同類を発見
SPの回復が済み、もう一度『気力操作』を試してみる。
先ほどは違い、光った状態で何かしてみよう。
意識を集中し、気力と思われる物を右腕に動かす。
弱い光が右腕を包む。
よし、この状態で木を殴りつける。
ドンッという音がする。明らかに威力が高まっている。
木にもへこみが出来ている。
これは使えるな。消費が激しいし、多用は出来ないが奥の手としては使える。
俺には、決め手が乏しいからな。だから身体能力が高くないとゴブリンにすら手間取る。
良い攻撃手段が出来た。
さて、じゃあ最初に考えた通り、筋トレをするか。
筋トレは様々な物をした。
腕立て伏せ、腹筋、スクワット、懸垂、などなど……
それぞれ、百回ずつやった。というより出来てしまった。
凄い。
やはり、『身体能力上昇』の恩恵は大きいようだ。
途中から、急に楽になる瞬間が何度かあったので、多分熟練度が溜まっているのだろう。
筋トレに意味があって良かった。
そして筋トレをしながらでも、チャージを終えるとしっかり二段ジャンプの練習をしていた。
流石に難しく、まだまだスムーズに行かない。
だが少しづつ上手くなっている自覚はある。
そろそろ本番である移動しながらの二段ジャンプの練習に移っても良いかもしれないな。
もう筋トレは良いだろう。
俺は片手の懸垂を中断し、練習に適した場所を探す。
なるべく広い場所で人目の無い所が良いが……
しばらく探したが見つからない
そんな都合の良い場所はない。少し妥協すべきか……
草原に出よう。人目はあるだろうが、しょうが無い。
森の中では満足に走れないし。
日も落ちかけているが、まだ練習は続ける。
二段ジャンプは今日中に使えるようになりたい。
アレが使えたら活動範囲が広がる。
街でも屋根の上とかに乗れたらかなり人目を避けられる。
何より楽しいだろう。やってみたい。
もうすぐ草原だ。
夕日に染まった草原が見える。
「綺麗だな……」
「そうだな」
っ! 誰だ?
気配察知には反応は無かった。
気配隠蔽系のスキルを持っているのか?
その声の主は、俺と同じくフードを被っていた。
森に入る時に見た奴か?
「驚かせたか?。俺はラド。アンタと同じフード仲間だよ」
「そ、そうか。俺はハクだ」
「いや~俺と同じようにボロボロのフードを被っている奴を見つけてな。思わず声を掛けちまったぜ。アンタもキャラメイク失敗したのか?」
何故分かった?
「どうしてそう思う?」
「簡単さ、装備が違うからだ。普通にキャラメイクしたプレイヤーは初期装備を持っているが、そうじゃない奴は違う。俺と同じようにランダムを選んだんだろ? 熟練のプレイヤーならもっとマシな外套だろうし」
まさか、そこから読まれるとは。
にしても装備か……
買い換えようにも店に行けないからな。
「俺と同じって事は、お前も?」
「ああそうだ。ランダムスキルプリセットを選んで失敗したんだ」
俺と同族じゃないか。
親近感を感じる。
「お前はどんなテーマを引いたんだ?」
「それはこちらも気になるな。ここは一つ同時に言おうじゃないか」
「良いだろう」
俺以外にも、どんなテーマがあるか気になる。
「せーので言うぞ? ちゃんと言えよ? 古典的なのは要らないからな?」
「分かってるよ」
こいつ、結構フレンドリーだな。
現実なら友達が多いタイプだろう。
「行くぞ? せーのっ」
「大罪人の息子」
「先祖返りの吸血鬼」
「「え?」」
ハモった。流石に予想外すぎる
吸血鬼? 予想できるか!
「大罪人の息子って何だよ……」
「そのままお返しする」
聞きたいのはこっちも同じだ。
「そうだよなぁ……まずは俺から説明するか。俺は称号スキルは、『先祖返りの吸血鬼』と『吸血鬼の誇り』の二つだ。効果は日光を浴びるとダメージを喰らうのが特徴かな? お陰で昼間の行動が制限されてんだ。メリットの方は夜は強化されて、吸血鬼らしく血を飲んだら強化されるらしい。まだ血の方は試してないがな」
こいつも凄い物を背負ってるな……
俺と良い勝負だ。
次は俺だな。
「俺の持っている称号スキルは『大罪人の息子』と『生まれながらの罪人』と『罪人の証』だ。『大罪人の息子』の効果は犯罪の成功率が上がるのと、身体能力が上がる。『生まれながらの罪人』は……まぁ便利な能力が手に入った」
『見極めの眼』については伏せておく。
いくらフレンドリーでもそこまで教える気にはならない。
「全部は教えてくれないか……まぁ当然か。それと『罪人の証』って言うのはまさか……?」
聞かないでくれるのは有難い。
『罪人の証』くらいは教えても良いだろう。
調べたら直ぐ分かるし、誤解される前に教えないと。
「そのまさかだよ。生まれて直ぐに刻まれた罪の証だ。通常は、犯罪を犯したプレイヤーや住民に入れられる物らしいが、俺は最初から持ってた」
俺はフードを少しづらし、入れ墨を見せる。
「! マジかよ。大変だな……」
「こっちのセリフだ」
昼間の行動を制限とか、デカすぎるデメリットだ
俺の場合は嫌われるだけだが、行動の制限はされない。
牢屋に入れらる可能性は置いておく。
「この際だ。フレンド登録しね? 俺、あんまり昼間行動出来ないからフレンドいないんだ」
「いいぞ? 俺もこんな姿だし、フレンドを増やして置いて損は無い」
いざとなったら助けて貰えるかも知れないしな。
俺達はフレンドを登録する。
「ありがとな! また今度、一緒に狩りでも行こうぜ!」
そう言って、ラドは去っていった。
最後まで、明るい奴だったな……
さて、いろいろあったが引き続き爆発靴の練習場所を探そう。
チャージはもう両足とも済んでいるしな
もう、ここら辺で良いだろう。
草原はもう直ぐ日が暮れるし、人も少なくなってきた。
さっきと違って、走り易い場所だ。コケる事も無いだろう。
しっかりと助走をつけて……
ジャンプ! すかさず起動!
ボンッという音。
俺の視点はかなり高くなっていた。
姿勢も問題はない。練習が役に立ったな。何度も落ちた甲斐がある。
そこで俺の脳が恐るべき考えを閃いた。
これ、もう一回使ったら3段ジャンプ出来るんじゃね?
爆発靴のチャージはもう片方ある。
やるしかない。
俺は体が落ち始める直前にもう一度起動する。
また爆発の音がする。
更に体が上に引き上げられる。
おお!
出来た。これは凄いな。
軽く七メートルは飛んでいる。これが爆発靴の本来の実力か……
使いこなせると、ここまで化けるとは……
何度も練習してよかった。
そしてやって来る浮遊感。
そう。上がったら落ちるのだ。
約七メートルからの落下。まず死ぬ。
爆発靴のチャージは当然残っていないから、勢いを和らげる事も出来ない。
ここは俺の身一つで、何とかしないといけない。
ふと、頭に浮かんだのはあのやり方だ。
つま先から肩まで順に地面に着地する着地法。
確か五接地回転法という名前だった気がする。漫画の情報だから曖昧だが、大きく間違ってはいないはずだ。
これに賭けるしか無い。
大丈夫。スキルの効果により上がった俺の身体能力なら出来る。たぶん。
地面が近づいてきた。
今だ!
俺はつま先を地面に着けたと同時に倒れ込む。体を丸め膝、腰、肩の順で着地する。
その後も衝撃を逃がすように、何度か体を回転させる。
成功だ。
何とか出来た。幾らか体が痛いが許容範囲だろう。
助かった。やはりその場のテンションで行動するべきじゃないな。3段ジャンプはしばらく封印しよう。
俺は固く戒めたのだった。




