双子
今、俺の目の前には小さな子供がいる。
一応、構えを継続してはいるが……どうしよ。
完全に予想外だった。
「うぅ~……痛い…」
痛がりすぎじゃない?
いや、上から落ちてきたんだから当然か。
チラリと上を見るが、足場として使えそうなのは結構高い位置にある。
あそこから飛び下りたのか?
なら不味くないか? 子供の体ってそんなに丈夫じゃないだろ。
「お、おい。大丈夫か?」
思わず普通に声をかけてしまった。
涙目の子供がずっと目の前に座り込んでたらそりゃ心配するでしょ。
これを無視する事は俺には無理だった。
「う、うるさい! こんなの痛くない!」
…………涙目で言われても説得力ないぞ。
『見極めの眼』で見えていた敵意も弱々しくなっていく。
痛みのせいか?
……なんか警戒してるのがばかばかしくなってきた。
はぁ、仕方ない。
『無常の構え』を解き、無防備な状態で普通に歩いて子供に近付く。
「ち、近付くな!」
子供は手にしたボロボロのナイフを振り回すがそんなやたらめったらに振っているナイフなど怖くは無い。
易々と手を掴み、ヒョイッとナイフを取り上げる。
これで無力化完了。
「な!」
「ほら、じっとしてろ」
「嫌だ!」
「だから暴れんな」
子供は抵抗するが、所詮は子供の力。
いとも容易く子供の体をひっくり返す。
そして、着ているズボンを少し捲って尻を見る。
「や、やめろぉ!」
「あーあー、結構赤くなってるぞ。下手したら折れてるかもな」
「え!!」
そりゃ、あの高さから落ちたらな。
ショックを受けている子供を余所にストレージから回復ポーションを取り出す。
買いたての回復ポーションだ。
それを子供のお尻に半分ほどかける。
「ひゃっ」
一応ポーションの温度は低い。その冷たさに小さく悲鳴を上げる子供。
だが、ポーションは若干の光を発しながら直ぐに消えていった。赤くなっていた箇所はどんどんと赤みが引いていく。
「ほら、痛いか?」
「あ、あれ? 痛くない……?」
「そうか。なら後の半分は飲め」
ポーションの瓶を子供に手渡す。
飲ませても効果はあるので全部飲ませた方が良いだろう。
にしても、ポーションはよく効くな。一瞬で腫れかけていた子供のお尻が治ったぞ。
これはポーションの性能がいいのか、婆さんのポーションが出来がいいのか。どっち何だろう。
あの婆さんなら普通より高い効果を持つポーションでも作れそうだ。
雰囲気的に。
「…………」
「飲まないのか? 害は無いぞ」
なかなかポーションを飲もうとしない。
まぁ、この子からすれば怪しい人から与えられた怪しい飲み物だからな。
警戒して当然か。
「な、なぁ! これ、もっとないのか?」
「ん? ポーションか? あるにはあるが……」
「じゃあそのポーション?ってやつを譲ってくれ!」
突然の要求に驚く。
まさかまだ傷が痛むのか?
「あるにはあるが……何に使うつもりだ? まだ痛いのか?」
「いや、もう痛くない。だけどこれがあればメイが……」
「メイ?」
何やら事情がありそうだ。いきなり襲いかかってきた理由もそれに関係してるかも知れないしな。
「ここには俺の妹がいるんだ。だけど、病気で……だから治したいんだ!」
まごつきながらも説明してくれる。
病気の妹、ね。
「病気か……詳しい症状は?」
「えっと……体に痣が出て来て、息が苦しそうだった。それと、熱が高くてたまに痣が動いてた」
……困った。完全に俺の知ってる病気じゃなかった。
風邪とかいうレベルじゃ無かった。痣が動く? それもう呪いだよね?
これは、素人じゃどうしようもない。
これを何とか出来そうなのは、婆さんくらいか?
「なっなぁ! だからさっきのポーションを譲ってくれ!」
どんどんと迫ってくる少年。
それを軽く手で抑えながら、答える。
「落ち着け。あのポーションは怪我を治すための物だ。だからお前の妹の病気が治せるような物じゃあない」
「そ、そんな……」
肩を落とす少年。だが、まだ話は終わりじゃない。
「まぁ待て、病気を治す薬を売っているかも知れない所には心当たりはある。そこに話を通してやってもいい」
「ほ、本当か?」
「だが、条件がある」
タダでやる訳にはいかない。
「幾つかの質問に答えたらその店を紹介してやる」
「分かった! なんでも答える!」
うん。素直だな。さっきまでナイフ持って奇襲仕掛けてきた事など想像出来ない程に。
「ここにはお前が住んでるのか?」
「うん。俺と妹のメイが住んでる。他にはいないよ」
「そうか。なら、いつから住んでるんだ?」
「えっと……一年前だと思う」
ここら辺の記憶は曖昧のようだな。顔で分かる。
「前は路地に住んでたんだけど、メイが倒れて何処か休める場所を探したらここに着いたんだ。それからここに住んでる」
ふむ。じゃあ結構前からこの教会(仮)は持ち主がいないのか。
好都合だな。この街でも休める場所が欲しかったのだ。
この街じゃ俺はつまはじき者。大通りにはまず行かないにしても、いつ誰に入れ墨を見られるか分からないのは正直不安だ。
後で俺も住んでもいいか聞いてみるか。別に聞かなくても勝手に住めばいいと思うが一応な。先に住んでたのはこの少年とメイという妹だし。
ま、それは今はいい。
今はこの少年に恩を売ることを考えよう。そしたらスムーズに住めるかもしれないし。
「よし。質問は終わりだ」
「なら!」
「まぁまて」
直ぐさま俺を連れて出発しようもする少年を軽く抑え、しゃがみ込み視線を合わせる。
「まず、謝る事。いくら俺に怪我が無くてもいきなり襲いかかっておいて謝罪も無しか? 妹を守りたかったとしても、相手を襲うのはやりすぎだ。逆に敵を増やすぞ?」
まぁ、この少年に気づかなかった俺も間抜けなんだけどな。修練が足りない。
おっと、話がずれたな。
「うっ……ごめんなさい」
「良い子だ。謝るのは早い方がいいからな」
こういう教えは大事だからな。
因みに、俺は子供が嫌いじゃない。むしろ好きな方だろう。
よく「弟か妹が欲しい」と親にねだった物だし、幼稚園訪問とかは楽しみにしていた。
一応言っておくが、そういう嗜好じゃないぞ? 至って健全に子供が好きなのだ。
だからこの少年に反撃するのを躊躇ったというのもある。
それが正解だったけどけどな。
この少年の体、結構痩せ細っている。俺が本気で殴ったら確実に骨が折れていただろう。良かった、反撃しなくて。
「あ、そのポーションは飲んでおけよ」
「う、うん」
まだ飲んでなかったので飲むように促しておく。
コクコクとしっかり飲んでいるのを見ていると、ある事を聞いていなかった事を思い出す。
「そうだ。名前は?」
「あ、言ってなかった。俺はライだよ」
「そうか、ならライ。妹に会わせてくれ。実際に俺がみた方が正確に症状を把握できるしな」
「わ、分かった。こっちだよ!」
ライは教会の奥にトタトタと走る。
その先には扉が見えるので、そこに居るのだろう。
さっき伝えられた症状から考えても、普通じゃない。
だから気を引き締めてライの後に続いた。




