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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
二章:最後の魔王編
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観戦する者たち

 アメリカ合衆国。

 とある軍事基地内で、偵察衛星越しの映像が大画面で放映されていた。


 その内容は、東アジアで起きている戦闘状況だ。


 とはいえ、明確な関心を持って見ている者はほとんどいない。

 手隙きの者が暇潰しに見る様な映像である。


 なにせ、日本帝国と朝鮮王国では、その戦力差は圧倒的だ。

 特に策を弄するまでもなく、手堅い作戦で手堅い戦力を送り込むだけで、当たり前の様に帝国が勝利する。


 誰もがそう思っていた。


 見ている者と言えば、仕事として見ている情報分析官と、一部の真面目な将校くらいな物だった。


 少し前までは。

 今は大盛況である。


 その理由は、朝鮮半島で遂に始まった戦争……ではない。


 北側、オホーツク海上空で衝突した、《モンスター》ヴラドレンと《ブラック》ミカゲの戦闘である。


 魔王同士の戦闘など、半島で起きている戦争に比べれば、ただならぬ大事件である。

 しかも、それが未だに成長を続ける最強の魔王と、情報の少ない新進気鋭の魔王の衝突ともなれば、注目度が上がるのは必然という物だ。


 急ぎの仕事の無い者たちは揃って集まり、少々不謹慎な者の中には賭けを始めている者までいる始末である。


「……どう見ますかな? 大佐殿」


 後列で、流されている映像の全てを俯瞰できる位置にいる二人が言葉を交わす。


 一人は初老の男性。

 アジア圏における軍事行動を差配する最高司令官である。


 もう一人は中年の男性。

 ゾディアックが一席、《射手座》を拝命する魔王、ジャックである。


 訊ねられたジャックは、質問の意味を理解しながら、問い返す。


「どういう意味ですかな? 司令官殿」

「これは失敬。少々、曖昧過ぎましたな。

 かの魔王戦、どうなると思われますかな?」

「ああ、そちらですか。てっきり朝鮮戦争の方かと」

「はっはっ、これは冗談を。

 あちらは現状、何の面白味もなく進んでいるではありませんか」

「そうですね」


 最初に放たれた極大の閃熱には驚かされたが、それだけだ。

 確かに驚異的な威力と効果範囲であったが、中身は単なる熱量の放射である。

 個人での対処はそれこそ魔王クラスでなければ難しい物だが、部隊単位で対処するならば、不意さえ撃たれなければ十分に防御可能だという結論が出ている。


 とはいえ、脅威には違いないので、後であれを放った者に関しては要注意人物として詳しく調べられるだろうが。


 それ以外では、目新しい物は何もない。

 少しばかり乱暴な作戦を立てているな、とその程度の感想しか出てこない。


 その為、彼らの視線も、周囲の皆と同じように魔王戦に向いている。


「ふむ……」


 ジャックは、僅かに思考を紡ぎ、


「ヴラドレンに、雷属性ダメージが入っているように見えますね。

 ……何故でしょうか」


 全属性を所持し、その全てによる多重障壁を展開しているヴラドレンには、属性ダメージはほとんど通じない。

 そちらに労力を割くぐらいであれば、全力で身体強化を施してぶん殴った方がマシ、とまで言われるほどだ。


 だというのに、目の前の映像では、ミカゲの黒雷がヴラドレンの多重障壁を貫き、鱗を焦がし、場所によっては砕いてすらいる。


「考えられる理由としては、やはりあの黒雷ですかな?」

「と、思われますが……はてさて、どうなのやら」


 黒雷の詳細については、何の情報もない。

 そもそも実戦で使われた回数がほとんどないのだ。

 詳細が分からないのも仕方がない。


 雷裂の気質を知っている大統領などは、単なる見栄えじゃないのか、と言う始末である。

 ジャックも口にはしなかったが、似たような心境だった。今までは。


 しかし、映像を見る限り、そうではない可能性が出てきた。

 ミカゲの魔力効果は魔王としては並みであり、ヴラドレンの多重障壁を相性差を無視して強引に突破するほどのパワーがない以上、何らかの特殊効果による結果である。

 その最も分かり易い特異な物が黒雷なのだから、注目せざるを得ない。


(……そもそも、どうして黒化しているのかも分からん)


 これまでに彼女以外でその様な現象は確認されていない。

 その為、ほとんどが予想の範疇を出ない。

 下手をすれば、使っている本人すら、どうしてそうなっているのか、何が出来るのか、それを把握していない可能性もある。


「彼女は最強に勝てますかな?」

「それは無理でしょう」


 ジャックは断言する。


 ヴラドレンは、超硬の怪物である。

 多重障壁による防御能力だけではない。

 人間という種族を超越した肉体は、ただそれだけで鋼鉄の塊よりも猶頑強である。

 また、彼は本来、命属性の魔術師だ。

 回復能力は異常の極みに達しており、一撃で即死させなければ殺す事は不可能であると言われる。


 一方でミカゲは、完全な短期決戦型だ。

 圧倒的速度と運動量で敵を押し潰す事を基本とした戦闘スタイルをしている。

 しかし、肉体的に人間である彼女は、長時間、そのパフォーマンスを維持できない。

 息切れを起こしてしまう。


 二人の戦闘は、現状、千日手になりつつある。

 速度に勝るミカゲをヴラドレンは捉え切れず、超硬を誇るヴラドレンをミカゲは削りきれない。


 しかし、長時間戦闘を可能とするヴラドレンにとっては千日手は望む所であり、短時間で攻め切らねばならないミカゲには敗北を予感させる状況でといえる。


「時間を追うごとにあの娘は不利になっていくでしょう」

「時間の問題、か。

 賭けにでも出て、何らかの切り札を使ってくれると良いのですがね」

「どうでしょうか。しない、とは思いますが……」


 ミカゲの最強の切り札は、義兄の召喚だ。

 あれが出て来た時点で、その戦場は終わる。

 そして、その切り札は既に合衆国は把握している。

 無論、他国には知られていないが、それも時間の問題だ。

 始祖魔術師という化け物が蠢動している以上、対抗できる存在は彼以外におらず、いつかは世界中に知れ渡る。


 そういった事を考えれば、わざわざ知られていない札を切らず、知られている上でどうしようもない札を使う方が合理的だろう。


「そういえば、大佐殿はあの《ブラック》と面識があるのでしたな。

 どの様な娘なのですかな?」

「一見すると、とても野性的です。

 思慮という言葉からほど遠く、本能のままに生きているように見受けられます」

「一見すると、という事は、本質は違うと?」

「おそらく。彼女はその真逆、とても理性的なのだと思われます。

 自らの行動に、きっちりとした線引きをしている、と言うのでしょうか。

 自らの力の程を理解しているのでしょう。

 私の様な、自分と同格以上の相手には平気で噛み付きますが、格下相手には何を言われようとも手出しはしない。

 その様な雰囲気を感じられます」

「なんとも。困る話ですな。

 常に冷静な兵士というのは、相手にしていてとても面倒ですぞ」

「ですが、味方とするなら心強くもあります。

 今は友好を結べている幸運を喜びましょう」


 それからも観戦は続く。


 予想通りに徐々にミカゲが劣勢へと追い詰められている。

 動きから精彩が消え始め、ヴラドレンに捉えられ始めているのだ。

 攻撃の手も薄れ始め、防戦一方となり始めている。


 だが、一つ。


 狙ってなのか、それとも偶然なのか、魔王の戦場は高速で動いている。

 始まりはオホーツク海だった筈のそれは、現在は日本海上空へと移っていた。

 二つの戦場が、近付きつつあった。


~~~~~~~~~~


「うちにはあんな事、出来ねぇぞ、です」

「うーん、同じようにする必要はないと思うわよ?」


 所変わって、サンダーフェロウ第一研究所内。

 美雲と雫は、お勉強の傍ら、BGM代わりに二つの戦場の様子を流していた。


 雫は同じ魔王として、二匹の龍のじゃれ合いを見て、即座に白旗を上げる。

 とてもではないが、混ざっていける場所ではない、と。


 ちなみに、今の雫はラフな格好をしている。

 夏らしい半袖のシャツとミニスカートという格好だ。

 つい先日までであれば、絶対にしていない姿である。

 全身に巻かれた、血の滲んだ包帯をあまり見せたくない彼女は、真夏でも常に肌を隠す衣服を着ていた。


 だが、今はその必要はない。

 晒された素肌には包帯はなく、それどころか古傷も含めた、一切の傷跡がない、白く美しい肌が晒されている。

 両の手首足首、そして首に嵌められていた金属輪も外され、ごく普通の女の子らしい姿となっている。


 その理由は簡単だ。


 魔力過剰供給による自己崩壊が止まっているからである。

 その為、包帯を巻く必要もなく、魔力分解効果の付与された金属輪も嵌める必要がなくなったのだ。


「美影……様は、あんな強ぇんだな、です」

「まぁ、仮にも《六天魔軍》の一人だもの。あれくらいはね」

「でも、セツの方が怖ぇ、です」

「それは当たり前の感覚だから」


 実際に戦う場面を見た訳ではない。単なる直感に根差した判断だ。

 だが、確信できる。

 刹那の力は、あんなものでは、魔王どころではない、と。


 雫はあまり考えない事にして、もう一つの戦場へと目を向ける。


 朝鮮半島沿岸部では、帝国と王国の熾烈な戦闘が続けられている。

 王国側が軍団で攻めているのに対して、帝国側は非常に少数による防御陣を敷いている。


 一見して、帝国側が圧倒的不利に見える。

 王国が幾らでも戦力を注ぎ込めるのに対して、帝国は孤立無援だ。

 援軍はその内来るが、それまでの時間は遠く、後続は未だ対馬要塞から出撃すらしていない。

 近いうちに殲滅される、と普通に見れば、そう判断する。


 だが、よくよく見ると、意外と余裕があるように見える。


 何故か、と言えば、単純に戦い方が上手いのだ。


 王国勢力は数こそ多いが、ほとんどDランク以下の下級魔術師だ。

 Cランクすら稀で、それ以上となればほとんどいない。


 一方で、帝国側はほとんどがAランクであり、その上で魔力の使い方が上手い者たちを選んだのだ。

 彼らは雑魚狩りにおいて、ほとんど魔力を使っていない。

 彼らが派手に魔力を消費した場面と言えば、上陸時とその直後の防御陣を敷く時だけだ。


 沿岸部一帯は、既に彼らの領域だ。

 好き勝手に作り替え、強引に地の利を獲得した結果、守り易く攻め難い地形を築き上げた。


 おかげで、実に簡単に敵軍を翻弄できている。

 神出鬼没に現れては、針の一刺しの如き小さな一撃で、簡単に敵軍を崩しておちょくっているのだ。


 中でも目に付くのは、炎を駆る一人の少年。


 左腕に鋼を纏った彼は、出し惜しみをする事なく、派手に炎を撒き散らしている。

 よほど魔力に余裕がある。

 あるいは後先考えていない馬鹿だと、誰もが思うだろう。


 だが、雫は違う。

 あれは超能力だと勘付いている。


 魔力と違い、非常に効率の良い超能力は、消耗を考えない連発が可能だ。

 おかげで、彼が先陣を切って敵軍に切り込んでいる。


 勇者である。


 誰よりも先に出て、誰よりも前に出て、敵を狩り取る姿は英雄英傑のそれである。


「気になる?」

「……ちょっと、です」

「素直ね。どういう所が気になるのかしら?」


 最初に見た時は、《嘆きの道化師》に挑む所だった。


 避難誘導が間に合わず、雫は彼らの襲撃に出くわした。

 同じ力を持っているからだろう。

 雫には気が付いた。

 彼らの魔力が魔王のそれと同じ領域にある、と。


 それが故に恐怖を覚えた。

 直に見た事はない。

 だが、話には幾らでも聞いた事がある。

 神魔の如き魔王の力を。


 だからこそ、絶望的な気分になっていた。


 だが、そこにたった一人で挑んだ者がいた。


 俊哉である。


 何も知らない、身の程知らずの馬鹿だと人は言うだろう。

 勇猛なのではなく、無謀なのだと語るだろう。


 だが、彼は勝った。

 魔王クラス三人を相手に、たった一人で勝利を掴み取った。


 ならば、それは勇者の所業だ。

 勇気ある英雄の行動である。


 そして、今だ。


 今回も、彼は先陣を切っている。

 圧倒的多勢という恐怖にも負けず、誰よりも前に出て戦っている。


 それを語る。


「すげぇ、カッケェと思う、です」

「そうね。確かに、凄い事ね」


 美雲としては死にたがりの馬鹿にしか見えないけども、個人の趣味を否定する物ではない。

 英雄的行動が格好良く見える気持ちも分からないでもない事だし。


 それに、彼女の淡い恋心は、こちらにとっても都合が良い。


 雫も、そして俊哉も、放っておくには大き過ぎる力がある。


 人間が身を持ち崩す理由など、大別すればそう多くない。

 金銭や異性など、最たるものだろう。


 金銭欲や物欲なら、雷裂の力で幾らでも満たしてやれる。

 しかし、異性関係に関しては、自分たちが何かを言ってどうにかなる物ではない。


 そこに、この恋心だ。

 放置できない力を持つ者が、同じく放置できない者に惹かれているのだ。

 利用して、くっ付けてしまわない手はない。


 幸いにして、両方ともフリーであり、二人が恋仲になった所で文句を言う輩はいないのだから。


「うんうん。良いわね。青春って感じで」

「微妙に年寄り臭ぇぞ、です」

「うーん。ちょっと傷付いちゃうわ、それ」

「ごめん、です」

「良いのよ。自分でも年寄りみたいって思うから。

 それよりも、いざという時に振り向いて貰える様に、魅力的にならなくちゃね。

 という訳で、お勉強、再開しましょう」

「ですです。頑張る、です」


 そう言って、二人は世界地図を開くのだった。


~~~~~~~~~~


「酷い事しますね!」


 世界が注目する戦争。

 その推移を見守る者は、異界にもまた、いるのだった。


「そうよのぅ。酷い事ではあるのぅ。

 しかし、世界は誰も何も言わん。

 強きに巻かれるは生物の本能じゃからな。

 弱きを助け、強きを挫く正義の味方は数少ないのじゃ。

 ましてや、そやつが強きを挫ける程の力を持っている事など、奇跡みたいな物じゃ」

「私が行くわ! 良いわね、ノエリア!?」

「ふむ。祖国を撃つ事になるが、良いのかの?」

「祖国が間違っているなら、それを正すのも民の務めよ!」


 それだけ言って、彼女は駆け出していくのだった。

 残された女性は、嗤う。


「実に真っ直ぐな輩じゃ。青臭いほどにな。

 ここまで真っ直ぐとは思わなんだが、ククッ、さて、どうなる事やら」


 そして、椅子の様にしていた粘体へと命令を下す。


「尻を拭ってやれ、ショゴスよ」

今更のように思いついた!

現代兵器よりも魔術師による白兵戦が主流な理由。

それは、三次大戦時に燃料ばかすか使ったり、後先考えずに油田を破壊したりした結果、日々の生活を支えるのが精一杯程度しか燃料が残っていないのだ!

こんな感じで如何でしょう?

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