買い取りと、教会
「こりゃあ……珍しい物を持ってきたね…」
ラドから別れて数時間後。
俺は最初の街に戻ってきていた。そして今はサリ婆さんの店で買い取りをしてもらっている。
「珍しいのか?」
「勿論。この『猛進イノシシ』は『猪突イノシシ』の変異種だ。強さも猪突イノシシとは一線を画す。よく仕留めたね」
「強力な仲間が居たからな」
実際、ラドが居なかったら倒せなかっただろう。
ラドの奥の手ほどの威力の攻撃手段を、俺は持っていない。
『外法の契約』は例外、あれは滅多に使えないからな。
「その仲間には感謝するんだよ。買い取り金額は牙が35,000G。毛皮が15,000G、しめて50,000Gだ。毛皮の方は品質があまり良くないからね。少し安くなってしまうよ。逆に牙の方はほぼ傷が無いから色をつけさせてもらった」
一息に値段とその理由を教えてくれる婆さん。
毛皮はラドが滅多刺しにしたからな。納得だ。
やっぱり倒し方って素材の品質に関わるんだな。
俺としては買い取ってくれるだけでもありがたいので、即売却だ。
「それで頼む」
「あいよ」
既に準備していたようで直ぐにお金が入った袋が出てくる。
中にはきっちり50,000G入っていた。
うん。問題ないな。
結構お金が貯まったな。何か買うか。
「ポーションとか、買いたいんだが」
「あいよ。魔力ポーション、気力ポーション、回復ポーションあるがどれにする?」
「そうだな……気力ポーションと回復ポーションを五つずつ頼む」
魔力ポーションは俺には関係ないからな。
気力ポーションと体力ポーションがあれば問題無いだろう。
「気力ポーションが一本500G、回復ポーションが一本400G。全部で4,500Gだ」
今受け取った袋から4,500Gを出し、婆さんに差し出す。
そして代わりに緑色の液体が入った瓶と黄色の液体が入った瓶が差し出される。
「緑が気力ポーション、黄色が回復ポーションだ。回復ポーションは怪我した所にぶっかけるか、飲ませるかして使いな。最初だから瓶は付けといてやるよ」
「ああ。ありがとう」
回復ポーションの説明を聞きながら受け取る。
気力ポーションは飲むのが一番効率が良いらしい。
そして瓶のおまけは今回だけだ、割らないように注意しないとな。
「じゃあ、俺はこれで」
「ちょっと待ちな」
店を出ようとした時、呼び止められる。
振り返ると、婆さんは古ぼけた分厚い本を取り出していた。
「頼みがあるんだよ。簡単な依頼さ」
「依頼?」
「ああ。依頼内容はこの本の印がある薬草を採ってくる事。報酬は、薬草によって変わるから、その本に書いてあるのを見るといい。そして特に期間は設けないから気が向いた時にでいい。頼めるかい?」
「…………分かった」
少し考えて了承する。
期間を設けないらしいし、この本に薬草の特徴も書いてるそうだ。
何時でもいいから持ってきてくれ、という依頼なので俺に損が無い。
受けておいた方が良いだろう。婆さんには世話になってるし。
「じゃあ頼むよ」
「ああ」
〈クエスト『サリ婆の頼み』を受注しました〉
クエストの表示も出たし、俺は店を出た。
次は……アリスの店にでも行くか。
●●●
「閉まってるとは……」
アリスの店を尋ねた時、思わずこぼれる言葉。
言葉のまま、アリスの表雑貨屋が閉まっていた。
まぁ、今まで結構店を留守にしてる時を見てるし、そこまで不思議は無いか。
ログアウトポイントについても聞いておきたかったが、別に急ぎでもない。
んー……何処に行こう?
何も考えて無かった。大通りに出るのは避けたいし、このままあの森に帰るのもな……
結構行き帰りが面倒くさいから、ここで何もしないのはもったいない気がする。
……一度ここら辺の地形を確認しておくか。それで何か気になる物を探そう。
路地の壁を蹴って軽やかに上る。
『闘滅流』の修練で力もついたので前にやった時よりも楽に壁を上れる。
屋根の上に上るのは久しぶりだ。
勇者との決闘の時以来か。あの時は周囲を見る余裕何て無かったからな。
こうしてゆっくり見回してみると結構見晴らしがいい。
「ん? あれは……」
だからこそ気付いたのだが、少し遠くに一段高い建物が見える。
その建物はかなり大きい。この遠目で見ても分かるほどだ。
それだけ大きいのに、方角的に考えても街の大通りからはかなり外れているだろう。
「行ってみるか……」
あれ以外に気になる物が無い。
そうと決まれば後は行くだけだ。
俺は屋根から屋根へ飛び移りながら、視界に捉えたあの建物へ向かった。
●●●
「これは……教会か?」
その建物に着くとその姿がはっきりと見える。
大きな色付きのステンドグラスに掲げられている十字架。
十字架ってこのゲーム内でも宗教のシンボルなのか?
さて、どうしよ?
入るか? だけど言っちゃなんだが、この教会。かなりボロい。
大きなステンドグラス以外のガラスは割られているし、その割れたガラスの先に少し見える中の様子も綺麗とは言えない。
建物の外見も黒ずんでいるというか、まぁ汚い。
とても人が出入りする教会とは思えない風貌なのだ。
もはや教会というより、肝試しスポットと言った方がしっくりくる。
廃病院的な雰囲気だ。
「まぁ……とりあえず入るか」
せっかくここまできたんだからな。
ちょっと中を覗いて、何も無かったら帰ろう。
錆びだらけのドアノッカーを掴み、ドアを叩く。
確かドアノッカーとはこうやって使う筈だ。
始めてドアノッカーを見たので思わず使ってしまった。
こんな場所に誰か居るはずがないのに。
案の定、返事も返ってこない。
「お邪魔します」
声を上げながら、ドアを押し開く。
ギィという軋むような音を立てつつ開いたドア。
中を覗いても、誰もいない。
「やっぱり人はいないか……」
そう呟きながら、教会の中に入る。
その時だった。
「やぁあああ!」
上からの声。
不意の出来事だが、直ぐさま対応する。
まずは今いる場所から離れ、俺がさっきまで居た場所に体を向ける。上から聞こえたという事は落下してる筈だ。
落下後を狙う!
拳を引きながらいつでも攻撃できるように準備する。
「な……!」
だが、その拳を振るう事が出来なかった。
「あいてっ!」
着地に失敗したのか、その声の主は勢いよく尻もちをつく。
「子供…?」
そう。上から襲撃をかけてきたのは、小さな子供だった。




