風巨狼のコート
レオが生産を始めて暫く経った後、
突如、レオの周りに光が舞う。
「フフフ……完成したぞ!」
完成したようだ。
生産系のスキルを使用しているのか、途中から何をしているのか分からなくなったから急に感じる。
作業台の上には完成した防具が。
「これが今回の作品、『風巨狼のコート』だ!」
ネーミングはそのままだが、かなり格好良い。
色は目立たない暗めの緑で、要望通り全身を隠せるように裾も長い。
そして、裾の端には風巨狼の牙らしき物も装飾されている。
「手に取って確認してみるといい。説明が表示される筈だ」
何でも生産者とその素材の持ち主は出来上がった物を『鑑定』等のスキル無しで詳細な説明が見れるらしい。
早速手に取ってみる。
〈風巨狼のコート〉
風巨狼の素材がふんだんに使われたコート。
風巨狼の眼球が錬金術にて全体に組み込まれ全体の防御力を底上げされた結果、コートとしてはかなり高い防御力を誇っている。
更に装飾として、風巨狼の牙も使われており、移動速度が上昇している。
・防御力強化
・風属性耐性
・視界補正 (フード使用時)
・移動速度上昇(中)
おお!
凄く良さそうだ。
風属性耐性と移動速度上昇や、防御力向上もなかなか良いが、個人的に嬉しいのはフード使用時の視界補正だ。
常にフードをつけるだろうからな。俺は。
これはありがたい効果だ。
あの何をやっているか分からなかった作業は、錬金術関係の工程だったのだろう。
説明にも錬金術の言葉があるし。
「自分でもなかなかの物が出来たと自負している」
「凄いな。期待以上の出来だ」
「こちらも良い仕事だった。また何か手に入れたら来てくれ。歓迎しよう」
とても、さっきまで変態的な行動をしていた人と同一人物とは思えない対応だ。
とてもやりきった顔をしている。
「ああ、勿論だ」
「ありがとう! では、着てみてくれ」
俺は布の服を外して、風巨狼のコートを着る。
包帯だらけの上半身と顔を見られた時、レオは驚いた顔をしたが、何も言ってこなかった。ありがたい限りだ。
おお、ピッタリだ
丁度良い、動き易いベストなサイズだ。
移動速度上昇の効果なのか、体が軽い。
今の俺はスキルの効果が無くなっているので非常にこの効果は重要だ。
そして、フードを被ってみる。
フードを被ると視界が狭まる筈なのだが全くそんな事はない。これが視界補正の効果か。
「問題ないようだな」
「ああ、素晴らしい仕事だ」
レオは誇らしい顔をしている。
あの変態行動が無ければな……
もう、忘れるか。うん、忘れよう。
「代金だが……5000Gだな」
「そんな物なのか?」
なかなか安いと思うのだが……店じゃ絶対にこの値段じゃ買えないぞ?
「素材持ち込みだからな。MVP報酬を加工出来たんだ。良い経験にもなったし、問題は無い!」
そう言うので大人しく5000Gを払っておく。
こちらとしても、安ければ安い程いいし。
「格好いいよ、ハクさん!」
「ありがとう」
アリスも褒めてくれる。
お世辞だとしても、女の子から褒められて悪い気はしない。
「じゃあ、行こうか。レオにも開発もあるだろうし」
アリスはまだあの変態行動を忘れられないのか、まだ少し引いてる。
衝撃だったもんな。
「そうだった、そうだった! 新たな武器を開発せねばならないのだった!」
「なら、もう行くか」
アリスも頷く。
そう言って俺とアリスはレオ工房を去った。
それからアリスの店に戻っている途中。
「ね、衝撃だったでしょ?」
「……そうだな」
「あの行動が無ければもっとお客さんが来ると思うんだけどね……」
「…………」
黙るしかないな……
だが、あの様子だとレオは自分で物を作るのが好きなタイプだと思う。
だからあれで大丈夫なのだと思っておこう。
●●●
レオにコートを作って貰った翌日。
まだ、スキルは使えない。
「暇だ……」
「まぁ、仕方ないよねぇ……」
アリスも暇そうにしている。
何かないか……あ、そういえば。
ストレージからウィジャ盤を取り出し、念じる。
「僕の契約者? 僕の存在忘れて無かった?」
「否定はしない」
「そこは否定して欲しいね」
悪魔のフェレスが現れる。
何より暇だ。
話相手は多い方がいい。
「暇って、言うけどね。やれる事もあるだろう?」
「何がだ?」
「何って……狩りはまだ無理だろうけど、気力を扱う訓練は出来るでしょ」
何言ってるんだ?
気力操作のスキルは使えないぞ?
「あ、別にスキルが無くても気力は使えるよ~」
アリスが椅子にもたれかかりながら、答える。
え、初耳。
「そうなのか?」
「このゲームの設定としては、スキルは自分の能力に補正をかける物って設定なんだ。だから普通に練習すれば気力操作はスキル無しでも使えるよ~」
私も使えるし……
と、アリスは続ける。
そうなんだな。
「だから、スキル無しで訓練すれば、スキルが戻った時に実力が上がってるって、言うこと。僕としても契約者が強いと色々都合が良いしね」
フェレスの意見にも一理ある。最後の言葉は少々不穏だが、どうせ契約者が強かったら、必然的に凶暴なモンスターとも戦うようになり、『外法の契約』の使用回数が増えそうだから、というのが理由だろう。
「そうだよ。良く分かったね?」
「大分お前の思考も理解出来てきたぞ」
「何々? どうしたの?」
話に入れていないアリスが何を話しているのか、気になったようだ。
軽く説明した後、スキルに頼らない気力操作を試してみる。試しに右拳に集めるか。
「ふっ………ぐ……」
……………正直、凄い難しい。
スキルの補正が無いとここまで難しいのか……
スキルがあると意識するだけで気力は動かせたが、今はなかなか動かない。
気力があるのは分かるのだが、動かせない。
「きついでしょ?」
「ああ……かなり……な」
「スキルの補正って大事だよねー」
まるで、スキルが使えなかった事があるような口ぶりだな……
ぐ……せっかく肩あたりまで気力を移動出来たのに……制御が出来なくなってくる……
気力がどんどん散っていく……
「……駄目だな」
まるでまともに動かせなかった。
戦闘に何て使える訳がない。
「やっぱり駄目だよねー。簡単に出来ちゃったら私の立つ瀬がないし」
「アリスは出来るのか?」
「勿論! 老師に教わったんだ……」
言葉が続く程、アリスの声のトーンが落ちていく……
老師?
老師とは誰か聞いてみると……
「聞いちゃう? 情報代は要らないけど……聞く?」
「お、おう」
確認を取ってくるが、気になるので聞いておきたい。
「老師って人は簡単に言うと武術の達人だよ。一応NPCなんだけど……トップクラスのプレイヤーよりも全然強い人なんだ」
「凄いな……その老師に気力操作を教わったのか?」
「うん。私は気力操作だけだったけど、ハクさんなら戦闘方法も老師に似てるし、もっと深く教えてもらえると思うよ」
今の俺の戦闘方法はただ殴るや蹴るだけだからな。
しっかりと武術を学ぶのも悪くない。
「その道場はどこにあるんだ?」
「やっぱり行くんだね……私は今日は付いて行けないから地図を渡そうか」
「頼む」
アリスは今日は外せない用事があると言っていた。迷惑をかける訳にもいかないので地図だけでも構わない。
何時までも頼り切りでも駄目だしな。
「場所で言えば、サリお婆ちゃんの店の近くだよ」
簡単な見取り図を書いたあと俺に差し出してくる。
俺もしっかりとしたコートを手に入れたので、割と気軽に外に出れる。
油断はしないがな。
コートでは手を隠せないが、まだ火傷が治っておらず、包帯が巻かれているので問題はない。
地図をくれたアリスにお礼を言って、俺は老師がいるという道場に向かった。




