大きな代償と報酬
少し長くなってしまいました。
sideハク
「ぐ……うん?」
ここは何処だ?
目が覚めるとそこは知らない部屋だった。ベッドに寝かされているのだが、全く見た覚えがない。
死んだらあの噴水広場に戻される筈。
いや、死にかけたあの時確か……
「あ! 起きた? 体は大丈夫?」
アリスに助けられたんだ。
ドアからアリスが入ってくる。
「ここは私の店の二階だよ。ハクさんをキャッチした後運んで来たんだ~」
「お、おう。ありがとう」
やっぱりあれってアリスだったんだな。
意識が朦朧としてたから怪しかったんだが……
「ハクさん、痛い所とか無い? あるなら包帯使うけど……」
このゲーム内では包帯は使用する場所を選択するだけで勝手に巻いてくれるのだ。だから相当便利だ。いちいち服を脱がさなくていいからな。更に包帯には鎮痛作用まである。高性能だ。
「うん……全身がヒリヒリするぐらいだな」
なら大丈夫だね、とアリスは言う。
今の俺はミイラ状態だ。
全身大火傷な上に穴まで空いたからな。妥当な処置だろう。というか、この状態で更に包帯巻くのか?
「まぁ、あれだけの怪我ならねぇ。よく生きてるよね……」
感心するようにアリスは言う。
それは俺も思っている。よく生きてる物だ。
「……アリス。どうして俺を助けたんだ?」
アリスに質問をする。
これは聞きたい。どうしてだ?
「どうしてって…… 『千里眼』の水晶で防衛戦を見てたんだけど、流石にあんなにボロボロのハクさんを無視できなくてね。いきなりモンスターの群れに吹き飛んでいって、その上後衛の魔法攻撃まで直撃したんだよ? 無視出来ないでしょ。知らない人じゃないんだし」
あー
そういえば『千里眼』の水晶で見る、とは言ってたな。
いろいろあり過ぎて忘れていた。
「挙げ句の果てに不気味な存在……悪魔も居たし、明らかににハクさんの様子がおかしいし。それで防衛戦に向かったら上の方が騒がしい事に気付いて上を見たらハクさんが落ちてきてて慌てて受け止めたんだ」
そこからちょっと用事を済ませてハクさんをここまで運んだんだ。とアリスは続ける。
「あの後、防衛戦はどうなったんだ?」
「無事に街を守りきって終わったよ。勇者のパーティーが大活躍! だってさ」
勇者の姿が載った新聞のような物を見せてくれる。
随分と格好いいな。顔が良いから写真が良く映える。
写真を見ていると急にアリスが真剣な顔をして、
「ハクさん。聞きたい事が結構あるんだけど、いいかな?」
「良いぞ? 助けて貰った恩があるし、なるべく答える」
「あの悪魔、何なの? すっごい不気味だったんだし、ハクさんの事、僕の契約者って言ってたし」
一番答えづらい所が来たな。
正直に言おうか。
「実のところ俺も良く分からない。巨狼に食い殺される所で顕れたんだけど……俺の事をずっと見ていたとか何とか言っててな。それで、契約しないか? って持ちかけてきた」
「それで契約したんだね?」
「しなきゃ死んでたしな」
その点、俺は後悔していない。
「私も悪魔と少し話したんだけど……なかなか読めない存在だったよ。悪魔なんて幻の存在、本当に居たとはね」
思い出すようにアリスは目を瞑る。
確かに読めない存在だった。
「その悪魔と契約したってどういう事?」
「簡単に言えば代償を差し出すから対価として力をくれ、って物だった」
「力って?」
「あの悪魔の場合はスキルの強化らしい」
「また、とんでもない強化だね……」
その強化があったからあそこまで暴れられたのだ。
「代償って何なの?」
「ああ、魂とか言ってたな。確認しようか」
ステータスを出す。
ステータス
プレイヤー名 ハク
状態 魂魄破損(大)
SP 0/30
スキル (全スキル使用不可)
格闘術 気力操作 忍び足 逃げ足 スリ 脅迫 気配感知 身体能力上昇 痛覚耐性 見極めの眼
称号スキル
大罪人の息子 罪人の証 生まれながらの罪人 悪魔契約者
特殊スキル
外法の契約
なんか、えげつない状態異常が見える。
あの悪魔は命に影響は無いとか言ってたが本当か?
魂魄破損の影響か、スキルが使えなくなっている。
代償デカい……
あ、SPちょっと増えてる。使ったからかな。ハハハ……
「ど、どうしたの? 凄い顔してるけど……」
「……いや、魂魄破損(大)っていう状態異常がついててな……」
「魂魄破損って……滅多に聞かない状態異常だね。一部のモンスターが使う特殊攻撃を受けると起こる状態異常だったと思うけど……(大)という表記は見たこと無いよ。効果は?」
「全スキル使用不可」
「……えげつないね」
全くだ。
「私が知ってる魂魄破損の状態異常はスキルのどれかの性能が悪くなるっていう物なんだけど……丸っきり違うね」
「あの悪魔が関係してるしな……」
性能低下と使用不可の違いはデカい。
要は、今の俺の身体能力は現実の俺と同程度な訳だ。
ホーンラビットにも軽く負けるぞ。
「後、戦ってる時のハクさんの様子がおかしかったんだけど……」
「……確かに今思えばおかしかったような気がする」
テンションが異様に高く、凶暴だった。
理由を調べる為、ステータスを調べる。すると……
『悪魔契約者』
悪魔との契約という禁忌を冒した者に贈られる称号。
効果
神からの祝福が受けられなくなる。
特殊スキル『外法の契約』の獲得
禁忌………
神からの祝福も受けられないとか、良く分からないがいろいろとへこむなぁ。
だが、これは様子が変わった理由にはならないだろう。
次だ。
『外法の契約』
欲望の悪魔フェレスとの契約。
『宣言』を行うと契約内容に従った効果を発揮する。
効果発動時間に応じてスキル使用不可時間が長くなる。
効果
スキルの大幅強化
一部スキルの変質
使用者に状態異常『狂化』を付与
変質したスキルを使用する度、『狂化』追加付与
あの悪魔、フェレスって言うんだな。
それにしても、『狂化』が付与されてたのか。
これが様子がおかしくなった理由か。
「何か分かった?」
アリスに聞かれたので、新たに得たスキルの効果を説明した。
「『狂化』……初めて聞く状態異常だね。ハクさんの様子がおかしかったのはこれが理由か~……」
アリスが納得したように頷く。
名前からして、これしか無いだろう。
「私が聞きたいのはこれ位かな? ハクさんこの情報、私が買い取っていい?」
「……そうだな。俺だと特定されない部分の情報なら良いぞ」
「りょーかい! なら、新状態異常の『狂化』と悪魔の実在するっていう情報なら大丈夫かな? ちゃんとハクさんだって分からないように配慮するけど……」
「大丈夫だぞ」
「ありがとう!」
やったー! 新情報だー! っとはしゃいでいる。
これは俺も嬉しい。お金が入るからな。
俺は常に金が必要だし……
あれ?
「なぁ、アリス。防衛戦の報酬っていつ配られるんだ?」
「あ、そうか。ハクさん気絶してたもんね。防衛戦が終わって三時間くらいで払われますってアナウンスがあったから……そろそろだと思うよ?」
アナウンスがあったのか。
なら、メニューのログに残ってる筈……あったあった。
確かに書かれてるな。別にアリスを疑う訳じゃ無いけど。
〈防衛戦の報酬が届きました〉
〈防衛戦MVPに選ばれました。特別報酬が支払われます〉
「お、噂をすれば……ん? MVP?」
「お~。ハクさんMVPに選ばれたの?」
「そうみたいだな」
「おめでとう! MVPってイベントで数人しか選ばれないから凄い事なんだよ?」
へぇ、そうなんだ。
何で俺がMVPなんだ?
「そういえば、目玉抉ったな……」
「そんな事したんだ……」
呆れられたが、そのお陰でMVPに選ばれたんだから良しとしよう。
えっと……報酬を受け取るには……
これかな? メニューで点滅しているアイコンを開く。
これだった。報酬を受け取る。
〈防衛戦報酬〉
ゴブリンの角 二十本
狼の毛皮 十三個
狼の牙 十六個
20000G
特に見る所のないな。お金はいくらあっても困らないのでありがたい。
楽しみなのは次だ。
〈防衛戦MVP報酬〉
風巨狼の眼球 一個
風巨狼の毛皮 三個
風巨狼の牙 二本
風巨狼とはあの巨狼の事かな?
二段階からは見てないし、風属性でもあったのかも知れない。
この報酬の事をアリスに伝える。
「おお~。ボスの素材ってなかなか良いんじゃないかな?」
「だが、素材貰ってもな……」
加工する人が居ない。
伝手などあるわけない。
「あー……ハクさん。一人心当たりがあるんだけど……」
「生産者に、か?」
「うん……あんまりおすすめしないけど……」
アリスが複雑そうな顔をしている。
何でだ?
「生産者を紹介してくれるんなら金は出すぞ?」
「いや、お金は良いんだよ。ただ……その生産者は結構変わり者でね……」
変わり者か……まぁどの世界にも変わり者はいるだろう。
どちらにせよ、俺が持ってる素材を加工してくれるなら問題ない。
「ま、まあ。その事は今はいいや。ハクさんに一つ言っておく事があるんだけど、良いかな?」
アリスが話を変える。
「いいぞ」
「うん。ハクさんが喉を抉ったアーゼの事なんだけどね」
アーゼの事か……
アーゼについてはもう満足した感じはある。
だが、一応奴のその後の事については知っておいた方が良いだろう。
「ハクさんをキャッチした後、アーゼの所に行ったんだけどね。もう指揮官として動かしてはいけない状態だったから、気絶させて動けなくさせたんだ」
結構な事やってるな、アリス。
「で、その後王様に直訴してアーゼの状態を報告して、その結果アーゼは牢屋に入れられたんだ」
王様に直訴とかいろいろ気になる所があるがスルーだ。
気にしない気にしない。
「アーゼの罪は重いからね。戦場を私的に利用して戦場を混乱させた罪なんだ。そこで問題なのが、ハクさんの処遇なんだよね」
「あー、なるほど」
戦場を混乱させた罪なら俺も当てはまる。
俺も牢屋か?
「いや、その事なんだけど……結果から言うとハクさんは牢屋に入ら無くてもよくなったんだ」
「おお、よかった……」
「状況的に情状酌量の余地はあるし、誰も殺してないし、特に大きかったのはハクさんがボスの風巨狼に大きな傷を負わせてた功績かな。だから、今回の事は不問になったんだけど……」
だけど……なんだ?
「MVP報酬を貰ったプレイヤーはパレードに参加する事が出来るんだけど、ハクさんはそれが出来なくなっちゃった……」
凄い申し訳なさそうに言うがあまり問題はない
「その程度で牢屋に入らなくて済むなら全然いいぞ? 気に病む事はない」
「本当に? パレードに参加すればかなり街での生活が便利になるんだけど……」
「いや、俺が出ても石を投げられるだけだろ」
俺が今まで見てきた住民の反応はそのレベルだった。
それについては今の所、特に怒りを覚えたりしていない。面倒だとは思うが。
「…………」
「いや、そんな複雑な顔で見られてもな」
「……ハクさんがそう言うなら良いけどさ……怒られるかもって、ちょっと気構えた私の覚悟返して」
「そのぐらいで怒らないぞ?」
「むー」
むくれている。
こう見ると見た目相応の可愛らしい少女だな。
ストックが尽きたので、更新頻度落ちます。




