野生児的上下関係
真イチャイチャ回!
前回? あれは単なる治療回だし。
「……順当な結果ね」
自分のデスクに据え付けられたモニターで、妹の戦闘を見届けた美雲は特に面白げもなく呟く。
妹の、美影の力はおおよそ知っている。
リネットの事も、短いながらも生徒会の活動の中で見てきた。
その二つを比べてみた結果から、この結末は予想の範疇内だ。
強いて言えば、美影が片腕をあげる程度にはリネットを気に入った事だけが予想外だった。
それだけだ。
「気持ち程度には儲かったけど、倍率は微妙だったし……」
当然と言うべきなのか、二人の決闘には賭け事が発生していた。
あまり情報の少ない二人である。
同じSランクという事もあって、それなりに期待はばらけたようだが、それでも此処は瑞穂の土地。
瑞穂の最高戦力たる美影の方に賭ける者が多く、倍率は低く抑えられてしまった。
おかげで、せっかくお小遣いを全額突っ込んだというのに、あまり儲からなかった。
「さてと……」
終わってしまった事から意識を切り替えて、美雲は席に座り直してデスクへと向かう。
生徒会室は、ここ最近の喧騒からは考えられないほどに閑散としている。
注目の一戦という事もあって、皆が仕事を放棄して大画面が複数個も設置され、様々な角度から観戦できる各所の大講堂へと集まっているのだ。
普段、手段を選ばない問題児たちも、そちらへと意識が向いていて今は大人しくしているから心配はない。
だからこそ活動しよう、という筋金入りもいるが、そちらには復帰した久遠が対処しているから、やはり問題はないのだ。
なので、生徒会長としての仕事はない。
だからと言って、やる事がないという訳でもない。
コンソールを叩いて準備を整えた後、デスクとコードで繋がった機材を取り上げる。
薄い金属製のチョーカーのような見た目をしている。
それを首に巻けば、機材が起動した。
「んっ」
チョーカーに赤いランプが点灯し、薄い皮膚を通して脊椎神経と接続される。
機械と脳が直に接続される。
それと並行して、雷属性魔力を編み上げて情報伝達の補助とする。
確かな接続が為されている事を確認した美雲は、気合いを入れる。
「よし、と。じゃあ、お仕事しましょうか」
面倒な事だが、一度仕事を引き受けてしまった以上は、ちゃんと完遂するのが美雲の信条である。
ならば、やるしかない。
つい先日、刹那とその友達が持ってきた依頼、《エンジェル・フェザー》とやらのシミュレート情報の蓄積を行う。
完成する事はおそらく永遠に来ないだろうが、暇潰し程度にちまちまと試行を重ねていれば、その内、それなり程度には見られる物となるだろう。
美雲の意識が電子の海へとダイブする。
電子空間内に形成された北米大陸の上空で、俯瞰するような視点に立つ。
「まぁ、当面の設定としては異界門で良いかしら」
迎撃兵器である《アークエンジェル》の補助装置なのだ。
当然、その稼働シミュレートを行う為には敵の設定が必要である。
射程という意味では、相当に長く、地球の裏側に攻撃を届かせる事もできるが、それを行えば本体への負担が大き過ぎる。
その為、本土迎撃程度の出力に抑えて運用するつもりらしい。
だが、その程度の射程では、本土決戦時にしか役に立たない。
戦線というのは、普通、自国の中に作られるものではないのだから。
そこまで攻め込まれている時点で、基本的には負け戦である。
故に、他国からの侵略という仮定は、無意味とまでは言わないが、あまり実用的ではない。
それよりは、自国内に唐突に戦力を送り込まれる異界門の方が、よほど仮定の相手として最適だろう。
「それはそれで、ちょっと範囲が広過ぎるけどね」
国土の一角に一つだけ開かれる程度かもしれないし、それこそ北米大陸の全てが異界門に包まれる可能性だって考えられる。
出てくる戦力にも種類があり、そのパターンを網羅するとなれば馬鹿馬鹿しいとしか思えない。
無限の彼方にしか答えはないだろう。
「まっ、やるんだけどね」
取り敢えず、重要度の高い大都市に開門された場合から想定してシミュレーションを行う。
無数に湧き出す異形の軍勢。
地獄だか魔界だかからやってきた絶望の軍勢のようだ。
それを迎え撃つように、《エンジェル・フェザー》を起動させる。
無数に舞い上がる純白の輝く羽根。
「……見た目は綺麗ね。お友達の影響かしら」
機能としては、羽根の要素はまるで存在しない。
おそらく、この見た目はただの趣味だろう。
見栄えは大切なのだ。
刹那にそんな思考はない。なかった筈だ。
あの男にあるのは、実用性の有無だけだからだ。
機能美にばかり取り付かれ、造形美には無頓着だった。
それが変わってきたのだろう、と思う。
気付かされた要因は腹立たしいが、自分を模した自動人形を見てそうと確信した。
良い事、だとは思う。おそらくだが。
変な方向に向かわないか、若干、心配ではあるが、きっとそこまでヘンテコな事にはならないだろう。
ともあれ、本題である。
「さて、殲滅してあげるわ。
……仮想空間だけどね」
《アークエンジェル》及び《エンジェル・フェザー》が起動した。
~~~~~~~~~~
ふと首筋に空気の流れを感じた。
美雲は、仮想空間に落ちていた意識を浮上させると同時に、手首に巻いた腕時計型に圧縮されたデバイスに魔力を通す。
小型銃の形を復元させながら振り向き、彼女は銃口を向けた。
しっかりと引き金に指をかけており、即座に射撃できる状態だ。
「って、あら」
そこにいた人物を認めると、意外そうな声を上げて、美雲は躊躇なく引き金を引いた。
射出される雷封弾。
相手の顔面に見事に命中して、封印されていた雷撃を周囲に撒き散らした。
「御機嫌よう、賢姉様。今日も熱烈な歓迎をありがとう」
Bランク相当の全魔力を受けたくせに、特に傷の見られない刹那は、片手を上げながら軽やかに挨拶する。
普通の人間がこれを言えば、皮肉か何かかと受け取るだろうが、彼が心から感謝していると分かっている美雲は、笑顔で言葉を交わす。
「御機嫌よう、弟君。
来る時はちゃんと正面からやってきて欲しいのだけど」
生徒会室の形式だけで取り付けられている扉が開けられた形跡はない。
となれば、転移してきたか、もしくは相変わらず吹き曝し状態になっているので普通に飛んできたのだろう。
「ふっ、サプライズを大切にしたいと思う心だよ。
適度なスパイスは人生を豊かにするからね」
「普段の行いだけで間に合ってるけど。
むしろ、刺激が強過ぎて胃もたれする気分」
ともあれ、曲者の登場には違いないが、害はないので美雲はデバイスを収納しつつ、席に座り直す。
刹那はその背後に立ち、姉の金髪に触れる。
しゅるり、と項の辺りで結ばれているリボンが解かれた。
黄金の髪が広がり、それが武骨な手によって浚われる。
「丁寧にお願いね」
「無論だとも」
特製の櫛を取り出した刹那は、姉の髪を丁寧にブラッシングする。
何度も何度も、慈しむ様に。
その度に、目に見えるほどに髪の艶が改善されていく。
超能力治癒の効果を付与された櫛による特殊効果だ。
美貌という己の武器を認識している美雲は、普段から美容には気を付けているが、刹那と出会い、彼に懐かれて以降は髪の手入れをほとんどしていない。
というのも、刹那が彼女の髪を弄りたがるからだ。
おそらくは獣が行う毛繕いのような物なのだろう。
これが髪を痛めるような荒っぽい物であれば、美雲は意地でも触らせなかっただろうが、この様な特殊道具を用意してくるくらいに丁寧かつ効果的な物なので、彼の好きにさせている。
こまめにやってきては毛繕いしてくれるので、自分で手入れするまでもなくいつでも髪艶は美しく保たれており、美雲としては大変に満足である。
「そういえば、アメリカの方で何かしてたみたいだけど、そっちは良いの?」
「むっ。ああ、問題ない。
最低限の目眩ませは出来たからね。
重要で不審な作業は既に完了している。
それに……」
付け加えるように、悪い笑みを口元に浮かべながら続ける。
「玩具を渡しておいたからね。
色々と楽しんでくれるだろう」
「玩具……?」
またぞろ変な事をしでかしたのか、と問い詰めるように訊ねると、彼は事も無げに答える。
「ああ、私の半身だ。
ちゃんと遺伝子情報も人の物に加工しておいたから、幾ら調べても何も出ないがね。
クククッ、私に興味津々な連中なら、きっと面白おかしく楽しんでくれるだろう」
「……人の遺伝子、ね」
廃棄領域の毒素には、放射線を代表とした遺伝子を変異させてしまう物も多くある。
美影のように、時々、短時間で、という条件なら然程の影響もないが、刹那のように年単位で籠り続けていると本格的に遺伝子情報が変異してしまうのだ。
刹那の遺伝子は、既に人間のそれではない。
見た目が人間の形をしているだけで、彼の中身は完全に別種の生物と言えるほどに変わっている。
それを証明するように、無加工の彼の細胞からクローン体を作った場合、廃棄領域の超獣たちのように外見からして既存の生命体にあるまじき物となる。
おそらくは、今の刹那は変身能力などで強引に人の形を保っているだけなのだろう、と美雲は思っている。
真実は知らないし、興味もないが。
「まぁ、変な事にならないなら良いわ。
くれぐれも私の迷惑にならないようにしてね」
「ふっ、分かっているとも」
あまり信用できない頷きを、じっとりとした視線を向けて美雲は責めるが、すぐに諦めたように前を向く。
この話題はこれまで、と彼女は別の話を振る。
「それで、美影ちゃんの様子はどうだった?
意外な接戦で落ち込んでいたりしてない?」
「元気にピンシャンしているよ。
しっかりと右腕も治してきたからね」
ペロリ、と唇を舐めながらの言葉に、美雲は嫌そうにする。
「……また、食べたの?」
「美味しかったぞ」
刹那の回答に、深々と溜息を吐かずにはいられない。
超能力式治癒とて、無から有を生み出している訳ではないのだ。
ちょっとした傷程度なら問題としないが、腕の欠損のような重症の場合、強引に瞬時に再生させると対象に大いに負担をかけてしまう。
加減によっては、衰弱死する事もあり得るほどに。
故に、俊哉などは、瑠奈の治療を時間をかけて受けていた訳だ。
だが、その時間的制約を突破する方法もある。
それが美影に施した移植術だ。
無暗矢鱈とエネルギー豊富な刹那だと、五体の再生に使うエネルギーなど誤差のような物である為、負担にはならないのだ。
理屈は分かる。
大変に便利な物だとも、美雲は理解している。
しかし、と疑問に思う。
何故、食べる必要があるのか、と。
欠損部位を再現して繋げてしまえば良いじゃないか、と美雲は思わずにはいられないのだ。
尤も、その答えもしっかりと知っているが。
「…………」
無言になる二人。
決して不快ではない静かな空気の中で、美雲は視線を感じる。
髪……ではなく、肢体に対して向けられる刹那の視線。
欲望の籠められた、熱い眼差しだ。
「……男性の欲望には理解もあるし、慣れもあるんだけど、その眼は止めて欲しいわ」
美雲は、己の容姿が異性から見て大変に欲情する物だと知っている。
幼い頃から怪しくはあったが、女性らしい成長を迎えてからは男からの視線はあからさまな物になった。
大多数の異性が、大なり小なり性欲を孕んだ視線を向けてくる為、そういう物だと早々に諦めたし、それだけ自分に魅力があるのだと逆に誇らしくもあったのだが、刹那の視線には中々慣れない。
実際に触れられる位置に彼がいるから?
否。違う。
彼の視線に籠められた欲望が、性欲ではなく、食欲だからである。
「あのね、美影ちゃんと姉妹だから勘違いしてるかもしれないけど、私を食べても美味しくないと思うわよ?」
無論、性欲も混じっているのだが、きちんと法律が許すまでは、と妙な所で律儀に自制している現在、主な成分が食欲で構成されている。
捕食者の視線は、文明社会の中で生きている美雲には、中々慣れないとても縁遠い物である。
「そんな事はない。
私は愚妹を越える究極の料理人だぞ?
賢姉様の肉は美味だと確信している」
「嫌な確信もあった物ね」
言いながら、美雲は自分の胸に両手を向ける。
ちょっとばかり邪魔に思ってしまうほど、たわわに実ったそれを持ち上げながら、彼女は言う。
「これだって、ほとんど脂肪の塊じゃない。
私、あんまり運動する方じゃないから、美影ちゃんほど筋肉質じゃないし、脂身ばっかりじゃない?」
「つまり、A5を超える究極のお肉という事だね!?」
「霜降りも度が過ぎると美味しくないと思うんだけどねー」
ポヨポヨ、と手の中で脂身を弄びながら、赤身の方が好きな彼女はそんな事を呟く。
その後ろで、毛繕いも最終段階へと達していた。
櫛を片付けた刹那は、姉の髪を手に取って緩い三つ編みに束ね始めた。
「たまには気分を変えて」
「可愛ければ文句はないわ」
最後に毛先をリボンで纏めると、いつもとは少しばかり違う雰囲気が完成する。
「ふっ、完了だ。我ながら良い仕事をした」
「はい、ありがと」
感謝を告げると、首元に彼の手がかけられた。
カチリ、と小さな音と共にチョーカーが外される。
デスクにそれを置くと、刹那は姉の身体を横抱きに持ち上げた。
所謂、お姫様抱っこである。
「……また、いつもの?」
「私もたまには癒しが欲しくなるのだよ」
持ち上げられていた美雲は、応接用に設置されている大きめのソファの端に降ろされる。
その後、刹那は何やらポーズを決めると、
「変・身ッ!」
わざとらしい煙と共に言葉通りの現象を起こす。
ガタイの良い筋肉質な青年から、華奢で小柄な子供……具体的には五歳くらいの姿へと変わる。
「童子モード! 顕現!」
「……毎度思うんだけど、何で変身するの?」
「ただ賢姉様に甘えるだけでは心苦しいのでね。
将来の子育てに関する経験値をもたらすべきと思ったのだよ」
「見た目がそれでも、中身が変わらなきゃ意味がないわよ?」
「一皮剥けば、男はいつまで経っても中身は子供のままだよ」
「そう。まぁ、良いわ。
……いらっしゃい」
手を広げて招くと、子供刹那はソファの上によじ登り、美雲の膝へと頭を乗せる。
目を閉じてゆっくりと呼吸をする彼の胸を、美雲は子供にするように一定のリズムで軽く叩き始めた。
「……いつもの事だが、流石に少し疲れた。
とはいえ、妹のワガママを聞くのも、兄の務めであるからな」
「お疲れ様。
私の膝で良ければいつでも貸してあげるから、ゆっくりお休みなさい」
もはや言うまでもない事だが、刹那は雷裂の姉妹を大切にしている。
優先順位の第一位に彼女たちの安全を置いているくらいに。
だからこそ、移植治療には細心の注意を払って、大変に気を使っている。
移植という行為には、拒絶反応が付き物である。
ちょっとした違和で敏感に反応し、時として命にも関わる。
どうでもいい相手なら、ほどほどの気分で行うが、美影に対してそんな事などできない。
細胞の一つ一つ、そこに含まれる遺伝子情報に至るまで、微に入り細を穿ちという具合に注意深く、これでもかというレベルで丁寧に形作っているのだ。
いつものように適当に力を振るう、という訳にはいかない以上、それにはとても神経を使う。
僅か数分程度の作業で、疲労がピークに達するほどに。
美雲の膝の上で、刹那はすぐに寝息を立て始める。
その寝顔はとても穏やかで、安心しきっている事が窺える。
「これじゃあ、姉じゃなくて母親みたいね」
呟きながら、まぁそうかも、と思う。
母・瑠奈は、何処までも気分屋で遊び人だ。
愛情がある事は分かるのだが、自分自身、あまり母親らしい事をしてもらった記憶がない。
勿論、刹那も母親の愛情を彼女から明確に受けていないだろう。
家族の愛情を受けてこなかった刹那は、今更のようにそれを求めているのかもしれない。
子供の姿になるのも、本当の所はそうなのかもしれない。
本当に愛情が欲しかった時代を埋めているのかも、と思うのだ。
「まっ、単なる想像だけどね」
本心は分からない。
知ろうとも思わない。
色々と大変な所はあるが、大切な家族で可愛い弟なのだ。
甘えてくるなら受け入れるし、倒れそうなら支えてあげよう。
それが姉の務めである。
「おやすみなさい、弟君」
さらりとした、白髪の一本もない髪を撫でつけながら、美雲は小さく呟いた。
~~~~~~~~~~
「帰ったぞ……、っ!?」
一仕事終えて、生徒会室へと帰還した久遠は、目に飛び込んできた光景に息を飲んだ。
「あら、おかえりなさい」
普段と違う髪形の美雲が、ふわりと微笑んで迎える。
自分の席ではなく、応接用のソファに座っているが、その理由は一目で分かる。
「――すぅ、――すぅ」
可愛らしい寝息を立てながら、一人の子供が彼女の膝を枕にして眠っているのだ。
その為に、こちらへと移ったのだ。
久遠が衝撃を受けたのは、その子供の姿に強く記憶が刺激されたからだ。
「せつ、な……」
「ああ、うん。この子、たまにこんな感じで甘えてくるのよ。
まぁ、邪魔にはならないから気にしないでちょうだい」
五歳程度の刹那。
それは自分が見捨ててしまった時代の姿に他ならない。
面影があるとはいえ、やはり十年という歳月に隔たれた変化は、彼女がかつての悔恨を割り切るのに便利だった。
あの男は実の弟ではなく、別人なのだと思う事に、一役買っていたのだ。
だが、目の前にはそんな違和感を覚えさせない、後悔が具現化した姿と光景がある。
ズキリ、と心の奥底が痛む。
そんな事を思う資格もない、と理性では思う。
同時に、感情は嫉妬が渦を巻く。
その位置は自分がいる場所なのに、と友人と思っている女性に対して思ってしまう。
それを投げ捨ててしまったのはかつての自分なのだと分かっていても、そう思わずにはいられなかった。
美雲は、友人のそんな内心に気が付いている。
気が付いていて、放置している。
そんな嫉妬の感情を心地良いと感じるような性悪な訳ではない。
ちゃんと不快には感じている。
何か、刹那の影が垣間見える度に、久遠のこうした鬱屈とした想いが滲んでいる事も、美雲は見て取っていた。
今ほど顕著ではない為、他の者は気付いていないだろうが、それなりに長い付き合いがあり、また両者の関係を知っているが故に感じ取れてしまう。
正直、鬱陶しいと思う。
自分に正直に生きている刹那にその気がなく、彼に強引に言う事を聞かせるだけの武力も信頼も久遠が持たない以上、今以上の関係が望める筈もない。
だから、さっさと切り替えてしまえ、と他人事のように思ってしまうのだ。
ただ、どうやら刹那に一案があるらしく、近い内に片を付けるから、と言っているのだ。
だから、美雲は何も言わず、知らん振りを決め込んでいる。
(……早目にどうにかして欲しい所ね)
隠そうとして隠し切れない辛そうな表情を浮かべる友人を見ながら、美雲は内心で吐息した。
誰も疑問に思わないし、入れる機会もなくて放置している設定。
瑞穂では多重婚は合法です。刹那が雷裂姉妹を同時に娶ろうとしているのも合法。
第三次大戦の結果、人口曲線が谷底になってしまった為、産めよ増えよ地に満ちよ政策で婚姻系の法律がかなり緩く改正された。
ハーレムも可だし、逆ハーも可。終戦直後は、夫複数妻複数とかいう訳分からん家庭環境も存在していた。
現在は人口が回復して、自然と一夫一妻になっているが、法で規定されている訳ではなく、今でも法律そのものは当時の緩いまま。
なので、刹那も完全な合法です。




