防衛戦の開始、そして……
今、俺は東門に向かっている。
そろそろモンスターの襲撃の時間だからだ。
正確にはまだ少し余裕があるが、早めに着いておいた方が良いだろう。
周りにも東門に向かっていると思われるプレイヤーが見える。
この中に勇者が居ないことを祈る。
「防衛戦に参加する方はこちらに集まって下さい!」
兵士のような格好をした女性が声を上げている。
そしてその先には門があり、人が集まっている。
いつもは開いているはずの門が閉まっているな。
そこには、門があり壇上のような物が設置されている。
「防衛戦に参加する冒険者の諸君!」
何やら隊長っぽい人が演説をしている。冒険者はプレイヤーの事だろう。多分。
「今、この街は危機にさらされている! この危機を乗り越えるために諸君らの力を借りたい! この戦いで功績を挙げた者には多大なる名誉と報酬が与えられる! 存分にその力を奮ってくれ!」
オオオオ!!
と雄叫びが上がる。報酬の辺りで一気にテンションが上がる空気がしたからな。
誰でも報酬は欲しい。
「これから我々は門の外に陣を張る! 諸君らに覚えて貰いたいのは、これだけだ!」
その言葉の後にピィィイという頭に響く音がする。
何だ?
「この音が聞こえたら直ちに後退してほしい! この音は後衛の攻撃の合図である! この音が聞こえても下がらなかった者には、後衛の攻撃に巻き込まれる事になる! 肝に銘じておいてくれ!」
巻き込まれるのか……
聞きのがさないようにしないとな。
「さらに、あまり個人やパーティーで突出しすぎると危険だ! 前衛は前線の維持に努めてくれ!」
これはただの注意と説明だな。
俺は個人だし、気を付けるだけで良いだろう。
パーティーの中に調子に乗りやすい奴がいる所なんかは大変だろうな。
「では、そろそろモンスター共が来る! 行くぞ! 後衛は門の上に移動し、指揮官の指示に従ってくれ! 前衛はこのまま俺と前線へ移動だ!」
門が開く。
後衛と前衛に別れるように周りの兵士に指示された。
俺は前衛なのでそのまま門を出る。
何か、兵士の視線が鋭い気がする。中には明確な敵意を向けている者を居る。
フードは被っているし、入れ墨が見えている場所は無い。
やはり、情報が流れているのだろうか?
だとしたら厄介だな。
●●●
東門の外に陣取り、モンスターを待つ。
特に布陣について何も言われ無かったので、各々自由な場所に居る。
まぁ、これだけの人が居るしいきなり連携しろと言われても無理だしな。だから作戦も大まかに前衛と後衛に分ける事にしたのだろう。
だが、これでは防衛なんて出来ないくらいに陣が隙間だらけだ。
どうするのだろう? と思っていたら……
「では、我々も陣を敷くのだ!」
「はっ!」
先ほど演説をしていた人が指示をして、兵士達が俺達プレイヤーの一回り内側に移動し、隙間を埋める。
なるほど。こうするのか。
「総隊長! 全員配置、完了しました!」
「よし! ならばモンスターの襲撃まで待機! 緊張は解くなよ!」
「「「はい!」」」
総隊長だったようだ。
思ったよりも、偉い人だったんだな。
道理で威厳があると思った。
そんなことを思っていると、ある兵士が目に止まった。
その兵士は、東門の前で呼びかけをしていた女兵士だった。
今見て見ると装備が微妙に違う。周りの兵士に比べて、軽装備な印象を受ける。そして何処か挙動不審だ。
あ、こっちを見た。
まぁ俺の外見はとても怪しいからな。俺でもこんな格好をしている奴は警戒する。
挙動不審なのも戦いの前だからかもな。
俺達プレイヤーは死んでもデスペナルティで済むからそこまで緊張している者は少ない。
そういえば、NPCは死んだら消滅するのだろうか?
分からないな。
「モンスターの接近を確認! あと僅かで森を突破します!」
大きな声が聞こえる。音の方を見ると壁の上から拡声器のような物を兵士が使っていた。あんな物まであるのか。
「聞こえたな!! もうすぐ奴らがやってくるぞ! 身の程知らずのモンスター共に目に物見せてやれ!!」
総隊長の激励が響く。
にしても総隊長。よく拡声器使わずにあそこまでの声量を出せる物だ。
そして、その大音声の後。
モンスターの群れが、俺の視界に現れた。
●●●
大量のモンスターの群れ。
その内訳はなかなかに複雑だ。
ホーンラビットやゴブリン、トビイタチはもちろん。
熊や狼等、明らかに危険そうな奴らも見える。
あんなの森に居たのか? リアルじゃ遭ったら終わりの類いだぞ。怖っ
「ギャギャギャ!!」
「グルルァァァァァ!!」
様々なモンスター達の叫び声が聞こえる。
ここから見える限り、ゴブリンや狼の割合が多めだな。
全体の割合は分からないな。
まぁ、分からなくても構わないが。
「グギャギャ!」
おっと。
もうゴブリンが襲いかかってきた。そこまで近づいてきたか。
ゴブリンの相手は初めてでは無いし、手間取る事も無く処理をする。
筋トレの影響もあり、前蹴り一発で倒すことが出来た。
だが、数が多い上に狼等初見のモンスターもいる。
油断なく、慎重にこの防衛戦を生き残らなければ。
「グルァ!」
狼のモンスターが俺に噛み付きをしてくる。
その噛み付きを躱し、狼の横っ腹を蹴りつける。
「ギャイン!」
クリーンヒットしたが、一撃という訳には行かなかった。
流石にゴブリンよりも強いという事か。
狼は直ぐに体制を立て直し、攻撃してくる。
今度は爪による引っ掻きか。噛み付きよりも地味だが侮れない。
冷静に攻撃範囲を見極め、躱す。
そして、思い付いた攻撃方法を試してみる。
狼の前脚を掴み、体を反転させ狼の体を強引に地面に叩きつける。一本背負いに近い形だ。相当な膂力が無いと出来ないだろう。やはり、『身体能力上昇』の効果は高い。
動体視力も上がるというのが有難い。俺は防具を満足に調達出来ないから躱すという行為は俺の生命線だ。
防具で受けたりなどの防御が出来ないからな。
「グル……ル……」
地面に叩きつけられた狼が光となって消えていく。どうやら倒せたようだ。
あれ? ドロップアイテムが出なかったな。何でだ?
《防衛戦中のドロップアイテムは自動でストレージに送られます》
親切なシステムメッセージを読み、疑問を解消する。
よく考えてみれば、一々ドロップを拾うなんて出来ない。
こうしている間にも、次々とモンスターが襲ってくるし。
気を抜く暇は無いな。
●●●
その後モンスターを倒したり、逆に傷を受けたりしながら戦っていた。
複数の狼に一斉に襲われた時は焦った。
どうやら、知らず知らずの内に前に出てしまっていたようだ。
『気力操作』も使いながら何とか凌いだが、危なかった。
プレイヤーキラーから貰った回復ポーションが無かったら死んでたかも知れない。
やはり、あの彼女には感謝だな。
そして、何度かあの笛の合図もあった。
その時は周りの兵士もプレイヤーも速やかに後退し後衛の火力を再確認した。
様々な派手な魔法は勿論、矢のような物も見えた。
火や、電気、氷を纏っていたりと実に綺麗だった。喰らった方は堪ったものでは無いだろうが。
そうした事を繰り返し、防衛戦にも慣れ、前線もかなり森側に推し進めた頃。
俺達、前衛が戦っていた時にソイツは現れた。
「アオオオオオオオオオオン!!」
今までのモンスターとは比べものにならない、圧倒的な雄叫び。
その声の主は、巨大な狼だった。明らかに今までのモンスターとは格が違う。十中八九、この戦いのボスだろう。
そして、それに気付いたのは当然俺だけでは無い。
「いくぞ!」
「あいつを倒したら、報酬確実だ!」
功を焦ったプレイヤー達が先走る。
数は大体、十人くらいだ。
「よせ! 戻れ!」
総隊長が叫ぶが、もう遅い。
巨狼が動く。
速い、『身体能力上昇』で強化された俺の動体視力でも、完全に捕らえきれない。
次々とプレイヤー達が倒されていく。
噛みつきは勿論、爪による斬撃や体当たりでさえも驚異的な威力を持っている事が分かる。
どれを喰らっても殺られる。
その時、笛が鳴り響く。後衛の攻撃の合図だ。
「おい! 下がれ下がれ!」
「このままじゃ、喰われるぞ!」
慌てて後退を始めるプレイヤーと兵士達。
俺も急いで下がる。
下がりながらも、巨狼の動きを確認するため、巨狼がいる方を向いた。
その時だった。
俺が背後からの衝撃波に襲われたのは。
モンスター達が押し寄せている方に弾き飛ばされた。
体が高く吹き飛び、
そして様々な攻撃が視界を埋め尽くして…………




