ラスト・ワン
「さて……」
刹那は、一人、呟く。
場所は、星獣の背。
足元で蠢く成れの果て共を容赦なく踏みつけながら、彼は髪を掻き上げる。
そう、刹那は早々に目的地に到着していた。
なんだかんだと、彼は色々と万能なのだ。
スニーキングミッションも容易い。
正面から正々堂々とこっそり近付き、美雲に先駆けて一足早く星獣へと辿り着いていた。
既にこの場でも充分と言えば充分であるが、確実性を期すならば、やはり星獣の中心――惑星ノエリアの星核まで行くべきとなる。
気配を探れば、美雲はまだまだ遠い。
合流できるまでには、今しばらく時間がかかるだろう。
余裕が無いのであれば仕方ないが、余裕があるのならばベストを尽くすべきだ。
刹那は、その場に跪くと、手を地に当てて内部を探る。
巨星程もある星獣だが、その構造は単純なものだ。
訳の分からない進化を経た廃棄領域の謎生物に比べると、本当に楽に力の流れを調べられる。
数秒でおおよその流れを掴んだ刹那は、それを根本へ根本へと遡り、遂には星核にまで辿り着く。
だが、その瞬間。
「む……!?」
弾かれたようにその場から跳びすさる刹那。
「……流石に気付かれてしまったか。存外に鋭い」
深淵を覗き込む時、深淵もまたこちらを覗いていると言う。
それはものの例えなのだろうが、星獣は自身の心臓部への干渉に敏感だったらしい。
あるいは、それは前哨戦の時に星核を直撃しようとした事からの学習かもしれないが。
答えは分からないものの、防衛機構が反応した。
刹那のいた場所から、何かが浮かび上がる。
それは、人の頭サイズの球体。
うっすらと輝く様は神々しくもあり、そして目まぐるしく表面が移り変わる様子は、地球やノエリアの様な豊潤な惑星のようでもある。
そんな小さな星に、ヒビが入った。
孵化する。
何処にそれだけの質量が入っていたのか。
明らかに星よりも大きいモノが、膨れ上がり、生まれ落ちる。
「成程。そういうプロセスを踏むのかね」
勉強になったと嘯く刹那の前で、一つの存在が立ち上がる。
人だ。
人間のサイズ感で、人間の五体を模しており、遠目から見れば誰もがそれを〝人〟と称するだろう。
しかし、詳細を見れば、誰もが否と首を横に振るに違いない。
まず、それには皮膚がない。
剥き出しの肉が外気に晒されており、まともな人間ならショック死するであろう有り様をしている。
加えて、顔もない。
眼や鼻、耳がなく、唯一、口らしきものは存在しているが、それも大きく側頭部まで裂けている。
先手必勝、と、刹那は生まれ落ちたばかりの〝それ〟に、念力パンチを叩き込む。
最速にして最強の一撃。
彼が最初に発現させ、最も鍛え上げた能力による必殺を放つ。
【――――OOOOOOOOGYAAAAAAAAAAA……!!】
ヒットする寸前。
それが、引き裂けた口を大きく開き、泣く。
それは、産声。
新たなる存在が誕生した事を、世界へと知らしめる最初の雄叫び。
攻撃ではない。
防御でもない。
ただ、それだけの声で、しかし刹那の念力は押し返され、雲散霧消した。
光り輝く不思議な色合いのオーラが解き放たれる。
それが何なのか、刹那はよく知っている。
「終焉を呼ぶ極光……。ふっ、面白い芸を見せてくれるね」
髪を掻き上げる刹那に、焦りの色は無い。
ただ、懐かしいと思うだけだ。
「何番目かは知らないが……、さしずめクリア=オメガとでも呼ぶべきだろうか」
惑星ノエリアが産み落とす、最後の天竜。
人を模した、消滅の権能を宿した怪物に、刹那もまた極光をその手に生み出しながら、堂々と対峙する。
格上だ。
万全の状態でも、あるいは負けてしまうかもしれない程の強大な敵。
消耗している今ならば、尚更のこと。
それでも、刹那の不敵は崩れない。
何故ならば、それはいつもの事だったから。
「ふふっ、挑戦者か。昔を思い出す」
もはや遠い記憶。
己を構成する原点とも言うべき時代。
無力な子供のまま、地獄もかくやという廃棄領域を彷徨い歩いた、あの日々。
周囲にあるあらゆるモノが敵で、敵わぬ強きモノだった。
それに比べれば。
「わらわらと負け犬どもが。実に滑稽」
オメガを援護する様に、周囲に成れの果てどもが出現する。
他愛ない存在だ。
目の前の人型に比べれば、木っ端に等しい。
全てが格上だったあの頃に比べれば、ずっとずっと難易度は低いと言える。
「貴様と遊んでいるほど、私も暇ではない。早々に片付けさせて貰おう」
せっかく、愛する姉を迎えるのだ。
綺麗な場所を陣取っておきたい。
だから、目障りなゴミを掃除すべく、刹那は腕を振りかぶる。
【―――――!!】
二つの極光が激突した。
天竜の姿形は、発生した場所にいた何かに影響される事が多いです。(絶対ではないけど)
なので、最後の天竜は、人(?)である刹那を模して誕生しました。
強大なエネルギーを、人の姿にまで圧縮した高密度体として。