが、その心配は無用だ。

今までの修練の成果を始めて人の為に使う。

戦意は十分だ。


戦意を漲らせながら、婆さんに向かって頷く。


「……大丈夫なようだね。破られるよ!」


魔方陣にヒビが入る。

亀裂が広がり、パキィィンという甲高い音が響く。

そしてメイの体から黒い靄が吹き出し、悪魔の体を形作る。


「ガァァァ!」


悪魔の声。そこからは婆さんから聞いたとおり、知性は感じられない。


見た目はいかにも悪魔のような風貌だ。だが、フェレスは人間よりの見た目だったのに対し、コイツは手脚は湾曲し長く、背中には大きな翼が存在し、顔には鷲のような嘴が見える。


まぁ、何はともあれ先手必勝。

『無常の構え』から『撃の型』に移る。それと同時に闘気も纏う。


「ガァ!」


翼が生む推進力で躱された。

だが、これでライとメイの傍から離す事が出来た。そして奴の注意は俺に向かう。


これでやれる。

劣等悪魔の観察をし、情報を少しでも集める。


コイツは翼を持ち、滞空している。

機動力はさっき見たとおり、なかなかの物だ。


まずはワイバーンと同じように翼を潰すか?

機動力はある程度削げるだろうが、ワイバーンと違ってコイツは体が大きくない。当てられるかどうかは分からない。

どうやって倒すか……


思考しながら攻撃を繰り出し続ける。

すると、奴は一瞬下がり、長い腕を撓らせてリーチの長い攻撃を飛ばしてくる。


『撃の型 連』から『流の型』に切り替える。

腕を受け流し、ガラ空きになった胴体に拳を叩き込む。


追加で『闘気』も多めに纏わせる。

劣等悪魔の体がくの字に曲がる。


だが、手応えが薄い。

常に滞空しているせいか、それとも俺の力が足りないせいか、ダメージは余り入っていないだろう。


「ガァァ!」


俺の予想通り、余り効いていない。

一度『構え』を取り直し、出方を見る。


ここは室内。飛んで逃げる事は出来ない、落ち着いて仕留める。


「ガァァァ!!」


劣等悪魔の周囲に黒い弾が浮かぶ。

魔法か。


複数の黒い弾が一気に発射される。

ライとメイの方向に向かわないように立ち回る。

黒い弾は、俺を追尾して動いているので立ち回り自体は簡単だ。


更にこの部屋の中は椅子や机も多くある上に広さもある。

だからいろいろ利用出来る。


近くにあった椅子を掴み、黒い弾に投げつける。

すると椅子は粉々に破壊されたが、同時に黒い弾も消えていた。


何かにぶつかったら消える、と仮定しよう。

分かる情報から敵の手を予測していく。


追尾性も失われる気配が無い。

悪魔は動いていないので、黒い弾の追尾性は手動なのかも知れないな。


あえて動いていないのかも知れないが

劣等悪魔が動かないというのはいい情報だ。

避けている間にライとメイに手出しされたら大変だからな。今は俺に注意を向けられている。


あとはこの黒い弾をどうするかだが、一応手はある。

だが、それを実行しても劣等悪魔自身に有効打を打てなければ意味がない。


出来ればもっと粘って作戦を考えたいんだが……


黒い弾がだんだんと俺を捉え始めた。

やはり悪魔が操作しているのだろう、最初とは動きが違う。

このままでは、じきに当たる。


時間は無い。あの椅子のようになるのは御免だ。

手を打つ。


部屋の中にある机をひっくり返し、黒い弾が迫ってくる方向に投げる。

この黒い弾は何かに当たると消えるとするならば、

どれだけ脆くても当たりさえすれば消えると踏んだのだ。


投げると同時に近くの椅子を踏み台にし、壁に向かって跳ねる。


机が砕ける音。

一瞬確認すると、黒い弾は半分程残っていた。


何もあれだけで全て対応出来るとは思っていなかったので、特に驚かない。手動で動かしているのならそれ位は当然出来るだろう。


壁を蹴る。本命はこちらだ。

劣等悪魔に向かって一直線に跳ぶ。

黒い弾は机に気をとられていたので、俺の動きに対応出来ない。机は簡単な目眩ましとして利用したのだ。


さぁ、ここからが正念場だ。

奴がただ真っ直ぐ向かってくる俺を無視する筈がない。

劣等悪魔は新たに黒い弾を生み出して、俺を迎撃する。


最初の二、三発は体を捻っただけで躱せたが、後の数発がどうしても躱せない。


久しぶりに爆発靴(ボムシューズ)を使い軌道を変える。

そしてそのままでは体勢が崩れるので、続けてもう片方の爆発靴を使う。

連続で爆発靴を使ったのはあの三段ジャンプの時以来だ。


「ぐぎっ……」


急加速と急旋回をした事による負荷が体に掛かる。

その代わり、壁を蹴った時よりも速度が上がっている。

直ぐに劣等悪魔との距離を詰めていく。


これならいい一撃が入れられるだろう。

劣等悪魔の顔が少し変わる。まさか躱されるとは思っていなかったのだろう。


爆発靴の見た目は普通と変わらないからな。

不意を突くのには最適だ。


腕を振りかぶり、劣等悪魔の顔目掛けてぶん殴る。『闘気』は先ほどよりも多く使っている。


確かな手応え。

確実にダメージは入っただろう。


その瞬間だった。脇腹に激痛が走り、体が吹き飛ばされる。


「ぐあっ!」


教会の壁に叩きつけられる。

『闘気』を纏っていたのもあり、致命傷では無いがかなりのダメージだ。


一体何があった? カウンターをくらったのだが、勿論それは警戒していた。奴の四肢にも注意を払っていたのだが……


「ガァッ!ガァッ!」 


劣等悪魔は愉快そうに笑っている。俺の一撃など気にも止めず。そしてその隣で揺らめいているのは……()()


まさか、あれに殴られたのか?

だがおかしい、あんな物は無かった筈だ。

戦闘の途中で生えたとでも? そんな事が……


いや、相手は劣等種とはいえ悪魔だ。

出来てもおかしくない。

失敗した……


「ぐっ……」


『痛覚耐性』のおかげか痛みは少し引いてきているが、まだ動けそうにない。


その間にも劣等悪魔はどんどん近付いてくる。

痛みはまだ引かない。痛みを無視して動こうとするが、どうしても痛みによって動けない。


とうとう劣等悪魔が俺の目の前に来た。

そして、腕を高く上げ、振り下ろす。

その顔には確かな愉悦が浮かんでいた。


振り下ろす腕が何処かゆっくりと見える。

ここまでだ。もう俺だけでは戦えない。


()()では。


「そこまで戦えれば上等さね。『滅魔陣』」


そもそもこの戦いは俺が必ずコイツを倒さないといけない戦いではない。

婆さんの魔方陣が劣等悪魔を中心として展開される。


「ガァァ!? ガァァァァァァ!!」


大声を上げて苦しみ出す劣等悪魔。

その体が徐々に徐々に、端から消えていく。


そして最後は一つの石を残し、消え去った。






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[一言] 悪魔つえぇ
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