顕現せし狂神
短し。
それは、宇宙を一望して頷く。
「ふむ……」
それは、守るべき者の在処を探る。
「ふむ……」
それは……自らの激情を制御する意思を、持たなかった。
「成る程……」
だから、酷く単純な言葉だけが、それの口から零れ出るのだった。
「殺すか――」
殺意が、具現化する。
命属性超能力・混沌変化【存在変換・混世魔王】。
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目障りな石ころ二つは排除した。
一つは、小腹を満たそうとしてみたが、口の中で爆発してしまい、逆に傷を負ってしまう始末だったが、ひとまずは良し。
多少は取り込めたし、その分と差し引きゼロだろう。
マイナスでないならば、良し。
あとは、纏わり付く羽虫を潰してしまうだけだ。
そう思い、飛び回る小さき命へと意識を向けた瞬間、星獣は悪寒を覚えた。
死の気配。
虫けらと断じるには、あまりにも悍ましい、へばりつくような殺意の波動が、彼を襲った。
全てのタスクを棚上げし、最優先に対処すべきと、星獣は視線をそちらへと向ける。
何も、いない。
ただ、闇が広がるばかりだ。
そう思ったのも一瞬のこと。
否、断じて否。
いない訳がない。
そこにいる。
なにせ、星の光が塗り潰されているから。
遥かなる虚空ではないのだ。
銀河の中にある恒星系にいるのだ。
全天に渡って星の輝きを見られる筈である。
にもかかわらず、そこには〝闇〟が広がるばかり。
黒く黒く、何もかもを塗り潰していく漆黒が、ある。
『「Olololololo――!!」』
蠢く。
宇宙を覆い尽くさんばかりに無秩序に広がっていた〝闇〟が、一点へと収束し、凝固し、一つの形へと整形される。
人。
おそらくは、人だろう。
二本の腕に二本の足、胴体も一つ、頭も一つだけ。
ただ、そのサイズ感が狂っている。
惑星クラス。
巨体を誇る星獣と比較して、まるで遜色のない巨大な人型がそこにいた。
全身に色はない。
不定形の蠢く闇が、その身体を構築している。
それは、決して見かけ倒しなどではない。
溢れんばかりの、はち切れんばかりのエネルギーを内包し、触れる全てを崩壊させゆく滅びの具現化である。
敵だ。
小石などではない。
なんとしても滅ぼすべき天敵だと、星獣は認識する。
『■■■■■――!!』
『「Lololololo――!!」』
獣と人の究極体が、雄叫びと共に激突した。
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「……んっ、だぁ……ありゃあ!?」
俊哉は、突如として出現した巨人を目撃し、その正体への疑問を叫ぶ。
いや。
正体は分かっている。
巨人から放たれるオーラを間違おう筈がない。
彼にとっては、二度目の人生の分岐点となる出会い。
あれがいなければ、今の自分はなかったと、確信を持って断言できる人物。
雷裂刹那だ。
あの様な絶対的かつ純粋な超能力の波動は、美影や自分を含めてもあり得ない。
魔力を一切含まないという時点で、彼以外の誰にも真似できよう筈がない。
視界の端を、白光と雷光が駆け抜けてゆく。
殺すべき敵の出現に、木っ端を相手に戦力を割いている余裕は、星獣には無い。
故に、援軍としてやって来た魔王たちへと差し向けていた光竜を呼び戻し、それを阻止せんと美影が追随しているのだ。
「おっ、ちょっ……!?」
惑星級怪物戦争の真っ只中へと飛び込もうという行動に、俊哉は反射的に制止の声をあげかける。
離れるべきだ。少しでも遠くへ。
本能はそうと訴える。
止まる筈がない。自分の言葉なんかで。
理性はそうと理解する。
美影が、止まる訳がないのだ。
待ち望んでいた最愛の男の下へと、彼女が駆け付けない筈がない。
一心不乱に向かうに、決まっている。
自分はどうするべきか。
逡巡は一瞬。
(……怪獣決戦に割り込むなんて無理!)
星獣と星人の衝突によって発生した衝撃波が遠巻きにしている俊哉の下まで届いた事で、即座に断念する。
宇宙空間で衝撃波とか意味が分からないが、まぁ空間が裂けて世界法則が歪み始めているのだ。
そんな事もあるだろう。
「撤退するッ! 良いな!?」
通信機へと声を張り上げて、一応は許可を求める。
答えは返ってこない。
おそらくは、通信波が司令部にまで届いていないのだろう。
無理もない。
許可を求めた、という事実さえあれば、あとは現場判断だ。
応答がない以上、自己の裁量で進退を決めれば良い。
(……センパイなら勝てる……と良いな!)
刹那で勝てないのであれば、いよいよ詰みだと、俊哉は思いながら後退していくのだった。
イメージ的には、ラブマシーン最終形態な感じ。
実はこの形態になるのは、作中二回目だったり。
一回目は描写されていませんけどね。
命系統の能力の奥義を見せる為に、久遠相手に披露しています。
相変わらず、人の形をしていないな、この主人公。




