採取と襲撃
俺は東の森に来ている。
婆さんに言われたルポゼ草とゼガ草を探しているのだ。
ここで重大な問題が発覚した。
どれが、目当ての草か分からない。
全部同じに見える。どうしよう?
とりあえず、それっぽい草を片っ端からストレージに入れていくしかないか……
毟っては入れ、毟っては入れ、
作業的にこなす。
ふと、クエストを確認すると
《サリ婆の腰の痛み》
《ルポゼ草 1/5 ゼガ草 2/5 ゴブリンの角 0/3》
どうやら、幾つか正解があったようだ。
ストレージの中を確認する。
ストレージは中に入れた時点で、軽く仕分けされる。
スキル『採取』や、スキル『植物学』が無ければ本などで勉強しないと、名前の表示が???となり何か分からないようになっているのだ。
だが逆に言えば、仕分けされるため個数などは分かると言う訳だ。
ストレージの中から一つだけある草と、二つある草を探す。
あった。
幸いにも両方とも候補は一つだけだった。
ルポゼ草と思われる草を取り出す。
これがルポゼ草か?
このルポゼ草(仮)の特徴をなるべく覚える。
ルポゼ草から集めるか……
俺は覚えた特徴を頼りにルポゼ草(仮)を探す。
幾つか、見つかったが……どうだ?
《サリ婆の腰の痛み》
《ルポゼ草 3/5 ゼガ草……》
どうやらあっているようだ。
このやり方で、ルポゼ草とゼガ草を探していこう
数十分後……
《サリ婆の腰の痛み》
《ルポゼ草 5/5 ゼガ草 5/5 ゴブリンの角 0/3 》
ゴブリンの角を除き、全て集まった。
結構大変だった……
何度も間違えてしまい、ストレージの中が謎の草だらけになってしまった……
しょうが無い、これも婆さんに買い取って貰えるか聞いてみよう。
残りは、ゴブリンの角か……
ゴブリンか……草を採っているときは、見なかったが何所に居るのだろうか?
もっと森の深い所に行かないと居ないのだろうか……
どちらにしても、ここら辺に居ないし進むしか無いのだが。
俺はゴブリンを探しに森の奥に進む。
すると、程なくして……
「グギャギャ!」
「グギャギャギャ!」
いた。イメージ通りの緑色の子鬼だ。
全部で二匹居るな。
装備はそこら辺に落ちてそうな枝だ。
驚異にはならないだろう。
行くか。
俺は、ゴブリンに襲いかかる。
「ギャ!?」
ゴブリンが驚いているが、構わずに攻撃する。
まずは、ゴブリンの片方の頭を蹴る。
ゴブリンの背は小さいからな。蹴りやすい。
「グギャア!」
ゴブリンが転がっていく。
その間にもう一匹を仕留めたいが……
「グギャギャ!」
向こうも反撃してくる。
やはり、ホーンラビットのようには行かないか。
枝を使って攻撃してくるが、躱せる範囲の速度だ。
躱して、蹴る。
「ふっ!」
「ギャ!」
蹴りは当たったが、先ほどのように奇襲ではないので防がれてしまった。
「グギャギャ!」
「ギャギャ!」
最初に攻撃した方が復帰してしまった。
これで一対二か……
やはり、平原のモンスターとは違うということか。
拙い動きではあるが連携をして攻撃してくる。
こちらは一人、そしていくら『格闘術』と『身体能力上昇』があっても動きは素人同然だ。
分が悪いな。
これがチンピラだったら、こちらを舐めてくるからやりやすいんだが……ゴブリン相手だとそうは行かない。
それに、こちらは素手だ。
攻撃をしても、致命傷にならない。
だから、少しづつダメージを与えるしかない。
躱して、攻撃、躱して、攻撃、たまに避けきれず当たる
それをただひたすら繰り返す。
俺もゴブリンも疲れてきた頃。
ゴブリンの一匹が、膝をつき荒い息をしている。
今だ!
そのゴブリンの頭を全力で蹴る。
「グ、ギャァ……」
ゴブリンはそのまま、光となって消えていった。
よし!
これでかなり楽になる。
「グギャ!?」
もう一匹のゴブリンは相方がやられた事に驚いている。
ゴブリン一匹だけなら、仕留めきれるだろう。
「ギャギャ!」
ゴブリンが俺に背を向け走り出す。
どうやら逃げるつもりらしい。
逃がすか!
追いかけ、頭を掴む。
そのままゴブリンの顔を地面に叩きつける
「ギャ……」
それがとどめになったのか、光となって消えていった。
やっと終わった……
長い戦いだった。
素手じゃ無かったらもっと早く終わっていたんだろうが、スキルが『格闘術』だしな……しょうが無い。
さて、戦利品の回収だ。
光が収まった後に落ちていた、ゴブリンの角を回収する。
《サリ婆の腰の痛み》
《ルポゼ草 5/5 ゼガ草 5/5 ゴブリンの角 2/3》
あと一つか……
何所かに手頃なゴブリンが一匹だけうろついてないかな……
そんなに都合の良いことを考えていると、
ヒュンッという音がした。
嫌な予感がしたので、腕を音がした方に構える。
その瞬間、腕に痛みが走る。
『痛覚耐性』を超えて伝わってくる痛みをこらえる。
何所だ!
俺の腕には矢が刺さっていた。
これを打った奴が居るはず……
だが辺りを見回しても、ソレらしい影は見えない。
矢が飛んできた方向を見ても、見つからない。
そして……
ヒュンッ
また、音が聞こえる。
先ほどとは別の方向からだ。
だが警戒していて、攻撃を受ける程バカじゃない。
地面に矢が刺さる。
まずいな……
どんどん追い詰められている。こちらは相手の位置が分からず、一方的に攻撃を受けている。しかも、俺と最も相性が悪いであろう遠距離攻撃で、だ。
なにかないか?
ここで死ぬ訳には行かない。ここで死んでしまったら、集めた材料がデスペナルティによって失われてしまうかとしれない。デスペナルティを受けると確率で持ち物を失い、一定期間弱体化を受けてしまう。
この状況を打開する方法は……
『見極めの眼』はどうだ?
俺に攻撃している限り、俺に敵意があるはず。
見つかるか?
俺は眼に意識を集中し、敵意を探す。
また、音が聞こえる。
ヒュンッ
避ける。そして直ぐに飛んできた方向を見つめる。
見つけた。
黒いオーラを『見極めの眼』が捉えた。
だがなぜか、敵の姿が見えない。
何も無い空間から、黒いオーラが出ている。
あそこにいるのか?
まぁいい。あそこ以外に候補が無いし、行くしかない。
俺は、オーラ目掛けて走る。
蛇行し、木を盾にしながら走る。
約十メートル程進んだ所で、敵意が動いた。
違う場所に移動する気のようだ。
だが、見失わない。
黒いオーラは目立つからな。
かなり近づけたが、未だに姿が見えない。
黒いオーラは見えるのに、なぜだ?
分からないが、とりあえず敵なのは間違いない。
いきなり矢を打ちやがって。
かなり痛かったんだぞ? 今も刺さったままだし。
ゴブリンとの戦いの後で疲れていたし、今俺はかなり腹が立っている。
ゆるさん。
黒いオーラはもう直ぐそこだ。
姿は相変わらず見えないが、関係ない。
オーラが出ている空間目掛けて拳を振るう。
勿論全力で。
「きゃっ!」
叫び声が聞こえ、何かに当たる衝撃が拳から伝わってくる。
姿は見えないが、確実に何かがいる。
それを確信した時、オーラが出ている空間から矢が飛んできた。
だが狙いはかなり甘く、『身体能力上昇』によって強化された俺の動体視力なら簡単に避けられた。
「なっなんで!?」
さっきのうめき声じゃ分かりにくかったが、女の声がした。
相手は女か?
だがそんな事関係ない。敵は敵だ。
一切の容赦を入れること無く、連続して攻撃を叩き込む。
矢が刺さったままの腕がまだ痛むが、しょうが無い。
また矢を打たれたら厄介だからな。
「きゃぁぁ!」
こんなに攻撃してるのに、姿は見えないまま。
どうする? 『見極めの眼』で居る場所は分かるが、ここからどうしようも無い。
とりあえず攻撃を続けるか。
もう一度拳を構えた所で……
「ご、ごめんなさい! もう攻撃しないから許して! 助けて!」
命乞いをされた。
自分から攻撃しておいて助けてだと?
「随分な言いようだな。まるで俺が悪人みたいじゃないか」
「ひっ! す、すいません!」
声が震えている。
心が折れたか? 連続攻撃が効いたようだな。
『見極めの眼』で見ても、敵意は消えている。
大丈夫だな。
敵意が無くて姿は見えない。
つまり俺は今、相手を完全に見失っている。
目印が無いからな。
どうしようか……今なら簡単に逃げられてしまう。
「おい」
「はっはい!」
よし。まだ居るな。
「とりあえず姿を見せろ、お前の位置は解っているから要らない考えは起こすなよ? もし、そんな考えを起こしたら……分かるな?」
軽くハッタリと脅しを交えつつ、姿を見せるよう促す。
「は、はいぃ……」
どうやら、上手くいったようだ。
目の前の空間が少し歪み、そこから赤髪の女性が出て来た。
「本当にすいませんでした……」
涙目だな。
こっちが襲われたのに、俺が何か乱暴をしたみたいな雰囲気になるじゃないか。
「どうやって姿を隠していた?」
今回、一番気になったのはそこだ。
どうやったんだ?
「それは『隠者の札』っていう使い捨てアイテムの効果です。これを使うと十分間だけ透明になれるんです……」
そんな物があるのか、便利なアイテムだな。
だが、もう一つ聞かなければならない事がある。
「どうして、俺を襲った?」
「そ、それは……」
女性は口篭もる。
何か、ありそうだな。
「答えろ」
俺は睨みながら、詰問する。
「っ! 最近第三陣プレイヤーがおいしいって聞いて、試しにやってみたら思ったよりも簡単に出来ちゃって、それで調子に乗っちゃいました! 本当にすいませんでした!」
ふむ、本当に調子に乗っただけか?
確かに、プレイヤーキルは戦利品が多くおいしいと言われている。
だが、今回のように反撃にあう可能性もあるし、やり過ぎると討伐隊が編成されたり指名手配される可能性もあると聞く。
ハイリスク、ハイリターンという訳だ。
「PKはそれがきっかけか?」
「はいっ!」
嘘は無さそうだな。
少し心配していた、『大虐殺』関連の復讐じゃなくてよかった。
こいつはプレイヤーだし、その心配は要らなかったな。
さぁ心配が消えたところで、やる事は一つ。
「今、俺は今すぐお前をキルする事ができる。それを回避するためにお前にはやるべき事があるよなぁ?」
戦利品の獲得だ。




