やり過ごし
「あ、あの!」
少年達に気づかず、更に反省点が見つかり、しょげていると。少年達の一人が、また話かけてきた。
「えっと、今のワイバーン、あなたが倒したんですか?」
「………ああ、そうだが?」
ずっと落ち込んでいても仕方ないので、質問に答える。
そしてさり気なくフードを確認。よし、外れてないな。
「武器は何か聞いてもいいですか?」
「武器……? ああ、俺の場合は武器はない。素手だな」
その言葉に驚いた顔をする少年達。
因みに少年達と言っているが、少女もいるぞ。
「素手でワイバーンを倒せるんだ……」
「だけど、本当かどうか分からないぜ?」
「そうよ。この人なんか怪しいし……早く離れた方が良いんじゃない?」
「だけど……」
なんか、議論が始まっている。
俺、何で待ってるんだろう?
「もういいか? 街に戻りたいんだが……」
「あ、ちょっと待って下さい!」
疲れたんだが……
とりあえず、素材を回収するか。
ワイバーンの爪とワイバーンの皮膚、ワイバーンの眼球二つセット。
これが今回ワイバーンから出た素材だ。
サリ婆さんに買い取って貰おう。
「私達ですら苦戦してるワイバーンを一人で、しかも素手で倒せる訳がないじゃない! あの怪しい男が嘘を言っているに決まっているのよ!」
ん? なんか不穏な事言ってないか?
ここから絡まれるとか、勘弁してほしいが……
「ねえ! あなた! 本当の事を言いなさい!」
「お、おい! 辞めろって……」
声を荒げる少女と、それを諌める周りの子供達。
嫌な予感的中だ。
それにしても本当の事って……
ワイバーンをこれからもう一匹とか無理だしな。
証明のしようが……
「そもそも、俺が嘘を言うメリットがないが?」
「黙りなさい!」
あれ? なんかこの感じ、覚えがある。
確か……勇者と決闘した時、こんな感じの少女がいたような……
よく見ると、見覚えがある……
まさか、あの時の身なりのいい少女か?
名前は確か……
「ローズ……?」
「! な、何故私の名前を知っているのです!」
どうやら、向こうは俺の事を覚えていないようだ。
まぁ、あの時から俺の装備はかなり変わってるしな。気付いていないのはその辺が理由だろう。
「答えなさい!」
「……あの勇者様が決闘した場所にいたんだ。勇者様と仲が良さそうだったから覚えていた」
作戦名 私は一部始終を見ていた他人ですよ~ だ。
ここで、俺があの時の男だと気付かれたら更に面倒な事になる。
やり過ごす事が大事。
「そう……そうなのです! 私は勇者様に追いつく為に、ワイバーンを倒さなければいけないのです」
お、おう……
誤魔化す事が出来たようだが、なんか言ってる。
もしかしてこの少女、ローズは勇者に追いつく為にワイバーンを倒したいらしい。
ふーん、頑張れ。としか言えない。
「じゃあ、俺はこれで」
「待ちなさい! まだあなたが嘘を言っている事について終わっていませんよ!」
ちっ、覚えてたか。
だから俺に嘘をいうメリットが無いんだって。
「ローズさん、それくらいにしましょう? この人を問い詰めても、ワイバーンが倒せる訳では無いですし……」
冷静な周りの少年達が宥める。良いぞ、その調子だ。
「ですが!」
「勇者様がこの場を見たらどう思いますかね? ワイバーンが倒せないからって八つ当たりをするローズさん、幻滅されませんか?」
「う……はい……すいません。少し感情的でした」
幻滅されませんか? の所で一気に大人しくなったな。
少年達、有能。
「わざわざ引き留めてすいませんでした」
「ああ、もういいよな?」
「はい」
ローズではなく、少年達と会話をし、俺は足早にその場を去った。
やっと解放された。
それにしても、何か俺に聞きたかったんじゃ無かったのか?
ローズが騒ぎ出したから、中断したとかそんな感じかな。
なんにせよ、解放されてよかった。
●●●
山を降り、森を抜け、街に戻ってきた。
そして向かう場所はサリ婆さんの店。
「婆さーん、いるか?」
店内に入り声をかける。
「はいはい、居るよ」
すると奥から婆さんが出てきた。久しぶりに感じるな。
防衛戦前からだから実際そうか。
「えらく久しぶりだね。いろいろあったようだが、大丈夫なのかい?」
「……やっぱり知ってるか。まぁ、問題は無いから大丈夫だ」
あの防衛戦の時の出来事を知っていた。
婆さんなら知っててもおかしくはない。
こう、雰囲気的に。
「なら良いがね。で、今日は何の買い取りだい?」
「北の森と山に行ってきた。そこのモンスターの素材だ」
俺はストレージから今日手に入れた素材を取り出す。
ホーンラビットの角から、ワイバーンの素材まで全部出す。あと、試練の時の素材も出す。爪と棘だ。
「ほお、ワイバーンの素材かい。よく仕留めたね。流石はあの爺に教えを受けただけはある」
「あの爺って……老師の事か?」
「ああ、そうさ。あいつとは顔見知りでね」
そんな事実を話しながらでも、婆さんは素材の検分を進める。
「ふむ、この眼球はなかなか品質が良い。良い錬金素材になるだろう」
ワイバーンの眼球は高評価のようだ。
品質というのは、素材に対応した生産系のスキルを持っている人しか分からないのだ。だから俺には分からない。
婆さんの場合は、『鑑定』とかの汎用的なスキルを持っているのだろう。『鑑定』って確か人気なスキルで取得している人達がかなり多いし。
「うん、全体で45000Gでどうだい? 内訳は聞くかい?」
「……いや、細かいのはいい。高いのはどれだった?」
「ワイバーンの眼球だね。二つ揃ってる上に品質もいい、次点でワイバーンの皮かね。防具なんかに使い易いから需要があるのさ」
へぇ、眼球って高いんだな。
ってことは試練の時のワイバーンはちょっともったいなかったか……眼球片方潰してしまったからな。
必ずしも素材として眼球が出るわけではないけども、気持ち的に。
まぁ、それはさておき
「それで頼む」
「あいよ、代金だ」
すぐさま代金が支払われる。
久しぶりの収入だ。嬉しい。
素材も売れたし、
次は何処へ行こうかな?
やっぱり山は越えたいし、さっきのワイバーンを綺麗に倒したい。調子に乗らず、堅実に勝ちたいのだ。
うん、やっぱりワイバーンを倒しに行こう。
だけど、明日だな。今日はもういい時間だし寝よう。
俺はサリ婆さんにお礼を行って店を出た後、ログアウトした。




