血の剣
イノシシが光となって消えていく。そして残る素材。
〈エリアボスが討伐されました〉
〈一定期間、このエリアをログアウトポイントとして使えます〉
パーティーにアナウンスがされる。
やっぱりエリアボスだったんだな。
「おっし! やったな、ハク!」
「おう!」
ラドとハイタッチをする。
吹っ飛ばされた時はどうなるかと思ったが何とかなった。
「なぁ、ラド。あの攻撃は何なんだ?」
あのラドの攻撃にはかなり驚いた。
血を操るとは……吸血鬼らしいと言えばらしいが。
あんな技があるという事も聞いていない。
当初の予定では、あの後は交代しながらイノシシを弱らせる筈だったんだが……
「ああ、あれは俺の奥の手だな。ある程度周囲に血があると発動出来る技なんだ。それ以外の発動条件も厳しくて滅多に使えないから忘れてたわ! すまん!」
謝るラド。聞くと、ゲームにログインした最初に自動的に覚えたスキルらしい。
条件というのも見せて貰った。こんな感じだ。
『血の剣』
・対象から一定以上の血液が漏れ出ている事
・半月以上の月が見える夜である事
この二つらしい。
一見楽そうに見えるが、対象以外の血が混ざってはいけない上に、月が少しでも隠れてたら駄目らしい。
つまり敵が複数だったり、曇ってたら使えない。確かに厳しいな。だけど忘れるのはどうなんだ?
だが俺も『見極めの眼』発動し忘れた事があるので強く言えない。
「いやまぁ、勝てたから良いけどな。次からは事前に言っておいてくれ。驚くだろうが」
「ああ。悪かったって」
口調は軽いが割と反省してそうなので、これについてはこれ以上は余り言わない事にする。
「で、何だ? このアナウンス」
エリアボスを討伐は分かる。ラドからエリアボスかもという話も聞いてたし、今更驚かない。
けど、ログアウトポイント?
「多分、この場所でログアウト出来るようになったんじゃないか?」
「……そうだとしたらかなり便利だな」
そう言っていると、目の前にウインドウが現れる。
〈ログアウトポイントは街と同じく、ログアウトをしてもアバターが残りません〉
説明のメッセージのようだ。
便利だな。というか、街以外でログアウトすると体が残るのか。気をつけよう。
「なるほどな。ここが休憩所になるわけか」
「ああ、街に入れない俺にとってはありがたい」
「ん? ハク。お前も街に入れないのか?」
お前も?
「ああ、俺は街に入れなかったんだ」
「結界に阻まれて、か?」
ラドの質問に頷く俺。これは……
「ラド。お前も入れないのか?」
「そうなんだよ。多分吸血鬼だからだと思う」
まさかあの時街の兵士が言ってたのはラドだったのか。
街じゃなく洞窟に居た時点で気づけたかも知れない。
ラドだって昼間の行動が制限されるだけで、全く動けない訳じゃないからだ。
日陰を慎重に行くか、フードをしっかり被れば動けない事も無いだろう。だって最初に会った時はまだ日が出てたし。
「ハクはどうして入れないんだ?」
「俺は悪魔と契約しちゃったからな。樹神の結界とやらに引っかかった」
「あー……何でまた悪魔と?」
「仕方なく、だな。そうしなきゃ死んでたし」
割と重い雑談はそのくらいにして。
「とりあえず、月光石採るか?」
「あ、そうだった」
おい、忘れるなよ。
ラドは小さなツルハシを取り出し、広場の中心の岩に近づく。
俺も気になるのでついていく。
「お、あったあった」
岩が少し光っている部分を見つけたラドは、そこにツルハシを突き立てる。
カンッカンッと何度か音が響くと、コロリと白色の鉱石が転がる。
直ぐさまラドはそれを拾い、じっと検分する。
「よし! 間違いなく月光石だ」
「良かったな」
「ああ! これで短時間なら日中も行動できる!」
聞くと、月光石には月の力を蓄える効果があるらしく、月の光を暫く浴びた月光石は持っているだけで吸血鬼の行動を助けると。
まぁ、それでもほんの少しの間だけらしいけどな。そう簡単に弱点克服とはならないのだ。
「俺は月光石を手に入れたし、イノシシの素材は持ってってもいいぜ!」
「良いのか?」
「月光石があれば俺は満足だしな!」
なら遠慮無く。
イノシシの素材を拾い上げる。
すると、素材の名前が表示される。
『猛進イノシシの牙』
『猛進イノシシの毛皮』
猛進イノシシね……そのままだな。
というか風巨狼もそうだが、ボスクラスならスキルを使わなくてもすぐに素材の名前が分かるのか。ボスクラスは普通のモンスターのように名前が表示されない事や、素材になって初めて名前が判明する事といい、
いろいろと特別なんだな。だが……
「使い道が無いな……」
「そうなのか? 素材とか武器に、とか」
「俺は武器は要らないしなぁ。むしろ今武器をつけると感覚が狂いそうだ」
今まで素手でやってきたからな。それに素手でも俺には『金剛闘気』があるし、今の所攻撃力に問題は無い。
闘滅流の『型』の修練もこれから更に積むつもりだし。
これは売るか。俺が持ってても仕方ない。
レオの工房に持っていく事も考えたが、そんなに欲しい装備も無い。
さらに言うと、あの変態行動は見てると疲れるんだよな。
「じゃあ俺は一度最初の街に戻るぞ」
「俺はもうちょっとここに居るからな。月光石の効果も確かめたいし」
「パーティーはどうする?」
「そうだな……一度別れるか。フレンドだし、何時でも連絡はとれるだろ」
パーティー解散するぞー、というラドの声に頷き、〈パーティーが解散しました〉というウィンドウが表示された。
「じゃ、またな。今度機会があったら頼む」
「おう! 勿論だ!」
こうしてラドと別れたのだった。
そういえば、ここは何時までログアウトポイントとして使えるのだろうか?
その説明がなかったな、帰ったらアリスに聞いてみようか。
そんな事を考えながら俺は街に戻った。




