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親の存在


勇者と思わぬ再会を果たした後、

俺とアリスは目的の店に来ていた。


「ここが、私の行きつけの店だよ!」


アリスはそう言うが、この店開いてるのか?

店内は暗く、看板も上がっていない。

知らなかったらただの民家と勘違いしそうだ。


「ここは……店なのか?」

「勿論! 見た目は店っぽくないけど……れっきとした道具屋だよ!」


そう言いながら、アリスは店の扉を開けて中に入る。

慌てて俺もついて行く。


「お婆ちゃーん! いるー?」


大声でアリスが叫ぶ。

お婆ちゃん?


「なんだい、うるさいねぇ。そんなに叫ばなくても聞こえてるよ」


奥から出て来たのは、とんがり帽子を被った白髪の婆さんだった。

大鍋の前で怪しげな液体を煮込んでそう、と言えば大体想像できる見た目だ。


「アリス、あんたまた来たのかい?」

「うん! お婆ちゃんの店は品揃えが良いからね!」


こうして見ると、アリスが孫みたいに見えるな。


「それで、アリス。後ろの男は誰だい?」

「あの人はハクさんって言ってね。お婆ちゃんに紹介しに来たんだよ」

「紹介だって? 確かに知らない奴が来たらアタシは追い返すがね。アンタがわざわざ来なくても手紙なり何なり持たせればいいじゃないか」

「そういう訳にはいかないんだよね……ハクさんの場合は」

「……どういう事だい?」


アリスがこちらに目線を向ける。

見せろ、と言うことだろう。

俺はフードを外し、入れ墨を見せる。


「それは……そういう事かい」

「そういう事~。お婆ちゃんなら紹介状を出しても追い返しそうで。だから一緒にきたんだ~」


入れ墨を見たら、出て行けと言われるパターンか。ありそうだな。


「流石に、そこまでしないよ! それにその入れ墨の意味もアタシは分かってるからね」

「意味を? お婆ちゃん、どういう事?」


意味ってなんだ?


「アンタは生まれて来ただけだ。なのにそんな物を背負わされるとは……災難だったねぇ」


! どうして知っているんだ? この婆さん。

冒険者ギルドのおじさんには嫌われたのに。

この婆さんからは同情の色が見える。


「どうして、そう思う? 俺が悪人かも知れないぞ?」

「その『罪人の証』は、大罪人の子供に刻まれる物だろう? 『証』を見れば分かる。まぁ最近はそんな事も分からない馬鹿共が多いがね」


そうなのか。という事は俺の入れ墨を見ても嫌わない人も居ると……

極一部なんだろうが、嬉しい情報だ。


「その証は親の罪を子供に償わせようとするための物なんだ。そもそもアタシはそこが気に入らないんだよ。親の罪を無垢な子供に押し付ける事は間違っていると私は思っているよ」

「入れ墨を見ただけで分かるんだね……」


アリスが驚いている。どうやら知らなかったようだ。

勿論、俺も知らなかった。


「俺の親が何をしたか、分かるか?」


これは俺が気になっていた事だ。

一体何をしたら、子供にまで及ぶ罪を犯したのか……

この婆さんなら知ってるかも知れない。


「そうだねぇ……アンタくらいの歳だと……『大虐殺』のグレゴリーか、『国堕とし』のナタリア、『狂魂』のフォール、のどれかだろうね……」


ふたつ名が怖いな……


「罪の内容は、『大虐殺』は十数年前に起きた戦争で敵味方問わず虐殺し更に数年間の逃走の末、捕まり極刑。『国堕とし』は隣国の国王をその美貌で誑かし、周辺諸国を巻き込んだ戦争を起こした罪で終戦後に極刑。『狂魂』は禁忌とされている死霊術を戦争に紛れ研究し、習得したその術で多くの命を奪った罪により極刑。時系列から考えるとこの三人の内の誰かだろう」


全員やべぇな。

まぁ極刑になる奴何てそんな物なんだろうが……


「全員、酷いことやってるね……」


アリスも同じ感想をいだいたようだ。

この中に俺の親が居るかも知れないと……

改めて酷いな……


「この三人の中だとアンタの親は『大虐殺』の可能性が高いね。他の二人は罪が発覚してから子供を作る暇は無いし、『国堕とし』の子供である数人の王子は戦争に加担していたから、共に極刑となっているしね。その瞬間もアタシは見ている。『狂魂』は大の人間嫌いで有名だったから子供なんていないだろう。消去法で『大虐殺』だろうね」


『大虐殺』が俺の親?

まだ確定ではないが、その可能性は高いだろう。

スキル『身体能力上昇』を獲得出来た理由としても辻褄があう。

戦場で大虐殺を行える人間が身体能力が悪い訳がないしな。


「しかし、『大虐殺』に子供がいたなんて話、聞いた事が無いが……せめてもの恩赦で存在が隠されたのかも知れないね」


存在が知れたら、弱い子供なんてすぐに殺されてしまうだろう。

入れ墨は入れられたが、その点では助かった。

あくまでゲームの中での話だが。


「お婆ちゃん、よく知ってるね!」

「ふんっ伊達に長いこと生きてないからね」


婆さんは少し自慢げに胸を張る。

そして、もう一度真面目な顔をして俺に喋りかける。


「今まで、私以外は気付かなかったようだが、気をつけた方がいい。気付く者は直ぐに気付くだろう。そうなると復讐に走る者も居るかも知れない、十分に気をつけるんだね」


とことん俺に厳しいな……このゲーム


「良かったね!ハクさん自分の親が分かって」

「良かったのか……?また自分の境遇の悪さに嘆きたくなったぞ?」

「まぁまぁ、ポジティブに考えようよ!今知れたんだから良かったじゃん! 知らなかったら急に復讐されてたかもよ?」

「……確かにな」


アリスの言うとおりポジティブに考えるか。

さて、俺の出自が分かった所で本来の目的を果たそう。


「なぁ婆さん。ちょっとお願いがあるんだが」

「そうそう、忘れてた! ハクさんのモンスターの素材、買い取ってくれない?」


忘れてたって、大丈夫か?


「素材の買い取りだって? まさかアンタ、断られたのかい?」

「ああ」

「冒険者ギルドでさえも入れ墨の意味を知らなかったのかい……分かった。素材の買い取りをしてやろう、だが条件がある」

「条件?」


何だろう。そんなに厳しく無いといいが……


「別にアンタの素材をアタシが買い取るのは構わない。だが、タダって訳にはいかないよねぇ?」

「それもそうだな。何をすれば良い?」

「良い心意気だ。実はアタシは最近腰をやっちまってねぇ。その薬の材料を取ってきて欲しいのさ」


老人にありがちな悩みだな……

その素材とは何だろう?


「その材料はなんだ?」

「珍しい材料は何一つ無いよ。ゴブリンの角とポーションの材料のルポゼ草、後は森に生えているゼガ草を取ってきてくれればいい」

「それは、何所に行けば揃うんだ?」

「ルポゼ草もゼガ草も全部東の森にいけば手に入る。ゴブリンも東の森にいるだろう」


《クエスト発生!》

《サリ婆の腰の痛み》


クエストが発生したようだ。

初めてのクエストだな。

詳細を見ると、先ほど言われた材料が書かれている。

これで、材料を忘れる事は無いだろう。


そして、東の森と言えば、この街を東から出てしばらく歩けば着く森だ。

平原ほどではないが、初心者向けのフィールドだ。

やはり余り難しい物では無いのだろう。


「お婆ちゃん、腰痛めてたの?」

「……黙っておき」


何か、二人が喋っているが詳しく聞き取れなかった。

だが行く場所は決まったな。

善は急げだ。


「それじゃあ、行ってくる」

「あ! ちょっと待って!」


アリスに呼び止められると、


《プレイヤー名アリスからフレンド申請を受け取りました》

《承諾しますか?YES/NO》


フレンド申請を受け取ったらしい。


「ハクさんフレンドになってくれない?」

「ん? 別に良いが……いいのか?」


罪人の証はプレイヤーにも分かるからな。

アリスに迷惑をかけないとも限らない。


「全然いいよ! 何度も言ってるけど、店に来てくれたらそれだけで嬉しいから! ねっ!」


どんだけ店に来て欲しいんだ?

まぁそれだけで良いなら喜んでフレンドになろう。

俺はフレンド申請を承諾する。


「これでいいのか?」

「うん!大丈夫だよ、ありがとう!」

「じゃあ、俺は行くからな?」

「うん、行ってらっしゃい!」


そんなやりとりをしてから俺は東の森に出発する。


「ハクさんフードしなきゃ!」

「あ」


また忘れていた。







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