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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
八章:破滅神話 後編
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魔神降誕

微グロかな。


彼らの物語は、ここで終わりを迎えます。

 無知とは罪ではない。

 ただ、何も分からず、きょとんと死ぬだけだ。


 彼らは、警戒はしていたのだ。

 もしかしたら、と、確かに予想はしていた。


 しかし、現実は彼らの想像の上を行くものだった。

 ただ、それだけの事。


 ブクッ、と、ギリムの隣に並んでいた機械人形アルファが歪に膨れ上がった。


 邪神より寄越された機械人形である。

 彼女がいざという時に裏切る可能性は、他ならぬ本人から指摘されていた事だった。

 もしもの時は、躊躇無く破壊してくれるように頼んだのも。


 心を繋いだ仲間たちは、その想いを汲み、依頼を受け取った。


 だから、〝闇〟の中に入ったその時から今に至るまで、常に視界の片隅に、意識の片隅に、ずっと存在を置いていたのだ。


 だが、だと言うのに、奇襲は成功してしまった。


 思いも依らない。

 この星の中で生まれ育った彼ら彼女らには、到底、思い至らない。


 まさか、魔力を用いる事無く、物理現象のみによって、戦略級破壊力を実現させるという馬鹿馬鹿しい領域に達した文明があろうなどとは、夢にも思わなかったのだ。


 なまじ、アルファの駆動系に僅かながらも魔力が用いられていた事も、一つの原因なのだろう。

 仕掛人はそこまで考えていた訳ではないが、結果としては上手い事にフェイクとして働く事となった。


 人間の業罪。

 叡知に呪われた人間たちの文明が、牙を剥いた。


 名称・地上の太陽(グランド・ノヴァ)

 握り拳大の小さな、分類としては手榴弾に分けられる、最強最悪の携行戦略兵器が炸裂する。


 ナノマシンによって構成された爆発物は、周囲の物質を取り込みつつ、連鎖爆発を引き起こしていく。

 その爆裂は、毎秒6,000回にも及び、約1分程の間拡大を続け、地上に太陽が如き光熱と衝撃を顕現せしめる。


 たった一発で軍団を消滅させる威力と効果範囲を持ち、それ故に〝地獄の炎(ヘルファイア)〟とまで言わしめた、かつての叡知の産物である。


 ちなみに、携行兵器であるが故に、使用者はまず間違いなく死んでしまうという自爆兵器の一種でもある。

 開発者は何を考えてこれを携行武器として作ったのか、というのは今を以て謎に包まれているという。


 真正面から受けた不意打ちに、ギリムらは、きょとんとした顔で灼光の中へと消えてしまう。


「フハハハハッ!! やはり、ゴミ掃除と芸術は爆発に限るなっ!!」


 下手人は、呵呵大笑と救い難いコメントと共に高く笑う。

 と、そこで、ふと思い出したように背後に並ぶ者たちに声をかけた。


「あー、私は守らないので自分でガードしたまえ」

「うえっ!? おいっ!!?」


 急速に広がり、その猛威は刹那たちにも襲いかかる。

 唖然とした様子で悠長に構えていた面々は、突然の突き放しに慌てるが、


「はい、バリアー!」


 前に出た美影が張った黒雷の防壁に包まれる事で事無きを得る。


「愚妹は優しいね」

「んっふっふっ、お兄への点数稼ぎだよ? どう?どう!? 惚れ直した!?」

「私はいつでもラブ全開だよ。我が愛よ、全世界に響き渡れ!」

「キャー! カッコイー!」

「…………うぜぇ」


 なんとも暢気な会話を挟んでいる間にも、連鎖爆裂が消えていく。


 随分と見晴らしが良くなったものだ。


 包み込んでいた〝闇〟が無かったとしても、ここは深い渓谷の奥底、の更に洞窟の奥深くに位置していた。


 当然、見通しは非常に悪い。


 しかし、今となってはその様な印象は何処にもなく、球状に抉り取られた大地は大きく口を広げており、綺麗な青空を見せている。


 その直下。


 爆心地に近い位置に、複数人の人影が倒れ落ちている。


「ふむ、意外と原型が残っているね」


 消えているのは、爆発物と化した機械人形と、比較的に耐久度の低い獣人奴隷だけだ。

 その他の者たちは、ギリムをはじめとして一応は命を取り留め、なんならばまだまだ活動可能な損傷に留めていた。


 特に、天使と悪魔の二名は、衝撃による硬直が抜ければ、すぐにでも戦闘状態を続行できるだろう。


「ガッ……!?」

「ウギ……!?」


 なので、程好く弱らせておく為に、槍投げで胸を貫いて地面に縫い付けておいた。


 致命傷だが、即死する様な傷ではない。

 暫くは放置していても無事だろうし、処置さえすれば問題なく生き残れる。


 この後の展開の為にも、彼女たちはまだ生きていて貰わなければならないのだから。


「暫し、大人しくしていたまえ。これから面白くなるのだから」


 チャンスである。

 止めを刺す絶好の機会である。

 しかし、刹那は薄く笑みを浮かべるだけで、それ以上の追撃を行わない。


「あー、ドラゴン君、君は帰っておいた方が良いと思うのだがね」

「…………突然、何だと言うのだ」

「縁を切ったというが、愛する娘が死ぬ所など、見たくはあるまい?」

「…………」


 聞こえないように囁く会話。


 ゼルヴァーンは、娘の運命を察する。

 詳細は知らない。

 エンターテイメントは、未知だから楽しいのだと語らなかった。


 だが、一つだけはっきりしている。

 酷い事になる。

 ただ、それだけの事さえ理解できれば良かった。


 ゼルヴァーンは、深く吐息した。


「予想は……していた」


 最初から、分かりきっていた事だ。

 幸せにはなれないと。

 不幸な結末しか用意されていないと。


 だから、娘を助けようとした。


 しかし、その手は振り払われてしまった。


 それならば、仕方ない。

 娘が自らの意思でそうと選択したのならば、見送り、見届けるしかない。


 それが、ゼルヴァーンの親としての選択だった。


 だから、


「去りはしない。最後まで見るとも」

「そうかね。まぁ、好きにしたまえ」


 父として、居残りを決意する。


 言葉を交わしている間に、少しばかり回復してきたらしいギリムが、力を振り絞って身を起こしていた。

 全身から血を流し、そして妖しい紫の輝きを溢れさせている彼は、荒い息を吐きながら慟哭していた。


「くそっ……クソがぁ……! お前、お前ら! よくも……!」


 まともに刃を交えて敗れるならばまだしも、それ以前に仕込まれていた罠にかかり、ろくに力を発揮する事もなく倒される。


 こんな事があるものか。

 あって良い筈がない。


 屈辱。憤怒。喪失感。悲嘆。憎悪。絶望。


 様々な感情が混ざり合い、彼の意思が一つの結論へと到達する。


 もっと力を。


 あいつらを殺す為に。

 仲間の仇を討つ為に。

 己の意思を通す為に。


 更なる力が必要だと、彼は強く強く願った。


 願ったからと、いきなり強力な能力に覚醒する筈もない。そんなご都合展開などあり得ない。


 普通ならば。


 しかし、御膳立てが為されていたのならば、話は違う。


 ここに至るまでの全てが、誰かの思惑の内であった。

 そして、全ては()()()()()()()()あったのだ。


 決して、ギリムを絶望させ、殺す為だけに、大袈裟な舞台を作ったのではない。


「クククッ、さぁ、フィナーレだ」


 刹那が愉快と呟く先では、惨劇が起きていた。


~~~~~~~~~~


「旦那様!」


 怒りや憎しみに囚われ、ドス黒い心に染まっていくギリムへと、竜姫プラムはその心を鎮めんと寄り添う。


「怒りに身を任せてはなりませぬ! 我を見失えば、邪神の思うがままとなります!」


 どうするつもりなのか、はっきりした事は分からない。


 だがしかし、少なくとも殺したくて事を行っているようには見えない。


 そのつもりがあるのならば、とうに殺されている筈だし、今の機会も静観している筈もない。


 ならば、何が狙いなのか。


 プラムは、怒らせる事、憎悪させる事、あるいは絶望させる事こそが目的ではないのか、と推測した。

 それによってどうなるのか分からないが、そう思えば今だに追撃が来ない事も理解できる。


 だから、心を落ち着ける様に彼を宥める。


 もう遅かったのだが。


 ギリムの下へと、キラキラと輝く紫の光が集まっていく。

 地面から壁から天井から、空気から、あらゆる場所から染み出しては、彼へと纏わり付いていく。


 力を望んだ者に、望み通りの力を与えるべく。


「な、なに……」


 困惑するプラムの隣で、彼女の言葉の届いたギリムが我を取り戻していた。


「プラム、すまない。手間をかけさせた」


 失った物ばかりではない。

 まだ、手元に残っている物もある。


 ならば、絶望してはならない。

 自分は、彼女たちの中心なのだから。

 最後まで心折る様な無様を晒してはならないのだ。


 そうと思い出した彼は、思い出させてくれた良い女へと微笑む。

 プラムもまた、応えるように柔らかな笑みを浮かべた。


 直後。


 プラムの頭を包み込むように紫の輝きが手を伸ばし、一息に噛み砕いた。


「…………え?」


 温かい血の飛沫が、ギリムの全身を濡らした。


 ギリムの意思ではない。

 そんな訳がない。


 ただ、彼の制御できる許容量を越えた〝力〟が、最初に受けた望み通りに自立行動を開始しただけだ。


 崩れ落ちるプラムだった物を、ギリムが受け止める。


 呆然とする彼だが、状況は彼の理解も納得も待ってはくれない。


 ギリムの身体が独りでに割れると、胴体全体を使った大きな口が開かれた。


 咀嚼する。


 肉を引き裂き、骨を噛み砕き、プラムの一片たりとも無駄にはしないと言う様に、中へと取り込んでいく。


 惨劇は終わらない。

 彼の使う〝力〟の源は、星を喰らい尽くす者なのだ。たった一人の女を喰らった程度で、満足できる筈がない。


「キャアアアアアアッ……!?」

「イヤアアアアアア……!!」


 ギリムから伸びた肉触手が、地面に縫い留められていた天使と悪魔を捕食する。


 彼女たちの皮膚へと吸い付いた肉が同化し、彼女たちの全身を奇怪な肉塊へと変えながら呑み込み始めていた。


「やめろ……」


 ようやく思考が追い付いてきたギリムが、囁くような声で呟く。


 止まらない。

 止まらない。

 まだ欲しい。

 もっと欲しい。

 世界の全てが欲しい……!


 肉触手は、周辺にも手を伸ばす。

 そこは、一見して何もない場所。

 しかし、違う。

 そこには、爆発四散した人形の残骸や、砕け散った獣人奴隷の肉片が落ちている。


 彼の〝力〟を受けた者たちだ。

 手っ取り早く強くなるには、丁度良い餌である。


「やめろッ……!!」


 強く、強く、これでもかと念じる。


 しかし、もはや止められない。

 既に彼の手に負える領域を越えてしまっている。


 あとは、ただただ暴走していくのみだ。


「あ、ああ、ああああああああ……」


 何もかもが消えていく。

 確かな絆を繋いだ仲間たちが肉片へと変わっていく。

 他ならぬ自分の手で。


 その手に、仲間たちを喰らっていく感触が。

 その舌に、仲間たちの味が。

 こびりついて離れない。


 彼の絶望を後押しするように、それらはとても甘美で、とても美味しい物だった。


「アアアアアアアアアア…………!?!?!?!?」


 狂ったように叫んだギリムもまた、遂には〝力〟の標的となった。


 人間の姿を保っていた彼の姿が歪に膨れる。


 より強力に、数多の餌を食い尽くせるように、力強い物へと。


 それは、醜悪な姿だった。


 合理性の極端な追求とでも言うべきだろうか。

 彼が今までに喰らってきた数多の生き物たち。

 その全ての良い所を抽出し、繋ぎ合わせたような機能美の究極形。


 鵺、あるいはキメラ、と、地球人類ならば評するだろう姿形へと変貌していく。


「さぁ、行きたまえ。自らの欲望の赴くままに……!」


 刹那の言葉が聞こえた訳ではないだろう。


 だが、それは、本能のままに天使と悪魔の翼をはためかせて、大空へと羽ばたいていく。


 世界の全てを喰らい尽くす為に。

ちなみに、ピエロは笑い過ぎてぴくりとも動かなくなっております。

性格も悪ければ、趣味も悪いですねぇ。



入れているとテンポ悪くなりそうなので、ちょいと補足的に他種族は方舟に関してどんな選択をしたのか、という解説をば。


ほとんどは、おおよそ地竜と同じで、次代の子供たちと多少の大人たちを乗せる、という選択をしています。

割合などに差はありますし、地球での扱いの条件も異なりますが。


ただ、例外的な選択をしたのが、天翼種と妖魔種です。


天翼種は、白の始祖が故郷に殉じたという事で、白翼族は最後の一人まで星に残って、一方で黒の始祖が地球へと落ち延びているのならばと、黒翼族は全員が方舟への乗船を選択しました。


妖魔種は、そもそも自分達の席はいらない、と言っています。

彼らは歪みから生まれた歪な生態をしておりますので、特に地竜と天翼が生存するのならば、いつかは勝手に生まれるだろう、と考えています。

なので、せっかくの星の滅びなんて娯楽を見逃す手はないと、最後の最後まで残り続けると選択しました。


……スピリも残りますよ? ホントホント、作者嘘つかなあ。

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