生産者 レオ
アリスと悪魔のフェレスの挨拶が済んだ後
「このウィジャ盤、買い取って良いか?」
「全然構わないよ!」
嬉しそうにアリスは言う。
そんなに嬉しいのか?
「ウチの商品が売れるのは久しぶりだな~♪」
「…………」
この言葉にはノーコメントで。
「売れてなさっ……」
フェレスが要らない事を言おうとしたので、フェレスに腕をぶち当てる。ウィジャ盤から出ているこのフェレスの体は不安定なのでこれだけで体がかき消える。
直ぐ復活してしまうが。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
フェレスの体が復活する前に返事をする。
さて、このウィジャ盤いくらかな?
「3000Gになるよ」
「分かった」
3000Gを取り出し、アリスに渡す
「毎度あり~♪」
凄く上機嫌だ。
そんなに売れるのが嬉しいのか。
「ハクさんこれからどうするの?」
「そうだな……やれる事がないな」
スキルが二週間使えないからな。
やる事が無い。
「そういえば、ハクさんに防具を作ってくれる生産者を紹介しないとね……」
「あ、そうだった」
「じゃあ、これから行く? 早めに済ませた方が気が楽だし……」
あんなに上機嫌だったアリスのテンションがかなり低くなってしまった。
どんな奴なのか……覚悟しておいた方が良いだろう。
「フェレス。ウィジャ盤しまうから、帰れ」
「なるべく早めに喚ぶんだよー」
「さぁな」
返答を濁しながら、ウィジャ盤をストレージにしまう。
無事に仕舞えて良かった。
「よし。いつでも行けるぞ」
「じゃあ出発……あ、ハクさんこれ、着ておいて」
アリスから手渡された物は布だ。
そうだった。俺の体は今包帯だらけなんだから目立つ事この上ない。入れ墨は隠れているが、隠した方が良いだろう。
因みにずっと包帯をつけておけば入れ墨も隠れて良いのではないか? と、思うが包帯は怪我が治ると自動的に消えてしまうので無理だ。
話を戻すと、アリスから貰ったのは大きい布。
これを身に着けて体を隠せ、ということだろう。
「こんな物しか無くてごめんね」
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
お礼を言いながら布を体に巻く。
ギリギリ体が隠れたかな。
服ではなく布なのでこうしないと身に着けられない。
〈布の服(粗悪)〉
大雑把に布を体に巻き付けただけで、服と言っていいのか分からない程の粗悪な服。
ステータスを見ると一応装備と判定されていた。
装備と判断されると説明が表示されるのだ。
「じゃあ、行こうか」
「ああ」
そうして出発した。
あれ? 店番居ないけど……
と思っていたら、クローズの札がかけられていた。
もう日が暮れるからそういう判断だったんだろう。
一日、客無しということか……
目的地に向かうアリスの事がちょっと可哀想になってしまった
●●●
大通りに一度出たあとまた、裏路地に入ると目的地に着いた。
「ここだよ」
「工房だな」
至って普通の工房に見える。
看板には『レオ工房』と書かれている。
この時点ではそこまでアリスが嫌がる理由が見当たらないな。
「レオ。入るよー」
声をかけながらアリスが扉を開ける。
俺もその後に続く。
そして、俺とアリスの目に飛び込んで来たのは……
「フハハハ!! 芸術は爆発だ!!」
何処かで聞いた事のあるフレーズを叫ぶ白衣と眼鏡を身に着けた男がいた。
その男の奥では爆発が起きている。
そのフレーズを知っているという事はプレイヤーだろう。
「レオ……何してるの?」
「おお! アリスではないか! 何とは、見ての通り爆発物の実験だが?」
「そのフレーズは……?」
「爆発物を取り扱うには必須だろう?」
いや、必須ではないだろ。
アリスも同じ事を考えたようだ。
微妙な顔だ。
「さて? そこの男性はどなたか?」
「……この人はハクさんっていう私の店のお得意様でね。防具を探してるんだ」
「ほう? あの店のお得意様とは……物好きもいるものだ」
レオはチラリとこちらをみる。
「ハクだ」
「私はこの工房を受け持っているレオだ。よろしく頼む」
手を差し出されたので、握手を交わす。
「防具の制作を頼みたいんだが……」
「良いだろう! 素材はあるか?」
テンションが高いな。
俺はストレージからMVP報酬の風巨狼の素材を出す。
「これでどうだ?」
「ほう! これはなかなかの物だな。風巨狼の素材とは……防衛戦のMVP報酬か」
「ああ。その通りだ」
「そんな貴重な素材を扱えるとはな。全身全霊で挑ませて頂こう!」
凄く張り切っている。今の所、アリスが嫌がる理由が見当たらないが……テンションが高いくらいか?
「これからだよ……」
思考を読んだようにアリスが言う。
これから、とは?
「それでは制作に取り掛かるが、要望はあるか?」
「全身を隠せる防具にしてくれ」
「ふむ、全身を、か。ならばコート等はどうだろう? この素材なら十分な防御力が約束出来るが?」
「なら、それで頼む」
レオと話を詰めていく。
「使用武器はなんなのだ? それによって調整をするが……」
「武器は無いな」
「無い……? 格闘か?」
「そうだ」
「珍しいな。ならば動きやすさを最優先に制作しよう」
どんどん構想が出来上がっていく。
「デザインはどうするのだ?」
「俺はセンスが無いからな……目立たなかったら良い。任せる」
「了解した」
傍から見れば、白衣の男と布を巻いている男の会話だ。
俺の格好、怪しすぎないか?
「君の格好を見る限り、あまり余裕が無いようだ。早速制作に取り掛かろう」
「……怪しいとは思わないのか?」
「何、私は依頼主に要らぬ詮索はしない。アリスからの紹介なのだし、疑う事などせぬよ」
良い奴じゃないか。
いよいよアリスが会うのを躊躇うのが分からなくなってきた。
「腕も心構えも良いんだけどね……」
アリスは何とも言えない顔だ。
という事はまだ、片鱗が見えていないのか?
「生産途中がね……」
どんな生産なんだろうか。
最早楽しみだ。
「よし、ならば生産に取り掛かろう」
「見てても良いか?」
俺は素材を渡しながら聞く。
レオは朗らかな笑みで、
「構わないとも!」
と返してきた。
なら、遠慮無く見させて貰おう。
レオは近くにある作業台の上に風巨狼の素材を持っていく。
因みに風巨狼の眼球は瓶詰めされている。
そのままじゃないぞ。
「それでは、始めるぞ」
レオはそう呟き、生産を始める。
まずは毛皮から取り掛かるようだ。
「おお……触れれば更に分かる。素晴らしい素材だ。何と美しい。フフフ……」
すると、レオは素材を手に取り頬ずりを始めた。
えっと…………
その顔は恍惚としており、その光景は控えめに言ってドン引きだ。
「ああ、貴方を私の思うままに出来るとは、夢のようだ」
風巨狼の眼球と会話してる……
怖い……アリスが言ってたのはこの事か……
「気高く、鋭い、君に貫かれたい……」
今度は牙と、だ。
やべぇ。
コイツやべぇ。
語彙力が崩壊するくらいやばい。
衝撃的な光景だ……
レオはなかなか端正な顔立ちだ。
そんな眼鏡イケメンの美男がモンスターの素材相手に語りかけ、顔をうっとりとさせている。
「私が避ける理由が分かったでしょ……?」
「ああ、よく分かった……」
これは……ちょっとな……
だが、そんな事をしながらでも素材の加工は進む。
風巨狼の毛皮は形を変え、服の形をとり始める。
牙は、削られているな。装飾品にでもする気かな?
眼球は……話しかけられただけで、まだ手をつけられていない。
どうなるのかな?
その後、俺とアリスはレオの奇行を見ながら生産の完成を待った。
奇人を見てるのって、案外疲れるんだな……




