前向きに復讐する方法論
「大丈夫か? 必要なら治癒してやらんでもないが」
刹那が手を広げれば、そこに神々しい光が生まれる。
超能力式治癒の光である。
外傷から病の治癒に加え、アンチエイジング効果もある優れものだ。
できないのは生き返る余地のない死者蘇生と先天性疾患くらいである。
それ以外であれば、部位欠損すら秒で治せる。
普段であれば、鍛錬が足りていないな自業自得だ雑魚め、と放置してやるところなのだが、この後は実技試験だ。
俊哉少年の合否などどうでもいい事だが、不合格の言い訳にされても迷惑だ。訴訟問題である。
なので、望むなら治療くらいはしてやろうと思ったのだ。
「い、いや、気にすんな。
俺っちの実力不足だ。鋼鉄を貫けない俺っちが悪ぃ」
「まさにその通りだな。修行して出直してくるがいい」
鋼鉄と同レベルで語られるのは心外だが、そこまで指摘するほど野暮ではない。
(……頑張ってくれたまえ。
それだけ出来れば、愚妹に遊んでもらえるだろう)
勝てるとは言えない。
戦えるとすら言えない。
美影の身体は鋼鉄よりも頑丈なのだ。
刹那ほどではないが、魔王クラスの本気でなければ彼女の防御力は貫けない。
常識は何処に。
「……いちいちムカつく野郎だぜ。
ちったぁ慰めるとかできねぇのか」
「無理だ。諦めろ」
「即答かよ」
苦笑する俊哉少年。
その後は、他愛ない話題を繰り広げる。
「ほぅ。復讐を望んでいるのか」
「まぁな。
家族仲は良好だったんだ。
それを壊され、ゴミみたいに捨てられて猶、恨まずにいられるほど、俺は人間出来てねぇ」
「良いのではないか?
相手はテロリストで明らかな犯罪者だ。
惨たらしくぶち殺しても誰も文句は言わんだろう」
「……そういう事言われるの、初めてだわー」
「あれか。
復讐は何も生まないよ、とか、憎しみの連鎖は何処かで断ち切らなきゃ、的な事を言われたか?」
「そうそう、それそれ。
俺っちが復讐したいって言ったら、カウンセラー付けられてよ。
そんな人道を説かれた訳よ。
言われなくたってこれが醜い感情だって分かってんだよ!」
「そう興奮するな。
一般的に、復讐心やそれに基づく行動はマイナス方向に行きがちだし、大概は周りも巻き込んで盛大に破滅するからな。
否定しようとするのは、社会生物らしい防衛本能と言えるだろう」
「でも、アンタは否定しないんだろ?」
「大概は、と言ったろう。
復讐心を糧に、プラス方向に持っていけば良いのだ。
例えば、君の事情で考えてみよう。
世界的テロリスト集団《嘆きの道化師》に復讐したい。
今すぐに、どんな手段を講じてでも、となれば、そうだな。
核弾頭ミサイルの発射装置をハッキングしてみるというのはどうだ?
君の実力では足りないしな。
連中の実力ならば、核ミサイルの雨でも降らせれば確実に殺せる。
だが、それによって出る被害は?
周辺も全て巻き込んで破滅の大地を作り上げるだろう。
これでは、否定されるのも当然だろう?」
「……まぁ、そうだろうなー」
「じゃあ、前向き方向にシフトしよう。
今すぐに、という条件を省けば、自らの実力を高めて、あるいは仲間を集めるなりして、真正面からぶち殺すとしよう。
これなら誰も文句は言うまい?
なにせ、被害を受けるのは非人道的テロリストだけだ。
君は大願成就して、世界からは害悪ばかり撒き散らす膿が消える。
素晴らしい話だ。
復讐を遂げた後の君の未来も、実力派テロリストを殺せるほどの実力を持っているのだ。
軍でも警察でも、引く手数多で破滅的要素は何処にもない。
さて、これは否定されるべき復讐だろうか?」
「……てー事は、俺っちには、その前向きな復讐をしろって?」
「別に。他にも方法はあるぞ?
殺し屋でも雇うとかな。
なんなら、雷裂家の伝手で腕の良い奴を紹介してやるぞ?
ふん縛ってお前の目の前に並べてやれるぞ?」
わざわざ誰かを雇わずとも、刹那がちょっと本気を出せば、今この瞬間にでも見つけ出して、フルボッコにしてやる事も出来る。
「まっ、諦めたら頼むぜ。
今は……前向きにぶち殺す方向でやってやるぜ」
「その意気だ。頑張りたまえ。
復讐の同志として応援するぞ」
「…………アンタも復讐?」
「捨てられたと言ったろう。
元家族に対して、な。
そして、俺の場合は、既に行動は終わっている。
目に見えないだけで、徐々に首は締まっていくだろうよ、クククッ」
「うーわ。アンタのそれも、前向きな復讐って奴か?」
「まっ、世界の為にはなるだろう。
とはいえ、君のそれの様に、ピンポイントとはいかないだろうが」
多少の周辺は巻き込んでしまうのは確実だ。
後悔も反省もしてないから、恨まれても構わないと思っているが。
「すげーなー。先輩じゃねぇか。
ちょっとどういうネタか、教えてくれよ」
「ふっ、お互いに合格して級友になれば教えてやろう」
「おっ、良いな、それ。約束だぜ?」
そう言って、拳をぶつけ合う。
その瞬間、待機室の扉が開いた。
「お早う御座います、受験生諸君。これより、実技試験を始めます」
ちょい少なめ
次回、ようやく試験に入ります