即応迎撃
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アラートが鳴り響く。
あらゆる通信網を介して、全世界が最上位の警報を打ち鳴らした。
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「……はぁ」
子供を学校へ送り出した《金剛》香織は、小さく溜息を吐いた。
空に開いた底なしの穴と、同時に鳴り響く警報に、巷がにわかに騒がしくなる中、彼女は行動を行う。
事前に、命令は下されていた。
だから、迷いはない。
常に持ち歩いている二つの品を取り出す。
一つは、盾を刻印された懐中時計。
《六天魔軍》の身分を証明すると同時に、自身のリミッターの制御装置だ。
もう一つは、香織のデバイス。
瑞穂の技術の粋を尽くして作られた、魔王の魔力にさえ耐えきれる最上の逸品である。
双方を起動する。
盾の刻印が輝き、香織の魔力が膨れ上がる。
同時に、デバイスが起動し、彼女の身の丈をも超える巨大なタワーシールドへと変化した。
「来たね」
次元の壁を貫いて、馬鹿げた量の魔力が届けられる。
魔王と呼ばれる香織であって猶、身が破裂してしまいそうなそれを強引に制御し、自らの物として扱う。
魔王級土属性魔術《砂流壁・国囲い》。
土属性魔術としては、ごくごく一般的なものだ。
その難易度は初級レベルであり、土属性魔術師ならば子供でも使える程度の術式である。
但し、Sランク数十人分の魔力を用いる事によって、国を覆いつくす規模で行われている。
海から大地から、莫大な砂が立ち上がった。
それは流動しながら、国土を覆い隠していく。
空から降り注ぐ、悪意から守るように。
「さて、幾らか入り込んでるね。
まぁ、それくらいは何とかして貰うか」
防壁を維持するだけで、香織は既に手いっぱいだ。
今も、目の前に現れた流動する砂の壁を破壊せんと、攻撃が集中している。
それを随時修復していくだけで、魔力がガリガリと削られていた。
少しでも油断すれば、すぐにでも穴が開いてしまう事だろう。
「とっとと動きな、馬鹿ども」
呟いた直後、僅かに入り込んでいた敵勢と、砂流壁に取り付いて突破せんとしていた大群が、無数の斬撃と雷撃によって同時に薙ぎ払われた。
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「五郎さん、行ってきなさい」
アラートの中、帝は《千斬》に対して命令を下す。
「……よろしいのですか?
帝宮の守護が手薄になりますが」
「構わないでしょう。
建物はまた建て直せば良いだけです。
国土と国民が無事なら、幾らでも再起できますよ」
「承知しました」
一礼した彼が顔を上げると、その姿が変化する。
公務用のスーツから、純白の死装束へと。
腰には一対の刀と脇差が差されており、《千斬》真龍斎の本気の戦闘態勢だ。
装束も刃も、特にどうという事のない素材で出来ている。
素材だけは。
異常なのは、その製造過程だ。
それらは製造される段階から真龍斎の魔力に浸し、馴染ませながら今の形へと織り込まれ、鍛造された。
それは、全くそうと意図も理解もしていなかったが、《マギアタイト》の製造法と酷似している。
彼は原始的かつ直感的に、それを成し遂げていたのだ。
半世紀近い長年の愛用の甲斐もあり、これらの品々は更なる進化を遂げており、彼が使う限りにおいて、頑強な鎧と無双の刃へと変貌する。
「では、行って参ります」
帝からの返答も聞かず、真龍斎は全力の魔力強化を施しながら、駆けだした。
後先考えていない、最初からトップスピードだ。
彼にはそれが可能となる。
《千斬》には、派手な魔術は存在しない。
ただ近付いて、ごく普通に斬り裂く。
それ以上の何かなど、何もない。
それはつまり、魔力消費が非常に少ないという事。
魔力を投げて、そのまま消費してしまう放出系に比べ、身体強化は内に留めて循環させる分、圧倒的に低コストなのだ。
加えて、彼が達人である事と水属性である事が、消費を極限まで抑え込む。
動きの無駄を排し、必要な力を必要な分だけ取り出せる体技と、水属性による魔力強化の特徴であるエネルギー消費の抑制という点が合わさる事で、彼の魔力及び体力消費速度は、自然回復速度を下回ってしまう。
永久殺戮機関。
《千斬》山田〝真龍斎〟五郎は、集中力が切れない限り倒れない不倒の武人なのだ。
国囲いの壁を見上げた真龍斎は、内部に入り込んでいる敵勢を認識すると、空に足をかけた。
魔力強化体技《翔爪》。
風に乗るのではなく、火で推進力を得るのではなく、美影のように圧倒的速度と脚力により大気を踏むのではなく、宙に漂う砂塵や埃など、ごく微小な足場とも言えないそれらを、足場とする絶技。
空へと駆け上がりながら、真龍斎は情報端末を操作し、送られてくる内容を見る。
「首都上空に最初に開いたのは、不幸でもあるが、幸いでもある、か……」
開いた異界門は、直上の一個だけではない。
それは感覚として察知していたが、第三者からの情報でも確定した事で、彼は呟いた。
首都の上空、という突然に心臓を突かれるに等しい状況ではあるが、心臓部だからこそ自分たちのような守護者が常駐していた。
そのおかげで、即応する事が出来る。
一般戦力しかいない地方では、こうはいかなかっただろう。
確実に後手に回り、大きな被害が出ていた筈だ。
「ともあれ、第一波は我々で凌がねばな……!」
塞がれた天の壁を内側から突破しようとしていた一団が、真龍斎へと気付いた。
口々に威嚇の声を上げながら臨戦態勢を取り、それぞれに攻撃を放ってくる。
第一波からして、Sランクすら混じっている。
張られた弾幕は強力で、躱す隙間はない。
故に、真龍斎は刃を抜き放った。
《千斬》流魔力強化剣技《破魔之刃》。
魔術の核を見抜き、刃で斬り裂くという、言葉にすればそれだけの秘技。
だが、戦闘速度の中で正確に弱点を見抜き、寸分違わず撃ち抜く精度が求められる、高等技能だ。
弾幕を切り開いた彼は、遂に剣の間合いへと敵勢を捉えた。
瞬閃。
無数の斬撃を見舞っていく。
殺すだけなら、執拗とも言えるほど細切れにしてしまう。
高天原の一件で起きていた事例の教訓だ。
頭を落としただけでは、心臓を貫いただけでは、止まらない個体がいたのだ。
だから、念入りに刻む。
内に入り込んでいた一派を全て排除するのとほぼ同時に、分厚い砂流壁を貫いて巨大な雷鳴が轟いた。
「美影嬢か。こういう状況では頼もしいな」
自分にはない広範囲の殲滅力を有する彼女は、莫大と言うべき敵戦力を相手取るには心強い存在だ。
普段は頭痛ばかりさせてくれる娘だが、こういう時にはいてくれるだけで安心感が違う。
「では、せめて私もこの一角くらいは守り切ろう……!」
香織に連絡を入れて、一時的に砂流壁に穴を開けて貰って外へと出る。
その穴を目ざとく見つけた敵勢を刻みながら壁の外へと出た彼が見た物は、宙に残る黒雷の残滓とそれに焼かれた炭屑が流砂に飲まれていく光景だった。
彼は、砂流壁の上へと立ちながら上空へと名乗りを上げた。
「我が名は、山田〝真龍斎〟五郎!
我が身、我が剣が折れぬ限り、この地は踏めぬものと思え!」
言葉と同時に、魔力を高鳴らせ、注意を惹きつける。
名乗りが通じた訳ではないのだろうが、そのおかげで倒すべき敵の存在を見つけた者たちは、夥しい数を以て真龍斎へと殺到した。
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「来た来た来た! やっぱり、こうなったね!」
警報を聞いた美影は、セントラル・タワーの外壁に張り付き、本土の方角へと視線を向けながら凶悪な笑みを浮かべる。
予想通りの展開に、彼女は内心で自画自賛の言葉を贈った。
幾ら強化しているとしても、肉眼で見る距離ではない。
地球は丸く、位置関係として不可能なのだ。
だというのに、彼女は確かに敵の出現を察知していた。
『太平洋上にも異界門を確認したわ。
どうも世界中で同時に発生しているみたいね』
通信機から姉の声が聞こえてきた。
美影は、それに楽し気に応じる。
「みたいだね!
じゃあ、僕は前哨戦のウォーミングアップに行ってくるから!
この辺りはお姉に任せたよ!」
言うだけ言って、彼女は通信機を放り捨てる。
どうせ美影が全力を出せば、近場の電子機器は問答無用で壊れしまう。
だから、それはもう必要がない。
龍の描かれた懐中時計を取り出し、全リミッターの解除を行う。
轟く雷鳴。
空へと立ち上る黒き稲妻。
美影は、身をたわめた。
足に力を入れ、狙いを定める。
跳ぶ。
溜めた力を解放した彼女は、一歩目から音速を越え、三歩目にして雷速へと至った。
《黒龍》顕現。
異常速度の怪物は、瑞穂国土を縦横無尽に駆け巡っていく。
砂流壁に張り付いていた第一陣の敵勢は、自分たちが何に殺されたのか、どうやって殺されたのか認識する事なく、炭屑となって殲滅されたのだった。
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「全くもう……。あの子はせっかちなんだから」
緊急事態だからこそ、慌てず騒がず、的確に行動しなければならないというのに、美影は周辺の異界門を放置して本土へと向かってしまった。
自分が信頼されている、という事なのだろうが、こちらはまだ戦闘準備ができていない。
ついでに第一波くらいは片付けて行ってくれれば良いのに、と不満に思わないでもない。
「美雲! 先に出るぞ!」
生徒会室に同席していた久遠が、焦った顔で言う。
彼女の命の能力は、大軍を相手にする事に適した能力だろう。
周辺の大気や海水を全て自身の生物にしてしまえば、即席の命知らずな軍隊の完成なのだ。
この状況では、非常に頼もしい戦力である。
だが、それに待ったをかける声があった。
「お前には別に役目がある。そんな事に労力を使うな」
虚空から、ずるりと一人の青年が出現し、駆け出そうとしていた久遠の頭を掴んだ。
刹那である。
彼は、美雲へと爽やかな笑みを見せながら手を上げる。
「やぁ、賢姉様。サプライズなお祭り騒ぎだな!」
「全くよ。まだこっちはドレスアップも済んでないのに、無粋な連中だわ」
「うむ。我が愚妹も、流石は愚妹と言うべきか、偉大なる賢姉様を放置して行くとは、実にけしからん。
代わりと言っては何だが、周辺の第一陣は私が念入りに握り潰しておくから安心してくれたまえ」
「あら、ありがとう。助かるわ」
和やかに姉と言葉を交わした刹那は、掴んでいる久遠へと視線を向ける。
「お前は自らの妹を張り倒す事に集中したまえ。
それ以外の役目など期待していない」
「だ、だが、あいつはまだ何処にいるかも分からんぞ!?」
「愚問だ。私がお前の下に放り込んでやるから、それまで精々準備していたまえ」
それだけ言って、それ以上の問答は無用だとばかりに久遠を何処かへと転移させてしまう。
「……何処に送ったの?」
若干、友人を不憫に思いながら、美雲が訊ねると、刹那は堂々と答える。
「うむ。南極だ!
あそこなら人がいない!
存分に暴れられるというものだ!」
「彼女、火の術士よ?
南極が溶けちゃわない?」
久遠の全魔力を賭してもそんな事にはならないだろうが、それでも一角程度は溶け落ちかねない。
それを懸念して美雲は問うが、刹那はどこ吹く風で応じる。
「まぁ、大丈夫だろう。
その場合、リネット・アーカートでも放り込んでやれば良い。
最悪、私が出向けば何の問題もないしな」
アバウトな対応に溜息を吐きたくなるが、今更なので美雲は気にしない事にした。
「では、賢姉様。私はこれにて失礼させてもらうよ。
貴女もお祭りを楽しんでくれたまえ!」
それだけ言って、彼の姿が消える。
直後。
デスク上の端末に映し出されていた周辺の敵陣の分布が、一つ残らず消滅した。
まるで、全てが幻だったかのように。
「なんだかんだで、弟君は仕事が早いのよねぇ。
だから、あんまりきつく怒れないんだけど」
やるべき事は確実に迅速に行う。
その上で、余計な事を画策している。
基本的に、余力を使っているだけであり、致命的にはならないラインを見極める小賢しさもあり、怒るに怒れないのだ。
「まぁ、良いわ。私も参加させて貰いましょうか」
美雲は、鍵状のデバイスを取り出す。
それに魔力を込めながら、デスクの一角に備え付けられた鍵穴へと差し込んだ。
世界会議にて太平洋上の迎撃は、瑞穂統一国の担当と決まった。
その結果、美雲がお鉢が回され来た。
彼女ならば、単独で広大な太平洋をカバーできると、そういう判断が下されたのだ。
その力が、発現される。
起動キーを受けた事で、高天原の表層区画が反応した。
先日の異界門事件で破壊された高天原表層部。それを再建したのは、雷裂の寄付金であり、《サンダーフェロウ》の傘下企業たちだ。
再建された各所に仕込みをするくらい、訳はない。
圧縮されていたデバイス群が、本来の質量と形を取り戻してその姿を見せていく。
《無敵要塞マジノライン》。
そうと名付けられた力が、高天原という構造体を基礎にして顕現した。
「さぁ、撃ち落としていくわよ!」
制御システムと接続した美雲は、太平洋を俯瞰しながら気合いを入れた。
今更思い浮かんだ設定。
Q:何で先進国以外に魔王っていないの?
A:生まれていない訳ではなく、先進国に流出したり、調子こいた結果、殺されたりしているだけです。
偶然、生まれるSランクは、魔道先進国以外の土地でも生まれます。
ただ、そうした国では充分な支援が出来ません。給料も段違いですし、各種特権も先進国に比べれば遥かにしょぼいのです。
なので、より良い場所に流出してしまうのですね。
無論、郷土愛などで離れない者もいますが、魔王用の教育ができない為、どんなに上等でも精々リネットくらいにまでしか成長しない、という悲しい現実が。
あとは、力があるからと調子に乗って盛大にやらかし、結果として疎まれて暗殺されてしまったり、迷惑に思った近隣の先進国から魔王がやってきて、正面から殺されたり、など。
そうした結果、先進国以外に有力なSランク、魔王たちがいないのです。
そんな感じで考えてみました。如何でしょう?




