これって、僕の所為?
火山の構造とか噴火の原理とか、あんまり深く考えるな下さい!
作者は文系脳なんだ!
時は僅かに遡り、季節外れの吹雪の吹き荒ぶ富士山頂付近。
そこでは、夜の闇と猛烈な吹雪を吹き飛ばす様に、巨大な火柱が立ち上っていた。
「やっぱキャンプっつったらキャンプファイヤーだよな!」
速攻で木組みを完成させて火を着けたのは、俊哉である。
美影とマンツーマンで修業していた一ヶ月は、彼の状況対応能力を著しく向上させた。
ただ状況に対して生き残るだけではなく、そこに遊び心すら組み込めるほどとなったのだ。
突然の吹雪にだって、この通りである。
キャンプファイヤーを囲むのは、選抜課程の面々である。
ぼんやりとした様子で空に向かって勢いよく己を誇示する火柱を眺めている。
疲れ果てて寝ていた所を叩き起こされたと思えば、いきなりの吹雪とキャンプファイヤーだ。
正直、付いていけていない。
とはいえ、あのまま何も知らずに眠っていれば、間違いなく凍死していた為、文句を言うつもりはない。
何故、という疑問はあるが。
ガンガンに風を送り込み、更に激しく燃え上がらせている俊哉に、少しばかり現実に追いついてきた佐々木中尉が訊ねる。
「……あー、風雲君。少しよろしいかな?」
「お? なんっすか? 中尉さん」
掛けられた声に振り返る俊哉。
その後ろでは、変わらず空気を送り込んでは、炎の勢いを増す手を止めない。
「この雪は、何故降っているのかな?」
「そりゃ、誰かが降らせてるからっすね。
人工降雪機か、魔術師か。
若干、魔力を感じられるから、魔術師の方が正解じゃないっすかね」
「いや、そういう事ではなく……」
「あー、どうやって、じゃなくて、どうしてっていう思惑的な意味合いっすか?
そりゃ、訓練の一環って奴っすよ。
美影さんは加減ってもんを知らないっすから……」
ははは、と何処か虚ろな目をして乾いた笑いを漏らす俊哉。
そこに彼らの闇を見た佐々木中尉はドン引きである。
俊哉は更に加えて言う。
「これで終わりだと、思わない方が良いっすよ?」
「それはつまり……」
「まだまだ続くって事っす、無闇矢鱈と厳しい試練が。
何をするつもりかは知らないっすけど……」
彼は、視線を山へと、富士山頂へと向ける。
「この瑞穂屈指の霊山が、爆発する事態も想定していた方が良いっす」
流石にそれはしないだろう、とは理性が思うが、本能が否と訴える。
あの馬鹿女ならばやりかねない、と。
その想定が無駄じゃなかったと思い知るのは、もう少し後の事である。
俊哉の言葉を聞いて、頬を引きつらせた佐々木中尉は、現実逃避するように問う。
「……冗談だよな?」
「だったら、良かったんすけどねぇ」
悟りの境地の様な表情をする俊哉に、冗談や誇張表現の色は少しも見られない。
つまり、本当に有り得る未来予想なのだと知る。
この巨大な火山が噴火する事態。
しかも、自分たちはその噴火口のごく至近距離に位置している。
もしもそうなったら果たして生き残れるのか。
佐々木中尉は、脳内で思い描いてみるが、可能な限り自分たちに都合よく想定しても、中々筋道が思い浮かばない。
どうすべきなのか、頭を抱える彼に、俊哉は努めて楽観的な声音で笑い飛ばす。
「まぁ、それは最悪の話っすよ!
流石の美影さんも、前時代からの瑞穂の象徴を吹っ飛ばす事なんてしないかもしれないじゃないっすか!
いやいや、常識的に考えてする訳がないっすよね!
って事で無駄な事は考えずに今を前向きに生き残ろうじゃないっすか!」
「……風雲君、君、自棄になっていないか?」
「そんな訳ないじゃないっすか!」
力強く、図星を突かれたように否定する俊哉。
駄目かもしれないな、と佐々木中尉は思わずにいられなかった。
(……真面目な話だけど、これ、本当に噴火させられたらどうするかね)
俊哉は笑みの裏側で冷静に考える。
自分一人ならば、逃げる事は難しくない。
ランダムで落ちてくるだけの火山弾など、的確に逃げ道を潰しながら落とされる美影の落雷に比べれば、躱す事など容易い。
目を瞑っていたって回避しきる自信がある。
火山灰やガスの類も、風の膜を纏っていれば怖がるほどの物ではない。
マグマの熱量だって、高い炎熱耐性を持つ彼の敵ではない。
空を飛べる以上、火砕流も脅威とは言えないだろう。
だから、彼個人で言うならば、どうにでも出来る程度の事だ。
戦友という仲間たちの事を考えなければ。
吹雪に凍えながら、火に当たっている面々を見遣る。
彼らはまだまだ未熟だ。
殻も取れていないヒヨコ以下だ。
頭のおかしい美影の試練を、諦念と根性で乗り越えられるだけの技も意思もないだろう。
誰かが守らねば、すぐに死んでしまう。
俊哉が修行していた時は、美影がその役を担っていた。
守ってやる、ではなく、命だけは助けてやる、という実に悲しい扱いだったが。
おかげでたった一ヶ月で三桁を超える臨死体験をする羽目になった。
それはともかく、この場合、その誰かは己の役目だろうと俊哉は思う。
自分もまだ一人前とは言えないが、少なくともこの中で最も余裕を持っているのは自分であり、美影が彼らの全員をきっちりと見てくれるほどに面倒見が良いとは思えないから。
新課程総十二名を火山の噴火から無事に逃がすこと。
(……できねぇ、とは言わねぇ)
絶対に無理だとは思わない。
成算は充分にある。
問題はそれだけで終わってくれるのか、という所だ。
「美影さんの事だから、余計な茶々を入れてきそうなんだよなぁ」
「? 何か言ったか?」
「いや、何も」
近くにいた佐々木中尉が訊ねてくるが、手を振って適当に誤魔化しておく。
美影が入れてきそうな余計な邪魔を想定し、どうすれば回避できるかを一つ一つ考えていくが、これがかなり難しい。
ノーミスクリア出来る想定が、中々浮かばない。
そうしていると、俊哉の知覚に引っかかるものがあった。
風に乗って、僅かな音が耳に届いたのだ。
「……?」
何かは不明だが、単なる自然音ではない。
そうと判断した俊哉は、目を閉じ、意識を耳に集中させる。
突然、雰囲気の変わった俊哉に、佐々木中尉も緊張を走らせる。
彼の戦歴は閲覧した。
一ヶ月前の高天原異界門事件における《嘆きの道化師》に始まり、先日は朝鮮戦役にも参加し、更には《災禍》ヴラドレン撃退にも貢献している。
これだけの戦歴を持つ彼を、まだ若いから、などという理由で侮るほど大人げないつもりはない。
彼が反応したという事は、何かがあると思って行動した方が良い。
「総員! 厳戒態勢!
魔力励起状態にして待機せよッ!」
中尉が声を張り上げれば、火に当たっていた者たちが即座に起動する。
それぞれに飛翔翼やデバイスを展開させながら、即時戦闘態勢へと移行していく様は、一端の軍人と言える。
だが、俊哉はそれに待ったをかける。
「魔力は封鎖しろ!
完全隠密態勢!
俺が一発かました後、迂回しつつ山を下りる!」
「ッ、了解!」
疑問はある。
だが、それにいちいち答えている暇はなさそうだ。
何故ならば、佐々木中尉にも感じられたからだ。
雪の闇夜の向こう側から、こちらへと急速に向かってくる多数の魔力の反応が。
俊哉から魔力が噴き出す。
それは風の渦となって、轟々と燃え盛る火柱を捕まえる。
「どっ、こいしょぉ!」
気合一発。
彼は空へと大きく広げながら投げ上げた。
連続した破裂音が響き渡る。
炎膜による迎撃を受けた魔術砲撃が反応して誘爆させられたのだろう。
詳しく状況を確認している暇はない。
彼らは事前の命令通り、魔力を極力隠しながら、徒歩で下山していく。
「風雲さん、蛸壺を掘って隠れた方が良いのでは!?」
一人が、砲撃に対する一般的な回避方法を具申するが、俊哉は即座に否定する。
「連中は魔力反応と火柱のみを頼りに砲撃している!
こちらを観測する術を用意していない!
後の事を考えれば、なるべく離れた方が安全だ!」
夜の闇の中、ほぼ勘だけを頼りに砲撃をしている事を見抜いた俊哉は、そうと叫ぶ。
確かに、砲撃から身を守るだけならば、蛸壺も良いだろうが、この後には大噴火の可能性もある。
噴火口付近に留まる事は悪手でしかない。
観測手段を用意せずに砲撃を始めた事は、美影のせめてもの慈悲だろう。
流石に万全な監視下での砲撃では、逃げ切れないだろうと考えてくれたのだと思われる。
「迎撃は可能な限り控えろ!
こっちの位置を教える事になる!
気合で躱せ!」
「そ、そんな無茶な!」
「無茶を押し通さなきゃ生き残れねぇんだよ!」
転げ落ちるように、彼らは斜面を駆け下りていく。
中には足を滑らせて滑落する者もいるが、俊哉はそれはそれで早いので良し、と断ずる。
「わ、わっ! こっちに!」
おそらく、逃げている事やズレている事を考えて、広範囲に砲撃しているのだろう。
元居た場所から既にかなり離れているというのに、砲撃が降ってくる。
その内の一つが、一人の青年へと向かっていた。
恐怖感からか、足を止めてしまった彼は、もはや回避は間に合わない。
魔力封鎖を解除して迎撃しようとする彼を見て、俊哉は瞬発する。
「魔力を! 使うんじゃねぇっつってんだろうがぁ!」
背中を蹴り飛ばして範囲外に押し出しながら、彼もまた転がるように回避する。
「とにかく動け! 足を止めるな!
死にたくなけりゃ根性入れろ!」
叱咤激励を飛ばし、時に危ない場面を暴力的に切り抜けながら、彼らは高速で駆け下りていくのだった。
~~~~~~~~~~
「う~む。
まぁ、最初以外は適当な勘だけだから仕方ないんだけど、あんまり当たらないなぁ」
至近弾すらほとんどない。
俊哉たちを褒めるべきか、砲撃隊を情けないと嘆くべきか、美影としては悩む所である。
とはいえ、このままでは何事もなく砲撃範囲から逃れて無事に下山してしまうだろう。
それでは訓練にならない。
一般的感性ならば、この状態でも充分に訓練になっていると判断するだろうが、彼女は普通ではない。
死線の一つや二つも踏み越えずして、何が訓練になるのか、と真顔でのたまう精神をしている。
「あんまり手を出すのは控えたかったけど、そうも言えないかな。
って訳で、ちょ~っと、驚いて貰うよ」
片手を掲げる。
魔力が噴き出し、それが天を覆う黒雲へと干渉する。
雷鳴が轟く。
急速に生成された雷は相互に干渉し合い、その威力を高め合っていく。
「そぉー、れっ!」
掲げていた腕を振り下ろす。
それを合図にして、太い雷が降った。
彼らのいる場所に向かって。
~~~~~~~~~~
「ふっ! ざっ! けんなッ!」
雷鳴が聞こえた瞬間から嫌な予感はしていたが、本当に雷に降られると悪態を吐き出さずにはいられない。
極限状態に高速化した思考は、刹那の時間で状況を判断する。
向かってきている雷は一本だけ。
だが、その太さは尋常ではない。
俊哉を含めて、全員を飲み込んで周囲ごと薙ぎ払うほど。
威力は考えるまでもない。
間違いなく死ねる。
回避できるか。
無理に決まっている。
己一人でも難しいだろう。
耐えられるか。
自分なら耐えられる。
黒雷ではないから、問題ない。
全力で身体強化すれば耐えきれる。
だが、他の者たちは難しい。
俊哉だって、魔力式、超能力式の両方で防御してやっとなのだ。
片方だけの彼らには難しいだろう。
ならば、迎撃しなければならない。
どうやって。
《天照》か?
威力ともかくとして、時間が足りない。
あれを放つには少しばかりの溜めが必要になる。
既に落ち始めている雷の迎撃には間に合わない。
では、どうするか?
俊哉は、足に力を込め、大きく身をたわめ、次の瞬間には大きく跳び上がる。
左腕を目の端で見る。
間違いなく世界最高峰の逸品、《クサナギ》。
その装甲は、ステラタイトのみを使用して作られており、超常を拒絶する仕様となっている。
魔力や超能力に対して、絶対なる矛にして、盾でもある。
「うおおぁぁぁぁ……!」
チャンスは一回のみ。
タイミングを間違えれば、打ち込む向きを間違えれば、何の効果もなく飲み込まれるだけ。
だが、それがどうしたというのか。
たった一回だけのチャンスを物にする。
そんな綱渡りなんて、飽きるほどにしてきた。
今更、恐れるほどの物ではない。
落ちてきた雷に向かって、俊哉は躊躇いなく左腕を撃ち込んだ。
正確に撃ち込まれた拳は、雷を大きく弾き飛ばす。
方向を変えられた落雷は、彼らへと向かう事無く、彼らよりも上部の富士山の斜面へと突き刺さった。
そこは偶然にも、寸前にも彼らがいたキャンプ地点だった。
これは、誰が悪かった、という訳ではない。
誰もが最善を目指して、命令通りの行動をしていただけだ。
砲撃隊は、標的がその場に残ってやり過ごしている可能性を考えて、集中砲火をしていただけ。
俊哉は、美影の行動原理を考えて、逃げていただけ。
落雷を弾く事に精一杯であり、何処に向かうかを考えている余裕も無かった。
当然、新課程の面々は逃げる事に精一杯で、状況に関与するだけの余裕も能力もない。
だから、誰が悪い訳でもない。
だが、敢えて、そう敢えて悪い人物を挙げるならば、美影をおいて他にいない。
キャンプ地を決めたのは彼女であり、砲撃命令を下したのも彼女であり、巨大な雷を落としたのも彼女なのだから、その結果は彼女の責任であると言わざるを得ない。
砲撃によって大きく削られていた山肌。
遠慮をしなくて良い、という命令だった為、そこは既に原型を留めておらず、クレーター状に抉れている。
蛸壺程度では凌ぎきれず、もしも留まっていれば、きっと生き埋めになっていた事だろう。
そこに巨大な雷が突き刺さった。
魔王の魔力を受けて極大化した雷の威力は、見た目以上の物であり、抉れていた山肌を更に大きく貫いていく。
ほんの少しだけ、角度が違っていれば、次なる事態は起こらなかっただろう。
だが、偶然にも、しっかりと真芯を捉えていた雷は、富士山の正中を貫徹し、内部に溜め込んでいた威力を解放する抜け道を作ってしまった。
大地が鳴動する。
地の底に溜まっていた熱量が一気に抜け道を駆け上がり、それを解放させる。
大噴火。
雷が開けた穴を新たな火口としながら、富士山が大爆発を起こした。
赤熱の光を放つマグマが柱となって噴き出し、粉塵が何処までも何処までも天へと昇っていく。
ある種のこの世の終わりの様な光景が、ここに顕現した。
キャラデザ五人分を活動報告にて掲載しております。
来週中には表紙も公開できるかもです。




