星を喰らう獣
戦闘描写を長々とやり続けるのって、読んでいて辛いと思いません?
二転三転とかせんでええねん、とかって。
筆者は思う。
それに、自我というものはない。
言うなれば、単なる自然現象。
宇宙という箱庭を維持する為の意思なき防衛システムに過ぎない。
条件さえ揃えば、自動的に自己の存在意義を果たすべく発動する。
ただ淡々と、宇宙法則を乱す原因を排除・撲滅するだけである。
そんな防衛システムが、今、宇宙の片隅で行われている生存競争に反応した。
今はまだ、許容範囲内にある。
しかし、許容値を越えたのならば……。
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(……行かなきゃ! 僕が行かないと駄目なんだっ!)
白光に距離を離されながらも、美影は最速で兄の下へと駆け付ける。
彼女は、本当のところは分かっている。
刹那では勝てないという事実を、美影は理解していた。
確かに、刹那は強い。
星の守護者として、無尽蔵にも近いエネルギーを無数の手札へと変えて戦う様は、成る程、確かに無敵にも見えるだろう。
だが、である。
だが、今回は相手が悪い。
悪過ぎる。
敵として立ちはだかるのは、星を喰らう獣、星の天敵だ。
星の代理人として、意思ある手足として動く刹那にとっても、それは天敵として働いてしまう。
刹那は、自分が真っ当な生物であるという意識が何処までも薄いから。
生物としての力を十全に振るえない。
振るう術を持たない。
待ち受ける結末は、敗北以外に存在しないだろう。
だから、美影が行かなくてはいけないのだ。
死にさえしなければ、いくらでも再起はできるのだから。
自分たち以外の全てが、本音の部分においてどうでもいい自分たちならば、どれだけ負けて、どれだけの物を失おうと、生きているだけで全てが許容できるのだから。
美影が最後の一線から救うのである。
(……待っててね、お兄!)
ひとまず、怪獣決戦に割り込もうとしていたアインスに、背後からドロップキックを見舞うのだった。
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最初の衝突は、お互いに全速力でのぶちかましであった。
走る衝撃に両者は、のけ反り、僅かに後退させられる。
復帰が早かったのは、星獣である。
身体の一部が剥離し、無数の口腔を備えた触腕となって刹那へと襲い掛かる。
『「Lolololo!!」』
対する彼は、末端など歯牙にも掛けない。
狙うべきはただ一点のみ。
星獣本体だけを見て、星獣本体だけを狙い撃つ。
硬く握り締めた右拳が星獣を横合いから殴り飛ばす。
星獣は、防壁を幾枚も重ねて防御しようとしたが、しかしその全てを薄紙を破るように突破せしめた。
今の刹那は、全身が混沌エネルギーの化身である。
ありとあらゆる不条理を溶かし尽くして呑み込む怪物なのだ。
現に、食らい付いた触腕たちも、彼が放つオーラに晒されるだけで、溶解して崩れ去っていく。
腕は二本ある。
返す刀で揺らいだ星獣へと左の腕が振るわれる。
五指が開かれた掌底でもって、下から抉り込むように向かう。
五指が星獣の喉元を掴むのと、星獣が口を大きく開くのは同時だった。
開かれた喉奥には、光が溜まっていた。そ
れが何に使われるのか、考えるまでもないだろう。
だが、刹那はそれを気にしない。
必殺の意思に突き動かされる彼の思考には、既に自己の保全という項目が後回しにされているから。
掴んだ左腕の肘から、長大な棘が伸長する。
そのままでは意味の少ないだろう装備だが、しかしそれはまともな生物的な構造をしていれば、の話である。
左の前腕が膨れる。
まるで、何かを打ち出す為の力を溜めるかのように。
発動は同時だった。
前腕の爆縮と同時に、肘から伸長していた棘が掌から高速で撃ち出される。
同時に、星獣の口からは、極大のエネルギー砲が放たれる。
貫徹。
ほぼゼロ距離からの大威力の交換は、お互いの身体に巨大な穴を空ける結果となる。
喉元に大穴を空けた星獣は、そこを起点に亀裂が拡大し、首が捥げる。
一方、刹那は胴体の右半分を抉られ、バランスを崩して傾ぐ。
瞬間。
捥げた星獣の首が食らい付く。
差し出された体勢の刹那の左腕へと牙を突き立て、一息に千切り取る。
咀嚼。
星の守護者として、莫大な星の力を受け止めて振るう刹那は、星獣にとって倒すべき敵であると同時に、極上な餌でもある。
芳醇なエネルギーに満ちた餌を喰らった星獣が、僅かに膨れる。
中身の無い空っぽだった星核に、中身が満たされていく。
満悦の表情を浮かべていた星獣の生首が、全周からの圧力にひしゃげて押し潰される。
念力で捻り潰されたのだ。
尤も、だからと言ってどうという事もないが。
星獣も刹那も、末端を幾ら潰されようと意味はない。
核を撃ち抜かれるか、エネルギーを削りきられるかのどちらかでしか、本当の意味で痛手とはならないのだ。
その証拠に、次の瞬間には断面が見えていた首から新しい頭部が生えている。
刹那もまた、既に胴体と左腕の修復を完了していた。
『■■■■■――――!!』
星獣が雄叫びを上げて、全身の至るところに発生した大小無数の口を広げ、刹那へと食らい付いた。
刹那は、両の腕を振り上げる。
両手を重ね合わせ、一つに融合させて更に巨大化、小惑星ほどもある鉄拳を作り出すと、それを振り下ろす。
肉と骨が盛大にひしゃげ、中身を真空の闇へとぶちまける。
散らばる無数の断片。
それら一つ一つが、生命を宿して刹那へと殺到していく。
一体ずつならば、無視しても良い木っ端である。
しかし、それが群衆となれば、無視はできない。
蟻だって、軍隊となれば象を倒し得るのだ。
だから、刹那は僅かに身を縮める。
反動を利用して縮めた身体を広げ、体内に宿していた物質を放出した。
ガス状の物質が真空を伝って急速に広がる。
『『『■■■■ッ!!?』』』
それに触れた瞬間、群がる小さな命は、文字通りに溶けて消えた。
滅毒。
人類の業が生み出した廃棄領域に満ちた毒素、それを濃縮した最凶の毒物である。
耐性がある者でさえ、受ければ解毒するまでまともに動けなくなる代物である。
精霊たちに守られ、綺麗なものに囲まれて育った惑星ノエリアを基礎とする星獣たちには、驚くほどの効果を発揮する。
小さな命だけでなく、本体にさえも威力を叩き付ける毒素に、星獣は身悶えして吠える。
光。
全身から放たれた光が、毒素を駆逐していく。
周辺一帯では、現在、光は力を持っている。
単なる閃光に留まらない破壊力が、刹那の全身を強打する。
天地之理【白銀世界】。
星獣の外殻に氷のムカデが浮かび上がると同時に、あらゆるエネルギーを凍結させる法則が広げられる。
刹那の全身に霜が降りてゆく。
彼は凍り付くよりも早く異変を察知して対処する。
氷結を表層だけに留め、氷を割り砕いて無事な中身をさらけ出した。
しかし、その為に手番が後手に回っていってしまう。
天地之理【循環世界】。
星獣は、隙を晒した刹那へと更に畳み掛ける。
木の根が出現し、刹那の全身に絡み付いた。
それはエネルギーの循環を強制させる法則。
吸い上げたエネルギーを実として実らせ、即座に発芽、再度の開花と結実を延々と繰り返させる無限輪廻の地獄。
その回転に割り込み、星獣はエネルギーの結実を喰らう。
急速に刹那の保有エネルギーが萎んでいく。
「でい……やぁぁぁぁぁぁ!!」
黒雷が場を駆け抜ける。
何もない筈の宙空に、破砕する音と姿が走った。
否。そこには確かにあった。
改変法則が砕かれたのだ。
黒雷の主……美影は、随分と収縮した刹那の側へと駆け寄る。
「お兄! 大じょ――ッ!?」
邪魔をするなと、彼女へと横殴りに光竜が激突し、遠く拐っていく。
刹那が萎んでいる一方で、星獣は大きく膨れ上がっている。
彼の発するエネルギーを喰らう事で、中身が満たされて十全に権能を振るい始めているのだ。
もはや大勢は決したも同然であった。
だが、それでも刹那の殺意には些かの衰えはない。
一心に星獣の命へと向かっていく。
たとえ、相討ちになろうとも。
闇の巨人が輪郭を失い崩れ去る。
自身を構成していた因子を大きく広げ、星獣の巨体を包み込む風呂敷へと変える。
星の力では駄目だ。
それでは喰われるだけ。
人の、命の、魂の力でなくては、通用し得ない。
だから、刹那は自らの魂を捧げ討つ。
【終焉の滅光】。
始源の混沌とは正逆の力を解き放つ。
「っ、お兄……!!」
自身の何もかもが光の中へと消えていく最期に、彼は美しき漆黒の雷光を見たのだった。
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欠けた魂魄に、それは入り込む。
それにとって、その魂魄は都合が良かった。
あまねく破壊を呼ぶ力、宇宙法則さえも打ち砕く力。
それを受け止める器が、必要だったから。
極限に至った肉体。
究極へと至る精神。
そして、数多の願いを受け止める魂魄。
宇宙概念の入れ物として相応しい。
故に、黒き雷は変異する。
人の領域から、神の領域へと。
宇宙法則の一部へと昇華されるのだ。
スーパーアバウトな要約
宇宙概念「なーんか、ワイらのルール勝手に書き換えてるアホがおるなー。自動修復の範疇越えたら制裁したろ」
雷娘「ビリビリドーン! 改変法則は壊したよ!」
宇宙概念「お、やるやんけ。丁度良いし、ワイらの手先にしたろ」
雷娘「あばばばばば(電波受信中)。……アナタハー、カミヲー、シンジマスカー?」
みたいな?
怪獣決戦はオマケだよ、オマケ。
最初と最後は突発的に生えてきたものだったり。
いや、こうなる事は予定通りなんですけどね。
当初の予定では、向こう側からの干渉はなかった筈なのです。
これがライブ感……!