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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
終章:永劫封絶の刻
360/417

星穿つ騎兵隊

皆が救済を、救世主を願った。

真摯に。

心から。


故に、願いは担い手の元へと届くのだ。

 最強の矛盾を構えた地球の防衛線は、既に崩壊しつつあった。

 後先を考えない全力の物量戦を仕掛けた事で、一時的には優勢を取って押し返すものの、そもそものスペックも物量も相手側が上回っている。


「エネルギー充填が、追い付かないわね……」


 ピンポイントの精密射撃をもってしても、それでも敵の数の方が遥かに多い。

 脅威度を基準にして優先順位を付けているが、その結果、弾幕に偏りが生まれて穴が空いてしまっている。


 その隙間を、的確に突かれてしまっているのが現状だ。


 相手に、そのつもりはないのだろう。

 ただ愚直に突撃していたら、偶然に突破できてしまったという、その程度のつもりなのだろう。


 だが、やられる側としてはたまったものではない。


 弾幕の要であるミラードローンが撃墜されていく。

 それにより、更に弾幕の穴が大きく広がっていく。


 そして、遂には、


「チッ、取り付かれたわ」


 眉をひそめて、舌打ちを禁じ得ない事態へと繋がる。


 アルテミスの本体部へと敵が取り付いたのだ。

 小なりとも天体を改造して造られた施設である。

 その装甲は重厚そのものであり、ちょっとやそっとの事では致命的な障害には繋がらない。


 破壊せんと暴れ回っているが、表面装甲に僅かな掠り傷を付けている内に、迸るエネルギー砲の余波を受けて消し飛んでいく。


 しかし、やはり敵の物量が尋常ではない。

 同胞の屍を踏み越え、命を捨てて弾幕を削り、包囲網を狭めていく。

 徐々に、やがて加速度的に、取り付かれる数が増していく。


 アルテミス内に、警告音が鳴り響く。

 装甲の一部を引き裂かれ、内部に敵が侵入してきたのだ。


 悪い事は重なるものだ。


「なっ……!?」


 更には、三個の動力機関の内の一つが、まさしく一刀両断されて機能を喪失した。


 一際強い魔力反応。


 他の有象無象とは比較にならない反応に注目すれば、それは竜の形をしていた。


 全身を刃を積み重ねて構築されたような、剣竜。


 禍々しい黒いヘドロを滲ませているが、それでもその姿に美雲は見覚えがあった。


「あらま、ゼルヴァーンさん」


 二百年前の過去で知己を得た人物の成れの果てであった。


(……強力な個体は、ある程度力を残してる? それとも、任意に力を戻す事ができるのかしら?)


 答えは分からないが、何はともあれピンチである。


 剣竜が咆哮する。

 美雲は、最優先の撃破目標として認定し、集中砲火を浴びせた。


 しかし、耐える。

 砕けた剣鱗を補うようにヘドロが纏わりつき、急速再生にて突破してくる。


 狙いは先と同じく動力機関らしい。


 既に、三つの内、一つを折られた。

 これ以上やられれば、アルテミスの弾幕は完全に機能不全を起こしてしまう。


 苦肉の策として、近くのミラードローンを盾にするが、僅かな足止めにもならない。

 鎧袖一触に破断されてしまう。


「……、……これは無理かしらね」


 諦めの吐息を漏らす美雲。


 直後、雷光が宇宙を貫いた。


 強烈な横殴り。

 雷の速度でカッ飛んで来た質量体に、剣竜は文字通りに横腹をぶん殴られて吹き飛ぶ。


『ご機嫌よう! お姉! 憂さ晴らしに来たよ!』

「正直は美徳ね。……地球の方は大丈夫なのかしら?」


 妹の全く飾り気の無い本音の言葉を涼やかな笑顔で流しながら、美雲はなんとなく気になった事を訊ねる。

 その問いに、美影は呆れたように吐息しつつ首を横に振った。


『ダメダメ、全然ダメだね。もう大混乱で鎮圧と粛清の嵐だよ』


 いつか来ると予見していた事態ではあるが、実際に始まってしまうと事態が事態であるが故に、混乱は免れえない。

 特に、それが準備が未だ整っていない状態ならば、尚更の事だ。


 準備の未完。

 それは、迎撃態勢だけに限った話ではない。

 軍属にない一般人の避難態勢も含まれている。


 地球全域が丸ごと戦場となる可能性がある。

 地球存亡がかかっているのだから、敵の規模を考えても充分に有り得る想定である。


 故に、もしもの時には、現在、急速にテラフォーミングを進めている火星への避難を計画していた。

 移住している精霊種の者たちには随分と無理を言ってしまったが、少なくとも魔力強化をしていれば生身で放り出されても死にはしない、という程度のほぼ死の大地に近い極限環境はかなり広域に形成されていた。


 だが、それでも、足りない。

 地球上にいる全人類を受け入れるにはまるで足りていなかった。

 食料生産地などの確保も計上すれば、受け入れられる人工は、総数の約五割が限界という有り様である。


 当然、民間に流せる情報ではない。

 ないのだが、情報というものは、知る者がいる以上、どれ程に厳重に機密にしていても漏れる時には漏れるものだった。


 その事実がつい最近にすっぱ抜かれてしまい、加えて直後には改善案等が公表されるよりも早くに襲撃が始まってしまった。


 席は、二人に一つだけ。


 おかげで、地球では残された席を巡って争いが勃発している惨状であった。

 これを醜いとは言うまい。

 生命は誰しも死にたくなどないのだから。

 生き残れる手段が見えているのならば、隣にいる誰かを蹴落としてでも生き残ろうとする行動は、至極、真っ当な物であろう。


 その暴動を鎮めようと苦心している事が、混乱の一つの原因。

 気持ちは理解できる為に、なるべく暴力的にならないようにしており、大変に手間がかかっていた。


 そして、もう一つが、この機会に表に出てきた破滅主義者を代表とするカルト共である。

 元より、近年は終末思想が勢力を伸ばしていたが、実際に目の前に突き付けられた事で更に加熱、遂には皆を道連れにして滅んでしまおうと、この事態に行動を起こしてくれやがったのだ。

 こちらへの対処は、実は簡単だった。

 軍を派遣して、警告も交渉も無しに、一方的武力で殲滅するだけである。


 なにせ、この事態に面倒を起こしてくれやがった阿呆共である。

 慈悲はいらない。

 容赦はいらない。

 そんなに死にたいのならば、比喩でも誇張でもなく文字通りに殺してやる、と言ってやるだけで済む。


 とはいえ、貴重な時間と労力を取られた事には変わりはなく、混乱の一助となっている事は否定できない現実であった。


『まだまだ地上には人が残ってるから、なるべくここで迎え撃って欲しいんだって』

「そろそろ限界よ?」

『うん、見れば分かる』


 ツクヨミもアルテミスも、既に半壊している。

 機能の完全喪失まであと一歩という所だろう。


 だから、美影()()がやってきたのだ。


【乙女座】オリジナル・地属性魔王級魔術【断界剣】。


 超重力の大剣が、宇宙を橫薙ぎにした。


~~~~~~~~~~


 14の翼を羽ばたかせ、7の瞳で世界を睥睨しながら、真空の闇を飛翔する姿がある。


 ロシアの龍魔王、ヴラドレンである。


 その背には、更に二つの人影があった。


 一つは、宇宙空間での生命維持の為に、自前で風の鎧を纏った義手の少年、風雲俊哉。

 もう一つは、簡易の酸素マスクで口元を覆っているパンツスーツ姿に両手剣を携えた女性、プリシラ。


「…………何で俺が」


 俊哉は、最前線に引っ張り出されている自身の現状に、遠い目をしながら何度目かも分からない呟きを溢す。


 魔王ではない。

 どころか、Sランク魔術師ですらない。

 強いて言えば、魔王の付属パーツでしかない立場である。


 にもかかわらず、こんな魔王と宇宙兵器の活躍する現場に、先頭きって駆り出される意味が分からない。


 答えるのは、隣にいる雲の上の住人だった筈の人物、プリシラである。


 彼女は、一気に消費した魔力の疲労感を深い吐息と共に抜きながら、言葉を送る。


「誇りなさい。実は、単発での攻撃力は世界屈指なのです」


 俊哉の【アマテラス】は、彼自身の能力向上だけでなく、雫からの莫大な魔力供給や、砲塔となる義手の性能向上によって、一撃での火力においては魔王すら凌ぐ領域に入っていた。


 それこそ、〝最大攻撃力〟とも称されるプリシラや、〝最強の魔王〟ヴラドレン、そして〝なんかよく分からないけどバカ強い人外生命体〟美影なんかと比較される程である。


「あんまり自覚がないのがなんとも……」


 説明されれば、確かにそうだなと納得できる物なのだが、いまいち実感はない。


 なにせ、未だに美影には一方的にボコられるし、瑞穂の魔王連中との模擬戦でも、強力な一発がそもそも役に立たない場面の方が多い。

 どちらかと言えば、小回りの利く小技の方がよほど役に立った。


 故に、どうにも自覚の薄い俊哉には、いまいち気合いが足りていなかった。


「つべこべ言ってんなよ。シャキッとしな」

「はい分かりましたッス!」


 美影からの言葉に、彼は背筋を伸ばして答える。


 もはや条件反射の領域だ。

 幾度となく殴り倒されてきた彼には、美影の言葉にYESを返す以外の選択肢が思い浮かばない。


「邪魔だっ!」


 雷光が迸る。

 全天に向けられて、美影から雷が放たれ、群がる雑魚を一掃する。


『……そんなに張り切ってて、大丈夫なの?』

「それが聞いてよ、お姉」


 あまり飛ばし過ぎると、魔力的に息切れしてしまうのではないかと危惧した美雲の言葉に、美影は困ったように答えた。


「さっきから、どうも変なんだよね」

『変?』

「魔力が溢れて止まらない。っていうか、超力も体力も有り余ってる感じ」


 何も変な事はしていないのに、体調が異常をきたしていた。


 悪い方向の変化ではないので、ひとまず気にしていないが、その内、プツンと電源が落ちてしまいそうで若干の不安もある。


「まっ、今は良い事にしておこうか! 作戦には支障は出ないし!」


 ヴラドレンの背に戻った美影は、一息吐きながら問題なしと宣言した。


「雑魚はひとまず無視」

「狙いは本体一点突破」

「ツクヨミが良い働きしてるッスね」


 地球より転送されてきた騎兵隊の作戦目標を見た時より、ツクヨミは行動を転換、積極的な行動に出ていた。


 彼らは、防御壁を解除すると、自らの周囲に浮かんでいるシールド衛星を星獣の周囲に配置し、改めて防壁を展開していた。

 自らの身を守る為ではなく、敵を閉じ込める為にシールドを使ったのだ。


 そのおかげで、一時的なものだが星獣の動きを大きく阻害できていた。


 反面、シールドを失ったツクヨミ本体は、群がる有象無象に寄って集られている。

 搭載している護身兵器や搭乗している魔術師が応戦しているが、数の暴力に押されて陥落は時間の問題だろう。


 決死の援護だ。

 報いる為にも、早急に作戦を完遂するしかない。


 星獣には、明確な弱点がある。

 取り込んだ惑星ノエリアの中心部、星核(スターハート)である。


 それを破壊する事が出来れば、殺す……事は叶わないが、その力を大きく削ぐ事が出来る、筈である。

 そうであって欲しい。


 全ては憶測だ。

 ノエリアからの情報や精霊種からの滅びの話、これまでの敵の動きから、そうではないかと希望的に見積もっているだけだ。

 他に希望もないのだから、それを標的にするしかない。


 だが、問題は星核が星獣の中心に存在している事にある。


 頑強な星獣の身体を貫くには、それこそ星を穿つ程の威力と攻撃範囲を必要とする。


 その為の特別編成された魔王部隊であった。


「さぁて……やろうか!」


 魔龍が、剣姫が、天照が、そして雷帝が、豊穣の小月(ルーナ)の月光を浴びて、最大威力を発現させる。

遅くなってすみません。

風邪ひいてくたばっておりました。


ついでに、PCも天に召されていました。


泣きっ面に蜂(´;ω;`)。



皆さんも、体調にはお気をつけあそばせ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 確か『星核』って自分の思い違いじゃ無ければせっちゃんがぶち抜いてなかったでしたっけか?
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