解説
なんか最近、不定期更新ですな。
一週間に一度以内ではあるから、まぁいいか!
「あのメスガキ! 負けやがった!」
一人の大男が、膝を叩いて叫ぶ。
「まぁ、頑張った方だと思うが」
「《黒龍》の片腕を捥いだ事は称賛されるべき戦果でしょう」
それに対して、擁護の言葉を返すのは、二人の女性。
《ゾディアック》の三人だ。
彼らは、北米大陸西部沖合にて、一隻の小舟に腰を下ろして、先程まで開催されていた決闘を観戦していた。
周囲には軽く摘まめる軽食やら、アルコールの類が散乱しており、完全に休暇気分である。
つい先ほどまで、絶望的な戦闘を繰り広げていた彼らが何故、こんな事をしているのかと言えば、相手から休戦の提案があったからだ。
騒動を起こしておいて休戦を申し込むとか、彼らを舐め切った態度であるが、どうせ勝てる訳もないのだから、とその提案を受ける事にしたのだ。
何より、相手――刹那が申し込んだ理由である雷裂美影とリネット・アーカートの試合には、彼らも興味を惹かれる所であったから。
急遽、用意した小舟には、観戦用の機材など一つもない。
軽食の類こそ、《牡牛座》ランディが陸地まで突っ走って買い込んできたが、機械にあまり詳しくない彼では、碌に設備のない小舟の上でも観戦する為の機材を用意する事は出来なかったのだ。
だが、それは刹那が解決した。
目からビームを放ち、虚空にホログラム映像を映し出したのだ。
中身のない筈の右目からも放たれていた辺り、おそらく演出だったのだろう。
実にシュールだった。
ちなみに、真っ二つになったままである。
二つになっても生きていたり、目からビームを出していたりで、完全に人間ではないが、《ゾディアック》の面々はそういう生き物なのだと納得する事にした。
気にするだけ面倒だし。
映像は既に消えている。
映し出していた刹那(左)は、試合終了と同時に何処かへと飛んで行ってしまったから。
刹那(右)は、近くの海上で凍っている。
ここまで届いた《霜雷一閃》を阻止する為に、とっさにランディが抱え上げて投げつけた結果だ。
深く切れ込みの入った状態で凍り付いており、とても不吉な見た目をしている。
左半身の方からは文句を言われていないし、時々、ピクピク動いて不気味さを増強しているので、きっと問題はないだろう。
ランディは、舌打ちしてジョッキを大きくあおる。
「あー、全く。ほんっとに情けねぇぜ。
あんだけ手加減されて負けるとか、帰ってきたらしごいてやらにゃならんな」
「まっ、花を持たせて貰った、という時点で少しばかり情けなくもあるか」
「とはいえ、相手が相手です。カンザキの秘蔵っ子に……」
《水瓶座》クリスティアは、真の秘蔵っ子(の断片)を見る。
人間ではない事を確認し、一つ頷きを入れて続けた。
「あれだけ健闘したのです。
鍛え直すのも良いですが、まずは褒めてあげましょう」
「……まぁ、それも必要だわな」
絶対に勝ち目のない戦いに、それでもめげずに頑張ったのだ。
きちんと称賛してやる事も大切だろう。
別に嫌っている訳でもなし。
《ゾディアック》の席に空白があり、また本人にやる気がある以上、それがいつになるかは分からないが、ほぼ確実に未来の同僚となるのだ。
今から良好な関係を保っておく事は社会人として必要な投資である。
「んじゃ、暇だし、今回の良い所と悪い所の洗い出しでもしようぜ」
「それは良いですね。
帰って来た時に考えるよりも、今から準備していた方が、彼女にも良い事でしょう」
早速とばかりに、酒を片手に話し合う姿勢を取るランディとクリスティアに、《乙女座》プリシラは若干、呆れたような視線を向ける。
「おい、お前ら。それは良いが……我らの仕事を忘れてないか?」
近くで凍り付いている怪物をどうにかしないか、という提案をする真面目な彼女に、二人はやれやれとばかりに首を振る。
「お前ってやつは、物を知らん奴だな」
「全くです。極東にはとても良い諺がある事を知らないのですね」
「……腹立つな。何が言いたいのだ」
ランディとクリスティアは、示し合わせた訳でもないのに口を揃えて言う。
「「触らぬ神に祟り無し。無視してろ(しなさい)」」
「言わんとする事は分かるのだよなぁ」
本音では、プリシラもそうしたいと思った。
だから、彼女は何も知らず、見なかった事にして酒盛りに加わるのだった。
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「下らん見世物だ」
場所は変わって、欧州の一角。
先進国会議を行っているここでも、二人のSランクによる激突は視聴されていた。
真面目な会議の息抜きという名目である。
終結した後で、最初に言葉を放った人物は、ヴラドレン神であった。
彼は、つい先日にも美影と衝突しており、今現在の彼女の力の程をおおよそ知っている。
だからこそ、今の戦闘が、あまりに手抜きした結果だと分かる。
故に、下らないと吐き捨てた。
「……あー、まぁ、ウチの娘っ子が負けるのは予想通りなんだが、実際のところ、どうなんだ?
素人目には結構頑張ってたように見えたんだが……駄目そうか?
なぁ、おい」
「話になりません、大統領」
スティーヴン大統領の問いに、背後のジャックは簡潔に答える。
大統領は、自称通りに素人である。
専門家でもなければ、マニアですらない。
故に、勝った負けたくらいは見れば分かるが、具体的に良い所、悪い所、という部分は全く分からない。
ジャックの言葉は分かるが、何がどう話にならないのかが分からない彼は、更に訊ねる。
「じゃあ、ちょいと解説してくれねぇか。素人にも分かるようによ」
「御望みとあらば」
了承したジャックは、モニターを操作し、最初の場面を映し出す。
リネットが美影の突撃を逸らしたシーンである。
「まず、ここです」
「結構、上手い手だと思ったんだが、駄目か?」
「駄目です。
何が駄目なのかと言えば、一つは術式構築の遅さですね」
操作し、別画面に一風変わった画像を映す。
それは、魔力を観測した画像だった。
試合開始時点では、美影はほとんど魔力を練っていない一方で、リネットは全身に魔力を漲らせている事が、それから読み取れる。
「このように、フライング気味に臨戦態勢を取っているというのに、後出しで魔力を練った彼女に後れを取っております。
ミカゲ嬢が最速の魔王だという事を差し引いても、あまりに遅過ぎます」
「そりゃあ、あのビリビリ娘の不意を突く為じゃねぇのかよ、おい」
「そんな事をするくらいなら、全周防御を即座に張った方が良いです。
実際、最初の華を持たせて貰った場面はここなのですから」
「そうなのか?」
少しばかり画像を進め、美影の初撃が逸らされたシーンを映し、更にそこから美影の視線を拡大する。
「見てください。完全に反応できています。
もしも、これが死闘であれば、ミカゲ嬢は即座に第二撃に繋げていた事でしょう」
最速の魔王とは、単純に最高速度だけを指して言ったものではない。
反応速度においても、美影は隔絶している。
雷属性魔力を用いた、肉体の神経ネットワークに依存しない独自の命令系統を構築している彼女は、世界を見てから、それを行動に反映するまでのラグがほぼ存在しない。
外れる、と分かった瞬間には、次の行動に移っていないとおかしい、とこの場にいる魔王たちは知っている。
にもかかわらず、彼女は拳を外したまま、何をするでもなく、氷に絡め取られて空高くその身を攫われている。
リアルタイムで見ていた時は、追撃をしない彼女に対して、真剣に戦え、と内心で思っていた。
続いて、氷の刃を構築している場面が出される。
「ここも問題です」
最初は氷塊だった物が、改めて刃の形に直されているそれを指して、駄目出しが行われる。
「芸術的拘りを持つのは良いのですが、あまりに無駄が過ぎます。
再形成の為に余分な魔力を消費しており、継戦能力が著しく下がっています」
わざわざ造り直している事で、二倍の魔力を消費していると言っても過言ではない。
それをするくらいならば、氷塊のままで使うか、最初から刃の形で形成しておけ、というのが正直な感想だ。
「そして、まぁ、普通の軍勢を相手にするにはこれでも充分ではありますが、ミカゲ嬢を相手にするにはあまりにも隙間が多過ぎます」
弾幕が薄いと言う。
映し出すのは、美影が片っ端から刃を砕いているシーンだ。
当たらない物まで砕いている様子は、手抜きをせず、丁寧に相手の手数を潰しているようにも見えるが、わざわざ当たらない物にまで当たりに行っているようにも見える。
「彼女の速度ならば、全ての隙間をすり抜けて本陣をひたすら叩き続ける、という事ができる筈です。
雷の速度で駆け回る相手には、一瞬ですら隙間があってはならないのです」
同意を求めるように、ジャックはヴラドレン神を見やる。
「先日、ヴラドレン様が彼女とやり合った際にも、そうしております。
超広範囲を同時爆破する事で、彼女を逃がさなかったのです」
「…………フン」
ヴラドレン神は、空属性によって広域の空間を連結させ、自爆覚悟で周辺一帯を一瞬のズレすらなく爆破する事で、美影に有効打を与えていた。
そうでなければ、捉えきれないからだ。
僅か一瞬でも猶予があれば、彼女は安全圏まで退避してしまう。
僅かな隙間があれば、それを潜り抜けてしまう。
だからこその苦肉の策だ。
美影の耐久力が己よりも低い事を利用した戦法である。
そうして見れば、リネットの弾幕はあまりに隙間だらけだった。
人一人分の隙間もなく敷き詰めなければならない相手に、あまりにも少な過ぎる。
これでは避けてくれ、と言っているようなものだ。
「わざわざ砕いてみせたのは、そちらの方が見栄えが良いからでしょう」
「でも、この後の鉄槌は食らってんじゃねぇか、おい」
「痛くもかゆくもないからですね」
切り裂こうとしたように見えた氷槌だが、食らっても問題ないから見栄えがありそうな手段を取っただけと見られる。
本当に危ない物であれば、彼女は迎撃ではなく回避を選ぶ。
そうしなかったという事は、それほど、脅威を感じなかったのだろう。
その証拠に、氷槌に潰された後に出てきた彼女は、碌に傷ついた様子を見せていなかった。
「ちなみに、地味というか、ひっそりと超絶技巧がここで披露されています」
そう言って、先程の魔力観測画面に切り替えてみせる。
黒雷の爆裂で氷槌を砕いた後に、拡散した魔力が美影に向って収束しているのだ。
まるで、放出した魔力を再利用するように。
「「「はっ?」」」
これには、素人な指導者勢だけでなく、詳しく彼女の事を知らない魔王たちも呆気に取られていた。
「あーあー、何だ。あー、何なんだこれ」
「見ての通りです。放出した魔力を回収しているのです」
「……出来んの? そんな事」
「出来るのでしょうね。こうしてやっているのですから」
普通は、体外に放出した魔力を回収するなど、出来ない。
体内という、自分だけの世界で魔力を扱うのとは違うのだ。
自身と放出した魔力との間にある、様々な不純物によって接続がかき乱され、千々に切れてしまう。
また、魔力自体が、外部に触れてしまう事で多少なりとも変質してしまう為、それを受け入れれば、自身の魔力と反発してしまい、自爆する事になるのだ。
だが、そんな馬鹿げた事を、美影は何食わぬ顔でさらっとやっていた。
この技術の基礎は、分かる。
「おそらく、同僚であるタケル・キクチの技を模倣しているのでしょう。
彼もまた、自身の魔力とは違う魔力を一時的に受け入れる術を持っていますから」
「いや、言うのは簡単だが、やって出来るもんじゃねぇだろ……」
大統領の言葉に、この場にいる魔王の全員が頷く。
《流転》菊池武の技は、技だけで魔王すら殺せるという事もあり、どの国家でも一通り研究されている。
もしも、この技術を習得する事が出来るのならば、魔王という存在の重要性が変わるからだ。
その結果として、個人のセンスに依存し過ぎて、体系化して不特定多数に習得させる事は不可能だという結論に達している。
幾人もの被験者が実践し、虚しく失敗に終わってしまった。
それを模倣するどころか、自分流にアレンジして実行するなど、神業に等しい。
たとえ、同僚として技のコツを教えて貰えたのだとしても、だ。
皆が戦慄している中で、更に信じられない事実を知る真龍斎は、内心で吐息する。
(……まさか、見ただけでやっているなどとは、誰も思わないだろうがな)
武の奥義なのだ。
幾ら同僚だからと言って、おいそれと教えてくれる訳もない。
美影は、見て、体験し、それだけで習得に至っているのだ。
彼と同じ精度で同じ事が出来る訳ではないが、そこは自分に役に立つように改変されているが、それでも驚愕の現実である。
「解説の続きですが、次は氷華の場面ですね。
これも、遅い事が問題です」
落ちてくる雪に触れれば、それがどれ程の高温であろうとも、たちまち凍り付いてしまう。
確かに強力な魔術だが、問題は自然落下の速度であるという事だ。
「まぁ、試合のルールに則って、効果的な攻撃をしていた、とも言えますが、通常ではミカゲ嬢には通用しません」
今回は試合であり、周辺環境への被害を考えて、会場の範囲が明確に定められていた。
故に、範囲外に逃げるという選択が美影にはできなかった。
これが通常の戦場であれば、自然落下程度の速度ならば、範囲外まで逃げてしまう事も出来ただろう。
「もっと射出する形にでもして、速度を上げないとあまり効果的とは言い難い魔術ですね。
貫通性も低いようですから、屋根でも作ればそれだけで防げるでしょう」
「ボロカスだな」
「見栄えが良いくらいですかね、利点は」
今度は、美影が《霜雷》の剣を作っている場面だ。
「はっきり言って、恐ろしいの一言なのですが……ミズホの方々。これはやはり、タケル・キクチの?」
「ええ、まぁ。彼の技ですね」
真龍斎が、曖昧に肯定する。
確かに、これは武の技だ。
先程の改変した形ではなく、限りなく源流に近い形での運用である。
だが、これは見せ技だと彼は知っている。
美影は、自身の魔力への制御能力はとんでもなく高いが、他者への魔力に関しては然程でもない。
今回は、空に長々と浮かんでいたおかげで時間をかけて掌握する事が出来ているが、現実的な高速の戦場ではとてもではないが使い物にならないのだ。
とはいえ、それは言わなくても良い事である。
せっかく瑞穂の魔王を恐れてくれているのだ。
わざわざそれを否定して、安堵を与えてあげるほど、真龍斎は優しくもなければ、祖国を嫌ってもいない。
「そして、最後の場面ですが……」
飛び掛かったリネットが、美影に組み付く場面を見せると、ジャックは苦い顔をする。
「ここも手加減の結果ですね。
彼女を知っている身としては、何で躱さないのだと苦言を呈したくあります」
彼女の反応速度ならば、充分に回避できた筈なのだ。
軽く躱して、適当に一撃を打ち込む。
それが彼の想像する美影の対応であり、みすみす組み付かれる等という醜態を晒す筈がないのだ。
だというのに、それをしたというならば、それはわざとであるとしか思えない。
試合を盛り上がらせる為の演出だ。
「Sランクとはこれ程に凄いのだ、と世間に知らしめる為なのでしょうが、まぁ知っている身としてはあまりにわざとらし過ぎますね」
「つまり……」
「総じて、手加減手抜きのオンパレードです。
結果として右腕を捥がれておりますが、ミカゲ嬢の損耗はほとんどないでしょう。
あの状態からもう一度万全のリネットと戦っても、問題なく彼女が勝利できるでしょう。
ヴラドレン様が下らないと評されるのも、無理からぬ事です。
というか、私も同意します」
魔力回収という尋常ならざる技もあり、美影はほとんど疲労していないのだ。
すぐさま再戦しても何ら問題としないだろう。
「じゃあ、結論。リネットの課題を纏めてみろ」
「魔力及び魔術の制御能力が決定的に足りていません。未熟です」
「たはは、けんもほろろだなぁ、おい。
こりゃあ、まだ《ゾディアック》の席をやる訳にはいかねぇか」
「それが良いでしょう。将来に期待です」
嘘などではない。
ここまでこき下ろしているが、年相応と言えば年相応であるし、リネットは充分に将来性に期待できる才人だ。
まだ十代半ばという若年にもかかわらず、自分たちのような先達と平然と張り合い、あまつさえ勝ち得る美影の方が異常なだけだ。
「この経験を糧に、腐る事なく精進すれば化ける可能性はありますよ」
「ああ、期待しているよ」
でなければ、わざわざ色々な所に借りを作ってまで、リネットの為に機会を用意したりなどしていない。




