簡単な戦闘
日間ランキング一位になったので記念に
「さて、何処へ行こうか……」
最近殆ど気にしなかったコートのフードを深くかぶり、呟く。
う~ん……
取り敢えず、北へ行こうかな。
北の山の上にはワイバーンが居ることが分かってるし、スキルが戻った今、変化が分かりやすいと思うし。
正直、そろそろ森を越えたい。
せっかくのVR世界なんだし、草原と森以外の景色も見たい。
森を越える事は鍛錬にもなるだろうし。
……うん。決まりだな。
北に行ってワイバーンをもう一回倒す。これをひとまずの目標にして動くか。
あ、その前に寄る所があるな。
●●●
「そっかぁ、無事に老師に認められたんだね」
「ああ、大変だったけど楽しかったぞ。教えてくれてありがとう」
「いいよ~それぐらい! 私も師範代だし」
照れたように、アリスは言う。
そう、寄る所というのはアリスの雑貨屋だ。
良いところを紹介してくれたお礼をしないといけないからな。
この紹介がなかったら、俺は二週間でここまで強くなれなかった。
「これから何処へ行くの?」
「ワイバーンの居る山に行こうと思ってる」
「ワイバーンかぁ……素手じゃ厳しいんじゃない?」
「いや、倒せたぞ? スキル無しで」
「えっ!?」
驚いているが、アリスだって試練を突破してるんだろ?
「いやいや、私はゴブリンの群れを掃討するっていう試練だったよ。短剣一本だけ持たされてさ。ワイバーンなんて……もしかして素手?」
「勿論」
俺は拳を作りながら答える。
アリスはゴブリンの掃討か……きつそうだな。
スキルを使わない『気力操作』は難しいからな。
あ、もしかしなくてもアリスは『金剛闘気』を使えるよな。
師範代なんだし。機会があったら教えてもらおうかな?
「素手でワイバーン殺しって……やっぱりハクさん武闘派すぎない?」
「そうか? ゴブリンの群れを単独掃討、もかなりだと思うが……」
「…………」
「…………」
双方黙ってしまった。
この話題は辞めよう。どちらも戦闘狂ではない、これで落ち着けよう。
「どちらも、常識人でいいか……?」
「……そうだね」
こうして円滑に会話を区切れたのだった。
●●●
あの後、アリスと別れてから俺は予定通り北の山へ向かっている。
今は草原を歩いている所だ。
モンスターと戦うのはワイバーン以来だし、ちょっとウォーミングアップするか。
適当なホーンラビットを見つけた。戦うか。
ホーンラビットの前に出る。
そして、いつも通りホーンラビットの突撃が来るが、遅い。
老師の攻撃に見慣れたせいか、突撃が酷く遅く感じる。
余裕で倒せる。
突撃の最中のホーンラビットを殴る。そして角を残して光と消える。
「これくらいじゃ話にならないな……」
角を拾い上げ、森に向かう。
まぁ、話にならない、と言っても老師レベルのモンスターがいても困るけど。
●●●
次はゴブリンだ。
森に入り、ゴブリンを探す。
北に向かう途中にいれば良いんだけど……
あ、居た。本当に直ぐ見つかった。
数は三匹。ちょうど良いかな。
わざと音を出しながら、ゴブリンの前に姿を現す。
こうすればゴブリンも気づいてくれるだろう。奇襲もいいが、それでは腕試しにならない。
「ギャギャ!!」
ゴブリンも気づいたようなので、戦闘を始めるか。
今回は数も多いので、しっかりと『構え』をとる。
「ギャッギャ!!」
ゴブリン一匹のサビたナイフ突撃。
丁寧に『流の型』で受け流し、乱れた体勢のゴブリンに『撃の型』で攻撃。
「グギャッ……」
綺麗に決まる。
老師相手じゃ絶対に決まらない流れだな。
「あれ? 一撃で終わったか……」
ゴブリン一匹はあの一撃で倒せた。
後は二匹。簡単に一匹が倒されてちょっと怯んでいるので、こっちから動くか。
『構え』を維持しながら踏みこみ。
ゴブリンは俺の攻撃範囲内。
『撃の型 連』を打ち込む。
ゴブリンはそのまま光に変わる。
残り一匹。
だが、もうすぐ逃げそうだな。
腰が引けている。あ、逃げた。
「逃がすか」
『気力操作』改め『金剛闘気』を使ってみる。
脚が強化されるのが分かる。
踏みこむと、思ったより飛んだ。
ゴブリンとの距離は一気に狭まる。
そして、悠々と攻撃範囲へ。
折角なので攻撃にも『金剛闘気』を使ってみるか。
闘気を腕に集めて振るう。
「ギャ……」
ゴブリンは最後まで鳴き声を上げる事なく、散った。
そう、体が散ったのだ。
有り体に言うと木っ端微塵になった。
怖っ!
攻撃を叩き込んだ場所を中心に爆発した感じだ。
『闘気』のエネルギーがそうさせたのか?
いずれにせよ、ゴブリンにはオーバーパワーだ。
それこそ、ワイバーンにでも使うか。
そう考えながら、俺はゴブリンの素材を集め、遠くに見える山を目指した。




