『悪魔契約者』
変異種のホーンラビットを警戒しながら歩く事約五分。
次第に下り坂になっていき、街が見え始めた
そして、その街の奥には最初に入った森よりも背が高い森林が見える。
森の手前に街があるのだ。
その街というのも、ツリーハウスのような様式が多い。
街を囲んでいるのは柵だな。
あれで大丈夫なのか?
前の防衛戦みたいな事が起きたら防ぎ切れない気がするが……
何らかの対策はしてるだろうか?
まぁ、近づけば分かるかな。取り敢えず向かうか。
●●●
「これは……なんだ?」
街に近づいていくと、街を覆う薄い光の膜が見える。
そしてそれは街を囲う柵に沿って発生している。
これ、何だ?
見た目から受ける印象は聖なる結界、という感じだ。
取り敢えず入るか。人が出入り出来るようになっている柵の隙間を通ろうとした、その時だった。
「っ!!」
バチィ! という音がしてはじかれた。
何が起こった?
体が僅かに痺れている。
何が何だか分からず、呆然としていると。
「結界に反応あり! 全員、直ちに南入り口に向かえー!」
カンカンと直ぐさま鐘の音がなる。
まずい!
街を覆う光には波紋が広がっている。
その大元に俺がいるので居場所がモロに分かる。
流石に分かるぞ、これに捕まるとロクな事にならない、と。
とるべき行動は一つ。
逃げろ!
足に『闘気』を纏わせ、その場を離れる。
何処に逃げる? 山か? いや、山には視界を遮る物がほぼない。
逃げ切る事を最優先に考えるなら……森林だ。
森は反対にあるから街を大きく迂回しながら、森林に逃げ込むしか無い。
急げ、どんどん人が集まってきているのが見える。
街から離れつつ、森に向かう。
「樹神様の結界に反応があったぞ!」
「またか! 今度は取り逃がす訳にはいかないぞ!」
柵の方から聞こえる声。
よし、気付いていないようだ。
全速力で走っている上に、気休め程度に『忍び足』も発動している。常時発動の『逃げ足』の効果もある筈だし。
「? あれは何だ?」
「動きが速いな。しかも街からどんどん離れている! 奴が結界に反応した奴の可能性が高い! 伝令を!」
「はい!」
あ、多分気付かれた。
声は聞こえにくいが恐らく見つかっただろう。
だがもう遅い。
森林はもうすぐそこだ。
本当は、もっとゆっくりと入りたかったんだが、仕方ない。
俺は森林の中に飛び込んだ。
●●●
「ふぅ、ここまで来れば大丈夫か……」
ある程度森林を進み、木に上った後。
やっと一息ついた。
全く何だったんだ……
あの結界、樹神様の結界とか言ってたな。
神様の結界にはじかれたって……俺なんかした?
ん? 神?
『悪魔契約者』
悪魔との契約という禁忌を冒した者に贈られる称号。
効果
神からの祝福が受けられなくなる。
特殊スキル『外法の契約』の獲得
これかぁっ!
この、神から祝福が受けられなくなる、って所に引っかかったのか。
おいおい……
嘘だろ、街に入れないとは……
改めて確認した事実に愕然とする。
最初の街では、何度か騒動があったが街に入れない事は無かった。
だが、この街では称号スキルの『悪魔契約者』のせいでそれも出来なくなった。
拠点が完全に無くなった。
休む為に、いちいち最初の街に戻らないといけない。
それは、非常に面倒くさい。
効率も悪いし……
「はぁ……」
枝の上でため息。
とことん俺は厄介な事になる。
…………ずっと悩んでいても仕方ない。
行動するか。
何、こんな逆境、似たような事が結構あったじゃないか。前向きに行動しよう。
体力に余裕を持って戦えば、最初の街に戻れるくらいの余裕は持てるだろうし。
効率は悪いが仕方ない。
俺は周囲を確認し、枝から降りる。
森林に入った方向が分かるように、少し指で木の幹に傷を入れておく。
ちゃんとした道から入った訳ではないのし、遠くに見える城壁なんかもない。
迷わないように気をつけないと。
「さて、取り敢えずモンスターを狩るか」
何匹かモンスターを倒したら、最初の街に戻ろう。
そこでサリ婆さんに素材を買い取って貰おう。
モンスターが近くに居ないので、先に進む。定期的に印を付けながら。
『気配感知』の熟練度上げ……になるかは分からないが、意識しながら周囲を探りながら進んでいく。
そうやって歩いていると、不意にあることを思い出した。
それは結界から逃げていた時に聞こえた言葉。
『またか! 今度は取り逃がす訳にはいかないぞ!』
また……か。
他にもいたのか? 最近、あの結界に反応した奴が。
まぁ、モンスターが反応した、なども考えられるから、一概には言えないが。
……考えても仕方ない事だな。
周囲の警戒に集中するか。




