投獄……?
「今、俺は今すぐお前をキルする事ができる。それを回避するためにお前にはやるべき事があるよなぁ?」
言い方が少々チンピラっぽくなってしまったがしょうがない。
襲われたんだ、これ位は正当な権利だろう。
「へ?」
どうやら状況が理解出来ていないようだ。
分からせてやらないとな。
「実は俺は、クエストの途中でな。ゴブリンの角が必要なんだ。持ってないか?」
「はっはい……」
脅し気味に喋った事によって、理解したようだ。
ストレージからゴブリンの角を取り出し、俺に差し出してくる。
無言で受け取り、次の要求を出す。
「ああ、矢が腕に刺さって痛いなぁ。回復薬持ってないか?」
「はい……」
俺は差し出されたポーションを受け取る。
矢を強引に腕から引き抜き、ポーションを振り掛ける。
ポーションというとこう使うイメージだが。
おお、傷が塞がった。ゲームでしかあり得ない光景に感動する。
よし、この調子でどんどん毟り取るか。
数分後……
このぐらいで良いだろう。
かなりの数の戦利品を獲得できた。
弓や矢、短剣等の武器。SP等の各種ポーション。などなど、根こそぎ奪った。いや、貰った。
この女性は文字通り全てを失っただろう。
これを機にプレイヤーキルから足を洗って欲しいものだ。
「ひ、酷い……」
「いきなり矢を放ってくるのは酷くないのか?」
「……」
こいつも、よく真面目に全部だしたな。武器を出せとか言ったのは俺だけど、ホントに出した時は正気か疑った。
正直、これだけ出すんならデスペナルティを受けた方がマシだろう。
デスペナルティで武器を失う可能性は低い筈だが。
その武器すらも差し出すとは……
まさか、罠か?
だが武器も無く何をするんだ?
目の前には涙目の女性がいる。
いや、罠は無いだろう。とてもそんな風には見えない。
「じゃあ俺は行くが、もうプレイヤーキル何てするなよ。また全て失う事になるぞ」
「はいぃ……」
こいつは武器を失っているので警戒する必要はない。
敵意も見えないしな。
帰ろう。
婆さんに材料を届けなくては。
《熟練度が一定に達しました。スキル『脅迫』を獲得しました》
『脅迫』?
俺、熟練度が溜まるほど脅迫したっけ?
さっきだけな気がするが……
帰ったら、情報屋のアリスに聞いてみるか。
店に来てとも言われているしな。
森から出た頃。ポーンという音が響いた。
《アリスからメールが届きました》
メールが来たらしい。
フレンド登録したからな。
内容を見てみよう。
『ヤッホーハクさんみてる~? 何かお婆ちゃんが早く帰ってこいって言ってるよ。だからなるべく早く帰ってきてね』
早く帰ってこい?
腰の痛みが悪化でもしたのか?
そもそもアリスは何でまだ店に居るんだ?
まぁ全部帰ったら分かることか。
速く戻ろう。
●●●
早足で門に向かう事、数分。
門が見えてきた。
だが、様子がおかしい。
ざわついていて、剣呑な雰囲気だ。
フードをしっかり被っていることを確認し、門に向かう。
大丈夫かな……無事な門を潜れればいいが……
「おい!そこのフードを被ったお前!止まれ!」
ダメだった。
数十分後……
俺は今、牢屋に居る。
何でだろう? 考えても答えは出ない。
門番に声をかけられた後、フードをとれと言われた。
取ったら当然、顔の入れ墨を見られる。
取るわけにはいかないので、無理だと言ったら無理矢理脱がされそうになって、抵抗したら牢屋に放り込まれた。
幸い顔は見られていない。
ちょっと騒ぎになったが、フードを取ろうとしないのなら抵抗しないと言ったら理解してくれたらしく、穏便に牢屋まで連れて来られた。
ん? 牢屋に入れられる事は穏便だっけ?
とにかく、いつ出られるか分からない。
婆さんに薬の材料が届けられない。
アリスに連絡しよう。
早く帰ってこいって言ったのは、これが理由だったのかな……
俺はメニューを開き、フレンドの項目からメールを呼び出そうとする。
その時、
「ハクさん……何してんの……」
呆れたアリスが俺が居る牢屋の前に立っている。
だが、アリス一人ではなく先ほど俺を牢屋に入れた門番も居る。
何でだ?
「アリスちゃん、本当に大丈夫なのかい? 危険だよ?」
「だから、何度も言ってるでしょ? ハクさんは悪い人じゃないよ! 運は悪いけど……」
「おい。最後の言葉いるか?」
恐らく、キャラメイクの時のランダムを言ってるのだろうが、自分ではそこまで運が悪いとは思っていない。
門番は、俺が喋った事に驚いた様子だ。
少しの敵意を『見極めの眼』が捉える。
「いやいや、簡単なクエストに行っただけで牢屋に入ってるんだよ? 運悪いでしょ」
「……返す言葉もないな」
簡単なクエストだったはずなんだけどなぁ。
そういや、プレイヤーキラーにも襲われたし、
あれ? もしかして俺、運悪い?
……あまり考え無いようにしよう。悲しくなる。
「とにかく、早くハクさんを釈放してあげて。特に悪い事をしてないのは私が保障するから」
「う~ん。アリスちゃんがそう言うなら……」
どうやらアリスはかなり信用があるらしいな。
羨ましい。
門番が俺が入っている牢屋の鍵を開ける。
まだ敵意は見えるが、流石に襲われはしないだろう。
「やっと出られる」
「釈放おめでとー」
呆れ顔で言われても嬉しく無い。




