もう止められない
記念は一回とは言っていないぞ!
訳:更新二回目。前話を読んでいない方はそちらからどうぞ。
こんな事ばっかりやってるから自分が苦労するんだよ。
訳:日曜日の定期更新分、どうしよう……。
「ふむ。ふむふむふむ」
刹那は、コンソールを前に楽し気な頷きを繰り返していた。
何をしているかと言えば、良からぬ事を企んでいるのだ。
もっと具体的に言えば、サラから自慢された《アークエンジェル計画》の仕様書を読んでいた。
本当ならば、自分が作るつもりだった作品だ。
他の作品を優先させていた所為で、同じ発想をしたサラに先を越されてしまった苦い味が胸中に満たされる。
刹那にとって、様々な品を作る事は娯楽でしかない。
別に人類の発展だとか、祖国や地球の防衛だとか、そんな事を考えて行動している訳ではない。
だから、先を越されてしまった、という事は酷い敗北感のある現実だった。
防衛意識などが高い者であれば、だからどうした、と鼻で笑って同じように作り出すだろうが、彼がそれを行う事は屈辱的と言えた。
故に、同じものを同じように作る、という選択肢はない。
だからと言って、完全に興味をなくして放り投げるつもりもない。
自分で、もっと言えば瑞穂統一国の国土を使ってやる気がないだけで、《アークエンジェル計画》に手を加えて、より面白い形にする事は、彼の価値観では許容範囲内なのである。
「純粋魔力を利用した方式か。まぁ、それでも充分な出力は得られる」
おそらく、今まではエネルギー不足でまともに運用できない、という事でお蔵入りされていたのだろう。
だが、純粋魔力という均質化された大量のエネルギーの当てが出来た為、引っ張り出してきたのだと思われる。
この方式でも、充分な性能を引き出せる。
天軍の先兵たるアークエンジェルの名を冠しているだけあり、並大抵の相手ならば一方的に蹂躙する事も可能だろう。
だが、Sランク以上の魔術師には有効にはなり得ない。
二つ名持ちの魔王ともなれば、ほぼ確実に相手にならない。
絶対的な破壊力が足りていないのだ。
だから、刹那はそこに手を加える。
「純粋魔力式は、もしもの時の為のサブにして、地脈接続型を主エネルギーに据えた方が威力が高かろう」
星も、一個の生物に近い性質を持つ。
当然、内部にはエネルギーが循環しており、それは地脈という血管を通って、世界中を巡っている。
惑星を万全に動かすエネルギーである。
その質と量は極めて高質であり、純粋魔力とは比べ物にならない。
このエネルギーを汲み出し、利用する事が出来れば、魔王すらも打ち据える事が可能な兵器と化すだろう。
サラが地脈へと辿り着かなかった事は、必然でもある。
地脈に流れるエネルギーは、現在の地球人類が主に使っている魔力とは、似て非なる物だ。
刹那が使う超能力と酷似した性質をしており、それが故に彼には直感的に地脈の存在と流れを掴む事ができ、サラには感じる事すらできなかったのだ。
刹那の元々の計画では、この地脈接続式を採用していた。
だが、問題点もある。
あまりに莫大なエネルギーに、設備が耐え切れないのだ。
厳重にリミッターを設定しなければ、どうしても使い捨てのような形での運用しかできなかった。
だが、リミッターが付いた状態では、やはり魔王に対抗するには程遠く、どうにも不満の残る性能に落ち込んでしまっていた。
それを解決したのは、今度はサラの技術である。
《マギアニウム》。
この金属は、刹那の知るどんな素材よりも、超常エネルギーへの耐性を備えていたのだ。
地脈エネルギーを使用して《マギアニウム》を作製すれば、かなりのリミッターを取り外す事が可能となり、理論上、魔王を打倒しうる出力を叩き出せる事が判明したのだ。
つまり、これは二人が協力しなければ完成しなかった計画と言える。
「ククッ、異文化交流とは実に面白きものよ」
愉快になってきた刹那は、更に手を加える。
このままでも充分に強力なシステムだが、これだけではただただ強力な砲台でしかない。
破壊力という点では魔王に抗するとはいえ、当てられなければ意味がないのだ。
だから、補助の為のシステムを組み立てる。
「むっ、少々、重過ぎるな、これは」
仮組とはいえ、あまりに膨大な計算力を要求されるシステムとなってしまい、このままではまるで使い物にならない代物が出来上がってしまった。
なんとか軽量化しようと彼が四苦八苦していると、作業室の扉が開く音が聞こえた。
「ふぃ~。一段落なのだよ」
良い仕事をした、と言わんばかりの満足げな表情で入ってきたのは、水色の髪を持つ女性――サラ・レディングである。
彼女は、久遠専用デバイスの改造の為に、建造ドックに籠っていたのだが、ある程度の作業を終えてきたらしい。
「ドクトル・アスクレピオス。もう良いのかね?」
「大きな作業は終わったのだよ~。
今は自動組み立て中なのだよ。
細かい調整は、出来上がってみてから、なのだよ」
サラはそう言ってから、部屋の隅に控えていた自動人形へ声をかける。
「レアメタルの詰め合わせを用意してほしいのだよ。
Cセットでお願いするのだよ」
【かしこまりました】
機械的音声で綺麗なお辞儀をして部屋から出ていく自動人形は、シックなメイド服を着用した、金髪の美しい女性の姿をしていた。
刹那は、その姿を視界の隅で捉えながら、これも変化の一つだと内心で満足げに頷く。
これまでは機能すれば良い、とばかりに武骨な機械人形であった。
だが、それではあまりに美しくない、とサラが否を唱えたのだ。
せっかく人間に近い動作ができるのだから、人間に近しい姿を被せるべきだ、と。
物は試しとばかりに、彼女は自身を構成するナノマシンを駆使して、機械人形に人間らしい皮を被せる事に成功した。
あくまでも即興で作った物である為、触ればそれが作り物である事がはっきりと分かる程度の出来だが、一見した限りでは完全に人間と変わらない外見へと変貌させたのだ。
刹那は、自分にはない発想だ、と、素直に感心した。
彼は野生の中で育った身の上である。
その為、どうしても実用性があるか否か、という点のみで考えがちである。
つまり、機能美のみを求めてばかりであり、造形美というものには無頓着な事が多い。
サラはそれに否を突き付け、分かり易い造形美を見せつけてみせた。
人間の中で過ごし始めて、もう五年にもなる。
見た目の重要性自体は知っているが、底の部分ではどうしても軽視しがちであった刹那だが、サラが最初に作ってみせた造形は、見事に彼の心を撃ち抜いた。
簡単な事だ。
それは、雷裂美雲の姿を模っていたのだから。
自分にとって理想となる造形がいつでも近くにある。
それが、どれ程に空間を華やかにするのかを知った刹那は、素直に白旗を上げ、造形に拘る事に同意した。
そして、更に考えてみた。
今までは作業用で特に販売も何も考えていなかったが、ある程度、調整してやれば、メイド人形やら執事人形として売りに出せるのではないだろうか、と。
オーダーメイドで自らの理想の造形をカスタマイズできると知れば、多少値が張ろうとも、欲望を滾らせた金持ちが買ってくれるだろう。
何ならば、人工生殖器やらを搭載しても良いのだし。
精子バンクや卵子バンクから買ってくれば、疑似的ではあるが、理想の異性と子供を作る満足感も得られるだろう。
(……まぁ、それはその内だな)
まだ、思い通りの造形を張り付けられるほど、洗練されていない。
金に困っている訳ではなく、単なる思い付きなのだから、適度に研鑽を積んでからでも遅くはない。
「ところで、同志は何をしているのだよ?」
戻ってきたメイド人形からレアメタル錠を受け取り、ボリボリと齧りながら、サラは刹那の手元を覗き込む。
刹那は見易いように大画面へと表示を移しながら、簡単に答えた。
「ああ、少々手隙だったのでな。
貴様のアークエンジェルを少々魔改造していた所だ」
「ほほぅ? 面白そうな話なのだよ」
興味が惹かれたサラは、コンソールをタップして、変更点を確認していく。
「ほーん。地脈とは初耳なのだよ。
風水とか、そういうものなのだよ?」
「まぁ、似たようなものだな。あれも地脈を利用してはいる。
尤も、勘や経験則頼りの少々アバウトなやり方だがね。
正確に地脈を観測して行っている訳ではないので、ズレがある訳だが」
だから、常に効果が期待できる訳ではないのだ。
しっかりとはまれば相応の効果が出るが、出ない時には出ないし、むしろ逆効果になる事もある。
それが故に、オカルト扱いされてしまう事もある、とても惜しい思想と技術なのである。
「出力アップは嬉しい所なのだよ。
おかげで、魔王もぶっ殺せるようになったのだよ」
「だろう? もっと褒め称えたまえ。
だが、その先で少しばかり行き詰ってしまってな」
「補助システム? 《エンジェルフェザー(仮)》?
ふむ、ふむふむほむ。
ははーん、これは面白いのだよ。
実現すれば、マジで手の付けられない凶悪兵器になるのだよ」
「しかし、その為にはあまりに演算能力が足りていない。
スパコンをいくつ並列させれば良いのだ、という気違いじみたスペックを要求されてしまう」
「確かに、その通りなのだよ。
このままじゃあ、とても使い物にならないのだよ」
机上の空論であった。
実現さえできれば空前絶後の超兵器足りえるのだが、その実現が果てしなく難しい。
しばらく、二人はああでもないこうでもない、と意見を交わすが、いまいち決定的な解決法が見いだせない。
やがて白熱した頭を冷ます為に、お互いに背もたれに背を預けて休憩する。
「ふー……」
長めの吐息をしたサラは、ふと定位置に控えているメイド人形を見る。
最初に皮を被せた機体。
雷裂美雲に瓜二つの姿をしたそれを見て、ふと閃く物があった。
「そうなのだよ! 《フォートレス》なのだよ!」
「あ? 何だと?」
「あの娘! 《フォートレス》に使わせるのだよ!」
美雲の並列演算能力は異常の一言だ。
確かに、彼女ならば完全版の《アークエンジェル》の制御運用も可能だろう。
しかし、それは《アークエンジェル》の本質から外れてしまう。
これは、自動迎撃装置なのだ。
人の手で運用していては意味がない。
それを説くと、サラは即座に否定する。
「チッチッチッ、違うのだよ、同志マイフレンド」
得意気な顔をしながら、彼女は言う。
「《フォートレス》の娘に任せるのは、あくまでもシミュレーションなのだよ。
膨大なパターンを入力してもらう。
状況に合わせた最適解を大量にインプットさせておけば、その場その場での演算はしなくて済むのだよ」
「成程。先に答えを用意しておく、か。
状況に対して答え合わせをするだけならば、確かに大幅な削減は可能だ」
だが、と続ける。
「考えられる状況はそれこそ無限に存在するぞ?
その全てに回答を用意するとなると、やはり現実的ではないな。
賢姉様も暇ではないからな」
「そこはほら、姉弟特権でなんとか頼み込んでみるのだよ~」
ふむ、と腕を組んで思案する刹那。
(……まぁ、裏技を使えば時間はどうとでもなる、か。
しかし、賢姉様が協力してくれるだろうか)
相当に負担のかかる方法だけに、美雲が拒否する可能性は充分にある。
とはいえ、頼み込む前から諦めても仕方ない。
駄目元で頼み、本当に駄目だったら、少々性能を落として徐々に経験値を溜め込んでいくしかない、と考えるべきだ。
「まっ、頼むだけは頼もう。
とはいえ、賢姉様に丸投げする事は戴けない。
我々は我々で協力するべきだな」
「勿論なのだよ!
私のナノマシンを並列させれば、最新鋭のスパコン並みなのだよ!
かなりの答えを用意できるのだよ!」
「うむ。その意気だ。
そのまま頑張って負担を減らしてくれたまえ」
集中し始めたサラを放って、刹那は更に《アークエンジェル》の設計図を見ていく。
そうしていると、ふと思った。
「……《ラグナロクシステム》と連動させると、世界中に《エンジェルフェザー》をばら撒けるな」
「ぶふっ! お前、馬鹿なのだよ!?
ただでさえ処理能力足りてないっていうのに、更に世界単位に広げるのだよ!?
天才なのだよ!」
「ふっ、やはりな。
とはいえ、これ以上は今のところは難しいな。
まずは北米大陸に絞って運用データを集めていくべきだろう」
「なのだよ。
まぁ、その内、画期的解決法ってものを思いつくかもしれないのだよ。
それを期待するのだよ」
「まっ、仕方あるまい」
言って、コンソールを操作し、完全版『アークエンジェル計画』を保存する。
「ああ、水を持ってきてくれたまえ」
【かしこまりました】
メイド人形に頼み、持ってこさせた水を口に含み、刹那は一息入れる。
そうしていると、ふと窓の外に赤の光が過った。
紅蓮の色をした、久遠が発生させた魔術の炎だ。
単なる魔術の炎ではなく、彼女の超能力によって命が付与させた生きた魔術である事が、刹那には感じられる。
これまでは、碌に久遠の言う事を聞かず、好き勝手に暴れ回る暴走状態に陥っていた。
だが、見る限りでは、暴走する事なく、久遠の命令を聞いているようだ。
「……ようやく、一歩を踏み出したか」
コツを掴んでしまえば、ここから先は早いだろうと刹那は見る。
元より、やる気だけはしっかりとあったのだ。
覚悟を決めてしまえば、後はトントン拍子で駆け上がっていく事だろう。
最終段階まで持っていけるかどうか、時間との勝負になるが、到達できる可能性は充分に現実的なものだ。
「と、そういえば忘れていたな」
久遠から連想して、刹那は今になって思い出す。
サラとの自慢対決やその後の魔改造が楽しくて、ついつい忘れていた事があった。
「そういえば、私は女怪に嫌がらせの喧嘩を売っていたな。これはうっかり」
放置してしまっていたノエリアがどうなっているか、今更のように調べ始めるのだった。
女怪「解せぬ」




