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北米大陸、改造中♪

某鉄男な社長のシーンで何が好きかって、一人で無言でこつこつと開発作業しているシーンです。

バトルとかよりもそっちの方が好き。

「百! 百でどう!?」

「テメェ、ショタ!

 安過ぎんだろうが! 桁が違うぞ、おい! 十万!」

「それはボッタくり過ぎでしょ! 二百!」

「桁が違うっつってんだろ! 九万九千!」


 異界門封鎖術式の価格交渉で白熱するスティーヴン大統領とヴァレリアン皇帝を横目に、ルドラ国王は帝へと接近する。


「どうでしょう? 異界門に関する情報、売っていただけませんか?」

「我が国はそれでも構いませんが……合衆国に頼んだ方が手っ取り早いのでは?」


 刹那と美雲という、問答無用で異界門を封鎖できる特異技能者がいる為、瑞穂統一国での封鎖術式開発は優先順位が低い。

 その為、いまだ完成品と呼ぶにはお粗末な試作品しか出来上がっていないのだ。


 一方で、アメリカ合衆国にはその手の技能者がおらず、ゴリ押しできる空属性の魔王もいない。

 故に、一般的な空属性魔術師だけで封鎖できる手段は、ほぼ最優先事項に等しく、そのおかげでシミュレーション上では確実に封鎖できる、という評価にまで達した術式が早くも完成している。


 わざわざ原データを入手し、自らで一から開発するよりは、完成品を買った方が時間的にも労力的にも安上がりである。


 そう思って帝は言ったのだが、ルドラ国王は首を横に振る。


「いえいえ、我が国にはガウリカがおりますから。

 一般向けの術式は効率的ではないでしょう」

「…………」


 背後の女性魔王――ガウリカが小さく会釈する。


 彼女は、空属性を有する魔王だ。

 空間を操るスペシャリストであり、大雑把な術式でも、極大化する魔王の特性によるゴリ押しで大抵の空間異常ならば封殺できるだろう。


 確かに、と帝は頷く。


 魔王ガウリカは、若くして《天龍八部衆》の筆頭の座を奪い取った才媛だ。

 こと空間に対する理解ならば、世界で一、二を争うほどの知見を持っている。


 そんな彼女ならば、下手な完成品を読み解くよりも、元のデータから自分で組み立てた方が、よほど効率的な術式を作る事ができるだろう。


「それに、あのヤンキーに頼むのは屈辱ですし」

「おいこら、聞こえてんぞ小デブ! 喧嘩売ってんのか、テメェ!」

「おっと、野蛮人に聞こえてしまいましたか。

 ああ、また。いけませんな。

 ついつい本音が出てしまう正直な性分で」

「政治家向いてねぇんじゃねぇの?

 とっとと隠居してろよ。なぁ、おい?」


 青筋付きで凄むスティーヴン大統領と、それを薄い笑みで受け流すルドラ国王。

 ヴァレリアン皇帝はその隙に好き勝手な事を書き連ねた契約書を作成し、スティーヴン大統領のデスクの中に紛れ込ませようとしている。


「テメェも小細工しようとしてんじゃねぇよ!」

「チッ。バレたか」


 速攻で見つかって破り捨てられていたが。

 まるで悪びれていない辺り、幼くとも政治家らしい図太さをしっかりと身に付けている。


 あっちもこっちもハイエナみたいな連中に集られて、そろそろ怒りが頂点に達しそうになっていたその時、スティーヴン大統領の懐から電子音が響いた。


「ああ、タンマ。電話だ」


 携帯端末を取り出して耳に当てるスティーヴン大統領。


 切り替えが上手いのだろう。

 今の今まで声を荒げていたというのに、電話口の口調はとても穏やかなものだった。


 だが、それも僅かな時間だけだった。


「ああ!?」


 突如、変貌したように派手な青筋が額に浮かび、声もドスの効いた穏やかならざる物へと変貌した。


「ああ、いや、お前に言ったんじゃねぇよ。

 むしろ、お前はよくやった。

 きっちりと察知して知らせてきたんだからなぁ、おい」


 スティーヴン大統領は、堪えきれない怒りを、努めて押し殺しながら絞り出すように言う。


「ああ、ああ。一応、阻止してくれ。

 駄目かもしれんが、まぁ頑張ってくれ。

 失敗しても責めたりしねぇから。ああ、頼んだ」


 短い時間で通信を切った彼は、憤怒という表情を隠しもせずに、帝へと向ける。


「なぁ、おい。帝さんよぉ。

 オレの言いたい事、分かってくれるか? なぁ、おい」


 瑞穂統一国に関連して、スティーヴン大統領がこれ程に感情を顕わにする出来事など、帝には一つしか思い浮かばなかった。

 だから、彼は平然と言う。


「はて。何かありましたか?」

「すっとぼけてんじゃねぇぞ、ボケ老人が!

 テメェんとこの阿呆がうちの国に侵入して何かやり始めてんだよ!

 テメェで止めてきやがれ!」

「私が言っても彼が止まる訳もないじゃないですか」


~~~~~~~~~~


「地球よ、私は帰ってきた」


 少し振りに、地表へと足を付けた刹那は、なんとなくそんな事を呟いた。

 傍らには、サラの姿がある。

 彼女は端末を操作し、北米大陸の地図を参照していた。


「さぁーて、じゃあ、手筈通りに手を付けていくのだよ?」

「うむ。それが良いな。

 貴様は公権力を駆使して堂々と事を行いたまえ」

「お人形ちゃんたちは、こっそりと各地に散って貰うのだよ」

「そして、私は囮として《ゾディアック》の連中と遊んでやろう!」


 彼らが話し合っているのは、《アークエンジェル計画》及び《ラグナロクシステム》の構築作業についてである。


 おおよそ形が完成し、構築作業に移れる段階に達し、また月面にいた理由の大半を占める久遠の訓練も、最低限、周囲に迷惑をかけないレベルにまで到達した為、彼らは地球へと帰還していた。


 途上で、高天原にも寄っている。

《アークエンジェル》の運用データの収集を美雲へと依頼するついでに、久遠を送り返す為だ。


 久遠は彼女の新型デバイスに括り付けて高天原近海に落っことしておけば良いので、さしたる手間ではなかったのだが、問題は美雲の方だった。


 顔を出した瞬間、両手にガトリング砲を装備した二丁拳銃(?)スタイルで大歓迎されたのだ。

 しっかりと電磁加速された実弾である。

 油断していた所為でかなり痛かったし、サラに至っては粉々で全身の細胞ナノマシンの約半分が焼き切れたらしい。

 ちなみに、勢い余って《セントラルタワー》の階数が一個減ったが、それは御愛嬌である。


 何故、そんな理不尽な暴挙をするのだと訊ねれば、厄介事を持ってきた気配を感じたから先払いで制裁を施したのだという話だ。

 言わずとも伝わっている姉弟の絆を感じられて、刹那はとても感動していた。

 本当に厄介事を持ち込んでいるのだから、ぐぅの音も出ない。


 ともあれ、分かっているのならば話は早いとばかりに、《アークエンジェル》の概要を説明し、補助システムである《エンジェルフェザー》の運用シミュレーションを頼み込んだ。


 この作業は、はっきり言ってあまりに面倒くさいものだ。

 砂漠の砂粒を、一粒ずつ数えていくような、そんな果てのない地獄のようなものである。


 当然と言うべきか、美雲は渋った。刹那は土下座した。その上に、美雲は座った。

 流れるような自然な動きだった。

 ちなみに、それを目撃したリネットはドン引きしていた。

 足元では原形を留めないサラの成れの果てが蠢いていて、直後には悲鳴を上げて逃げ去って行ったが。

 サラを凍らせつつ。


 ともあれ、粘りに粘って、やんややんやと煽てて、なんとか協力を取り付ける事に成功した。


 その後、一緒に持ってきていた美雲型自動人形を見つけられて、雷封弾の早撃ちで即座に破壊され、二人は高天原から叩き出されたりしつつ、なんやかんやと北米大陸に侵入を果たしたのだ。


 これがここに至るまでのおおよその経緯である。


「さて、では手早く済ませよう。

 放置プレイ中の女怪がいつキレるか分からん」

「はいはい~。お任せあれ、なのだよ~」


 二人の背後には、刹那がテレポーテーションで月面から持ち込んだ、必要となる大量の資材一式と、作業を手伝う大勢の自動人形が綺麗な隊列を組んで並んでいた。


~~~~~~~~~


 自動人形の一隊は、北米大陸のほぼ中心部に向かっていた。


《アークエンジェル》は、迎撃装置である。

 規模と出力を考えれば、何処に設置していようと誤差の範囲に収まるが、やはり全方位に向かって睨みを利かせられる中心が、本体の設置場所として相応しいと判断された。


 地脈の流れを上手い事汲み出すならば、星の息吹である活火山の近くの方が容易なのだが、ここは防衛的見地から選択されたのだ。

 それに、《アークエンジェル》は元々、純粋魔力をエネルギーとして稼働する計画だった。

 サブ出力としてその機能は残してある為、そちらを利用する場合はやはり中心点に置いた方が効率が良い。


 地脈そのものは、地球上の何処にでもある。

 細い太い、浅い深いの違いはあるが、流れていないポイントなど何処にも存在しない。

 だから、手間はかかるが、重大な問題は発生しないのである。


 到着した一隊は、会話も目配せもなく、即座に作業に移る。


 作業手順はメモリーにインプットされており、彼らのAIはそれぞれにリンクしている。

 言葉を交わすまでもなく、一個の生命体のように連携して動ける能力は、彼らのような作業用自動人形には標準装備されているのだ。


 荒野の中、全機でもって地脈の精密観測を行う。

 範囲内のスキャンを終了した彼らは、得られたデータから最適な地点を特定し、数体が先行してマーキングする。


 遅れて、ボーリング用の鋼杭が持ってこられる。

《マギアニウム》製の特別仕様だ。


 数体がかりで、長大なそれをマークした場所に垂直に突き立てた。


 倒れない程度にめり込んだ鋼杭を支える物はない。

 代わりに、二体の作業人形が手を翳し、劣化念力で支えている。


 人間サイズの作業人形に仕込める念力は、刹那の念力(オリジナル)に比べれば億分の一もないが、作業用程度ならば充分な出力だ。


 それに、質で足りないならば、量で補えば良い。


 支える二体の他に、八体の自動人形が鋼杭を取り囲む。

 彼らが手を翳せば、念力が鋼杭の頂点を連続して打ち据えた。

 途切れる事無く、高速に一定のリズムで鳴り響く打撃音は、まるで機関銃の射撃音のようである。


 弱い念力では、一発で稼げる距離は少ない。

 だが、数を重ねれば、一回で打ち込める深さが数㎜であろうとも、徐々に徐々に進んでいく。


 その速度は目に見えるほどであり、そう時を置かずして鋼杭の全長のほとんどが地面に埋まる。


 その頭に接続するように、同じく《マギアニウム》製の柱が繋げられ、同じように打撃を加えて埋め込んでいく。


 続けて続けて、その先端が地中奥深くを流れる、太い地脈の流れにまで届くまで、延々と。


~~~~~~~~~~


 中心部に向かった以外の自動人形たちは、北米大陸の各地に向けて、主に人のいない場所に向けてそれぞれに散っていた。

 彼らに任された作業は、銅線ならぬ《マギアニウム》線を各地に埋設する作業だ。


《アークエンジェル》は、国土を丸ごと使った広大な魔法陣によって構成される。

 当初の予定では、現在、アメリカ全土に張り巡らせている純粋魔力送電線をこっそりと拝借する予定だった。

 だが、それだけでは敷設があまりに遅く、また重要度の低い場所、特に人のいない荒野のど真ん中などには、起動させるのに必要な線がほとんど引かれない計画となっていた。


 それを補う為に、足りない分は自分で設置していく事となったのだ。


 サラの予定では、自分の研究に割かれる予算をちょろまかして、自力でこっそりと敷設していくつもりだったのだが、異常な財力と技術力を持つ雷裂の長男によって、それを力技でひっくり返された。


 月を含めた宇宙からかき集めた鉄資源を使い、また純粋魔力の開発社の特権で貯蓄していた試験用純粋魔力を流用する事で、大量の《マギアニウム》を生産する事に成功した。

 そこには、《マギアニウム》開発者であるサラがいた事による簡易生産設備の即時設置や、一部空間の時間を加減速させる刹那の超能力が火を噴いた事で出来た、奇跡のような短時間量産だった。


 物さえあるのならば、事は大きく簡単に進み始める。


 自身の研究所に戻ったサラは、刹那に託された資材を関係各所に送り付けていく。

 特殊な立ち位置とはいえ、彼女も《ゾディアック》の一席である。

 適当な命令書をでっち上げてしまえば、彼女の更に上、大統領にまで確認がされるまでもなく作業は進んでいく。


 そして、その裏で、自動人形たちは、人のいない荒野や、人口が少なく後回しとなってしまっている田舎町などを回り、誰にも内緒で線を埋め込んでいくのだ。


 全ての中心点に向けて。


~~~~~~~~~~


「…………ふっ」


 刹那は、北米大陸西部沖合の上空で、腕を組んで佇んでいた。

 下界を睥睨する彼の頭上では、雲が渦を巻いており、今にも天変地異が発生しそうな威容を放っていた。


 目立つ。とても目立つ。

 誰の目にも異常だと分かるし、そのド真ん中にいる馬鹿を見れば、そいつが犯人だと誰もが思うだろう。


《ゾディアック》の面々だって、そう思うに決まっている。


 刹那の真下。

 蒼い大海洋に巨大な渦潮が、突然、発生する。

 直径にして一㎞近くもあるそれは、周囲の水を飲みこむように中心が大きく落ち込んでおり、渦の速度もどんどん速くなっている。


 刹那はそれを止めない。止める理由がない。

 彼の役目は囮であり、目立つ事こそが望む所なのだから。

 一秒でも長く自身に向かってきてくれなくては困る。


「ほぅ、誰が来るかと思っていたが、最初に来たのは《水瓶座(アクエリアス)》だったか」


 誰がそれを引き起こしているのか、それを看破した直後、ぴたりと渦潮が消える。


 更にその数舜の後、海面が爆発した。


 真っ直ぐに立ち上る海流。

 莫大な水量を破壊的な速度で打ち上げる大災害。

 自然界では絶対に起こりえない天災である。


 魔王式水属性魔術【天衝海流】。


 実に見事な魔術であり、《水瓶座》の切り札の一つであるが、刹那は僅かに横にずれるだけでそれを回避してしまう。

 受け止めたとしても問題ない威力だが、わざわざ受け止めて心を折るような事をするつもりはない。

 適度に遊んでやらねばならないのだ。


 刹那の横を素通りした海流は、代わりに渦巻く暗雲を吹き散らし、青空と燦然と輝く太陽を見せてくれる。


 否。


 太陽ではない。

 地上へと降り注ぐ光は、太陽と、もう一つ。

 太陽と見紛うほどの光量を放つ、巨大な剣。


 掲げているのは、一人の女性。

 地属性の証である灰色の髪を、ポニーテールに結い上げた女性。

 クールビューティという顔立ちをした彼女は、その顔に厳しい表情を浮かべながら、太陽の剣を振り下ろす。


乙女座(ヴァルゴ)》オリジナル・地属性魔術【断界剣(ワールド・エンド)】。


 瞬間的に異常重力をかける事で、あらゆる物質を光速を超えて加速させ、結果、崩壊させるという凶悪な秘術だ。


「眩しいな」


 容赦なく振り下ろされる必殺の剣を前に、刹那はそれだけを呟き、直後、光の中へと消えていった。

別名は、ゴルディ〇ンハンマー……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「刹那は土下座した。その上に、美雲は座った。」 縦構造の確認って大事ですよね。 誰が真の世界の頂点か、清々しいほどによくわかる光景です。 …女怪サノバビッチにも肉薄する、人類黒歴史でもある…
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