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悪足掻き



「こっちだ、婆さん」


今は、婆さんに教会への案内をしている。

婆さんの足取りは速くは無いが、遅くもないしっかりとした物だ。

前に腰を痛めたとか言ってたが、治ったようだな。


お、そろそろ着くな。


「ここだ」

「ふむ、ここは……」


少し妙な反応をする婆さん。

なんだ? 知ってる場所なのか?


「どうしたんだ?」

「ここは街が広がる過程で取り残された教会さ。随分前に移転がされた筈だが……元の教会はまだ残っていたようだね」


やっぱり教会だったか。

婆さんも知っていたらしい。


「さ、行くとするかね」

「ああ」


教会の扉を押し開き、中に入る。

ライの姿は無い。奥の部屋だろう。


そう思案していたその時だった。

『気配感知』に反応があり、ゾワリと悪寒が走る。


この感覚には覚えがある。

フェレスと初めて接触した時だ。

そしてそれは隣の婆さんも感じたようだ。


「急いだ方が良いようだね!」


そう言って、

とても老婆とは思えない動きで駆け出す婆さん。

その表情には焦りが見える。


まさかフェレスの言っていた下級悪魔が……!

俺も婆さんに続き、メイがいる奥の部屋に向かう。


扉を少し乱暴に押し開き、中に入る婆さん。

俺もその後に続く。


そこで目にした物は……痣が一斉に蠢きだし、体を痙攣させているメイの姿だった。


「メイッ! メイッ! しっかりしろ!」


悲痛なライの叫び声。

だが、ライにはそれをどうすることも出来ない。


その明らかに異様な姿に婆さんは目を見開く。


「ここまで進行してるとはね……!」


そう呟いた婆さんは直ぐさまメイに駆け寄る。


「ハクッ! その子の体を押さえな!」

「…! 分かった!」


婆さんの鋭い指示に呆けていた体を動かす。

体の痙攣により、ベッドに体を打ち付けているメイ。

このままでは怪我をしてしまう。


「に、兄ちゃん……! メイが! メイがっ!!」


泣きじゃくりながら、俺に助けを求めるライ。

だが、今状況を説明する時間はないだろう。


「ライ! 落ち着け、メイを助けられる人を連れてきた! だから今はメイを助ける為に最善を尽くせ!」


ライに叫びながら、体を押さえる。

くっ! 

無意識のせいなのか、メイは恐ろしい強さで体を暴れさせている。

こんな華奢な体の何処からこんな力が……!

全力で押さえても、逆に怪我をさせてしまうかも知れないし、加減が難しい。


「わ、分かった! 兄ちゃん、メイを押さえるんだな!」

「ああ! 力がかなり強い! 気をつけろ!」


ライもメイの体を押さえにかかる。

その時、婆さんが小さな小瓶を持って動いた。


メイの体に小瓶の中身を振り掛け、

素早く詠唱……か? 

言葉が速すぎて聞き取れない。


そして婆さんが腕を振るう。

するとメイの体の上に魔方陣が現れる。


魔方陣が現れると、メイの動きが弱まり、痣の動きも収まる。


「所詮は時間稼ぎさ! 気を抜くんじゃないよ!」


婆さんの鋭い声、その言葉の通りメイの体がまた激しく動き出す。

さっきよりは力が弱い。


「婆さん! まだ手はあるのか?!」

「無かったらここに来てないよ!」


今度は複数の小瓶を手に取り、周囲に振りまく。

またも何か詠唱を始める。

やっぱり聞き取れない程の速さだ。


メイの体の上に積み重なるように浮かぶ魔方陣。


「『解呪(ディスペル)』『浄化の陣』」


婆さんが二つ唱えると、メイの体に存在した痣が急激に消えていく。

それに比例して、体も落ち着いて顔色も良くなっている。


婆さんの方を見ると、大きく息をついている。

どうやら処置は終わったようだ。


「ふぅ、全く。老人に無理をさせるんじゃないよ」

「何だったんだ?」

「劣等悪魔の最後の悪あがきだろうね。呪いが解呪されそうだから抵抗したんだろう。おかげで使うつもりの無かった魔法と魔方陣まで使わされたよ」


悪あがきね。っていうか、魔法と魔方陣って違うのか?

ま、それは今はいい。


「メイは!メイは治ったのか!?」


ライの言葉。そうだ、今はそれが一番重要だ。

婆さんの方をチラリと見る。


「後はこれを飲ませれば回復するよ。本来ならこの薬だけを処方するつもりだったんだがねぇ」

「急遽治す事になった、と」

「そうさ、体に負荷もあるからなるべくしたくは無かったんだが……」

「仕方なく、か」


婆さんは頷く。


「あとは無理せずこの子が起きるまで待って、薬を飲ませれば大丈夫だね。今の状態でも命の危険は無いよ」

「よ、良かったぁ……」

「おっと」


疲れからか、安心からか、ライが気を失う。

慌てて体を支え、メイの隣に寝かせる。

恐らく、長い間気を張っていたんだろう。いつ妹の病状が悪くなるか、気が気でなかった筈だ。

唯一の家族だしな。


「ありがとう、婆さん。助かった」


今回は婆さんの力が無かったらどうしようも無かった。

本当に助かった。


婆さんにお礼を言うと、俺は違和感に気付く。

婆さんは未だに気を抜いていない。


「さて、ハク。お前さんにはまだ仕事があるよ」

「まだ……あるのか? もう呪いは解いたんじゃ?」

「ああ。()()()ね。まだ元凶が残ってるだろう?」

「劣等悪魔か……?」


婆さんは頷く。


「この手の呪いは劣等悪魔どもが遊び半分で掛ける事が多い、迷惑な話だがね。だが今回はレアケースだ」

「レアケース?」

「呪いを掛けた劣等悪魔そのものがこの子の中に居る」

「……嘘だろ?」

「残念ながら事実さ。今は結界で封じてるが、急造品の結界だからじきに出てくるだろう。アンタはそれの相手をしな」


確かに治療が終わったと言うのに残っている魔方陣があるので妙だと思っていた。それは悪魔が出て来ないようにする結界だったんだな。だが、


俺が相手をする?

劣等種とはいえ、悪魔を?


「何、最初から最後までやれって言ってるんじゃない。この子達を守る結界を新たに張る。その間に引きつけてくれるだけでいい」

「簡単に言ってくれるな……」

「ふん、これ位こなしてみせな。助けるんだろう?」


そこまで言われたらやるしかないな。

これで出来なかったら、笑われるじゃすまない。

それに……ベッドに眠る双子を見る。


この双子はとても優しい。

兄は妹の事を常に心配し、自ら働き薬代を稼ぎ続けていた。恐らく自分の食べ物すらまともにとっていないだろう。ほぼ全ての金を妹の薬代につぎ込んだんだろう。


そして妹はそんな兄に心配を掛けないように、精一杯元気な姿を見せようとしていた。


互いに互いを気遣っていた。

それは一時しか見ていない俺にも伝わった。


それはとても素晴らしい事だと思った。


正直に言えば、この双子を気に入ったのだ。

頑張る理由なんてそれで十分だろう。


「もちろん。全力でやってやるさ」

「その意気さ」


ここからは俺がメインで動かないといけない。

絶対に失敗は出来ないだろう。



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