闘滅流 入門
コートをしっかりとした装備に変えたお陰か、俺に集まる視線も大分マシになった。
ボロボロの外套よりも、こっちのコートの方が普通だしな。
フードを深く被っていても視界に影響がないのも良い。
「お、あれか?」
アリスに貰った見取り図の通りに進んでいると、それらしき建物が見えてきた。
立派な道場だ。
だが、人の気配が無いと言うか……寂れている気がする。
道場って、もっとこう……活気あるイメージだったんだけど……
留守なのか?
まぁ、いいか。
留守なら出直せばいい。
道場の門を開く。
「すいませーん……」
「何者だ」
声を上げると、直ぐに返事が返ってくる。
見ると、道場の真ん中に道着を着た老人が正座していた。
あの人が老師か?
「えっと、武術を学びに……」
「そうか、ならば上がるといい」
「はい」
指示に従い、靴を脱いで道場に上がる。
この人からは武人の覇気のような物を感じる。従っておいた方が良いだろう。
老人の前に正座する。
「我が闘滅流に入門するのか?」
老人が問う。
「…はい」
流派の名前は知らなかったので、名前のインパクトに驚いたが、了承する。スキルを使えない間になるべく鍛えたい。
《闘滅流に入門しました》
メッセージが表示される。
入門したようだ。
「良いだろう。儂の事は、老師でも師匠でも好きに呼ぶといい」
では、アリスと同じように老師と呼ばせて貰おう。
「武術の経験は?」
「ありません」
「そうか」
老師は少しだけ思案する。
「ならば、今から試合をする。お前の力を見させて貰おう」
「……はい」
些か急すぎる気がする。
今の俺はスキルの補正は無いし、経験もモンスター相手だけだ。
でも、やらないといけないよなぁ
「では、行くぞ」
老師が構えをとる。
俺にはその構えが隙があるかどうかも分からない。ずぶの素人だからな。
作戦や技術なんかは無い。だから学びに来てるんだし。
なので俺はこれまで通り、真正面から向かう事にする。
「ふっ!」
老師の顔面目掛けて拳を振るう。
スキルによる身体能力の補正はないが、それなりに速い筈だ。今まで素手で戦ってきたんだし。
「……なるほど」
何かを理解したように、そう呟いた老師は俺を向かい打つべく動く。
まず、拳打。恐ろしく速い。俺の顔面に拳が当たる。
「がっ」
上半身が後ろに仰け反る。
更に攻撃は続き、鳩尾に老師の拳がめり込む。
「っ…!」
声も出ない。『痛覚耐性』のスキルも無いので、非常に痛い。
このままでは何も出来ないと、体勢を整える為に下がろうとする。
だが、それを許してはくれない
老師が鋭く踏み込み、俺に連撃を叩き込む。
余りに速く、反応も出来ない。何発殴られたかも分からない。
老師は最後に俺の胸部に回し蹴りを繰り出し、俺を吹き飛ばす。
俺は床に倒れ込んだまま、全く動けなかった。
全身が痛い。『痛覚耐性』が働いていないから、尚更。
「こんな物か……次に目が覚めた時、修練を開始する」
「……は……い……」
あ、これは気絶する。
そう自覚するほどに意識が遠くなる。
最近、よく気絶するなぁ……
そう思いながら、気絶した。
●●●
目が覚める。
俺は未だに床に転がっていた。
「起きたか。では修練を開始する」
その言葉に急ぎ立ち上がる。
道場の小窓から確認するに、時間はそこまで経っている訳では無さそうだ。
「まずは基本の構えだ。半身になり腰を落とし、重心を安定させるのが基本だ」
老師が見本にやってくれているので、それを参考にしながらなるべく真似をする。
「もっと腰を落とす、そう。次は腕だが、これは状況によって常に変わる。故に最初は基本の型のみを教える」
この体勢割ときつい。
こんな地味な所も鍛えないとな。
「足が下げている方の腕を胸の前に。反対の腕を軽く前に」
えっと……
考えながら、俺は右足を下げているので、右腕を胸の前。
反対の左腕を少し前に。
こうか……?
「腕を下げすぎだ。また腰が上がって来てるぞ」
細かい所を指示され、直す。
暫くそうやって構えを直していると、
「ふむ」
満足したように頷く老師。
「その構えを忘れないように」
「はい」
ずっと同じ体勢って割と難しい。
でも、ただ立ってるだけよりも、倒れづらくなっている気はする。
「では、お主に必要な修練を開始する。お主に今から教えるのは相手の攻撃を捌く技術だ」
確かに、さっき老師に殴られた時は何も出来ずにボコボコにされた。
これを教われば少しはマシになるかも知れない。
「まずは、見本を見せる。儂に攻撃を仕掛けるのだ」
「…はい!」
全力で殴りに行く。
すると、老師は俺の腕に手の甲を当て俺の拳の軌道を横に逃がす。
勢いを横にずらされた俺は体が前に傾く。
その俺の体に老師の拳が迫り、止まる。
「基本的に攻撃を捌く為には、受け流すという行為が必要になる。攻撃を見切り、攻撃の勢いを流すのだ。それを更に利用すればこのように反撃に移れる」
冷や汗が出る。
恐かった……さっきの試合の痛みがまた思い出される。
「これから儂は攻撃をする。その攻撃を受け流すのだ」
「え……」
もう?
一回見ただけで?
「勿論、手加減はする。途中で助言もしよう」
うすうす感じていたのだが……この道場。
凄いスパルタだ。




