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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
終章:永劫封絶の刻
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天地創造《偽典》

 ――――時、来たれり。


 花開く。

 地球跡地にて、身を丸めていた星獣が、遂に動き始めた。


 軋むようなぎこちない動作で、大きく身体を広げる。


 模している姿は、ドラゴンのそれだ。

 巨大で、強大で、だからこそその姿を造ったのだと思われる。


 だが、よくよく見れば、その身体はあまりにも禍々しい。


 無数の、集合体。

 人も獣も、鳥も魚も、植物や鉱石さえ、あらゆる〝何か〟が、蠢き、集まり、形を造り上げていた。


 それは、惑星ノエリアという星の、末路。

 本来、肉体を持たない星獣は、こうして取り込んだ星を使って新しい身体を造り上げる。

 あそこにいる全ては、惑星ノエリアにて犠牲となった全ての生命なのだ。


【■■■■■■■■■■――――】


 世界の果てまで響き渡るような、低く、長く、唸り声が広がる。


 ただ、それだけ。


 姿勢を戦闘態勢へと移行しただけ。

 威嚇の雄叫びを上げただけ。


 たったそれだけで、何らかの攻撃を受けた訳でもないのに、星獣の全身から無数の破片がこぼれ落ちてしまう。


 手負いの獣だ。

 そして、同時に空腹の獣でもある。


 人は、それを与し易しと見るだろうか。


 否。

 断じて、否。


 それは決して、死を待つだけの弱き獣などではない。

 手負いの獣こそ、腹を空かせた猛獣こそ、野生においては何よりも恐れるべき怪物である。


 つまり、ベストコンディションという訳だ。

 星を喰らう為に、これ程適した体調はない。


 野生における、原始における、最も単純にして、最も強烈な意思が、赤き惑星へと向けられる。


 食欲。


 お前を食い殺す、という単純明快な殺意が、一心に殺到した。


~~~~~~~~~~


 だが。

 だが、しかし。


 赤き火星にいる生命体は、座して食われる事を運命と受け入れる様な、そんな無知で愚劣で素直な者たちでは断じてない。


『精霊島、総展開(グランド・オープン)……!』


 一個の閉じた世界が、自らの領域を拡大させる。

 中央に聳える巨大樹――緑の始祖精霊の盟友にして、自我無き天竜である、ヌル・バームの断片が光輝いて力を発揮した。


『まさか、これが天竜であったとは……』


 ヌルを上から見下ろす黒の始祖精霊――エルファティシアは、つい数時間前まで知らなかった事実に、呆れたような声を溢す。


 始祖精霊たちがノエリアから分化されるよりも前から、いつの間にか地上に生えていた、世界樹。


 そういう物だと、特に存在を疑問視していなかった。

 ノエリアやアインスならば正体を知っていたのだろうが、取り立てて言及する事もなかった。


 意識らしい意識を持たず、ただそこに佇むだけの、樹。

 だから、エルファティシアも、他の始祖精霊たちも、皆が気にしなかった。危険も感じられなかったから。


 唯一、緑の始祖だけが興味を示し、常に寄り添い、最後には枝の一本を折って託してきたのだが、まさか謎の素性にこんな大きな物があったとは夢にも思わなかった。


『……こいつも、自分が最後の天竜になろうとは、思っていなかっただろうな』


 言って、苦笑する。

 そもそも、自我を持たないのだから、何を思うも何も無いだろう。


 とはいえ、故郷に在った時には子精霊たちの生まれ(いず)る地となり、そして今はあらゆる種の生存戦争における最大の因子となるのだから、天竜の本懐極まれり、という所に違いない。


『皆の者! 戦場を開くぞッ!』


 星と星を繋ぐ、一大世界が創造された。


~~~~~~~~~~


 それは、球体の世界だった。


 一般的な惑星と同じ。

 海があり、山があり、空がある。


 だが、決定的に異なる点として、重力の向かう先が内側ではなく外側に向いている事と、人の立つ地上が球体の内側にあるという事にある。


 星獣を中心核として、彼の脅威を見上げる閉じた世界が、種の未来を賭けた戦場として形作られた。


「「「進軍せよッ!」」」

『『『『オオオオオォォォォォォッッッッ!!!!』』』』


 号令と共に、球内世界にあらゆる〝人〟の軍勢が鬨の声を叫びながら出現する。


 第一段階【封印壁の形成】。

 この目的を果たす為の囮として、加えて最終段階での抵抗力を少しでも削る為に、最初から出し惜しみ無きフルスロットルで戦場へと駆け込んでいく。


 だが、しかし。


 敵が、ただ座して見ていてくれる訳も無し。


 光が、瞬いた。


 直後。


 球内世界のあちらこちらで、尋常ならざる爆裂が立ち上る。


「アインス様だっ!」


 その正体を瞬時に看破したのは、ノエリアの民である。


 彼らにとっては、天罰の象徴。

 懲罰を下す天の意思そのもの。


 恐怖。


 かつては、厳しくも自分たちへと寄り添ってくれていた災厄が、今この時は明確な敵意と殺意を宿して立ちはだかるのだ。


 先祖代々から本能に刻まれた〝神〟への恐怖に、足が竦み、進撃が止まりかける。


「臆するな! 〝神〟ならばこちらにもいる……!」


 その背を押し、前へと進ませる叱咤が飛ぶ。

 同時に、雷光が迸った。


 自然的には有り得ない、漆黒の稲妻。


 白の光竜に、黒の雷龍が、喰らい付く。


『負けっぱなしは趣味じゃないんだ。お前を殺して、ボクの勝ちでお終いだよ……!』


 最後の戦いが、ここに開かれたのだった。

ダイソン球みたいなもんよな、星獣を中心にした。

知らない?

調べろ。SFの常識やで。(これがローファンタジーという事実から目を逸らしつつ)

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― 新着の感想 ―
[一言] 星獣の恐ろしさや、不気味さが伝わって来て良い回でした。 しかし、そんな星獣よりもヤヴァイと作者様がおっしゃるピンクスライム。 宇宙の守護者兼人類の救世主となった美影が、よく一億年近くもの間滅…
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