遭遇と聞きたくなかった事実
「ハクさんって、武闘派だね……」
そんなことを言われたのには勿論理由がある。
実はさっき、俺が撃退したチンピラに再会したのだ。
その時のチンピラの反応が……
「ひっ」
「逃げろ!」
「すいませんでしたーー!」
だったのだ。
そこでアリスに何があったのか聞かれて、正直に答えたらこの返答という訳だ。
「それにしても、どうして入れ墨を見ただけであんなに怯えるんだろうな?」
「う~ん、詳しい事は分からないけど一部の人の中じゃ、『罪人の証』を強さの証明に使ってるらしいからね。あのチンピラ達もその事を知ってたんじゃない?」
なるほど、ヤンキーの怪我自慢的な物か……
そこら辺の考え方は分からないな。
にしても、
「そんな情報言ってもいいのか? 情報屋なのに」
「この情報はまだはっきりしてないからね。売り物にならないんだ。それにこんな情報、あんまり需要ないし……」
確かに、ヤンキーの自慢の方法なんて知らなくてもいいしな。
「もうちょっとで大通りだよ!」
アリスは、大通りを指さす。
俺はそれにつられて大通りを見る。
そして俺は見たく無い物を見た。
そこには、あの勇者が通っていたのだ。
あの、たまに光る武具に整った顔立ち。自信満々な顔。
間違えるはずが無い。敵意がかなり収まっていたから気付くのが遅れた。
路地に置かれていた木箱の影に身を隠す。
「? ハクさんどうしたの?」
「しっ! 勇者がいる」
「えっ! 勇者が!?」
声が大きい! 気付かれるかも……
「いかにも、僕が勇者だよ?」
!! マジかよ、あれで気付くのか……
どんな地獄耳だよ!
クソっ気付かれるか?
気付かれたらまた逃げるしかないが……
「会えて嬉しいよ! 勇者様! 君の活躍はよく耳にするから会いたいと思ってたんだ。すごく献身的に活動しているんだよね?」
アリスが会話をしている。勇者との距離、約三メートル。
だが、アリスとの会話に気を取られているのか、気付かれた訳では無さそうだ。このまま持ちこたえられるか?
「いやいや、ただ困っている人を助けているだけだよ」
「それでもなかなか出来る事ではないよ?。所でどうして君は人助けをするの?」
「それは、僕が勇者の使命を背負っているからさ」
「勇者の使命?」
「ああ、僕は勇者だ。故に困っている人を助け、悪を断たなければいけないんだ。その為のスキルもある」
「なるほどね……」
勇者の使命だと? ロールプレイでもしてるのか?
それで、倒される身にもなってみろ。
「勇者様のスキルか、気になる……」
「聞きたいのかい? 僕のスキルを」
「いいの? ありがとう。お礼はするから」
「お礼なんて要らないさ」
「え、いいの?」
「ああ、勿論だよ!」
え? 喋るの?
いや、こちらとしては有難いけど……
何だろ、いちいち言動が気取ってる子供っぽいんだよな。
俺を襲ってきた時はそんな口調じゃなかったし。
「天誅!」とか言ってたしな。
「僕の持っているスキルで重要なのは、称号スキル『勇者の卵』と『正義の使者』だ。『勇者の卵』の効果は人々の人心を掴み易くなるスキルと、好感度プラス300。『正義の使者』の効果は対象の好感度を調べる事ができるスキルと、好感度プラス200。これが僕が持っている勇者の力だ」
「なるほどね、まさに勇者様に相応しいスキルだね……」
俺と勇者の好感度の差が丁度1000だと……
俺と真逆じゃないか。その事にアリスも気付いたのか僅かに微妙な顔をする。
「それじゃあ、僕は約束もあるし、これ位で失礼させて貰うよ」
「ありがとね~ 勇者様~」
そう言って、勇者は終始気取ったまま去っていった。
「ふう~もう出て来ていいよ、ハクさん」
「助かったぞ、アリス」
俺は木箱の影から体を出す。首に汗が滲んでいる。
「ふぅー、緊張したね……まさかばったり出くわすとは……」
「相当焦ったぞ。それにしても、よくあんなに情報を引き出せたな」
「ああいうタイプはとりあえず持ち上げとけば、機嫌よく喋ってくれるからね。思ったよりチョロかったよ」
勇者チョロいのか……
にしても
「俺との好感度の差が丁度1000なんだな……」
「いや、ハクさん。勇者はスキルの効果で人心を掴むってのがあるから、1000じゃ済まないと思うよ……」
「……そうか」
正直、聞きたくなかった。




