エピローグ:苦難はいつまでも
戦は終わった。
だからと言って、それで平穏無事な日常が戻ってきましためでたしめでたし、という事にはならない。
問題は山積みである。
そもそもの居住領域が少ないのだ。
勝利への犠牲は大きかった。
特に、地球が丸ごと吹っ飛んだ事が痛すぎる。
人は、というか生物は、腹一杯の食事と温かな寝床があれば、最低限は満足できるのだ。
だが、現状でその両方を満たせない。
火星に作られた生命生存領域は、非常に狭いものだ。
生存戦争のおかげと言うと語弊もあるが、それによって大きく磨り減った人口は、地球人類とノエリア移民団と合わせて、なんとかギリギリで受け入れられる、という程度の規模でしかない。
つまり、発展の余地が現状で全くない。
早急なテラフォーミングを行わなければ、現状維持が精一杯なのだ。
そして、文明において現状維持とは、緩やかな衰退の第一歩と同義である。
この現状を、早急に解決しなければならないのだが、それがまた厄介な事になる。
なんと言っても、意思統一しなければならない種族が一気に12も増えてしまったのだ。
人間一種族ですら200もの国家に分かれていたというのに、それから更に複数の別種族と協議し、誰もが妥協できる結論を、領土の割譲を取り決めなければならないのだから、悪夢も同然である。
「…………これも運が悪いって事かよ。なぁ、おい」
その当事者として、暫定的ながら初代人類大統領として選ばれてしまった元アメリカ大統領スティーヴンは、深く、それはもう深く吐息して諦念をこぼす。
一番手っ取り早い解決法は、他種族を丸ごと全部滅ぼして人類が総取りする、という手段なのだが、
「いやー、大変ですねぇー! 遠くから応援しておりますよ!」
『僕からは特に言うことはないね。まっ、精々頑張んな』
「テメェらは非協力的過ぎねぇかよ、おい!」
それが出来るだろう薄桃色と漆黒が他人事なせいで、やっぱり不可能という結論にしかならない。
「だってー、私はお姉様が無事ならそれで良いですしー」
『僕としても、人類が滅ばないならそれで良いし。強いて言えば、ルーナだけは何とかした方が良いと思うよ?』
「……それもあったか」
無限魔力増殖機関ルーナは、宇宙の破滅を誘う一因である、らしい。
人間の持っている観測手段でははっきりとしないが、どうやら魔力の増殖には宇宙を支えるダークマターの一種が消費されているらしいのだ。
今はまだ、一機しか稼働していない為に、誤差程度に宇宙の膨張が遅くなる程度らしい。
それ故に、美影も静観を決め込んでいられるが、これが数を増やして膨張がマイナスに振れれば、途端に彼女の中の宇宙意思が牙を剥くだろう。
とはいえ、すぐに廃炉にしてしまう訳にもいかないのが、やはり問題となる。
あれがないと、エネルギー政策が一瞬にして破綻してしまうのだから、今は頼りにせざるを得ないのだ。
『まっ頑張んなよ、人間。なんだかんだと問題を抱えつつ、結局はしぶとく生き残ってきたのが人類文明って奴なんだ。きっとなんとかなるさ』
ケラケラと、無責任に笑う破壊神に、人類代表は乾いた笑いしか出せなかった。
『なんともならなかったら、滅ぼすけどね』
笑えない予言を捨て置かれて、乾いた笑いすら消え果てるのだった。
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試練は、新たな飛躍への挑戦である。
滅亡の危機を切り抜けた人類は、星々の友人たちと手を携え、新たなる舞台へと旅立った。
安寧の揺り篭を巣立ち、激動の星海へと。
彼等が如何なる軌跡を辿り、栄枯盛衰の果てへと行き着くのか。
それを見届けられる者は、ただ一柱のみ……。