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エリアボス



「そもそも、あのイノシシは何なんだ?」


イノシシの対策を話し合っているとき。こんな疑問が浮かぶ。


「あー……俺は何度かアイツに挑んでんだけどな、それで分かった事はアイツは普通のモンスターじゃない。明らかに強さが違う」


神妙な顔でラドが答える。

やっぱりな。ワイバーンよりも強そうな感じだったし。

飛竜よりも強そうな猪ってどうなの?


「多分エリアボスだと思う。あ、エリアボスってのはその場所を根城にする特別なモンスターのことな。普通のモンスターよりも強いし、特殊な能力を持ってる事がある厄介な存在だ」

「エリアボス……」


特殊なモンスターというと、防衛戦の時の風巨狼を思い出す。

かなり強かったもんなぁ……

俺がとどめを刺したわけじゃないけど。

傷を負わせるだけでも『外法の契約』が無かったら無理だったろうし。


「アイツの場合なら特殊な能力は恐らく持っていないけど、その代わり膂力が半端ない。洒落にならないレベルだ」

「ふむ」


この調子でどんどんイノシシについて聞いていく。

情報は大事だからな。


●●●



ラドから聞いたイノシシの行動はこんな感じだ。


基本的な攻撃手段はイノシシらしく突進。勢いの乗った突撃はまともに受けると体の骨が粉砕されるという。

因みに実体験らしい。ラド、粉砕されたのか……


後は突撃以外の攻撃手段の説明だ。

前に大きく突き出た牙を振り回す攻撃だったり、後ろ足で直接蹴ってきたりといった物にも注意が必要、と。



そしてイノシシの弱点はやはり喉や腹で、イノシシの死角となるのは背後だ。

喉や腹といった弱点を突くのは四足歩行動物の構造上難しいので、死角からの攻撃が主になる。

だけど相手もそれを分かっているのか、なかなか背後がとれないらしい。


「だけど、今回はハクが居るからな! どっちかが背後をとれるだろ」

「ああ、上手く立ち回ればな」


それがパーティーの良いところだな。

数の力というのは便利だ。


「じゃあその立ち回りを話し合うか。ハクは前衛と後衛はどっちが……ってそりゃ前衛だよな」

「ああ、そうだな」


ラドは俺の拳を見て言う。

俺は残念ながら近接しか出来ない。


「ラドは後衛か?」

「ああ。といっても俺も基本は奇襲とかになるけどな」


聞くとラドは今までイノシシには奇襲で挑んでいるらしいし。

たとえ全部負けてるとしても、その経験は頼りになる。


「ハクが引きつけている間に俺が背後から奇襲をかける作戦で大丈夫か?」

「それぐらいしか出来なさそうだし、大丈夫だ」


二人しか居ないからな。罠を張るにもその広場にはイノシシがいるし。


「後はラドが自由に動ける夜まで待つだけか」

「ああ。夜になったら行動開始だけど、それまでは自由に動いて良いぞ」

「じゃあお言葉に甘えて」


簡単な作戦会議が終わった後、俺は洞窟を出て直ぐの場所で闘滅流の修練を始めた。


『無常の構え』から始まり、『型』を出す。

夜までに少しだけでも『蹴の型』や『撃の型 貫』を自然に出せるようにしたい。

『撃の型 貫』の方は派生だからまだ使えるが、『蹴の型』は使うと結構体が乱れる。

時間はないけど、やっておいて損はないだろう。


因みに、

ラドは光に当たらないよう遠目から俺の動きを興味深そうに見ていた。


たまに体を蝙蝠に変化させて遊んでたけど。



そんなこんなで日が暮れた。

これでラドが自由に動ける時間だ。

洞窟から出てくる。


「俺の時間が始まったぞ!」


テンションが上がったラドが叫ぶ。

薄暗い中のラドの目は赤く輝き、その持ち上がった口角からは鋭い牙が覗く。


吸血鬼らしい姿だ。

敵ならば恐ろしい姿だが、味方ならば頼もしい。


「行くか」

「おう!」


相変わらずテンションの高いラドからの返事。


『大罪人の息子』と『先祖返りの吸血鬼』の共闘が始まった。


●●●


「五分後に仕掛ける」

「了解」


少しだけ会話をし、ラドと別れる。後の行動は打ち合わせ済みだ。

イノシシを視界に捉える、寝てるな。


体の中で五分を大まかに数える。

それと同時に、心を整えていく。


あのイノシシは間違いなく格上。

いくら仲間(ラド)がいるとはいえ、油断しているとやられる。

気の緩みは許されない。


「……よし」


そろそろ五分だ。

行動を始める。

わざと音を立て、イノシシの方へ向かう。


イノシシが目を覚ます。

立ち上がり、俺にその牙を向ける。


「フシュー……」


完全に俺を敵として認識しているな。

今の所、近くに隠れているラドに気付いては無さそうだ。


「来いよ」


イノシシを更に俺に引きつけるべく、片手を挙げ挑発する。


「ブモオオォ!」


その挑発の応じるようにイノシシは突進を始める。

それと同時に俺もイノシシに向かって飛び出す。


ラドから聞いた情報だと、このイノシシの突進は非常に危険。

だが、それは勢いのついた状態だからだ。

だから余り勢いが乗っていなければ対応できると判断したのだ。


全身に『闘気』を纏う。


「ふっ!!」


よし!

イノシシの牙を掴めた。

後はコイツの動きを止めるだけ……


「ぐっぎぎ……!」


だが、そんなに甘くは無かった。

大して助走が無かったにも関わらず完全に勢いを止める事は出来ず、更に押されている。


『闘気』を更に増やし、全力で押す。

それでも地面を抉りながら俺の体が押されていく。


「フシュー、フシュー」


イノシシの荒い呼吸音。

このまま力勝負をしていると間違いなく俺が負けるが、これは個人戦ではない。


「ラド!」

「おう!」


掛け声と共に木の上から飛び出すラド。

ラドはその勢いを止める事なく体を回転させ、その鋭く長い爪をイノシシの背中に突き立てる。


「ブモオォ!!」


血飛沫とイノシシの悲鳴。

ラドは着地した後、イノシシの背後に陣取る。


それを把握したイノシシはラドの方を向こうとするが……


「離さないぞ?」


『闘気』を全力で込め、イノシシの牙を押さえつける。

ここからは消費度外視の力勝負。

『闘気』の温存を考えず、全てを使うつもりで力を込める。そうじゃなきゃ、対抗出来ない。

この間に……


「おらぁ!」

「ブ、モオオォ!」


ラドが追撃を放つ。

確実に負うダメージに、イノシシは更に力を強める。


ラドの攻撃でダメージを負い続けるイノシシに、どんどんと『闘気』を消耗する俺。


長いようで短い時間が過ぎていく。

どちらが先に力尽きるかの勝負。

負けたのは…………


「ブモオオォ!!」

「ぐあっ……」


俺だった。

牙を持ち上げる力に負け、俺の体が吹っ飛ばされる。

慌てて受け身をとり、立ち上がる。


くそっ!

『闘気』が足りない。これ以上イノシシを押さえる事は難しいだろう。


「十分だぜ! ハク!」


ラドの声。

立ち位置が変わった事により気付く。

かなりの血が周囲に散っている事に。

何か手があるのか? そんな事は聞いていないが……


「『血よ! 我が呼び声に応えよ!』」


その声に応じるように周囲の血が蠢きだす。

そして、血は地面から完全に浮かび上がる。


「ブ、ブモ……」


その異様な光景にイノシシも怯んだように後ずさる。


「『血の剣(ブラッドシュヴェルト)』!」


ラドの言葉でその浮かんだ血が剣の形を作り始める


「ブモオオォ!」


脅威を感じたのかイノシシが突進をするべく、助走を始めるが、もう遅い。


「行け!」


その号令と共に剣がイノシシに発射され、

次の瞬間、イノシシには真紅の剣が全身に突き刺さっていた。





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