クリスマス〝直前〟特別企画:ドリーム・ブレイカー
思い付いたから書いただけだよ!
時系列とか詳しい事は考えるんじゃない!
しんしん、と、雪が降る。
深夜。良い子なら誰もが寝ている時間の事。
場所は欧州。北欧の一角。
そこに、軽快な蹄の足音と滑らかなソリの走る音が響き渡る。
「フォッフォッフォ、メリー・クリスマース!」
立派なトナカイにソリを引かせるのは、一人の老人。
小太りの身体に赤い衣を纏い、豊富に蓄えた口髭は穢れなき純白。
好々爺とした笑みを顔全体に浮かべ、背中には巨大な袋を担いでいる。
サンタクロース。彼は、そう呼ばれている。
年に一度、良い子に過ごしていた子供たちの為にプレゼントを配り歩く夢の存在だ。
今年もまた、彼の仕事の時間が来た。
準備してきたプレゼントを背負い、相棒のトナカイと共に世界へと飛び立つ。
雪の降る冬空を駆けていく姿は、伝説に相応しい神々しさを見る者に与える。
一つの絵画としても成り立つ光景に、しかし水を差す者はいる。
「むっ……!?」
危険を敏感に察知したサンタクロースは、華麗な手綱捌きを以て俊敏な回避行動を取る。
次の瞬間、空に穴が開いた。
たっぷりと雪を貯えた分厚い雲を吹き飛ばし、不可視の鉄槌が振り下ろされる。
鉄槌は一直線に地上にまで届き、真円の穴を深々と大地に穿って消えた。
間一髪の所で回避の間に合ったサンタクロースは、空を見上げる。
雪雲を散らした空には、満天の夜空。
色とりどりの星が瞬き、その中心には美しき満月が煌々と輝いている。
その煌めきを背景に、一人の少年が空に立っていた。
年の頃、十代半ばほどだろうか。
短く整えた黒髪には白髪が混じっており、右の顔面には大きく火傷の痕が刻まれている。
引き締まった体躯を漆黒のスーツに包み、肩には黒のコートを引っ掛けている。
腕を組んで己を見下ろす少年に見覚えのあったサンタクロースは、先ほどまでとは違う、好戦的な笑みを浮かべる。
「また、貴様かッ! セツナ・カンザキッ!!」
セツナと呼ばれた少年は、白い息を吐きつつ、応と答える。
「そうとも。また私だ。
一年振りだな、御老公。
今年こそは、貴様の首を貰い受ける」
言葉と共に力を開放するセツナ。
強大に過ぎる念力の波動に、世界が鳴動し、軋みの叫びを上げる。
だが、サンタクロースは恐れない。
世界さえも破壊しうる力を前にしても猶、彼は恐怖を抱く事はない。
何故ならば、今日は聖夜。年に一度のクリスマス。
この一夜に限って、サンタクロースの力は極大化する。
根源は無垢な願い。
良い子に過ごし、己のプレゼントを待つ子供たちの純粋な心が、彼に力を与える。
世界を破滅に導く力如き、恐れるに足りない。
「フォッフォッフォッ、懲りぬ男よ。
これまで散々に敗北を味わっておきながら、まだ諦めを知らぬとはな」
「私の辞書に諦めるなどという言葉はない。
何度でも挑ませてもらうとも。
勝利を、この手に掴むまで。何度でも、だ」
「ふむん。それは結構な事。
しかし、儂も貴様如きに時間を取られている暇はない。
儂を待つ子供たちは多いのでな」
やれやれ、と首を振って、鋭い眼光を以てセツナを睥睨するサンタクロース。
「見た所、貴様はもう子供とは言えぬようじゃの。
然らば、容赦する必要はなし。
セツナ・カンザキ、貴様の首を取って後顧の憂いを断ち切ってくれようぞ」
「出来る物ならばやってみせたまえ。
老骨如きに取られるほど、私の首は安くないぞ」
「フォッフォッフォッ、若造が言いおる。
我が紅の衣が、子供の夢を邪魔するならず者の返り血だと知らんらしい」
火花を散らして、眼光が交叉する。
僅かな静寂。
夜の静謐が場を支配する。
直後。
「喰らえい、プレゼント・シュート!」
「必殺、念力パンチ(全力)!」
両者は激突した。
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「我が愛しき姉妹よ! 今、帰ったぞ!」
雷裂の家に溌溂とした声が広がった。
奥から顔を出した黒髪の少女――美影は、声の主の姿を認めると、満面の笑みを浮かべる。
「あっ、おかえり、お兄! ご要望通り、鍋の準備は出来てるよ!」
「それは重畳だ。私の戦果も大満足だぞ」
更に、もう一人、金髪の少女――美雲も顔を出す。
「おかえりなさい、弟君。なんか、凄いボロボロだけど、何してきたの?」
「ふっ、大した事ではない。名誉の負傷という奴だ」
美雲の言葉通り、声の主――刹那は全身がズタボロだった。
スーツは破れ放題、あちこちに血の跡が残っており、それが返り血の類ではない事はよく見れば分かる。
刹那の強度を知る身としては、問わずにはいられないが、彼には詳しく語る気はないらしい。
代わりに、刹那は髪をかき上げながら、肩に担いでいた袋を掲げる。
「そんな事よりも、見たまえ! 本日の戦果、伝説のトナカイ肉だぞ!」
「わぁ! すっごい上質だね! これは料理し甲斐があるよ!」
「…………クリスマスにトナカイとか、縁起って知ってる? ねぇ、弟君?」
「安心したまえ、賢姉様。ちゃんと供養はした。
そして、これが獲物の首の剥製だ。
毎年のクリスマスに飾ると良い物だぞ」
言って、巨大な剥製を取り出す。
実に雄々しい立派な首だ。
頭から伸びる長い角は、雄大そのもので、刃物にも加工できそうである。
「供養?」
美雲がジト目を向けるが、刹那はどこ吹く風だ。
「野生では、余す事無く利用し尽くす事こそが供養だろう?
さっ、愚妹の鍋を食べよう。
雪国に行っていたのでね。身体が冷えていかん」
家族で囲んだトナカイ鍋は実に美味だった。
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『臨時ニュースをお知らせします。
本日未明、国境侵犯及び不法侵入の容疑で国際指名手配されていたサンタクロース容疑者が身柄を拘束されました。
取調では、「子供の夢は終わらん!」「儂を捕まえようとも、第二、第三の儂が現れるぞ!」などと意味不明の供述をしているとの事です。
また、容疑者を拘束した善意の一般市民からコメントが届いております』
「良い子に過ごした全世界の子供たちに告げる」
「今年は来ない」
「良いね?」
こんな話を書いといてなんですが、皆さん、良い聖夜をお過ごしください。
BGMは「サンタクロースに予約して!」でお送りしました。




