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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
終章:永劫封絶の刻
385/417

【人類の救世主】

 最後の因子:【救済の祈り】:認証――――

 プログラム:【人類の救世主】――――

 再起動:――――完了


~~~~~~~~~~


 雷が降り注ぐ。

 縦に横に、尽きる事無く、縦横無尽に。

 天頂より天下へと、見渡す事すら出来ない果てにまで走り抜ける幾重の雷は、まるで世界が裂けてしまったかのよう。


 轟く雷鳴。

 真空の宇宙を貫いて、耳を、身体を、魂までさえも震わせる叫びが響き渡る。


 ――――我を見よ、我を見よ。

 ――――我こそが、神である。


 理性ではない。

 本能が、生物として、――否、この宇宙に存在する物質として、それを理解する。


 畏敬。


 それだ。

 思わず平伏さざるを得ない様な、そんな圧力が降り注ぐ雷より感じられた。


 誰もが、敵も味方も、人も化物も、天竜さえも例外無く、動きを止めて固唾を飲んで見詰める。


 広域に渡って広がっていた雷の雨が、やがて収束を始める。

 宇宙の全てに散らばる断片を、唯一つに。

 かき集めて、押し固めて、あるべき形へと。


 一本の雷の滝が完成し、それは更に渦を巻いて球状へと変わる。


 収斂。


 小さく、更に小さく。

 星ほどもあった雷球が、中心に向かって圧縮されていく。


 やがて、それは人程にまで縮む。


 一瞬の間。


 炸裂した。


「くっ……!」


 莫大なエネルギーの奔流。

 しかし、思っていた程の圧はない。


 防御を固めていれば、容易く耐えられる程度だ。

 その程度の筈がないというのに。


 集まっていたエネルギーは、明らかに常軌を逸した、まさしく神話の領域だった。

 それが炸裂したのならば、周辺一帯と言わず、太陽系まるごと蒸発していてもおかしくない。


 それが、この程度。


 これは、ただの残滓、あるいは余波でしかないのだと、誰もが察する。

 大半のエネルギーは、()()を創り上げる為に使われたのだ。


 人型。


 人間にしても、随分と小さい。

 子供のような大きさだ。

 衣服は纏っておらず、素肌を惜しみ無く曝していた。

 女性の丸みを帯びた肢体をしているが、その肌の質感は人間のそれではない。


 雷気。

 雷を押し固めたような身体。

 輪郭が常に揺れており、確固たる肉体を持つ生物よりは、魔力で身体を形作る精霊や天竜に近いだろう。


「ミカゲ……か?」


 雷を編んで創られたような長髪を靡かせる陰には、二つの星に渡って大きく名を売っていた少女の顔があった。


 だが、あまりにも放つ雰囲気が違う。

 記憶にある彼女の、焼き尽くす様な苛烈さは欠片も無い。

 それどころか、先程までにあった神威の圧さえも無い。


 無。


 まるで、夢か幻か、実際にはそこにいないかのような、全くの虚無が広がっている。


『キィィィィィィィィ…………!』


 神威の圧が消えたという事は、動きを押さえ付けていた要素が消えたという事でもある。


 フィーアが雄叫びを上げる。


「うあっ……!?」


 放たれる火焔。

 極限まで強化された彼は、ただそれだけで近付く何者をも焼き尽くしてしまう。


 堪らず、皆が距離を取る。


『…………』


 平静を保っているのは、ただ一人。

 美影らしき人影だけ。


 それ程の熱量に曝されて猶、彼女は涼しい顔をしている。


 いや、それどころか、気にしてすらいない。

 何も見えていないかのように、ぼんやりとした様子で佇んでいる。


 それが気に食わなかったのか、フィーアは狙いを彼女へと定めて、翼をはためかせる。


 愚直な突撃。

 フェイントも何もなく、一直線の加速。


 美影は、回避も防御もしない。

 無防備なまま受ける。


 あるいは、それはより近しい天竜としての勘だったのかもしれない。


 今の美影の、危険度を。


「雷裂嬢!」


 同僚として、美影の力量は、この中で武が一番知っている。


 如何に彼女と言えど、あれには耐えきれない。


 そうと直感して呼び掛ける。


 だが、すぐに気付く。


「雷が……」


 フィーアの炎を包み込むように、雷が纏わり付いていく。


『もっと、簡単に……潰しても、良かった……』


 フィーアの嘴の先端に引っ掛けられ、炎に焼き焦がされながら、美影は静かに語りかける。


 やろうと思えば、根本的に〝操作された法則(ルール)〟自体を破壊してしまえた。

 それだけで、フィーアの強度は大きく下がる。


 それでも良かった。

 美影の中に挿入された、宇宙意思の基準からすれば、穢らわしい改編法則など今すぐにでも破壊すべきだと訴えている。


 しかし、それとは別に。


 彼女の中には、人として育んできた価値観がある。

 それが叫ぶ。


 調子に乗っているバカを、最高潮のままに叩き潰せ、と。


 二つの異なる価値観。

 本来であれば、たかだか人の意思程度で、宇宙のルールに抗せる筈もない。


 だが、美影の意思は、魂は違う。

 極限へと至る肉体を支えた、究極へと繋がる魂魄。

 一度は拡散しながらも、一つへと戻るという奇跡を経験した魂は、鮮烈な輝きを宿している。


 だから、自らの意思で自らの行動を決定する権限を有していた。


『ボクの前に、立ちはだかる愚劣。魂の精髄に刻み込んでやろう……!』


 ヂリ、と電撃音が弾けた。

 次の瞬間、フィーアの放つ炎が雷撃に噛み砕かれ、ガラスの様に砕け散る。


『太陽の鳥。よく頑張りました』


 皮肉を笑みに込めて、美影は右腕を振りかぶる。

 それは、掲げられると同時に、人の腕の形を失い、輪郭を刃へと変える。


 何処までも巨大で、星さえも切り裂かんばかりの、神の刃。


『――――神裂の名の下に、汝に死を与えん』


 両断。


 炎を消し去っても、それでもフィーアの身体は天変地異が如き強度を有していた筈だ。

 それを意にも介さず、ただただ圧倒的なエネルギー量の奔流にて叩き潰してしまう。


 彼の魔力へと感電した雷は、繋がる魔力を伝って根源たる魂へと届く。


 粉砕。


 星の息吹から生まれ、星喰いの傀儡となった哀れなる魂が、今ここに意思持つ破壊神によって、完膚なきまでに殺されるのだった。


~~~~~~~~~~


「…………」


 圧倒。言葉も出ない。


 勝てるとは思っていた。

 そうでなければ、頼りなどしていない。


 だが、ここまでの圧倒的な光景を見る事になろうなどとは、想像だにしていなかった。

 そして何よりも、これ程のパワーを見せていながら、未だに美影からは何の威圧感も感じられないのが、とても恐ろしい。


(……ああ、成る程)


 なんとなく、察する。

 その理由を。


 彼女は、真の意味で、この宇宙の一部となったのだ。


 人間は、生物は、あまりにもサイズの違い過ぎる存在を体感する事は出来ない。

 身近にある自然も、それを見渡せる位置に行かなくては、その雄大さを理解できない。

 自分たちの立つ星々の巨大さも、宇宙に出てみなければ分からない。


 ちっぽけな存在でしかないのだ。


 だから、そんな矮小な存在に、今の美影の立っているステージを感じられる訳がないのだ。


 何故ならば、彼女は宇宙の法則と一体となったのだから。

 彼女こそが、この宇宙を支配する物理法則の一部分なのだ。


 それを理解し、体感できよう筈がない。


 当たり前に隣にある物として、知識として学ぶ以外に、彼女を観測する手段はないのだ。


 残心していた美影が、視線を切る。

 バチリ、と残光を残した彼女は、気付けばジャックの目の前にいた。


 鋭い視線が突き刺さる。

 殺意や敵意はない。

 が、それは安堵する理由にはならない。

 人間など脆い生き物なのだ。猛獣にその気がなくとも、じゃれつかれただけで死んでしまう。

 魔王と呼ばれようとも、もはや神のランクに到達した美影には、木っ端とさして変わらないだろう。

 ほんの戯れで殴られるだけで、消し炭も残らないに違いない。


 冷や汗をかいていると、美影はジャックの胸ぐらを掴んで勢いよく言葉を叩きつける。


『お兄は!?』

「……は?」

『お兄は何処にいるの!? って訊いてんだよノロマがぁ!』

「あ、ああ、彼ならば、火星で準備をしている筈だが……」

『ふん』


 それだけ訊いたら用済みだとばかりに投げ捨てられる。

 錐揉みする身体を頑張って立て直す先で、美影は雷光を纏う。


『待っててね、お兄! 新生ラブリー・キューティー・ビューティー・シスターが今会いに行くよぉー!』


 あらゆる全てを放って、彼女は心を捧げた男の下へと突撃していった。


「…………中身があまり変わっていないな」


 もう少し神らしい超然的な態度を取って欲しい。

 今までと同じ奔放さでは、ちょっとした事で世界の危機となりかねない。

 そんな、決して妄想でも過剰でもない危険な将来を想い、ジャックは頭痛を覚えるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] NEW美影TUEEE! 思った通り瞬殺でしたね。これで星獣に勝てないとは……まあ、生まれたてなんでレベル1みたいなものだと思えば無理もないですね。 それにしても、『人類の救世主』かぁ。 救世…
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