闘滅流 修練
「はぁ…はぁ…」
「ふむ、一度休憩とする」
きっつい……
老師は手加減しているのだろうが、余りにも速い。
幸い目で追える速度なのだが、受け流すとなると話は別だ。
老師の腕に手を当て、勢いを逸らす。
口で言うと簡単だが、やるとなると、なかなかに難しい。
後半になってくると目が慣れてきて、何とか受け流せそうだったが、まだぎこちない。
「そろそろ良いだろう。修練を再開する」
「もう……ですか…?」
まだ、息が整っていない。
「そうだ。感覚を掴み始めている内に物にした方が良いだろう」
「……はい」
確かに、もう少しでコツを掴めそうだった。
……頑張るか。
「よろしくお願いします!」
「うむ」
老師が構えをとる。
俺も覚えたての構えをとる。
老師の構えとは比べものにならないがな。
老師は構えの体勢から鋭く踏み込み、右拳を繰り出す。
相変わらず速いが、その攻撃の流れはさっきも見た。
老師の腕を俺の右掌が捉える。
そのまま、老師の攻撃の勢いを左に逃がす。
よしっ! 始めてまともに受け流せたぞ。
「油断をするでない」
勢いを流した筈なのだが、老師の体勢は微塵もぶれていない。
だから、直ぐに攻撃が飛んでくる。
「ぐっ…」
また、対応出来なくなってくる。
なるべく受け流そうとしているが、成功率は二割程度だ。
それでも、一度成功したお蔭でだんだん慣れてきた。
老師の動きを注視して、ある程度の予測をし、タイミングを合わせて攻撃を流す。
非常に集中力が必要だ。
老師の攻撃は止まらない。それどころか、もっと速くなっている気すらする。
受け流しも防御も出来なければ、クリーンヒットしてしまう。
頑張るしかない。
数十分後……
「攻撃を捌く修練は一先ずここまで」
その言葉と共に倒れ込む。
体は受け流し損ねた拳が当たって痛いし、疲労も溜まっている。もう、動けない。
《アーツ『闘滅流 無常の構え』を習得しました》
《アーツ『闘滅流 流の型』を習得しました》
アーツを習得出来た。
あの構えは『無常の構え』。あの受け流しの修練は『流の型』というアーツのようだ。
目の前に説明文が現れる。
『闘滅流 無常の構え』
闘滅流の基本となる構え。
このアーツ中に発動する他の闘滅流の型を強化する効果がある。副次的な効果のとして僅かに感覚を鋭くさせる効果がある。
使い手の熟練度によって効果が上昇する。
『闘滅流 流の型』
相手の攻撃を受け流す型。
使い手の熟練度によって効果が上昇する。
初めてのアーツだ。
ふむ。どうやら、このアーツは使い手の技術に依存する技のようだ。
アーツには二種類あり、一つは自動で体が動く自動。
もう一つはプレイヤーの手動だ。
オートのメリットはミスが少ない事、デメリットは応用が利きにくい事だ。
マニュアルはその逆だ。
応用は利くが、プレイヤーの技術次第でミスも多発する。
一長一短だな。
「アーツを習得できたようだな。だが、それはあくまでも最低限の技術を身につけただけ。慢心を起こすのでは無いぞ」
「分かっています」
流石に老師にコテンパンにやられた後に調子に乗れるほど能天気ではない。
「では、次は攻撃の為の修練を始める。これは大きい移動も必要とする。習得の難度も上がる為、心せよ」
「はい」
疲労も少しは回復したので、立ち上がる。
次の修練は攻撃か。楽しみではある。
攻撃的なアーツを俺は一つも覚えていないしな。
にしても大きい移動か……
構えを維持しながら移動するのは難しいぞ。
さっきの修練でもなるべく構えを維持しようとしたが、よく崩れてしまっていたし。
「『無常の構え』は変幻自在。腕や重心の動き、足さばきによってどんな状況にも対応できる」
そう老師は語る。
俺はまだ、アーツとして『無常の構え』を覚えただけでその真価を発揮できていない、と言うのだ。
全ての基本の構えだからなぁ……
簡単に覚えられる訳ではないということか。
「では、先ほどと同じように手本を見せる」
「はい。お願いします」
老師は構えをとり、拳を振るう。
老師の拳が放たれる。
重心が安定していて、体のぶれが無い。
拳を振るう。
たったこれだけで、老師の強さが伺えるというものだ。
俺……あれに殴られたのか……
よく気絶で済んだな。老師の手加減に感謝だ。
話を戻すが、老師の見本はそれだけでは終わらなかった。
拳を戻すと同時に更に反対の拳を振るう。
まるで演舞のように、様々な形で攻撃。
そこで気づいたのだが、ある程度教えられた事以外の動きをしても、『無常の構え』は解けないのだろう。
老師が攻撃の見本を見せる中で、少し構えを変えていたりするのを見た。
随分と応用が利くようだ。
老師は見本が終わったのか、構えを解きこちらをみる。
「今見たように、『無常の構え』を使い熟せると移動しながらでも技を繰り出せるようになる。最初は足さばきからだ。『無常の構え』を解かずに移動できるようになれば先ほどの動きが可能になる」
まずは無常の構えの足さばきを覚えろ、との事。
最終的にあの連続した動きが出来るようになれば良いらしい。
「この動きを習得すると、『流の型』の技術も格段に上がる。それは生存率に大きく影響するのだ」
「分かりました……ん?」
だったら先にこれの修練をすれば良いのでは?
頭にふっと浮かんだこの考え。どうする? 聞くべきか?
「最初に『流の型』の修練をしたのは其方を試していた。あの程度の修練に折れるようでは、我が闘滅流は習得出来ない故な」
「……なるほど」
言い方的にあれでも楽な方の修練なのだろうか……
うん、考えないようにしよう。




