試合とスキル進化
お待たせしました。
老師と向かい会う。
今回は試合を見てくれる人がいないので、ある程度離れた状態から試合は始まる。
「……行きます」
こんな事を言わなくても老師は対応するだろうが、一応礼儀として声をかけた後に駆け出す。
大分スムーズに『構え』を維持したまま動けるようになった物だ。
老師は動かないまま。様子を見るつもりなのだろう。
なら、どんどん攻めるか。
「ふっ!」
『撃の型 連』で攻める。
だが、やはり老師は『流の型』でその攻撃を受け流す。
俺も『流の型』に体を持っていかれないように注意しながら攻める。
少しでもしくじれば、『流の型』で受け流された後に手痛い反撃をくらってしまう。
一瞬たりとも気が抜けない。
俺も技術を学び、スキルが使えるようになった為、少しは良い勝負が出来るかと思ったんだが…………
その見込みは甘過ぎたようだ。
俺の攻撃は全て受け流される。スキルが戻り、かなり速くなった俺のスピードでも、適わない。
「なかなかの速さだ」
老師から賞賛の言葉を贈られる。素直に嬉しいが、攻撃を簡単に捌かれている今言われてもな……
このままでは負けてしまう。……仕掛けるか。
「はっ!」
丹田から練り上げる感覚で、気力を操る。
集める箇所は両腕と両脚。
気力によって強化された脚力で、最高速で踏み込みを行い、拳を繰り出す。
老師の対応は……受け止めた!
老師は俺の拳をがっちりと掴んでいる。よし!
俺は老師の拳を支えに跳び上がり、蹴りを放つ。
老師がしっかりと攻撃を受け止めてくれるかどうかが賭けだったが、気力によって更に上がった俺の攻撃速度を見れば老師なら受け止めると予想したのだ。老師は俺の事を常に試しているからな、威力を見るためにわざと受け止めると思っていた。
老師の首へ渾身の蹴り。気力も十分に込めている。
当たれば老師と言えど、無傷ではいかない筈。
ドゴンッ!という音。
脚には確かな手応え。
だが……
「良い機転だ」
俺の脚は老師の腕に受け止められていた。老師の腕にも気力が纏っているように見える。
そして、重要なのは俺が今、拳と脚を両方掴まれた非常に不安定な状態という事だ。
背筋が凍るほどの危機感。
咄嗟に気力を放出し、全身に纏わせる。
全力で防御に力を注ぐ。
老師が動く。
それと同時に全身に衝撃と痛みが走る。
吹き飛びながら、絶句する。
嘘だろ……全く動きが見えなかった……
老師が動き始めた、その事が見えたと同時に攻撃がきた。
恐ろしい速さだ。
痛みに耐えながら、空中で体制を整えて着地。
『痛覚耐性』のスキルが発動しているので、受け身がとれたが、スキルが回復する前なら何も出来ずに気絶していただろう。
…………これは、無理だな。
痛みを全身に感じる。こんな状態で、老師に勝てる訳が無い。
俺は両手を上げて、降参のポーズをとる。
「降参です。負けました」
その声を聞いた老師は構えを解き、試合は終わった。
●●●
「かなり良い動きであった」
「どうも……」
痛ってぇ……
今回は勝つまではいかなくとも、何とか一撃は加えたかった。悔しい。
「蹴りの後の気力の防御。あれほどの操作が可能なら、其方には新たな技術を教えても良いだろう」
「っ! ありがとうございます」
新しい技術! 疲れも吹っ飛ぶ言葉だ。
気力関係って言うと、アリスが使ってたような気力操作を教えてもらえるのか?
「この技術は少し特殊だ。だが、其方なら儂の補助があれば直ぐに使えるようになるだろう」
「はい、頑張ります!」
そう意気込んだが、老師に指示されたのは楽な体制で座る事だった。
楽な体制、となると胡座かな?
座った俺の後ろに老師が立つ。
「気力を放出し、それを押し固めるイメージだ」
「はい……」
言われた通りに気力を放出し、圧縮するよう意識する。
結構難しい。ある一定までいくと元に戻ってしまう。
ぐっ……また戻った……
苦戦していると、老師が俺の背中に手を当てる。
これが補助かな?
そう思っていると
老師の手から何かが流れ込んでくる感覚がする。
これは……老師の気力か?
こうして近くでゆっくりと感じると分かるが、明らかに俺の気力と比べてパワーが違う。練度が違うというか、重みが違うというか、そんな感じだ。
その老師の気力が俺の気力を補助するように、動く。
これなら……いける。
圧縮、圧縮、圧縮。
ただひたすらそれを意識する。
暫くそうしていると、何かがはまったような感覚がする。
「ふむ、成功したようだな」
老師の言葉を聞くと同時に……
《スキルが進化します。条件を達成しました。スキル『気力操作』が、特殊スキル『金剛闘気』に進化しました》
スキルが進化した?
まさか……
「それが闘滅流の独自の技術、『金剛闘気』である。肉体の強度を高め、身体能力を伸ばす。これで其方の戦闘力は更に高まるだろう」
凄いな……
スキルが『金剛闘気』に進化したお陰で、今までとは段違いの気力……いや闘気を感じる。
こんなにも違うのか……
ただの気力と闘気では。
「それは、スキルに頼っている者には、例え補助があっても習得する事が出来ない技術。誇るといい、其方の成長を」
「ありがとうございます……!」
老師が認めてくれた。
闘滅流の技は全てシステムによる補助が無い。直にプレイヤーの技術が必要になる。
その上で認められた。本当に嬉しい。
「これからは実戦で技を磨くのだ。そこまでの技術を会得すれば、後は其方の修練次第で新たな技も習得できよう」
「はい!」
「その上で強さに限界を感じたならば、その時は修練を付けよう」
老師の優しさには感謝しかない。
スキルが使えない間にここまで強くなれたのは、間違いなく老師のお陰だ。
これからは実戦で技を磨く。老師の指導から離れ、自ら成長する為に。
道場を出る。だけど、その前に。
「ありがとうございました!」
老師の方に向き直り、深々と礼をする。
老師は少し頷き、背を向ける。
行け、という事だろう。
俺はこの二週間を過ごした道場を出た。
絶対に技を磨き、また来よう。
その決意を固めて。
ステータス
プレイヤー名 ハク
状態 正常
SP 50/50
スキル
闘滅流格闘術 忍び足 逃げ足 スリ 脅迫 気配感知 身体能力上昇 痛覚耐性 見極めの眼
称号スキル
大罪人の息子 罪人の証 生まれながらの罪人 悪魔契約者 闘滅流門下生
特殊スキル
金剛闘気 外法の契約




