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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
八章:破滅神話 後編
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時を越えし因縁

 魔神は、あまねく全てを補食するという本能と、誰よりも何よりも強くなりたいという願いに突き動かされて、活動を開始した。


 実体を得たそれは、次々と自らの息のかかった〝何か〟を取り込み、より強力に、より凶悪に、成長を遂げていく。


 大地を呑み、海を干し、空を削り、命を喰らっていく。


 悪質なのは、それは他の依り代とは違い、知的生物をベースに、強烈な目的意識を付与されて生み出された事だろう。


 自らの目的の為には、時として自制する事さえも可能とする知能は、脅威への警戒心を抱き、世界の混乱の影の中に小賢しくも隠れ潜んでいた。


 時として、何もなくなった大地を貪り、時として魔物暴走に紛れ込み、時として孤立した誰かを狙う。


 確実に勝てると確信できるまで。ジッと息を潜めていたのだ。


 結果。


 それは、誰にも止められない災厄へと変貌を遂げるのであった。


~~~~~~~~~~


 凍て付く世界。


 何もかもが氷結し、動く者のいなくなった土地に、魔神は静かに降り立った。

 彼が更なる標的と定めたのは、氷の百足――フリーレン=アハト。

 遂に、天竜さえも射程に捉えたのだ。


 気配を抑え、隠密に徹した動きのおかげで、未だ気付かれた様子はない。


 魔力を圧し殺してさえいれば、そうそう気付かれる道理がないのだ。


 なにせ、サイズ感が違う。


 魔神も様々な物を取り込む事で巨大化し、全長は数十メートルにもなったが、対するフリーレン=アハトは全長にしてキロメートル単位という馬鹿げたスケールである。


 故に、視界に入らない位置から張り付いてしまえば、存外に簡単に取り付く事が可能なのだ。


 但し、特に意識しない()()()に潰れないだけの強度が最低限は必要だが。


 魔神は、その条件を満たしていた。


 轟音と共に、次なる地へと疾走を始めたアハトの体表に、彼は難なくしがみついて同行する。

 時として、自身よりも巨大な岩塊が彼に激突するが、物ともしない。


 まるで気にする様子もなく、魔神はアハトの身へと齧り付いた。


 まさに氷のような外殻。

 固く、そして冷たい。


 それに罅を入れ、噛み砕き、咀嚼して、飲み込んでいく。


 そこで、ようやくアハトは魔神の存在に気付いた。


 一部とはいえ、天竜を取り込んだ魔神の力は、今までのそれとは桁違いのものとなった。

 大きく跳ね上がった力に、彼の制御能力が追い付かなかったのだ。


【――――煩わしい】


 魔物の一種だと、アハトは認識する。

 あらゆる生物を継ぎ接ぎにした様な異形の姿をしているが、吹き上がる紫の輝きが、他を取り込んで強化される生態が、惑星全域で暴れ回っている魔物たちと同種であると判断した。


 間違っていない。

 それは、確かに同一の存在だ。


 但し、素体が違う。

 深い絶望を、強烈な意思を宿した魂を軸にして、様々な生物と融合している。

 特に、地竜種、天翼種、妖魔種という上位三種を取り込み、更には下位とはいえ精霊種をも飲み込んでいた。

 そして、今、一部分だけではあるが、天竜種さえも糧としてしまった。


 その潜在能力は、完全に解放されたと言えるだろう。


 アハトは、身を捩り、張り付く魔神を地面へと叩き付ける。


 肉が潰れ、骨が砕ける。

 しかし、剥がれない。

 自分が傷付く事も厭わず、ひたすらに食事を続けていく。


 何度も、何度も、何度も叩き付けても手を離さない。


 焦れたアハトは、強行手段へと移る。


 彼の背に搭載された巨砲が稼働する。


 砲撃。


 巨大な氷の砲弾が、魔神に直撃した。


 だが、咀嚼は止まらない。

 破壊される端から、アハトを喰らう事で生命力を補充していく。


 血みどろになりながらも、それでも食事を優先する有り様は、狂気にしか映らない。


【――――小癪な】


 天地之理【白銀世界】。


 何をどう足掻こうと、動きを停止させてしまえば何も変わらない。

 全ての動力を凍結させてしまう世界法則が広がる。

 強大なエネルギーを宿す魔神は、反応する間もなく凍り付いてしまった。


 動かぬ氷像。


 命の灯火は消し去った。

 他ならぬアハトは、そうと見て取った。


 それは早計である。

 芯まで氷漬けとなった魔神が、凍ったまま活動を再開する。


【――――何ッ!?】


 自身の領域は発動している。

 間違いなく、ありとあらゆるエネルギーを氷の戒めに捉えた筈だ。


 にもかかわらず、それは動き出し、アハトを喰らう作業へと戻っていた。


 まるで、何事もなかったかのように。

 凍り付いたままに。


 絡繰は簡単な事だ。

 魔神は、今まさにフリーレン=アハトを喰らっている。

 彼の能力は、〝簒奪〟なのだ。

 だから、喰らった存在の能力を、そのまま自らの物として使う事が出来る。


 エネルギー総量の違い故に、法則改変を使用する事も、また解除する事も出来ない。


 だが、凍り付いた状態をノーマルとして、凍て付く世界の中で平然と活動する事くらいは、造作もない。


 加えて言えば、彼は精霊種も幾ばくか取り込んでいた。

 精霊の役割は調和であり、ねじ曲げられた法則を正常な状態へと戻す事にある。


 それ故に、解除が出来なくとも、影響を多少なりとも軽減させる事が可能なのだ。


【――――くっ、このっ!】


 どんどんと削られていく自分に危機感を抱いたのか、アハトは魔神を突き放そうと暴れ回る。

 叩き付け、砲撃し、何度も何度も打ち砕いてやった。


 だが、決定打には至らない。

 致命傷を負おうとも、即死さえしなければ幾らでも挽回が可能と言わんばかりに、傷付く端から身体を再構築していく。


 どれ程の時間が経過しただろうか。


【――――カッ、ガッ】


 遂に、巨大で長大なムカデが大地へと倒れ込む。


 否、もはや巨大とは言えないだろう。


 地平線を跨ぐ程に巨大だった姿は見る影もなく、今ではキロという単位を割り込んでいた。


 そして、今も徐々に短くなっている。


 根本には、三回りも大きくなった魔神がいる。

 大きく口を開き、氷の巨体を麺でもすするように飲み込んでいく。


 やがて、フリーレン=アハトという天竜がいた痕跡が喰らい尽くされた。


 異変が始まってより、初の天竜の犠牲者である。


 そして、それはこれから加速していく。

 仮にも天竜を取り込んだ魔神は、擬似的な天竜に匹敵する存在へと変貌している。


 もはや、止められる存在など――……。


『ようも、好きにしてくれよるのぅ』


 前兆無く、広大な大地が舞い上がる。


 まるで重力が消失してしまったかのように、空高く浮かび上がる大地のテーブル。

 しかし、その中心にいる魔神はと言えば、重力が何倍にも増したように、地面にめり込んで潰れている。


 身動き一つ出来ない。

 身に付けた天竜の出力を以てしても、何の抵抗も許されない。


 浮かび上がる大地の重量を、割り増しにして押し付けられているのだ。


 このままでは、重さに潰れてしまうか、このまま惑星圏から離脱して流星になるか、二つに一つであろう。


 悠然と見下ろすは、一柱の大精霊。

 十枚の光翼を背負い、複雑な天紋を戴く、星の守護神。


 星霊ノエリア。


 遂に目覚めた彼女が、現状で最も危険だと直感した生物を排除せんと現れたのだ。


『大人しくしておれ。苦しめる趣味は無し』


 無為に死なせるのも悪いと、出来れば星の彼方に捨ててしまいたかったかが、あくまでも抵抗しようとしている様子を見て、ノエリアは早々にその道を諦めた。


 繊手を伸ばし、握り込む仕草をする。


 途端、浮かび上がる大地がめくれ返り、魔神を封殺する小惑星へと形を変えて――……。


「それは困るのだよ」

『なんじゃッ!?』


 念力パンチが打ち砕き、有り余る威力はそのままノエリアを打ち据える。


 ダメージにはならないが、激しいノックバックを生じさせる。


 彼方へと吹き飛ぶ寸前、ノエリアは見た。


 己へと打撃を与えた存在――数多の蟲を組み合わせた忌まわしき呪われた種族の影を。


『おのれッ、バグ……! 忌々しき命めが!』

「ふっふっ、はっはっはっ、さらばだ星霊殿。いずれまた会おう……!」


 人にとっては遠く、精霊にとっては短き未来、二百年後にお互いに知らぬままに。


ぶっちゃけ、もうこの時代で主人公たちがやるべき事って無いのよね。

あとはもう、なるようにしかならないというか。


地球へのワームホールをそれとなく作っておいて、エルファティシアに方舟の片割れを贈呈すれば終了。


あくまでも、主舞台は地球という事で、過去編はほぼ終わりです。

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