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〝命〟を与える者

来週辺りから、活動報告でキャラクターデザインを公開していくと思います。

多分。

「ほう、襲撃者とは珍しい客だな。だが、客として礼儀がなっていないな。

 事前にアポイントメントを取る事もできないのかね」


 言葉を返しながら、刹那はコンソールを操作し、地上『ダイダラ』のログを呼び出す。

 どうやらシステムの破棄を行ったらしく、途中でぶつ切れになっているが、それ以前のものならば閲覧が可能だった。


『ダイダラ』の防衛機構はかなり強固なものだ。

 詰めている人員の装備や練度もさる事ながら、非常用に設置した念力バリア発動体がかなりの曲者だ。


 オリジナルである刹那のバリアに比べれば、遥かに強度が落ちるとはいえ、それでも核の炎にだって耐えられる強度となっており、魔王クラスでも強行突破は相当に骨が折れる事だろう。


(……さて、どうやって突破したのか)


 人知れずに侵入したか、発動させる間もなく速攻で制圧したのか、その辺りが有力だ。


 ログを辿っていくと、しっかりとバリアは発動され、襲撃者からの隔離に成功している。

 にもかかわらず、侵入を許してしまっていた。


 強行突破された形跡はない。

 何処かの装置が不具合を起こして、障壁が欠落してしまっている、などという事もない。


 ならばどうやって、と襲撃者が最初に侵入した第四十三区画を中心に検索していく。


 そして、辿り着いた。


「なんともはや。

 バリアで覆い切れない針の一点から侵入したとは。

 少々、過信し過ぎたか」


 第四十三区画近くのバリアに、僅か0.0003㎜という極小の隙間があった。

 襲撃者は自身の身体を原子レベルまで分解し、そこから入ったとしか思えない。


 絶対無敵のバリアだと思っていたが、思わぬ穴があったものである。


「となると、あの身体は全部ナノマシンの類で構成されているのか。

 いやはや、機械生命体とは珍奇な輩だな。

 ゾ〇ダーメタルにでも寄生されたのか」


 冗談はさておいて、処遇をどうするべきか、と考える。


 刹那個人としては、脅威足り得ない。

 打倒も抹消も、容易な相手だ。


 そして、感情的にも気に入っている。

 彼女は最初、丁寧に正面から乗り込んで、施設を使わせてくれませんか、と頼んでいるのだ。

 常識で考えて否という回答以外が返ってくる筈がないが、少なくとも筋は通している。


 だから、実力行使に踏み切る、という選択は彼には理解できる事だ。


 加えて、彼女は取り返しのつかない損害を避ける為、人的被害を一切出していない。

 無力化された者たちも、全員が麻酔をかけられた状態で安全な場所に隔離されている。

 実に良識のある、小賢しい行為と言えよう。


 施設のシステムが破棄されてしまったのは少しばかり痛いが、それも襲撃者の行った事ではなく、管理者側の判断と行動によるものだ。

 どうせ、面倒なだけで復旧するだけならオフラインにバックアップを保存してあるから問題ないのだし。


『あー、その発想は無かったのだよ。

 でも、連絡先が分からなかったから仕方がないのだよ』

「ふっ、では、無知な貴様に連絡方法を伝授してやろう。

《サンダーフェロウ》に電話して、全宇宙の支配者と話がしたいと要求したまえ。

 さすれば、雷裂家受付係に繋がる」

『……マジなのだよ?』

「私が嘘を吐くとでも?

 とある合衆国大統領は、そうやって私に繋いできたらしいが」


 ちなみに、スティーヴン大統領は電話口で〝地球上で最も馬鹿な男と話がしたい〟と語ったらしい。

 それで即座に刹那を連想する辺り、《サンダーフェロウ》の社員はよく教育が行き届いていると言えよう。


 通信をしている間に、刹那はふと気付いた。

 月面側『ダイダラ』のシステムが電子攻撃を受けている事に。


 何処から、と辿れば、予想通りにというか、地球側『ダイダラ』からだった。


(……大方、月面側のシステムをコピーして地球側のシステムを復旧させようという魂胆なのだろうな)


 実に分かり易く、躊躇のない行動だ。


 思考を巡らせている間にもクラッキングは進んでいる。

 かなり手際が良い。

 自動防衛のセキュリティソフトでは相手になっていない。


 刹那がこの場におらず、そして攻撃に気付いていなければ、間違いなく乗っ取られていた事だろう。

 だが、気付いている以上、阻止する事は容易だ。

 そして、時間稼いでいる間にも、襲撃に気付いた援軍が到着して、お縄……になるかどうかは分からないが、少なくとも地球側『ダイダラ』から退去せざるを得なくなるだろう。

 なんなら、刹那が念力を飛ばして、適度に小突いて邪魔してやっても良い。


 とはいえ、それは面白くない。

 せっかくそここまで来たのだから、歓迎してやろうという気まぐれも起きる。


「鬱陶しいからその電子攻撃を止めろ。

 一回限りだが、『ダイダラ』を起動させる。

 とっとと専用コンテナに乗り込む事だな」

『おー、話が早いのだよ。そんじゃ、よろしくよろしくー』


 それだけで通信が途切れ、同時に電子攻撃を消えた。


 刹那も前言通りに設定を始める。

 地球と月の位置や周辺環境を含めた上での射出角度や速度を、全て自前で計算して打ち込まなければならない為、非常に面倒臭い作業だ。

 月も地球も動いているのだから、少しでも遅れればせっかく打ち込んだ設定もすぐに使えなくなる為、時間との勝負でもある。


 また、設備そのものを稼働させるシステムも破棄されている為、設定したからと言って機械は動かない。

 念力を飛ばして手動で動かしていくしかないのだ。


 そこまでやるくらいなら、いっそ念力で掴んで引っ張り上げた方がよほど効率的だが、せっかく『ダイダラ』を占拠してくれたのだ。

 これを用いた月旅行をプレゼントしてやりたいというものだ。


「まっ、こっちの『ダイダラ』は動いてないから、月面に衝突するコースしかないのだが……」


 月面側『ダイダラ』は地上砲撃用に使用しており、輸送用の設定ではない。

 わざわざ切り替えて優しく受け止めてあげるほどの理由もないので、《ツクヨミ》に影響の及ばない、適当な月面に着弾するコースを設定する刹那。


 常人ならば一撃で死ねる月旅行計画だが、ナノ生命体である彼女ならば、よほど運が悪くなければ死なないだろう。


「まっ、死んだらその時はその時だ。武運を祈ってやろう」


 そして、一つのコンテナが地球から射出された。

 それは狙い違わず月へと向かい、月面の一角に新しいクレーターを形作る事になった。


~~~~~~~~~~


 月に激震が走る。


「な、なんだ!?」


 身体が跳び上がるほどの衝撃に、久遠は目を見張った。

 慌てて衝撃の出元へと視線を向ければ、そこにはもうもうと立ち上る粉塵が見える。


 幸いにして、《ツクヨミ》を囲う防護フィールドに阻まれて粉塵は入ってきていないが、その量からしてちょっとしたデブリが降ってきた、という物ではないのは確かだ。


「い、隕石でも落ちたのか……? いや、それとも……」


 まさか敵襲か、と疑う。


 刹那は今まさに始祖魔術師に喧嘩を売っている最中だ。

 彼の予想では、本格的な戦争に発展するには今しばらく時間がかかるという話だが、それはあくまで彼の予想の話である。

 それが外れ、時期が大幅に早まってしまった事は充分に考えられる。


 弓を構え、魔力を高めながら、警戒する久遠。

 暫く待ち続け、ただの杞憂だったかと思い始めた頃に、それはやってきた。


 粉塵の中に、明らかに不自然な動きをする物が混じっている。


 サラサラと宙を滑り、《ツクヨミ》の防護フィールドに遮られる事なく素通りし、内部へと侵入してきた。

 その砂のような一団が一所に集まると、人の形を作っていく。

 水色の髪を持つ、白衣の女性だ。


「ふぅ~。少し……いや、本当に驚いたのだ……ペッ!?」


 久遠は躊躇なく火矢を射た。

 狙い違わず頭部を貫き、火矢は背後に着弾、爆裂する。


「チッ……」


 彼女は舌打ちを一つ鳴らす。


 本来であれば、火矢はヒットと同時に爆裂する筈だった。

 だが、そうはならず、貫通してしまった。

 それが意味する所は、躱されたのだろうという事だ。


 その予想を証明するように、拡散した粒子が頭部のあった場所に集まり、元の人の頭を造り上げる。


「サプライズは一個で充分なのだよ。誰なのだよ、君は」


 何事も無かったかのように、そして久遠をまるで脅威と捉えていないかのように、女性は誰何の問いを投げかける。


「それは、こちらの台詞だ……!」


 応答しながら、久遠は再度の射撃を行う。


 今度は一本の火矢ではない。

 途中で分裂し、無数となって女性へと殺到する。


 女性は動かない。

 戦人ではない彼女は、突発的な攻撃に対処する術を持たない。


 だが、それでも良い。

 全身が極小の粒子で構成されている女性には、積極的に躱さなければならない理由がない。


 殺到した火矢に、足から頭まで全身を貫かれる。


(……手応え無し!)


 穴だらけになっても血の一滴すら流れない女性に、久遠は僅かな焦りを感じる。


「容赦がないのだよ~。

 もう少し、対話という文明を理解しても良いと思うのだよ?」


 サラサラと流動して近付いてきた女性は、久遠の首に手をかけ、強かに押し倒す。


「ちょっとばかし、大人しくするのだよ」

「すると思うか?」


 麻痺毒を注入しようとした女性に向かって、久遠は手を掲げる。


 そこにあるのは、小さな火の玉。

 一見してなんて事のない、火の粉に毛が生えた程度の物。


 だが、そこに込められた魔力を測定すれば、蒼褪めてしまう事だろう。


「……マジ?」


 解放しない理由がなかった。

 解き放たれた熱量は、強烈な爆裂となって久遠と女性を揃って飲み込んだ。


 爆炎の中から先に飛び出したのは、久遠だ。

 衣服のみならず、肌にも焼け焦げた様な痕がある。

 女性の手から逃れる為だったとはいえ、至近距離での爆砕は流石に無傷とはいかなかったのだ。


 それを追う様に、粒子が流れ出てくる。

 それが元通りの人の形を取り戻した。

 こちらは一見して、何の傷も負っていない様に見られる。


「……困ったな。どうすればダメージを与えた事になるのだ」

「いやいや、ダメージならちゃんと入っているのだよ。目に見えないだけで。

 だから、お互いの健闘を讃えて、ここは平和的な会話といくべきだと思うのだよ」

「不審者をみすみす見逃す事は出来んな」


 とは言うが、久遠の残存魔力も少ない。

 修行の最中であり、元々魔力が減っていた所だったのだ。

 これ以上の継戦は難しいだろう。


 だが、だからと言って見逃す訳にもいかない。


 ならば、取れる手段はただ一つ。

 超能力を使うしかない。


 いまだ制御には程遠い。

 しかし、撹乱し、足止めをさせるには充分な性能がある。

 むしろそれしか出来ないとも言えるが。


 深呼吸を一つ。


 久遠の様子の変化に、何かを仕掛けてくるつもりだと悟った女性は、足を止めて見守る。


 何をされても死ぬ事はない、という余裕からの態度だ。

 せっかく面白い事をしようというのだ。阻止をするなど以ての外だ。


「目覚めろ……!」


 大地が鳴動した。


「おおっ!?」


 足元が崩れ、宙に放り投げられる女性。


 傍に立ち上がるのは、巨大な人型。

 いや、人型だけではない。

 獣型、蛇型、鳥型など、地面を素材とした様々なゴーレムが立ち上がっていた。


「土属性によるゴーレムクリエイトなのだよ?

 珍しくも……ぶっ!」


 余裕ぶっこいていたら、見えざる一撃が女性を打ち据えた。


 流動する身体には痛手となり得ないが、予想外の攻撃に精神的な困惑が強い。


「な、何なのだよ?」


 よく目を凝らして見るが、己を殴り飛ばした存在は見受けられない。


「と、というか、危ないのだよ、これ!

 無秩序にも程があるのだよ!」


 ゴーレムたちは、誰という相手もなく、ただただ暴れ回っている。


 女性に向かってくる物もあれば、久遠に向かっていく物も。

 互いに潰し合う物や、我関せずに何処かへと行こうとしている物など、明らかに創造者の制御に無い行動ばかりだ。


 その巨大さと意外なほどの俊敏性、そしてあまりに無作為な行動に、まるで嵐の中に飛び込んだかのように翻弄される女性。


 久遠の超能力、それは〝命〟を与える能力。

 あらゆる存在に対して命と魂を与え、一個の生物として完成させる能力だ。


 だが、それ故に生物たちは自由意志を持つ。

 創造者の命令を聞くかどうかは彼らの意思次第であり、完璧な制御は難しいと言わざるを得ない。


 巨大な岩巨人の拳を、跳躍して躱したところに、再び不可視の衝撃が女性を襲った。


「~~~~~~さっきから、鬱陶しいのだよ!」


 二度目だった事もあり、今度はなんとかその存在を少しだけ認識できた。


 よく観察すれば、僅かに空気が揺らいでいる場所がある。

 その全貌を観測すると、それは鳥の様な形をしていた。


「大気のッ、ゴーレムなのだよ!? そんなのもあるのだよ!?」


 空気に〝命〟を与えて作った不可視の生命体だ。

 だが、久遠の超能力を知らない女性は、目を輝かせる。


 魔術的には不可能ではない。

 風属性と土属性の魔力を持っていれば、作る事は可能だ。


 だが、それをした久遠は火属性だ。

 髪色や瞳の色を見ても、何より先ほどまでの戦闘での魔力の動きを見ても、それは明らかだ。


 つまり、女性の認識の上では、久遠は火・風・土の三属性保有者という事になる。


 これまでであれば、この時点でおかしい。

 通常の出生で誕生するのは二属性まで。

 特殊な生命をしているロシアの魔王だけが八属性を持つ、というのが常識であり、三属性以上は夢の話だった。


 とはいえ、多重属性化技術があると聞いている以上、その常識が崩れてしまっている事はそこまで驚く事ではない。


 だが、多属性魔力が発現しているのならば、当然、髪や瞳が影響を受けて変色する筈だ。

 見た所、久遠の色は赤一色であり、その様な特徴はない。

 染色やカラーコンタクト、という可能性もあるが、ならば何故、ゴーレムを作った瞬間に彼女の魔力が動いていなかったのか。


 これだけの規模の魔術なのだ。

 魔力を一切他者に感じさせずに発動するという事はまず不可能と言って良い。


 そこから導き出される結論は、久遠が魔力以外の奇跡の力を持っているという事だ。


「ハハッ! これは面白いのだよ!

 やって来た甲斐があるという物なのだよ!

 いきなりこんな、こんなバラし甲斐のある生き物に出会えるとは!」


 女性は、獣型に半身を食い千切られながら、久遠へと駆け出す。


 必死に自分の生み出したゴーレムから逃げている彼女が、近付く女性に気付くと、火矢を連続して放ってくる。


 今更、そんな物で止められるような女性ではない。

 サラリと受け流して、遂に久遠へと肉薄する。


「さぁ、君の中身を見せるのだよ……!」

「クッ……!」


 手を伸ばし、久遠を抑え込もうとした瞬間。

 暴威の圧力が全てを叩き潰した。


「《ツクヨミ》の中で暴れるな、馬鹿ども」


 地球側への説明を終えた刹那が、青筋付きの念力ビンタを叩き込んだのだ。


思えば、この場に真っ当な人間が久遠しかいないという事実……。

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