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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
二章:最後の魔王編
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草薙の剣

よし、間に合った!

 久遠の一撃で圧力は減ったが、それで敵兵力が全滅した訳ではない。

 そして、先の一撃で生き残れる以上、それなりに高位の術者であるという事だ。

 加えて、敵もこれが単なる偵察戦力ではない、と気付いた事だろう。


 取られるだろう選択肢は二つ。


 一つは、この場に留まって徹底抗戦する。

 もう一つは、撤退し態勢を立て直す。


 彼らの選択は、前者だった。


 先の様な気の抜けた攻撃ではない、力の入った攻撃が精密に高速艇を狙い撃ちに来る。


 数そのものは十分の一にも満たないが、その威力と密度は十倍どころではないだろう。


 俊哉は、即座に先程と同じ可燃ガスの層を作って誘爆を招く。

 しかし、それで迎撃できたのはごく僅か。


 ほとんどは魔力操作が行き届いており、多少の勢いや威力こそ削れたが、健在のまま船へと迫る。


「ありゃ、向こうさんもやる気だな」

「一つ一つ撃ち落としていくしかないな……」

「面倒っすけど、そうするのが一番節約になるっすかね」


 先鋒部隊である彼らは、高位の魔術師であり、それに見合うだけの大魔力を持っている。

 しかし、少数精鋭であり、また本隊は遥か後方で援軍の期待は出来ない状況だ。

 それ故に、出来る限り消費魔力を削った上で作戦目標を達成しなければならない。


 それを念頭に置いて、ふと思いついたように俊哉が言う。


「……思ったんすけど、もう陸地見えてるくらいなんすから、船とか捨てて身一つで走った方が良いんじゃないっすかね?」

「……私はそれでも良いのだが……」


 誰もが長距離移動、それも海でのそれに適しているという訳ではない。

 その様な思いから、歯切れの悪い答えを返してしまう久遠。


 そんな彼女の耳に、通信機から声が聞こえる。


『やってやんぞ、テメェ!』

『そうだ! 小僧に舐められて堪るか!』

『先輩は偉大だと知りやがれ!』


 若輩者からの挑戦状だと受け取ったらしい血気盛んな者達が、自らの適性を無視して叫んでいる。

 中には、船が沈んだらどうするのだろう、と真面目に考えたくなる人物も含まれており、久遠としては頭を抱えたくなる。


 しかし、高位者の戦場は、大抵が自己責任だ。

 自分で判断し、自分で解決していく事が当たり前のように求められる。


 そうである以上、久遠は不安を覚えるものの、それを強く言う事はしなかった。


「では、船は放棄して、各自、陸を目指すという事で良いな?」

「うっす」


 通信機からも了承の声が返る。

 その数瞬後、悠長に話している間に接近していた魔術が、船を粉砕した。


~~~~~~~~~~


 俊哉は空を飛んでいた。

 自発的な行動ではない。

 乗っていた船が攻撃を受けて爆発四散したのだ。

 その煽りを受けて、空高く吹き飛ばされているのだ。


 体勢を入れ替え、眼下を見る。


 弓を持った女性、久遠は小さな――と言っても十メートル以上はあるが――水柱を上げながら、海面をスキップするように疾走している。

 おそらく足裏で小さな爆発を起こし、その反動で身体を前に進めているのだろう。

 言葉にすれば簡単だが、推進力を確保する威力と、自分の耐久力を天秤にかけた緻密な出力調整が必要となる。

 それも魔力を節約しながらとなれば、実に見事であると言わざるを得ない。


 見れば、他の面々もそれぞれに頑張っている。

 中には海中に沈んでいるようにしか見えない者もいるが、あれでも高位の魔術師なのだ。

 きっと大丈夫だろう。


「負けてられねーな」


 俊哉は全身で風を受ける。


 魔術の風ではない。自然の海風である。

 陸からの風、海からの風、上昇気流から下降気流、更には爆発などによって起きる人工的な風。


 その全てを受け、乗るべき風の流れを選別する。

 選び取れば、それを風魔力で僅かに増幅させ、全身でもって掴み取る。

 あとは、勝手に運んでくれる。


 風属性魔術《風之道》技巧版。


 本来ならば、全ての推力を自身の魔力で賄う術である。

 しかし、一部の技巧者は、それ以上を、自然風を僅かに増幅させるだけで空を縦横無尽に駆ける術へと昇華させる。


 つい先日までは、俊哉も出来なかった。美影にしごかれる前までは。


 彼女は空を飛べない。

 全力を出している時ならば、空を踏みしめて走るという意味の分からない身体能力を持つ彼女だが、制限下ではそこまでではない。

 その為、空は直接の拳脚の及ばない、比較的安全な避難場所だったのだ。


 人間、命がかかれば色々と必死になる物である。

 俊哉も同じく、死にたくない一心で空へと逃げる術を磨いたのだ。

 尤も、空から見下ろして馬鹿にしてやった所で、雷で撃ち落とされたが。


 魔術が空を切る、その僅かな空気の流れさえも味方に付け、木の葉の様に軽やかに、突風の様な速さで、俊哉は急速に陸地へと向かっていった。


~~~~~~~~~~


「とっ……。急ぎ過ぎたか」


 風に吹かれてきた俊哉は、先鋒部隊の中でも最速で上陸を果たしてしまう。

 つまりは、敵陣のド真ん前に降り立ったという事に他ならない。単独で。


 敵意と殺意が殺到する。


 それでも、


(……駄目だなぁ、俺っち)


 それでも、美影のそれに比べれば、そよ風の様だと思ってしまう。


 僅かに左腕に意識を向ける。


 魔力貯蔵機能を付与されており、少しずつ魔力を溜め込んである。

 理論上は美影の倍以上の魔力を溜め込めるという話だが、装着して日が浅い為、満タンには程遠い。

 当てにし過ぎては、痛い目を見るだろう。


 それを再認識した俊哉は、瞬発する。


 魔力を使わず、超能力にのみ頼った炎を放つ。


 それなりの火力だが、それなり程度だ。

 生き残っている者たち相手には、目晦まし程度にしかならない。


 だが、一瞬で十分だ。


 そもそもの話なのだが、魔術師という者は後方で砲台となるスタイルこそが基本である。

 魔力による身体強化があるとはいえ、俊哉や美影、火縄教員の様に、最前線で殴り合う事を前提とした戦闘スタイルは非常に少ない例である。

 身体強化は、非常時の緊急回避用である、というのが常識なのである。


 ならば、そんな群れが近接戦闘を主体とする魔術師の接近を許してしまった場合、どうなるのか。


 答えは簡単だ。


 俊哉が駆け抜けながら右手を一閃する。


 振り切る途中で刀型のデバイスを展開、最前列にいた二人を一撃で両断する。


 敵陣はあまりの近距離に現れた俊哉の姿に、蜂の巣を突いたように恐慌を起こす。


 咄嗟に魔術師の華である大威力魔術を放とうとするが、逃げ遅れている味方の存在が決断に迷いを生む。

 それだけで俊哉には十分だ。


 そうして迷う敵兵に接近して、片っ端から切り捨てていく。


 同時に、無数の炎の壁を放っていく。


 奇襲の効果は高く、いまだ敵陣の士気は回復していない。

 混乱が抜け切れていない。


 冷静に見れば、それが逃げ道を誘導している物だと分かるだろう。

 大した火力の無い見掛け倒しの物だと分かるだろう。


 だが、それが見抜けない。


 有難い。

 俊哉は広域に及ぶ火力が少ない。

 強いて言えばカグツチがそれに当たるが、効果範囲となる広域の大気成分を調整しなければならない為、集中力が必要となる。

 とてもではないが、走り回りながらそれを行う事などできはしない。


 だから、もっと簡易的に使える技で代用する。


 即ち、アマテラスである。


 あれは、直線的に放つしかできないが、高い貫通力がある。

 故に、直線状に並んでいる敵に対しては範囲攻撃として有効だ。

 しかも、ただ力任せに放てば良い、単純な構造である為、高速戦闘中でも使用が可能となる。

 加えて、非常に高火力であり、真面な術師では耐えきれるものではない。


 やがて、条件が整う。


 敵が、直線状に並ぶ。


 左腕を掲げる。

 この腕となって、初めての一撃である。


 不安がある。恐怖がある。

 刹那が何かを仕掛けていない、とは考えられない。


 だが、やってみない事には始まらない。

 だから、意を決して力を籠める。


「アマテラス……!」


 瞬間。

 機械の腕が展開した。


「ホワッ!?」


 俊哉の意思に反して、勝手に組み変わる。


 手掌部分が三又に分かれ、前腕部を囲むように配置される。

 肘周辺の装甲が開き、勢いよく空気を吸い込み始める。

 手首部分から砲門が迫り出し、光熱を溜め込み始める。


「待て。待て待て待て! ほんとに、待ってッ!」


 俊哉は焦る。


 取り敢えず、変形機構があるのは別に良い。

 それくらいは予想の範疇である。


 何が彼を焦らすのか、それは魔力が勝手に吸われている事だ。

 俊哉の神経から送られる停止信号を受け付けず、逆に彼の意思に反して彼の魔力を強引に吸い上げ、アマテラスの威力へと変換しているのだ。

 数秒で全魔力を吸い尽くされ、眩暈がする中で臨界点へと達する。


 直後。


 神威の剣が放たれた。


 直径百m、全長三kmにも及ぶ閃熱の剣。


 灰一つさえも存在する事を許さず、一瞬にして全てを蒸散させていく。


 神威は、数秒で細く消える。


 その後にあったのは、赤熱する溶岩の道だけだった。


「…………」


 音のなくなった戦場で、静かに左腕が元の腕の形へと変形する。


 唖然と、せざるを得ない。

 俊哉の全魔力を込めたとしても、この様な事には絶対にならない。

 何かの仕掛けの結果なのだろうが、代償がないとは限らない。

 というか、あると考えるのが自然だろう。


 俊哉は流れるような動きで携帯端末を取り出して、目的の番号をコールする。

 即座に犯人は電話口に出る。


『――――――――こちら宇宙の帝王だ』

「もしもしもしもし!!

 ちょっとアンタ、一体コレなんだ、ああんッ!!??

 ってか、当たり前みたいに帝王名乗ってんじゃねぇよ、せっちゃんセンパイよぉ!!」

『――――――――俺が帝王である事は自明の理だと思うのだが』


 取り敢えず、凄く電波が遠い。


では、これからイベント行ってきます。

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