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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
終章:永劫封絶の刻
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執行猶予

 地球、跡地。


 発生した爆発は、非常に杜撰かつ、小規模な物であった。


 理由は二つある。


 一つは、爆破装置自体が不完全な物であったこと。

 刹那が遊び心で敷設してきた装置であるが、しかしそれを完全に構築する前に、彼は過去へと旅立ってしまっていた。

 その後、万が一の時の為に現代の技術者たちの手で急ピッチで完成させたのだが、不透明な部分が多く、また間に合わせる為に意図的に省いている部分もあるのだ。


 もう一つは、爆発源となる地球のエネルギーがほとんど尽きていた事だ。

 直前に刹那が盛大に無駄遣いを行い、加えて残っていたなけなしのエネルギーも永久が使ってしまった。

 その為、爆破に使用するだけのエネルギーが充分に残されていなかったのだ。

 もしも、爆破せずとも地球の存続が叶ったとしても、この損失の為に地球は万年単位で荒廃した状態となったであろう。


 以上の理由により、惑星一つを丸ごと爆弾として使用したという割に、その規模はさほど大きくはなかったのである。

 具体的には、周辺宙域に地球の残骸が原型が分かる程度に残るくらいには。

 永久という最高の生命力が表面を覆っていた事も理由の一つだろうが。


「やれやれ、私も色々と言われるが、有象無象どもも大して変わらぬではないかね」


 そんな残骸を足場に動き回る影がある。


 ちっぽけな存在。

 保有するエネルギー量も少なく、爆心地にて身を丸めている星獣からは、至近距離にもかかわらず、脅威と見なされない以前に、存在そのものが気付かれていないという有り様。


 彼は、本当にやるとは思わなかった手段に踏み切った人類の決断に、呆れと愉悦が半分ずつ混じった言葉をこぼす。


 彼は、チラリと傍らに浮かぶ星獣を見やる。


 今は沈黙している。

 度重なる防衛機構との戦闘で大きく損傷した星獣は、残るエネルギーを結集して傷を癒し、最後の決戦へと挑む腹だろう。


 人類に残された最後の大地、火星を喰らう。


 人類にとっては勿論、星獣にとっても命を賭けた死闘となるに違いない。

 なにせ、ここで更に食いっぱぐれる様な事になれば、星獣は餓死してしまうだろうから。


 だから、確実に喰らえる様に、今出来るベストコンディションを目指し、沈黙を保っているのだ。


「ふっふっ、受けて立とうではないか」


 正直なところ、恨みなどは無かった。今までは。


 あくまでも降りかかる火の粉を払っていただけ。

 殺したいとも倒したいとも、他の何も無かった。


 今は違う。

 明確に、抹殺すべき怨敵として見定めている。


 だから、彼は、手を打つ。

 周到に準備を行う。


 足下の岩塊、元は北アメリカ大陸だった残骸へと手を付ける。


 変身。


 肉体変形能力を発動させた。


 本来、その能力は、その名の通りに自らの肉体を変化させる物だ。

 極めれば、有機物無機物を問わず、あらゆる物体へと化けられる破格の能力である。


 しかし、唯一、大量の代替物を必要とする変形がある。


 星鋼ステラタイト。


 完全なる異能絶縁体にも、理想的な異能伝達体にもなり得る、希少物体。

 この生成だけは、人体を犠牲にしても到底なし得ない奇跡に位置する。


 大陸と、それに繋がる地盤の全てを生け贄に捧げて、彼はステラタイトを創り上げる。


 細長い造形。

 長さは人間の体長程もあるが、一方で細く、大剣のような印象は受けない。

 むしろ、針か槍のような物に見えるだろう。


「……まぁ、造形など何でも良いのだが」


 なんならば、球体でも箱でも、何でも良い。

 どうせ、剣としての役割など期待していないのだから。

 鉄火場に持ち出すのだから、何かの間違いで武器として振るう事もあるかもしれないと、剣の形にしてみただけの事である。


「まぁまぁの出来だね。数打ち品くらいの切れ味は期待できそうだ」


 人体変形の延長で作ったので、刃物としての出来は微妙だ。

 業物とは間違っても言えないだろう。

 大量生産品の包丁くらいはありそうだが。


「さて、残りも仕上げてしまわねばな……」


 至近という距離で、見た目にはかなり派手な行為が行われているのだが、星獣は今のところ反応していない。


 というのも、使用されているエネルギー量という意味では大した事がないからである。

 消費されている地球の残骸にしても、中身は空っぽであり、食べた所で星獣の腹の足しにもならない。


 今にも餓死しそうなのに、わざわざダイエット食品を食おうとは誰も思わないという事だ。


 尤も、獣の思考回路を完全に見切れている訳ではない。

 近くを飛び回る蚊蜻蛉を煩わしく思う可能性もある。


 故に、作業は早急に終わらせてしまうに限る。


 次々と残骸を飛び回る。


 南北アメリカ大陸、ユーラシア大陸、オーストラリア大陸、アフリカ大陸、南極大陸、そして海と空。


 地球を構成していた要素を8分割して、8本の剣を創り上げる。

 せっかくなので、それぞれに造形の差を作って各文化圏の代表的な刀剣を模してみたが、見た目以上の意味はない。


「むっ……」


 と、丁度その時。

 遠くの宇宙で、雷が弾け飛ぶ様が見えた。


「意外と早かったものだね。怪猫も粘液娘も、存外に頑張ったようではないか」


 ならば、向かわねばならい。


 完成した8本の剣を背に引き連れ、彼ーー刹那は雷の中心へと転移(テレポート)した。


~~~~~~~~~~


 生まれ出でた人工の太陽。

 灼熱を内循環させ、限定空間を徹底的に焼き尽くす炎。


 その性質の為、目を焼くような閃光とは裏腹に、驚く程に周辺に届く熱量は少ない。


「うむ、正直に言うと、助かったのじゃ。褒めてやろうぞ、小僧」

「有り難う御座いますね~」

「…………」


 礼を言われた俊哉は、妙な表情を作る。

 何か、違和感でもあるような、そんな複雑な心中を表した顔である。


「なんじゃ、その顔は」

「いやー、普通にお礼を言われるのが、なんか、こう、珍しいなー、とかって。いや、普通の事の筈なんだけどもな?」


 言われて、誰と比較しているのかを理解した永久は、同意の頷きを返した。


「あー、分かります分かります。雷裂の方々って、素直に感謝しないですよね。何故か偉そうに上から目線ですし、なんなら助けられた分際で喧嘩を売って返してきますよね」


 そういう連中なので仕方ない、と割り切っているが、大分社会不適合者なのではないかとも思わずにはいられない。

 社会的に有用な能力を持っているので、さほど問題にならないだけだが。


「さて、まぁ目を逸らすのは止めて、現実を見ようかの」


 ノエリアの言葉に、俊哉と永久は、嫌そうな顔をしながらそちらを見る。


 俊哉の作り出した燃え盛る小太陽。


 それが、内側から破裂するように弾けて消えた。


「……あんな消え方をする術なのですか?」

「いやいやいや、そんな訳がある訳ねぇに決まってハハハ」

「言語が不自由になっておるぞ」


 薄れ行く炎熱。

 いや、上書きされているのか。炎光を塗り替えるように、雷光が迸って広がる。


「ちなみにお訊きしますが、どれくらい余力があったり?」

「ふっ、聞いて驚け」

「私たち、もう手札が何一つ残っていないのです!」

「使えねぇつって言いですかねぇ!?」

「良いですよ? その場合は食べちゃいますけど」

「……メンタル、雷裂並みに下がってんじゃんよ」

「なんという侮辱……!」


 現実逃避気味に遊んでいる内に、雷光の中から破滅の使者が姿を表す。


 肉が砕け落ちた姿。

 骨格のみを残した異形。


 漆黒の骸骨が、雷を纏って佇んでいる。


「……まさか骨からして人間ではありませんでしたか」

「そこ!? 気にするべき所はそこか!?」

「いや、だって、黒い骨って人間ではないでしょう。焦げた訳ではなさそうですし。烏骨鶏の親類ですかね?」


 もうどうしようもないが故に、永久は投げやりに言葉を連ねる。


 どうせだから、馬鹿にしてやろうという心意気である。

 尤も、彼女の場合は保険をかけた上での余裕と挑発だが、巻き込まれる側としては堪った物ではない。


 ゆっくりと、骸骨が腕を上げる。

 細い指先が、こちらへと突き付けられた。


 何が飛んでくるか。

 雷か、それとも本人がそのまま瞬発してくるか。

 それともまた別の攻撃か。


 何が起きてもおかしくはない。

 瞬き一つ出来ないと、三者は警戒を最大限に高める。


 しかし、もたらされたのは、意外なものだった。


《「ユウヨ……ヲ…………アタエル……」》


 短い、なんとも聞き取りづらい掠れた言葉だった。


 それを最後に骸骨に大きく罅が入った。

 それは急速に全身へと広がり、亀裂からは夥しい量の雷が漏れ出ている。


「あっ、まず……」


 何が起きるか。


 それを最初に察した永久が防御体勢を取る。

 それに釣られて、俊哉とノエリアもガードを固めた。


 直後、骸骨が粉々に破砕すると同時に、莫大量の雷が全天に向けて放射されるのだった。

本当は復元再結合までやろうと思ってたのですが、意外と長くなったので一旦切断。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 刹那がいろいろやってますねー。 [気になる点] >「……メンタル、雷裂並みに下がってんじゃんよ」 >「なんという侮辱……!」 まあ、あの強烈な個性に付き合ってたら少なからず影響受けますよね…
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