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試練

ちょっと長くなってしまいました。


「ここだ」


老師についていって、たどり着いたのは道場の奥の部屋。

その部屋には、石碑があった。


「これは、転移石。登録した場所に使用者を連れていく特殊な石だ」


転移石とは……

これでワイバーンの居る場所に行くのか。


「では、準備は良いか?」

「はい」


準備も無いので直ぐに返事をする。


「これから転移するのはワイバーンの出没するここから北の山だ。転移してから試練は始まる。油断はするでないぞ」


頷く。

緊張が俺の体に走っていく。

はたしてスキルの使えない俺が勝てるのだろうか……


いや、そんな考えは捨てよう。

この一週間、修練を積んできた。

一週間で何が変わると言われるかも知れないが、今まで喧嘩のように戦ってきた俺が技を覚えたのだ。


老師もある程度俺が成長したのを見越して、今回の試練を課したのだろう。


やるしか無い。

勝つしか無い。


そんな心持ちで望むとしよう。


「……覚悟は出来たようだな。では、行くぞ」

「はい!」


俺と老師の体が輝いて、道場から消えた。



●●●



「ここは……」


俺と老師が今居る場所は、一面真っ白の山の頂上、だと思う。疑問系なのは標高が高いのか、白い霧がかかり視界が悪いからだ。

ここにワイバーンが居るのか?


「ここは街から見て北に位置する山の頂上だ。標高が高いため、寒くワイバーンが好む場所なのだ」

「なるほど、確かに少し寒いですね」


俺はレオに作って貰ったコートがあるから、本当に少し寒いだけだ。

なんで、老師は道着一枚なのに寒くないんだろう。

謎だ。


「来るぞ」


老師の声。

何があっても反応できるよう、即座に『無常の構え』をとる。

そして、周囲の警戒。

視界は悪いので聞こえる音で周りを警戒する。


ワイバーンと言えば翼が大きく、尻尾が長い翼竜。

大体、ワイバーンはそういう見た目だと思う。


なら、こちらに接近するまで翼の音が聞こえる筈。

その音に反応してやる。


精神を落ち着させ、集中する。


老師は来ると言った。

だが、いつ何処から来るかは分からない。

最低限、来るという事だけを教えてくれたのだろう。

正直それだけでもありがたい。


身構える事が出来るからな。


「――!」


今、確かに聞こえた。

バサッという音。

もう直ぐ来る。


何処だ。

何処から来る。

視界は悪い。だが、来るなら翼の動き等で霧にも動きがあるはず。


何処だ……

翼の音はどんどん大きくなる。

確実に近づいている。

まだ霧に動きは無い。


翼の音も、山彦のように音が響いているのか、分かり辛い。


目にも耳にも反応が無い。

だんだん俺にも焦りが出てくる。


駄目だ。焦っては……

そう思ってはいても、敵を発見できていないという事実が俺の心を乱す。


翼の音は大きくなっている。

何処だ……

まだ、ワイバーンの影すら見えていない。


音だけが聞こえる。

翼の音だけが。


俺の焦りが頂点に達した頃、その新たな音は聞こえた。


「ギシャャャ!!」


音の方向は、()


俺が上を見た時、俺の視界に映ったのは、

霧を押しのけながら迫る、ワイバーンの口だった。





side 老師


ワイバーンは空を駆る竜

いくら亜竜の分類に入るとはいえ、その強さは揺るがない。


特にワイバーンは周りに霧が発生している時、山の反響を利用し、自らの場所を攪乱する。

霧の視界の悪さと相まって、その討伐難度は跳ね上がる。


今まさに、儂の弟子がワイバーンの奇襲を受けた。

直前にワイバーンの奇襲に気付いたようだが、反応出来たのか……


気配を感じる限り、死んではいない。

だが、この状況でワイバーンを討伐するのは難しい。


だからこそ、試練たり得る。


儂が手を出す事は許されない。

試練を乗り越えるのをこの目で見届ける。

其れが、儂の役目だ。




sideハク


「ハァー、ハァー」


何とか回避が間に合った。

ワイバーンの奇襲に気付いた時、咄嗟に体を動かし回避したのだ。


この一週間、無駄の無い動きを『無常の構え』の修練で磨いてきた。

その成果が出て来たのか、迅速に回避を行えた。


それでもギリギリだったが……


「ギシャャャ!」


ワイバーンは奇襲を回避し生き残った俺に対し威嚇を行う。

そのワイバーンは大方イメージ通りの見た目をしている。

足は翼に対して細く、走る為の物では無いのは確かだ。


後は……長い尻尾に棘がついているな。

遠心力の乗った状態であの棘は危険だな。

気をつけ無ければ……


「ギシャャッ」


ワイバーンが翼をはためかせる。

まさか、飛ぶ気か!


また、飛ばれると厄介だ。

早急に阻止しなければ。


ワイバーンに向かって走る。

一番に損傷させる場所は翼。


だが、当然向こうもそれを警戒しているようだ。

長い尻尾を横薙ぎに振るう。


リーチが長いな……

迂闊に近づけ無い。


一度バックステップで躱す。

幸い、止まった状態からは直ぐには飛び立てないようだが、時間が余りないのは確かだ。


いや、待て。

今までの修練を思い出せ。


全ての基礎となる『無常の構え』

相手の攻撃を受け流す『流の型』

そして、まだアーツとしては習得していないが、拳での攻撃を行う『撃の型』


これらの技を使うんだ。

一度、乱れていた構えを取り直す。


修練のままに、動け。


ワイバーンに向かって駆ける。

今度は『構え』を維持したまま、という修練によって無駄を減らし、可能にした動きで。


ワイバーンの尻尾が先ほどと同じように、迫る。

落ち着け……こんな物、老師の攻撃に比べたら、何て事は無い。


ワイバーンの尻尾を『流の型』で受け流す。

尻尾に付いている棘は、確かに厄介だが、びっしりと棘が付いている訳ではない。


恐らく、普段はヤマアラシのように棘を寝かせているのだろう。

その構造上、尻尾の穂先に向かって撫でてやれば棘は倒れる。


もし、魔法的な要素で棘を強化していたらどうしようもなかったが、『構え』によって僅かに強化された感覚と、間近で魔法をぶっ放された経験からそれは無いと判断していた。


魔法を使う時は独特の嫌な感覚がする。

これは、防衛戦の後から感じ始めた物だ。あの時の経験がそう感じさせているのかもしれない。


「ふっ!」


尻尾の棘を無理矢理倒し、攻撃を受け流す。

『流の型』成功。

『構え』はまだ維持されている。


そしてワイバーンの尻尾は振りきってしまった為、直ぐには戻ってこない。

間合いも詰めているしな。


次、更に間合いを詰め、翼を支える腕を狙う。


「ギシャャャャャ!」


尻尾が当たらないなら、今度は牙で。

と、言うように噛みつきで攻撃してくる。


これは『流の型』では受け流せない。

噛みつきという攻撃方法は上下からの攻撃だ。


まだ俺の技術ではそれを受け流せない。


サイドステップで躱す。

真横ギリギリでワイバーンの口が閉じる。

危ない。


だが、噛みつく動きは尻尾よりも遅い。

頭の重さもあり、尻尾ほど速く動かないのだろう。


俺は、翼……では無く足を狙う。

このままでは、翼を動かされてまともに狙えない。


だから最初に足を崩し、翼を狙い易くする。

少しでも体制が崩れれば御の字だ。


「ギシャャャ!」


ワイバーンは踏みつけを行ってくる。

一応爪が付いているので当たると怪我をするが、尻尾や噛みつきよりも遅いし、弱い。


気をつけていれば、問題ない。

踏みつけに注意しながら、足に攻撃を始める。

威力は低いだろうが、行動の阻害には十分。


「ギシャャャ!」


鬱陶しそうに、ワイバーンは暴れる。

踏みつけの回数が増えたが、その分雑になってきた。


そしてチクチクと攻撃していた結果、ある箇所を見つけた。

ワイバーンの足は飛ぶ事に特化した為か、細い。

だから、関節を正確に狙ってやれば……


「ふっ!」

「ギシャャャ!!」


拳を関節に叩き込む。

ドシンという音と共に、立っていたワイバーンが崩れ落ちる。


所謂、膝カックンだ。

ワイバーンはいきなり転ばされてジタバタと暴れている。


急がないと……さっきまでは立ち回りで尻尾を防いでいたが、今、ワイバーンはうつ伏せに倒れている状態。


つまり尻尾がかなり自由に動く。

だが、視界は下に向いているため、正確に尻尾で攻撃される事は無いだろう。

今の所は。


急いで翼を何とかしないと……


ワイバーンの翼は鳥のような物では無く、コウモリのような翼だ。

だから、翼を支える腕を狙う。


本来なら、剣等を使って翼膜を斬るのだろうが、生憎俺は素手だ。

そんな貫通力はないし、切断力もない。


だから、必然的に翼を支える腕を折りに行く。

俺は暴れるワイバーンの翼に近づき……


「はぁっ!」


全力で拳を突きこむ。

だが、それだけで翼は折れる筈もない。


連続で打撃を叩き込む。

ワイバーンは未だ暴れ続けているので、俺もその動きに合わせ、攻撃を続ける。


勿論、『構え』は維持したまま。

やはり、ワイバーンは硬い。人間のように簡単に折れないか……


だが、一カ所に集中して攻撃を加えているためダメージはゼロでは無い筈だ。


その時、尻尾を俺に向かって振り回してきた。

俺は下がって回避する。


やっぱり、これだけじゃ無理か……

なら、あのやり方で行くか。


「ギシャャャ!」


更に追撃して来る尻尾を受け流し、俺はワイバーンの顔に向かって駆ける。

実行するのは、風巨狼にも通用した攻撃。


「ギシャャ!」


噛みつきを行ってくるが、倒れている状態からか、攻撃範囲は狭くなっている。

躱すのは容易だ。


そして、噛みつきを躱したという事は、近くにワイバーンの顔があるという事。


俺は跳んで、ワイバーンの眼球に迫る。

そう、狙いは眼球。


風巨狼の時とは違い、外法の契約による強化は無いがダメージは十分に入る筈。


血飛沫が舞う。


「ギシャャャ!?」


驚きと痛みに更に暴れるワイバーン。

俺はその暴れるワイバーンの頭に乗り、ワイバーンが上に頭を動かす勢いに乗り、跳び上がる。


着地点は、先ほどまで俺が攻撃していた翼。

かなり高いが、地面には少ないとはいえ雪もあるし、俺の予想では翼がクッションになってくれる筈だ。


落下の勢いを利用し、重い一撃を加えてやる。


バキィ!

と、響く音。

そして、ワイバーンの悲鳴。

今まで与えていたダメージもあって、無事に翼を支える腕を折れたようだ。


これで、ワイバーンは空に逃げる事は出来なくなった。


後は、攻撃を受けないように注意しながらコイツを仕留めるだけだ。


「ふっ、ハハハ!」


自分がここまでワイバーンに健闘出来るとはな。

楽しくなってきた。


『狂化』の状態異常がかかっている訳でも無いのにな。

案外、素の性格がこうなのかもしれない。

自分の性格って自分じゃ分かり難いしな。


「ギシャャャ!」


ワイバーンが怒り狂う。

眼球を潰された怒りか、自慢の翼を折られた痛みか。


「ああ、悪かったな」


集中しないとな。

相手に失礼だ。


「さぁ、やるか!」


ワイバーンの驚異は未だ変わらない。

尻尾も健在だし。噛みつきも依然として危険だ。


気は抜けない。

だが、翼を折った。


少しは楽しんでも良いだろう。

自分の成長を感じられる。

これ程嬉しい事はない。


俺は自らの成長を感じながら、喜々としてワイバーンに向かった。










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